表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/124

第69話:甘味サミット



そりゃあ、わたしだって甘いものは好きだけど。いくら何でも、これはない。


「なんで生クリームの上に生クリームをかけるの!?」


大きなパフェを指さして叫べば、帽子屋は鬱陶しそうに眉をひそめた。


「旨いもんを更に旨くしてなにが悪いんや」

「違うよ、それは美味しいものを台無しにしてる、ただの破壊トッピングだって」

「破壊やと!? 生クリームに謝れ!」

「なんでだよ」

「パフェにも謝れ!」

「いやだから、なんでだよ」


スプーンをわたしに向けて、彼は声を荒くしながら抗議する。おい、紳士どこにいった。

わたしは帽子屋の怒鳴り声を聞き流しつつ、彼の前に置かれたバカでかいパフェを見つめた。


まず、大きさからして有り得ない。ひとりで食べれる量じゃないぞ、それ。

グラスの中身は、シリアルやチョコやヨーグルト、具だくさんの果物にバニラアイスとまぁ普通である。

ただ、上にかかっている生クリームの量が半端じゃないのだ。蜂蜜とチョコソースまでかけている始末。


帽子屋はそれをあくまで上品に口に運び、美味しいそうに味わうけど、はっきり言って見てるこっちが吐気を催す。

うん、気持ち悪いし堪えられない。


「ねぇ帽子屋、マジでやめようよ。糖分の取りすぎで病気になるってば」

「それはそれで本望や」


わたしの気遣いは容赦なくはねのけられた。

間違ってる。アンタの生き方間違ってるよ。それが本望ってヤバイよ。

――帽子屋は数少ない貴重な常識人なのに……。

頼むからこれ以上、変人を増やさないでほしい。わたしをノイローゼにする気か、この国の住人たちは。


「帽子屋の甘党は仕方ないよアリス」


ため息をついたわたしの肩に手を置いて、三月はそう言った。

視線を下におとすと、大きなアーモンド色の瞳とぶつかる。上目使いがわたしの母性愛をくすぐる。


「仕方ないって言ってもさぁ……」

「だって帽子屋は甘いもの大好きだもん。パフェと僕が溺れてたら、きっとパフェを助けるよ」


ちょ、笑顔でなに悲しいこと言ってんの三月!? っていうか、パフェは溺れないから!


「そんなことあらへん! たぶん!」


思いきりたぶんって言ったよこの人!


「…でも、三月は泳げるから溺れないよね…」


何気に聞いていたらしいヤマネくんが、口をはさむ。それに三月は、それもそっか、と自己完結させた。


「…僕はパフェと三月だったら、三月を助けるけど…」

「ホント? ありがとヤマネ♪」


嬉しそうに、耳をピンッとたてる三月。この二人って、和むなぁ。本当、お持ち帰りしたいくらい可愛い。

わたしはチラリと帽子屋の方を見る。彼は相変わらずパフェを食べていて、しかも既に半分食べ終わっていた。

ああ、そんな生クリームたっぷり……絶対激甘だよ。見てるだけで気持ち悪いのに、よく食べれるな。


「三月とヤマネくんはよく平気だね……」


あれ、気持ち悪くないの?とパフェを指さして二人に尋ねると、ヤマネくんは眠たそうにかぶりを振って答える。


「…もう、慣れたよ…」

「そ、そっか」


――慣れるものなのか? いや、そりゃ二年も一緒に居れば慣れるかもしれないけどさ。

わたしはもう一度、彼を見る。うう、やっぱり無理だ。


お腹の辺りに不快感がたまって、わたしは直ぐさまカップに手を伸ばし口内に流しこんだ。

気付いた帽子屋が失礼なやつやな、とか言ってたけど、吐気がしたんだもん。こればっかりは仕方ない。


「三月は大丈夫なの? アレ」

「僕は極度の甘党なところも含めて、帽子屋のこと好きだから♪」


少し首をかたむけ、はにかむ少女。

あーもー可愛いな! 見事にツボを押されたよ!


それにしても、本当に三月は帽子屋のこと好きだなぁ。

なんていうか、『わたし大きくなったらパパと結婚するー!』『仕方ないなぁ』みたいな感じだよね。デレデレですかパパ。羨ましいよチクショー。

しかし、そんなわたしのほのぼのした想像を、次の三月の発言は木っ端微塵に砕いた。


「それに帽子屋の肌、甘い味するから僕も嬉しいしね」

「な、ゲホゲホッ!」


花のような笑顔で言った三月と、噴き出すまではいかなかったとはいえ、盛大に咳き込む帽子屋。

――えーと、今なんて言った? え、なに? 肌が甘い味する?


「……帽子屋」

「ちょ、アリス。なんやその目は! 三月も誤解招くこと言うなや!」

「本当だよ? 帽子屋はみんなより甘いもん。それって、甘いもの食べてるからでしょ?」


無邪気な笑顔でなんてことを言ってるんだこの子は。

っていうか、『みんなより』って……。さすが万年発情期兎、底が計り知れない。


「……まぁ、帽子屋。偏食も程々にね」

「偏食やない、グルメや」

「グルメなめんな。アンタがグルメならわたしは神の舌の持ち主だよ。絶対味覚並だよ」

「いや、アリス食べるもん全部旨い言うてるやん」

「誰が雑食だァ!!」

「そんなこと言うてへんし!」






本日の教訓:帽子屋は甘味関係においては常識はずれになる。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ