表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/124

第83話:石橋に用心



昼下がりの町はずれ、視界に見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「ジャック!」


そう叫び駆け寄れば、彼は振り返りお前か、と言う。

ジャックはいつもの甲冑ではなく、カジュアル(あくまでいつもと比べて)な服に青いマントを羽織っていた。

城から出ることさえ踏みとどまっていた人が、こんな所で何をしてるのだろう。

その疑問を尋ねれば、ジャックは腕にはめた時計を見ながら答えた。


「む、今日は私情でな。隣町に行くんだ」

「へぇ〜、隣町…ね」


思えば、わたしって街中にはよく遊びに行くけど、あまり遠くに行ったことない。ましてや、隣町なんて。

――い、行きたいかも。

だってこの国に来てから何日もたったけど、わたしの行動範囲はまだまだ狭いと思う。

他の町の雰囲気なども知りたい。っていうより、正直に言えば暇つぶしが欲しい。


「ねぇジャック、それってわたしも一緒に行くとなると困る?」

「別に困らないが……お前も行きたいのか?」

「うん。ちょっと興味あるし」


ジャックはしばらく考え込んでいたけれど、不意に背を向け


「……まぁ、いいか」


と、言う。

許可をもらったわたしは、上機嫌で彼の隣に駆け寄った。


今日はついてるかも♪




たわいもない話をしながら歩いていると、目の前に大きなめがね橋が現れた。

なめらかな曲線が美しく、画家がいたらきっと描きたがるだろうな、なんて考える。

綺麗だね、なんて隣の彼に言い、橋を渡ろうとしたら


「待てアリス」


突如、腕を掴まれた。


その強い力にわたしはえ?とジャックを見上げたが、彼はただ首を振るだけ。

渡るな、ということなのだろうか。だけどそうだとしたら、なんで?


クエスチョンマークを浮かべるわたしを置き去りに、ジャックはその橋まで歩み寄る。

かがんだと思えば、コンコン、と叩きしばし様子を見ていた。


「……なにしてんのジャック」


もっともな事を尋ねれば、検査だ、という言葉が返ってくる。

――意味分からん。

わたしは気にせず、再び橋を渡るため足を踏み出した。


「だから待てと言ってるだろう!」

「んぎゃッ!!」


背後から思い切り引っ張られ、わたしはその力に反応できず後ろへ倒れこみ、盛大に背中を打つ。

衝撃が背骨から全身へ伝わり、肘や二の腕も擦った。


「いったぁ……!」


ズキズキとした重い痛みに襲われる。反射的な涙が糸を引きつつも、直ぐに手の甲で拭った。


――絶対、あざになったよこれ!

痺れの残る身体を無理矢理起こし、ジャックを睨む。


「なにすんのさ!」

「強度も確かめずに橋を渡るなんて危険だろう。お前はもっと慎重さを持て」

「石橋だぞ!? 強度も何もないじゃん!」

「その油断が命取りなんだ。いいか、もしこの橋に体重制限があったらどうする。俺とお前が橋に足を踏み出した瞬間、崩れ落ちたら!? この川に真っ逆様だぞ!」


わたしの肩をガクガクと揺らし、必死な形相で訴えかけてくるジャック。

駄目だこいつ……。わたしがそう思ってしまうのも、仕方ないだろう。

ジャックと関わるとろくなことにならないと、今更になって気がついた。

わたしは尚も揺さぶってくる彼の腕を振り払う。そしてこう言った。


「じゃあもう渡っていいよね」


強度確かめたんでしょ?と、付け足して。

ジャックがハチャメチャなのは今に始まったことじゃない。ならば、こっちが折れるしかないのだ。


――大人になったよね、わたし……。

前のわたしなら、このへんで飛び蹴りしていたに違いない。

そんな昔と呼ぶには最近すぎる出来事を懐かしみつつ、わたしは今度こそ足を踏み出した。


「待てぇ!!」


再び引き止めるジャック。

……うん、予想してたよ。アンタはそういう奴だもんね。

わたしは苛立ちをなんとか抑え、振り向く。


まだ何かあるの?


そう言おうとして、失敗した。いやだって、ジャックがいつの間にか腰から取った剣を思い切り


「え、ちょ、ぎゃァァァ!!」


橋に、振り下ろした。


な、なに!? なにしてるのこいつ!?

そんなわたしの疑問に答えるように、ジャックは剣を石橋に突き立てながら叫ぶ。


「いいか、石橋は壊して渡るくらいの志を持たないと人間、大変なことになるんだ!!」

「どこからつっこめばいいか分からないけど、とりあえず壊したら渡れるものも渡れないだろ!」

「あくまで例えだ!!」

「嘘つけ、アンタ今崩壊真っ最中じゃん! ちょ、公共物破壊反対ィィィ!」


その後、偶然通りかかったスペード隊の隊長が止めるまで、ジャックとわたしの攻防は続いた。

彼は隣町に行ったけど、わたしは付いていかなかった。理由なんて、言うまでもないだろう。


金輪際、ジャックと関わるのはご遠慮したい。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ