表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/124

第71話:大好き≒大嫌い



「夕飯適当に頼んでおいたから、その内来ると思うぜ」

「ん、ありがと」

「べっ別にお前のためにじゃねぇぞ! 俺が困るから頼んだだけで、お前のぶんはついでなんだからな!」


顔を真っ赤にして、弁解(と言っていいのか)をしようと叫ぶディー。露骨だなぁ、と思う。

………待て。何してるんだわたしは。なんでディーと一緒にご飯食べることになってるわけ?


ベッドに腰掛け、改めて周りを見渡す。

広すぎない部屋、壁にかけられた小さな額に入った風景画、木製の寝台がふたつ備えつけられていて。

決して豪華ではないけれど、ナチュラルで優しい雰囲気である。


――いや、そうじゃなくて。問題はなんでこの宿屋にいるかってこと。

わたしはここに来るまでの過程を思い出した。




  ◇


わたしはディーらしき少年の後ろ姿を見つけ、人の間をくぐり抜けるように近付く。気付かれたら、また逃げられそうだ。

全速力で走ってたせいか、彼は少し息切れしていて、頬も上気している。

わたしは出来るだけ気配を消し、いやそんなこと出来ないけど、まぁ意識の差。えっとだからつまり、わたしはディーの背後にまわり、


「捕まえた!」

「!?」


彼の腕を掴み、持ちあげる。ディーは大変驚いたようで、勢いよく肩を揺らした。

すぐに振り向き、わたしと目が合うと彼はグレーアイを瞬かせる。


「お前、なんで……」

「ダムが心配してるよ。帰ろう」


なだめるように言うと、ディーはむっと口を尖らせた。あれ、気に障ること言った?


「そういう嘘つくなっ」


吐き捨てるように言い、彼は腕を振り払う。わたしの手は呆気なく離れてしまった。

あ、と思ったときにはまた走り出そうとしていて。わたしは勢いあまって、ディーを羽交い締めする体勢になった。


「放せチクショー!」

「放したら逃げるじゃんッ」

「うるせぇ! お前には関係ないだろ!」

「なんだとコノヤロ!」

「いだだだだ!! キブギブ!」


ムカついたから力を込めたら、ディーは両手を上下にバタバタと振る。

本当に苦しそうな声だったから、ちょっと可哀想になった。


「……逃げないなら、放す」

「逃げない逃げない!」


ちょっと信じ難かったけど、わたしは締めていた腕を外した。ディーは乱れた息をととのえている。

逃げる気配はない。よかった、単純で。


「ねぇディー、帰ろう。マジでダム心配してたんだって。いやマジで」

「うるせー、あんな奴の顔なんか見たくもねぇ」


あんな奴って、もしかしなくてもダムだよね。オイオイ、こりゃ思った以上に重症だぞ。

ディーはムッと口を尖らしそっぽを向いていて、不機嫌丸出しである。

そりゃ、双子になんかなりたくなかった、なーんて言われたらショックだろうけど。

弟大好きだもんね。この機会に弟離れした方がいいともちょっと思う。


――でも、なんでダムはそんなこと言ったんだろ……。

わりと普段から酷いことは言ってるけど、本当に傷付くことは言ってなかった気がするのに。

考え込んでしまい他意はなく黙っていたら、ディーは気まずく感じたのか、おい、と蚊の鳴くような声をかけてきた。


「ん、なに?」

「お前、どうせ暇だろ? 俺に付き合え」

「………はい?」

「だから、ダムから逃げるのに付き合えって言ってんだよ!」


わたしは呆れてぐうの音も出てこなかった。横暴にも程がある。

なんでそんな逃亡劇に付き合わなきゃならんの。


っていうか、一応わたしはディーを捕まえる方に協力してるし。


「……悪いけど」

「よし決まり! とりあえず今日泊まる場所に行くぞ。あ、俺ほとんど金持ってきてねぇから、たいした所には泊まれねぇけどいいよな」


いいよな、って断定なんだ。その前にまず人の話を聞け。

わたしは一度も頷いてないんだよ?


「な、なんだよその目。あ、言っておくけど別にひとりじゃ寂しいからとかじゃねぇぞ!」


知るか。






  ◇


あー…、思い出したら腹立ってきた。ディーを捕まえるはずが、なんで同じ部屋に寝泊まりしなきゃいけないの。


「ねぇディー。わたしお城帰らなきゃ心配されるかもしれないんだけど」

「お前の事情なんか知るか」


殴っていいかな。いいよな、コレ殴っていいよな?

拳を震わせているわたしに気付かない少年は、隣のベッドに寝そべり枕に顔を埋める。


「チクショーダムめ…。何だよ、そこまで俺が嫌いかよぉ……」


そんな泣き言まで漏らされて、本格的に頭痛がしてきた。

――ダムに伝えた方がいいよね。

ベッドヘッドにある電話に目をやる。番号……分かんないや。


わたしは諦めのため息をついた。仕方ない、彼の気が済むまで付き合おう。なんか弱ってるディーって、保護欲かきたてられるし。


――年下だったら可愛くて仕方ないんだろうけど、同い年なんだよね。

それだけで半減。なにがとは聞かないでほしい。


「あのさディー、なにが原因で喧嘩したの?」


わたしもベッドに寝そべり、天井を見上げ尋ねる。すぐに分からない、という言葉が返ってきた。


「……ダム最近、マジで冷たい。昔はなにをするのも一緒だったのに、今じゃひとりで出かけるしさ」


彼の声色はとても暗くて、なんだか胸が締めつけられる。


「寝るのも別になってさ、部屋まで別にしようとか言い出したらマジでどうしよう……」


――今までは寝るのも一緒だったのか。

そっちに驚きだけど、あえてつっこまなかった。


「この機会に弟離れしたら? 依存はよくないよ」

「もっと優しい言葉かけろよ! この鬼畜! 外道!」

「ディー、君はダムと結婚できないの。執着しすぎじゃ駄目なの」


身体を彼の方に向け、諭すように言うとディーは一層、顔を枕に埋めた。やばい、言いすぎたかも。


「ね、ねぇディー。明日になったら帰ろう? きっとお母さんとかも心配してるよ?」

「親なんかいねぇよバカ」

「……あ、ごめん」


予想外の言葉に戸惑うよりも、申し訳ない気持ちが勝った。慰めたいのに、うまくいかない。



しばらくお互い黙りこんでいると、不意にドアを叩く音が響いた。


――ご飯かな?

チラリとディーを伺うけど、動く気配がなくて。代わりに出ようとわたしは身体を起こした。

だけど、ベッドから下りるより早く扉は開いて。ドアの前、そこに立っていたのは、従業員ではなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ