第82話:双子メランコリィー
今更だけど、わたしの服はほとんど白うさぎくんに買ってもらってる。
っていうか、いつの間にかクローゼットの中身が増えてるんだよね。
バックとか靴、アクセサリーまでくれたりするし。
……一歩間違えばわたし、金食い虫だな。いや、そうじゃないと信じたいけど。
まぁその話は置いといて、その服やら何やらがほとんど花柄とかフリルとかで、とにかく可愛すぎる。
これ普段着にしろと!?ってくらいだ。城内ならいいよ? でも町に行くときは少し恥ずかしい。
「ってことで、カジュアルな服ください」
そう言って手を出すと、ダムは苦笑した。唐突すぎたかな。
久しぶりの、トゥーイドルの店。来ても双子がいなかったりするから心配だったけど、いて良かった。
そんなことを考えていたら、ダムがこっち来てと言う。どうやら選んでくれるらしい。
わたしから言っておいて何だが、煩わせちゃったかも。
「カジュアルな服なら、刺繍ワンピースが甘すぎなくていいと思うな」
そう言ってダムが取り出したのは、七分袖のワンピース。緑の生地にシンプルな刺繍が白い糸で施してある。
なるほど、確かに華やかすぎず、けれどお洒落な服だ。
「ベストとか合わせれば可愛いし、色もたくさんあるから……と、ちょっと呼ばれてるから行くね」
「あ、うん」
ダムはわたしにごめんと一言告げ、店員の方へと小走りした。
わたしはそれを見届けてから、他の色も確かめてみる。緑以外には、黄色・オレンジ・赤・ピンク・青があった。
「オレンジもいいね〜。緑とどっちが可愛いかな」
ふたつを手に取り、比べてみる。オレンジの方が明るいけど、緑の方が爽やかなんだよね。
「おい、お前」
わたしの持ってる服って、ピンクや白ばっかりだからなぁ。
「シカトしてんじゃねぇよ」
あ、でも前にダムから貰ったのは水色だったけど。
「聞けよこのブス!」
「いたぁ!!」
いきなり頭を叩かれ、わたしは持っていた服を落としてしまった。痛む後頭部を押さえながら、振り返る。
そこには、不機嫌顔のディーが仁王立ちしていた。
コイツ……、ブスって言ったあげく思い切り叩きやがって。
――ディーってば、絶対わたしのこと女だって思ってないよ!
落とした服を拾い上げ、目の前の少年を睨む。
「いきなり客を叩く奴がいるかコノヤロー!」
「うるせぇドラム缶女!」
「ドラム缶!? それは体型からきてるのか? そうなのかオイ!」
「あ、あの……」
横から入ってきた声に、わたしとディーは同時に振り向いた。
「他のお客様の迷惑になるので、話なら奥でお願いします……」
すみません、とペコペコ頭を下げながら言ったのは、ここの店員さん。
言われて気づく、周りの視線が自分に突き刺さっているということに。
ディーも気づいたらしく、逃げるようにわたしの腕を引っ張った。
「ちょ、ちょっと!」
わたしの声に耳を貸さず、ぐいぐいと店の奥へと引く。
もう、服を買いに来ただけなのにどうしてこうなるのさ!
◇
バタンと音をたて、ディーは勢いよくドアを閉めた。
連れてこられたのは、以前わたしが風邪をひいたときに運ばれた部屋である。
わたしはとりあえず、そばにあった椅子に座り、ディーはわたしの前に座った。
なにか言いたげだったから黙って待ってると、彼は遠慮がちに口を開く。
「お前さ、ダムとなに話してた?」
よし帰ろう。
「うわぁ、待て待て待て!!」
「兄の嫉妬は見苦しいよ」
「違うんだよ! 最近ダムが不機嫌だから気になったんだって!」
立ち上がったところを無理矢理押さえつけられたから、仕方なく腰を下ろした。
わたしが帰らないと分かったディーは、あからさまに頬を緩める。恥ずかしい奴。
「……で、今度はなに? またケンカ?」
「そんなに言う程ケンカしてねぇよ! 今回は、その……なんかダムが怒ってるような気がするというか」
俯いてごにょごにょと呟くディー。語尾がまったく聞こえない。
「ダムのプリン食べたのがバレたのか? それとも勝手に服借りたせいかな。いや、前に客と喧嘩したことかも……」
「理由は明確じゃん。グッドバイ」
「だから帰るなってばかぁ!」
ディーはそう叫び、立ち上がったわたしの腕に絡んでくる。
――ああもう、なんなんだよコイツは!
離せ!と腕を振り回すけど、びくともしない。これが男女の力の差か。
「だいたい、ダムいつも通りだったじゃん!」
「それはお前だからだよコノヤロー! 昨日なんか俺、舌打ちされたんだからな!」
ダムの舌打ち……確かにそれは恐怖だね。心臓が凍りつくだろうな。
想像しただけで、背筋に悪寒がはしる。
「だから不機嫌な理由をそれとなく探ってくれよ」
「いいい、嫌だよ。巻き込まれるのはもう懲り懲り! ダム恐いし」
「なんだよこの薄情者! お前そんなにダムが恐いのかよ!?」
「恐いよ!」
正直に言えば、ディーがキィィィと怒りポカポカ叩いてきた。
ちょっと待って。わたしは服を買いにきただけだよ? なんでこんなことになってるんだ。
――今日は厄日だね……。
わたしは心の中でそっとため息をついた。
キィキィ声をあげるディーにわたしは耳を押さえる。
別に、ダムに機嫌悪い理由聞くくらいならいい。ただ、この双子には前科があるのだ。
――っていうか、聞いたってはぐらかされると思うんだけど……。
だって、ダムだし。
「……うん、やっぱり嫌」
「なんだとチクショー! そんなんだからいつまでたっても貧乳なんだよコノヤロー!」
「貧乳関係ねぇだろゴルァァ!!」
こいつ〜、もう絶対協力しない! 乙女の心をズタズタにした罪は重いぞッ。
わたしはディーの腕を振り解き、ドアの方へと走った。
「ディーなんかダムに嫌われればいいんだ!」
「もう嫌われてるよばかぁ!」
わたしの捨て台詞に返ってきた言葉は、あまりに不憫で。ちょっと可哀想になった。
◇
「「あ」」
あれから数日。街中で偶然、双子に会った。
ディーがダムの肩に腕を回していて、その様子はとてもじゃないが喧嘩をしてるようには見えない。
「……仲直りしたの?」
反射的に尋ねると、ディーは上機嫌で答えた。
「ああ、なんか俺が約束忘れててダム怒ってたんだと。まぁちゃんと埋め合わせしたからもういつも通りだけどな」
お前の助けいらなかったや、なんて笑う彼。
わたしは五秒考えて回し蹴りをかました。
「わぁ、アクロバティックだね」
そんなわたし達を見て、ダムがにこやかに拍手した。