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第67話:スイートララバイ



『子供は無条件に愛される権利がある』


今日のお茶会のとき、帽子屋が言った。その瞳には慈愛が溢れていて、視線の先には寄り添い眠る三月とヤマネくん。

あどけない寝顔はとても幸せそうで、心なしか笑っているように見えた。


和やかな雰囲気なのに、チクリと痛む自分の胸。

――ホームシックかな。

恋しく思う。家族の顔が、瞼の裏に浮かんだ。





わたしはひとつため息を吐き出した。

――なんで今、思い出すんだろう。

窓の外を見れば、吸い込まれそうな黒にたくさんの数の星が輝いてる。

カーテンを閉めようと手を伸ばし、だけど届かない。なんだか面倒になりわたしは手を引っ込めた。


ゴロン、と寝転ぶ。柔らかい布団に包まれる身体。

ギュッと枕を抱きしめると、淡い花の香りが鼻をくすぐった。それが心地好くて、たまらず顔をうずめる。


「愛される権利……か」


彼が言った言葉を復唱してみる。権利というより、義務といった口調だった。

愛されなきゃいけない、そんなニュアンスな気がする。

再び脳内に満ちる、両親と姉の顔。どうして家族を懐かしまなきゃいけないんだろう。

だって家族は、懐かしむ隙がないくらい側にいる存在じゃないの?


下唇を噛み、瞼を伏せた。普段は気にならない時計の針の時を刻む音が、部屋中に響いて耳を刺激する。

ああもう、眠れない。帽子屋のせいだ。あのロリコン貴族め。

――帽子屋なんか、三月とヤマネくんに手を出して捕まればいいんだ。


彼が聞いたら怒るような八つ当たりを、心の中でこぼす。

でも三月は喜びそうだなぁ。むしろ立場逆転しそうだ。

帽子屋なんか三月に食われればいいんだ。よし、こっちにしよう。


取り留めのないことを考えていたら、ますます目が覚めてきた。

カチ、カチ、と。頭が心臓が細胞までが、時計の音に支配されていく。


「やだな、なんか人肌恋しい」


天井に呟いた独り言は、空虚な部屋に吸い込まれて。毛布をたぐり寄せ寝返りをうった。

いま、彼にとても触れたい。


「白うさぎくん……」

「なんですか?」

「え」


独り言に返事をされ、わたしはマヌケな声を漏らした。バッと上体を起こし、かけていた布団をはじく。

目の前には、いつもと変わらない優しい笑みを浮かべている兎耳の少年が立っていた。

信じられない光景に、開いた口がふさがらない。どうしてという疑問は頭をぐるぐると回るけど、声にならなくて。

白うさぎくんは頬を淡く染めはにかみ、ベッドに座る。


「……夜更かしはよくないですよ」


彼が口にした言葉はわたしの求めた答えとは違ったけど。もう、どうでもよかった。

わたしは手を伸ばし、彼を背後から抱きしめた。

わずかに肩が揺れたけれど抵抗はなく、わたしの手に少年の手が重ねられる。

銀髪に頬を擦り寄せると、とても柔らかく気持ちいい。


「お姉さん」


その呼び掛けに回していた腕を緩めれば、白うさぎくんは身体を反転させた。

暗闇に光る赤い瞳。昼間と違いどこか影を落としたそれは、宝石のように綺麗で。

わたしは無意識に彼の頭をそっと撫でた。優しくしたつもりなのに、予想外に白うさぎくんは口を尖らせる。

なにか気に障ったかと不安に思うと、少年は薄薔薇色の口唇を開いた。


「………子供扱いしないでください」


カッと熱が顔を襲う。だってそんな、言われたいベスト2をまさかここで口にされるとは……!

ついでに3位は【少しは意識してよ】で、1位は【これからは俺が守りたい】ですけど何か?


感激と興奮でバシバシと枕を叩いていると、後ろから戸惑う雰囲気を感じてハッとする。


「えっ、えっと白うさぎくん」

「……お姉さん」

「う、うん? って、ひやぁ!」


いきなり真っ正面から抱きつかれて、わたしはつい素っ頓狂な声を出してしまった。

首に腕を回され、頬と頬が触れ合う。少しだけ冷たく感じるのは、わたしの頬が熱いせいだろう。


「あ、あああの……!」


舌が回らず、どもりまくってしまった。どこに置けばいいのか分からず、手が宙をさまよう。

スキンシップが苦手なわけじゃない。ただ、混乱してるのだ。


――いいんですか!? 抱きしめていいんですか神様!

ええーい、据え膳食わぬはなんとやら!


わたしは腕を少年の背中に回し、ギュッと抱きしめた。

伝わるぬくもり。同じリズムで刻むふたつの鼓動がひどく心地好く。空いた穴は、安心という熱に満たされていた。


「…お姉さん…」

「え、うわ、ちょっ……!」


重心をかけられ、支えきれなかったわたしは白うさぎくんもろとも後ろへ倒れてしまった。

シーツの波に溺れる。寝台が柔らかい質のおかげで痛みと衝撃はないけれど。

そっと瞼を開ければ、彼は四つん這いになりわたしを見下ろしていた。

少年の手はわたしの顔の横についていて。白うさぎくんを見上げることなんて滅多にないから、なんだか違和感がある。


しばらく無言で視線を絡めていたけれど、不意に彼はわたしにのしかかってきた。

とても軽いためか、苦にならない。それどころか気持ちいいと感じるわたしは、きっと末期だろう。

白うさぎくんは甘えるように、わたしの首筋に顔を埋めてきた。


「……今夜だけでもいい。一緒に寝てもいいですか?」


息が触れてくすぐったい。寂しげな声に、胸が締めつけられる。再び、帽子屋の言葉を思い出した。


愛したい。

愛されたい。


純粋で貪欲な願いは、誰が叶えるの?



――中身は大人っぽいけど、子供だもんね。

五歳で親を失ったんだ。注がれた無償の愛情だって足りないはず。

わたしだってまだまだ少女で、包容力もあまりないけれど。


「……断るわけないでしょ」


この子を愛したいと思った。見返りなんて求めないで、優しく穏やかな愛を。

わたしは上に乗っている少年を横に下ろし、頬に軽くキスをした。

それにふわりと笑う白うさぎくん。うわ、不意打ち。かわいすぎるって。



ひとつの枕にふたつの頭。身を寄せあい、毛布にくるまる。


「手、繋いでもいいですか」


そう言って白うさぎくんは、わたしの手の平に触れた。いつもより甘えてくる少年に愛しさを覚える。

だけど返事をするのが気恥ずかしくて、わたしは黙って彼の手を握った。



甘えているのは、甘やかしているのは、どっち?


――どっちでもいっか。


ただ願わくば、繋いだ手が朝も変わらず握られていますように。






「そういえば白うさぎくん。なんで此処に?」

「………なんだっていいじゃないですか」

「えー教えてよ」

「言えません。秘密です」

恥ずかしいです(私が

なんか甘くなりました。っていうか、白うさぎ『お姉さん』言い過ぎ(笑)

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