表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/124

第8話:サディスティック



「そ、そんな簡単に決めちゃっていいの?」

「一応女王陛下に許可とらないとですけど……多分大丈夫です」


大丈夫って、こんなよそ者を同じ建物内に住ませちゃっていいわけ?

いや、嬉しいけど。嬉しいけどさ。なんか拍子抜けっていうか……。


「どうします?」

「えっと、気持ちは嬉しいけど…迷惑じゃない?」

「こんなに広いから気にすることないですよ」


まぁ、確かにかなり広いよね。さすが城。


「遠慮しないでください」

「遠慮ってわけじゃないけど、なんか話が上手すぎる気が……」

「じゃあ止めますか?」

「え!? ちょっ、待って!」

「無理にはおすすめしません。残念ですが、この話はなかったことに──」

「ば、住む! 住むよ! 住んでやるっつーの!」


半ばのせられた勢いで、わたしは承諾(?)する。

白ウサギくんはそんなわたしに、『お姉さんは面白いですね』と笑った。きみ、絶対褒めてないだろ。


「じゃあ陛下に聞いてきますね。すぐ戻ってきますので、待っていて下さい」


白ウサギくんは結った銀髪を揺らして、ドアの向こうに消えた。

ひとり取り残される。

――なんか想像以上に居場所が早く見つかった。しかも城って。超一般庶民のわたしには眩しすぎるし。


「おいしい……」


紅茶をひとくち口内に含み呟く。なんかいいなこれ、優雅で。服装もエプロンドレスだから、ちょっとお嬢様みたいかも。

ちょっと優越感に浸っていたら、不意に笑い声が聞こえた。

くすくす、と抑えつつも楽しそうに笑う。


「?」


わたししかいないこの部屋。いったい誰の声?

わたしは警戒しながら周りをキョロキョロと見渡した。首をひねって見えたのは、ずいぶん風変わりな人。壁に背中を預けて、腕を組んでいる。

その風貌と言えば、とがったふたつの紫の耳、縞模様の長いしっぽ。髪は目に痛いピンクで。着ている漆黒の服は、やや露出度が強い。

――明らかに怪しい。

どのくらい怪しいかって言うと、怪しさが服を着ているくらい怪しいよ。


わたしが不信な目を向けると、そいつはゴールドアイをすっと細める。

何人だろう?

……異世界人か。

自問自答って虚しい。

でもそれなら、髪の色も納得できるかも。白うさぎくんもちょっと変わった色してたな。特に赤い瞳なんか、コンタクトでも入れなきゃならないよね。

まぁ、目の前のこの人の瞳は金色だから、珍しくもない。お姉ちゃんだって、瞳ハニーブラウンだし。

見た目は、18、19歳くらいかな。わりと整った容姿だけど、その派手さは軽くひくね。道をはずれたいお年頃なのかしら?


「君、ここに住むんだ」


彼は口元に弧を浮かべて言う。

――そうだけど……なんで知ってる。盗み聞きですかコノヤロー。


「まぁね」


だからなんで心読めるんだよ!

なに? それもこの世界では普通なわけ!?


「名前なんて言うの?」


彼はどこか挑発的な笑みで聞いてくる。わたしはそれをいぶかしげに見つめながら、『アリスよ』と答えた。


「アリス……か。おかしな名前」


……………は?

わたしは一瞬、耳を疑う。だって今、ものすごい失礼なこと言われなかった?

あまりに満面の笑顔で言われるから、つい聞き落とすところだったんだけど。

何コレ。けなされた? 今けなされたのか?


「褒めてるんだよ」

「嘘つけい!」


すかさずツッコミをいれると、彼はククッと愉快げに喉を鳴らす。


「だ、だいたいアンタは何者なのさ!」


自己紹介のない怪しい人なんて、ただの不審者じゃん!


「ああ、こりゃ失礼。俺の名前はチェシャ猫」

「……ね、ねこ?」

「そう」


にっこりと答えられた。

猫ってあの猫のことだよね? え、あの猫? この不審者が?


「バカ言わないで! 猫っていうのは、小さくてフサフサの毛を纏ってて気まぐれで肉きゅうプニプニのニャーと鳴く、可愛い可愛い愛玩動物よ!!」

「ニャー」

「やかましいッ」


鳴けばいいってもんじゃないのよ!

必死に叫ぶと、チェシャ猫はため息をついて肩をすくめる。


「酷いなぁ。そんなこと言ったら、白うさぎはどうなんだよ」

「……あれは、可愛いからいい」


わたし子供好きなんで。


「ふーん。ずいぶん不公平だね」


言葉とは裏腹に、ウキウキした口調だ。胡散臭い笑顔に身構えると、チェシャ猫はずいっと顔を近付けてくる。


「な、なに」


彼の薄い口唇から、黄色い八重歯が見え隠れして。本能的に、恐怖心が揺れる。

なんだか追い詰められたネズミの気分。


「あんまり酷いこと言わないでよ。いじめたくなっちゃうから」

「痛ッ!」


で、でこぴんされた!

しかもかなり痛いんですけど!?


「でも、脅えられるのも不快だから、君はそのままでいいよ。いじめがいがあるほうが退屈しないしね」


うっわ、サド。

笑顔が凶悪だってば!


「じゃあ、またね。時々遊びに来てあげる」


そう言ってチェシャ猫は、消えた。うん、文字通り消えた。わたしが『余計なお世話』と反論する前に。


「……怖ッ」


背筋に悪寒がはしる。不思議にも程があるよ。


「多少ミステリアスなほうが魅力あるでしょ?」

「ひゃあ! いきなり出てこないでッ」


酷いなあ、と漏らして、彼は今度こそ本当に消えた。

っていうか、あれじゃあ不法侵入しまくりじゃん。防衛機能、役立たずね。









あ、なんかかおでこ腫れてきたかも……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ