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第74話:The☆wonderland



「アーリース♪」

「ひゃあ!」


何者かにいきなり後ろから抱きつかれ、わたしは甲高い声をあげてしまった。

その何者かは今のかわいらしい声色と抱きついてきたのが腰ということで、すぐに分かる。

わたしは振り返り、自分より一回り小さい少女を見た。


「どうしたんですか、女王さま」

「ふふ、びっくりした?」


悪戯に成功した子供のようなお茶目な笑顔を浮かべる彼女に、頬が緩んでしまう。

ふわふわのプラチナブロンド、大きな瞳、淡紅色の頬。いつ見ても、まるで人形のように美しい。

びっくりしたよ、と言って、わたしは彼女に向き直った。

顎をひいた上目使いが、かなり可愛くて。今ならわたし、この子に殺されてもいい。……いや、たとえの話ね。


「ねぇアリス。ジャックに聞いたんだけど、異世界から来たって本当?」

「え……」


探るように、ふたつの瞳がわたしを真っ直ぐに見つめてくる。

ジャックのおしゃべり。許可なく言うなよな。別に隠してたわけじゃないけど。

わたしが小さく頷くと女王様はパッと表情を輝かせた。あれ、予想外の反応。


「もう、どうして早く言ってくれなかったの! 異世界なんて素敵だわ。アリスの国について色々教えてちょうだい」


わたしが返事をするより早く、女王様はわたしの手を取りずいずいと廊下を突き進む。

戸惑うわたしを分かってくれない、そこが秘密の国クオリティー。

女王様は迷路とも言える廊下を、さすがに知りつくしているのか、迷うことなく確実に目的地へとわたしを連れていく。




  ◇


着いたのは、やけに大きく豪華な大部屋だった。わたしの借りている部屋とは、正に雲泥の差。

ここだけで、リデル家の全部屋分のスペースがあるのではないだろうか。

感嘆の息を漏らしながら挙動不審に室内を見渡していると、女王様に名前を呼ばれた。

振り返れば、少女は大きなテーブルに備えつけられた椅子をひき、手招きしてる。座って、ということだろう。わたしは少女のもとへと駆け寄り、その椅子に腰掛けた。

それを見て、女王様も椅子に座る。


「なにか飲み物持ってこさせるわね」

「あ、別に大丈夫です。お気遣いなく……」


胸の前で手を振り断れば、そう?と少女は言う。


「ねぇアリス、本題に入るけど、本当に異世界から来たのよね?」

「ええ、まぁ」

「向こうの世界はどんな感じ? 私、行ったことないの。ねぇ教えて」


目をキラキラに輝かせ、教えて教えてと身を乗り出す女王様。なんだかいつもより子供っぽくて、笑ってしまった。


「もう、笑わないで」

「ごめんごめん。えーと、女王さまは何が知りたい?」

「そうね、この国と違うところが知りたいわ」


――違うところ…か。

と言っても、わたし自身この国について知らないことが多い。

知ってる限りでも、違うところはたくさんあるけれど。


「そうだなぁ、わたしの世界は国がたくさんあるよ。6つの大陸と、3つの海洋。国は200くらいだっけな」


自分のいた世界を思い出して説明すると、少女は首を傾げる。

そして彼女は心底疑問だという顔で尋ねてきた。


「国がたくさんある? ひとつの世界に?」

「うん。そういえば、こっちの世界は、秘密の国ひとつだけなの?」

「そうよ。秘密の国自体が、この世界そのものだもの」


そうかな、とは思っていたけど、実際に聞いたのは初めてである。

でもやっぱりそうだったんだ。わたしがここに来たとき、白うさぎくん言ってたもんね。

【ここは誰も知らない世界、秘密の国です】って。


女王様は乗り出した身体を戻し、次の質問をしてくる。


「じゃあ、その世界では誰が一番偉いの? 王様の名前は?」

「うーん、世界で誰が一番偉いっていうのは分かんないな。たくさんの国に王様がいて、その国が集まってひとつの世界になってるからさ」

「世界を治める人がいないの?」

「えーと、国ごとにいるから必要ない、みたいな。一番偉い人を決める必要はないし、決めないほうがいいっていうか……。世界は人ひとりじゃ治めることができないくらい、広いし」


わたしの答えが理解できないのか、怪訝な表情をする目の前の少女。

無理もない。わたし自身、自分がなにを言ってるのかよく分からないもん。


――もっと勉強しておけば良かった……。

世界情勢についてなんか、そんなに詳しくない。

女王様はまだどこか納得していないようだったけど、質問を変えた。


「じゃあ、アリスの住んでた国はどんなところ?」

「そうだね、あまり面積はないかな。歴史はわりとあるけど。ここと同じで、女王陛下が治めているの」


――あと何か名所あったかな。

なにが有名?と聞かれると、すぐに答えられない。いや、ちゃんと愛国心はあるけどね。


「うーんと、綺麗な教会とか大きな時計があるよ。あと他国から見たら、四季と天気が豊かかもしれない。街並みはここに似てるなぁ」

「まぁ、治めているのが女王で街並みも似てるなんて、わりと共通点があるのね」

「そうですね。でも、殺人は重罪だよ」


根本的違いを述べれば、女王様は目を見開く。

おおいっ、なにびっくりしてんだ! そこ驚くポイントじゃないぞ!


「殺人が罪? おかしいわ」

「や、鎌振り回してる方がおかしいと思うけど」

「だって、罰するときどうするの? 処刑しないの?」

「いやいや、鎌で制裁て、どんだけ殺伐してるんですか」


彼方の世界と此方の世界の一番大きな差は、法律にあると思う。いや、わたしの世界は国によって法律が違うけどさ。

でも、とりあえず城内で15歳の女王が鎌振り回してる国はどこ探したってないと思うなわたし。


「変わった国ねぇ……」


――貴女に言われちゃおしまいだよ…。

言ったらご機嫌斜めになるから、口にはしないけど。


「でもアリス、それじゃ貴女───」


少女がなにか言いかけたとき、ノックの音が響いた。わたしと彼女は扉の方向を見る。


「陛下、僕です。お入りしてよろしいですか?」


白うさぎくんの声だ。


「いいわよ」

「ありがとうございます」


そう返事して扉を開けた少年は白うさぎならぬ、


「あら、また誰か殺したの白うさぎ?」


赤うさぎだった。




「女王様、この国やっぱりおかしいですよ」

「え? どこが?」

「………」




家出しようかな。本気で思った瞬間だった。






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