第6話:お城へGO!
殴られ落ち着いたのか、その人はわたしに自己紹介をした。
「俺の名前はジャック。城に雇われている騎士だ」
「へ〜…って騎士ィ!?」
「……なんだその目は」
いや、だって、これが騎士? この軟弱男が?
大丈夫かこの世界……。
「お前の名前はなんて言うんだ?」
そんな事を心配してたら、足を進めながら尋ねられた。
お、この人は礼儀正しい。一応騎士だもんね、一応。
「わたしはアリス。アリス=リデルよ」
わたしは隣のジャックさんを見上げて、にこりと笑った。
ああ、久しぶりの笑顔だわ。
「アリス? 聞き慣れない名前だな。それに見知らぬ顔だ」
そりゃそうだ。わたしは、この国の住人じゃないんだもん。
「まぁ、その話はおちおち……。それより、ジャックさんはどこへ向かってるの?」
気になってたんだよね、行く先。っていうか、あんなに急いでいたのに、今はやけにゆっくりだし。
「ジャックでいい。行く先は城だが…、ってぁぁぁぁあ!!」
いきなりの叫び声にわたしは思い切り肩をはねらせてしまった。
な、なんなのさ! いきなり叫ばないでってば!
「しまった。なんという不覚! 遅刻決定だ……!」
あ、やっぱ急いでたんだ……。
なんていうか、ドンマイだね。
「ど、どどどうしよう。女王様に首はねられる。伯爵に殺される…!」
がくりと膝を地面につき嘆くジャックは、かなり哀れに見えた。
…今の声に物騒な言葉が混じっていたのは、わたしの気のせいという事で。
――深く考えたら、何かに負ける気がする。
だいたい、騎士にしては弱すぎだ。ロマンぶち壊しだっつーの。
わたしはため息をひとつついて、ジャックの肩を軽く叩いた。それに彼は顔をあげる。
………涙目かよオイ。
「詳しい事情は分かんないけど、嘆いている暇あったら急いだら?」
「………」
「ね?」
ほら、早く立ち直ってよ。こんな大の男の涙なんて、見たくないから。
「……い…だ」
彼が小さく何かを呟く。
「え?」
聞こえなくて聞き返せば、彼はいきなり立ち上がって、こう叫んだ。
「もとはと言えばお前のせいだー!!」
「はぁ!? ちょ、剣振り回すなっ」
「お前が止めさえしなければ俺は間に合ってたんだ!」
う、確かにそうかも…。
でもだからって、騎士が一般人を襲っていいわけ!? 銃刀法違反じゃん!
「やはり貴様、何者かの刺客だな!? 一体何の目的で俺の命を狙って───」
「話をふりだしに戻してんじゃねェェェェ!!」
わたしは回し蹴りをかました。
マジで勘弁、この騎士……。
◇
すでにボロボロなジャックを引きずり、わたし達はとりあえずお城へ向かった。
「ああ、俺も今日までの命か。せめて最後は騎士道にのっとって、腹を斬──」
「バカ言ってないで、少しは急ぎなよ。どうせ腹斬る覚悟もない癖に」
「…くっ……」
「くっ、じゃねぇよ! そこは否定しようよ! ……ったく、だからわたしから謝ってあげるって言ってるじゃん」
それにお城なら、なんか助けてくれるかもしれないし。わたしが異世界の人って、信じてくれるかなぁ?
「ねぇ、まだ着かないの?」
「もうすぐだ。そして俺が死ぬのも、もうすぐだ」
……ウザイ。どんだけネガティブ思考なんだよ。
「だいたい遅刻ぐらいじゃ殺されないでしょうが。……と、城ってアレ?」
わたしは前方の建物を指差し尋ねた。
にしても、ずいぶん大きい。アンティーク調で、なんか中世みたい。かなり綺麗だ。
「着いてしまったか……。仕方ない、俺も腹をくくろう。いざ出陣!」
――出陣ってアンタ…。
騎士はダダダーと疾風のごとく走って行く。
って、置いてくなバカ!
わたしは彼の背中を追い掛けた。
城門をぬけ、庭園を通り、大扉の前まで来たところで、ジャックに追い付く。
「はぁ、はぁ……この、城…門から扉まで、はぁ、遠すぎ……」
あまりの長距離全力疾走に、息も絶え絶えになりながら、わたしは文句をこぼした。
「あ、開けるぞ」
ジャックが表情を堅くして、取っ手に手をかける。ギィ……と重い音を響かせ、ゆっくり開かれる扉。
わたしの鼓動が速度を増す。バクバクと心臓がうるさい。
そして、開いた扉の先、豪華な城の中、赤い絨毯の上。
そこに彼は立っていた。
「あ、ジャックさん。ずいぶん遅かったですね。30分の遅刻───あれ、その隣の方は……」
そう、そこに立っていたのは
「ピョン太ぁぁぁぁぁ!!」
わたしは飛び蹴りをかました。