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第64話:トリックスター



額になにかが当たったと感じたときには既に遅く、わたしは尻餅をついていた。

街中でのこのパターン、さすがにしつこいと思う。わたしは次にくる罵声を予想し、ぶつかってきた目の前の彼を睨みつけた。

灰色の瞳と視線が絡む。よし、やっぱりお前か。


「もう! またアンタか「ごめん、大丈夫か?」ディー……って、え?」


つい語尾が弱まってしまう。わたしは先ほど彼が口にした言葉に、固まってしまった。

――あ、謝った? いま謝ったの? あのディーが!?

それだけで天変地異に値する事態なのに、彼は更にわたしを混乱させる行動をとる。


「ほら」


手を差し出された。

もう一度言おう、手を差し出された。


手を、差し出された?


「………。い、いやぁぁぁ! 明日絶対に地震起きるよ! どうしたのディー、いつものツンツンしたアンタはどこにいっちゃったわけ!?」

「また大袈裟な……」

「大袈裟じゃないよ!」


わたしは彼の手を借りることがとても恐ろしく感じ、直ぐさま自力で立ちあがった。

おかしい。今のディーはおかしすぎる。あからさまに優しいディーなんて、乙女なわたしとかピュアなダムくらい変だよ。


「ディー…、アンタ変なものでも食べた?」

「なんで?」

「だっていつものアンタなら、ふざけんな何ぶつかってきてんだよマジでとろいなお前いい加減にしろこのブス女、くらい言う……ってコノヤロー!」

「自分の想像で怒られても困るんだけど」


もっともなことを言われてしまった。

いや、わたしディーにこういうこと、結構言われてるよね。なんか改めて、怒りがこみあげてきた。


――まぁディーらしいからいいけど。

確かにもっと優しくなれないかなとか思ったことはある。いやしかし、本当にこれはない。


わたしは首を傾ける彼を、ジッと見つめた。ディー、だよね。瞳が灰色だし、メガネかけてないし。

凝視していたら、彼は唐突に微笑んだ。うん、有り得ないくらい穏やかに。


「本当に面白いね、君」

「は?」

「僕だよ僕」


いつもと違う一人称。彼はポケットから何かを取り出し、目元に持っていく。


メガネだ。

……メガネだ?


にこにこと笑う彼。まぬけ面してるだろうわたし。


「ダ……ム?」


彼は笑顔のまま、こくりと頷いた。


「え、ええぇぇぇ!?」

「ナイスリアクション♪」

「え、だって、目は? 色違うじゃん!」

「カラーコンタクトだよ」

「ええー!」


意味が分からないという眼差しを向ければ、彼は小さく苦笑した。

キョロキョロと周りを見渡し、目当てのものが見つかったのか、ある方向を指さす。

その先には少し質素なベンチがあった。


「立ち話もなんだし、あそこで話そう」


ね?と言われては、断れない。だって天下のダム様だもん。



「……で、なんでディーのふりしてるわけ?」


ベンチに腰掛け、本題に入る。少し固いベンチは座り心地がお世辞にもいいとは言えない。

だけどそれは、自分が裕福な生活に慣れてしまったということだ。


「仕事でお客様に会ってたんだ。相手はディーご指名だったんだけど、ディーは商売下手だから代わりに僕が行ったんだ」

「なるほど…って、客騙していいの?」

「騙すなんて人聞きの悪い。ビジネスだよ、ビジネス」


人畜無害な顔してよく言う。第一、16歳の少年からビジネスという単語が出てくるってどうよ。

有名デザイナーも大変だ。しかし彼等もまた、お金持ちなのだろうな。

――わたしの周り、みんなそうだよね。

あまり金銭感覚が鈍ると、もとの世界に戻ったとき大変だ。

そんな思考を遮るように、ダムが口を開く。


「僕らは声も似てるから、疑われないんだ。親だって昔はよく間違えてたし」

「そっくりだもんね。そういえばこの事、ディーは知ってるの?」

「ううん、言ってないよ。あ、アリスも秘密にしてね」


「な〜にが秘密にしてね、だ」

「あっ、ディー!」


いきなり現れ後ろからダムの頭を小突いたのは、彼の兄、ディー。

噂をすればなんとやら。絶妙のタイミングである。

ディーはベンチの背もたれに手をついて、わたしとダムの間にわって入った。わたしは彼の顔が見えるよう、首をめぐらす。


「勝手に俺のふりするなよバカ」

「ごめんごめん。でもディーだと不安だったんだ。また喧嘩されちゃ、商売あがったりだよ」


ダムにそう言われ、ディーはうっ、と言葉を詰まらせた。

っていうかディー、喧嘩したことあるんだ……。

少年は不服そうに口を尖らせながら、ダムのほうに顔を向ける。首を傾げる彼に向かい、不満いっぱいの声色で


「ダムさ、最近ひとりで行動するの多くね? 勝手に出かけるなよ」


と言った。ダムはごめんと謝罪して、ディーの頭を撫でる。

同じ容姿をした二人がこうしているのは、どこか神秘的だ。


――仲良いな〜。

兄と弟の立場が逆に思えないこともないけど。


「……ダム、そろそろ帰らないか?」


目を細めて、ディーはダムの左手をとる。ダムはそれに、指を顎に添え考える仕草をして。

チラリとわたしを見てきた。え、なに?


「せっかくアリスと久しぶりに会ったから、もっと話したいな」

「なっ、こんな女どうだっていいじゃねぇか!」


こんな女って失礼じゃね? わたしだって傷付くんだからな。


「なんでダムに絡むんだよアリスは! このバカバカ!」

「べ、別に絡んでないわよ! それにバカって言う方がバカなんだから!」

「二人とも、落ち着いて」


口喧嘩を始めるわたし達を、ダムがなだめる。


「アリスもそんなに怒らないの。可愛い顔が台無しだよ?」

「なに言ってんだよダム。コイツが可愛かったときなんて、一度もねぇぞ」

「このやろッ!」


さすがに酷い。ディーなんてドーバー海峡に沈めばいいのに!

真面目に腹が立ったわたしは彼の頭を叩いた。ディーはいてッと漏らし、叩かれた箇所を押さえる。そしてやや涙目で睨んできた。


「この暴力女!」

「なによ無神経男!」

「5歳児と同じ身体のラインしてるくせに!」

「か、関係ないじゃん! だいたいそれセクハラ!」

「……僕、帰るね」

「あ、待てよダム。チクショー覚えてろアリス!」


捨て台詞を吐き、ディーは立ち上がったダムのあとを追った。




………って、結局わたし置いてけぼり!?

一応予定では、次回人気投票結果発表になってます。ベスト3のコメントや初期設定公開となります!

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