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第70話:Seeker

†兄弟喧嘩編†



店員のありがとうございました、という言葉と共に、身体を翻し店から出る。カラン、と響くベルの音。


わたしは袋を覗きこみ、今さっき買ったものを確認した。

渦巻き模様のロリポップ、メイプルシロップがかかったスコーン、長方形のミルクチョコレート、その他にも茶葉などが袋に詰められている。


「ちょっと買いすぎたかな……」


そうこぼしつつも、わたしの頬は緩みっぱなし。

最初は暇潰しに見るだけのつもりが、ついつい惹かれてしまい、結局買ってしまったこのお菓子たち。

いやだって、美味しそうだったんだもん。ラッピングも可愛いし。


――でも、最近食べすぎかも……。

朝昼晩の三食は、城でかなり豪勢なのを貰っている。そんでもって、午後は海辺でティーパーティ。もちろんどれも美味しくて、結構な量を食べてると思う。


………まずい。確実に太るぞこれ。いや、もう太ったかも。

途端に、手にしている袋が恐ろしくなってきた。


「白うさぎくんに、初めて会った時と比べてわたし太った?って聞いてみようかな。でも白うさぎくんは優しいし、正直に言わない気がする」


うん、と頷いてみる。その他では、帽子屋はなんだかんだで紳士だから気遣うだろうし、三月は分かんなーいで終わりそう。

ヤマネくんもダムも優しいし……。正直に言ってくれそうな人っていったら、アイツしかいないなぁ。

そんなことを考えながら歩いていたら、突然肩に強い衝撃がはしった。


「うひゃ! って、ああー! お菓子がァァァ!」


転んだ拍子に手から袋がすっぽ抜け、思いきり地面にばらまいてしまった。

その原因はそんなわたしに気付かず、走り去ろうとする。


「ちょっと、拾ってくれたっていいじゃん!」


そもそも、そっちがぶつかってきたくせに!

加えて叫び、地面に膝をついたまま顔を確認するため見上げた。


「あ……」


まぬけな声がこぼれる。

何故なら、それはさっきわたしが考えていた人物だったからだ。


「またアンタなのディー! だいたいアンタは……って、話の途中で逃げるなバカ!」

「うるせぇついて来るな!」


彼は暴言を吐いて、今度こそ走り去る。

追い掛けるにも、お菓子を散らかしているわたしは、その後ろ姿が人混みに消えていくのを見つめることしかできなかった。


「な、なんなのさ」


半ば呆然と呟く。

別に街で彼とぶつかるのは日常茶飯事だ。それはいい。口が悪いのだっていつも通り。それもいい。ただ


「……涙目だった?」


それはいつもと違うし、よくない。

――何があったんだろ。泣くくらい酷いこと、わたし言った?

そう思うと、急に不安になってきた。


ついて来るな、とも言ってたけど、それって追い掛けてほしいとも聞こえる。だって意地っ張りのディーのことだもん。

喧嘩ばかりしてるとはいえ、友達なわけだから、放っておくわけにはいかない。でも、どうしよう。


「大丈夫?」


ふりかかった声に顔をあげると、ふたつのアメジストと目が合った。

ディーとそっくりな、だけど全然違う優しい笑顔。


「ダム……」

「はい、これアリスのでしょ?」


ばらまいたお菓子達を渡され、わたしは受け取りながら小さくありがとうと言った。

って、お礼言ってる場合じゃない!


「だ、ダム! さっきディーがぶつかってきたんだけどね」

「それで中身ばらまいちゃったんだ。ごめんね」

「そうなんだよ、しかもアイツ拾わないしチクショー……じゃなくて!」


文句言ってどうするわたし!

心の中で自分につっこむ。ダムは不思議そうな表情で首を傾げた。


「あ、あのね。その時ディー涙目だったから、ちょっと心配になって……」


そう言うと、ダムはああ、と困ったような苦笑を浮かべる。

なにか知ってる反応だ。……いや待て。ディーが泣く原因なんて、ひとつしかないんじゃない?

しゃがんでいる彼の瞳をジッと見つめると、ダムは頬を掻いて言う。


「ケンカしちゃった」


やっぱり、とわたしは内心ため息をついた。

そうだよね。ディーに大ダメージを与える人物なんて、この双子の片割れしかいない。


「さすがに今回は言いすぎちゃったみたい」


悪びれもせず言い立ち上がる彼を追うように、わたしもスカートの汚れを払い、腰をあげる。

――喧嘩かぁ、めずらしいな。

なんだかんだで、いつも仲良しなのに。


「泣かせるほど酷いこと言ったの?」

「うーん、そういうつもりじゃなかったんだけど。まさか泣くとは思わなかったし」

「……なにを言ったの?」


もう一度尋ねると、ダムは気まずそうに目をそらした。そんなに言いにくいことなのだろうか。

それでも黙って待ってると、観念したのか、ゆっくりと口を開く。


「君と双子になんかなりたくなかった、って」

「………」

「言葉のあやっていうかさ。まぁ半分本気だけど」


本気なのか。可哀想すぎるぞディー。

なるほど、大好きな弟からそんなこと言われたら、そりゃ悲しいよね。

彼の涙目の理由が分かって、ちょっと同情。

――それであんな全速力で走ってきたのか。


「そういうことになるね」


肩をすくめてため息をつくダム。ってか、人の心の中を読むな。


「ディーってば、『俺だってお前みたいな弟いらなかったよチクショー!』って叫んで行っちゃってさ。謝ろうと思って追い掛けたんだけど、途中で見失っちゃった」

「あ、もしかして見失ったのってわたしのせいだったり……?」


わたしがディーとぶつかったから、わたしが転んでたから、だから見失っちゃったんじゃないかな。

そう気付くとなんだか急に申し訳なくなる。

ついて来るな!って言われたのも、もしかしてダムに向けたものだったかもしれない。


「アリスのせいじゃないよ。困っている女の子は、どんな時だって助けるべきだもの」

「……ダムってモテるでしょ」

「急に話かわるね」


くすっと笑いをこぼすダム。だって今の、なかなかの殺し文句だと思う。これで落ちない女の子はいないんじゃないかな。

――双子の兄より女の子優先なのか、ますますディーが可哀想になってきた。

それと同時に、心配にもなる。


「さ、探さなくていいの? なんだったら一緒に探そうか?」


そう言うと、ダムは少し考える仕草をした後、小さくかぶりを振った。


「大丈夫。僕ひとりで探せるし、見つからなかったとしても、その内帰ってくるだろうから」

「でも……」

「あ、じゃあもし見掛けたら連絡してくれる?」

「! う、うん。捕まえておくよ!」


腕捲りしてみせると、ダムはまた穏やかな微笑を浮かべる。

優しい人なのに、実はブラックなんだよねぇ。詐偽だよホント。



じゃあよろしく、と言ってわたし達は別れた。ダムは来た方向とは逆へと走っていく。

その表情はポーカーフェイスを気取っていたけれど、わずかに焦燥感が滲み出ていて。


――なんだ、やっぱり心配なんじゃん。

結局仲良しなんだと安心した。



「………ん?」


わたしは視界の端に見覚えのある少年を見つけ、目を凝らす。


――ダム、君のお兄ちゃんいきなり見つけちゃったよ。

そ、そうだ連絡しないと。連絡、連絡しない、と……って、どうやって?


「……とりあえず、ディーを捕まえよう」


わたしは彼に気付かれぬよう近付いた。

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