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第52話:恋々アルコール



白うさぎくんとは、招き招かれた関係(お互い不本意)。


女王様とは、居候とその屋主。


帽子屋、三月、ヤマネくんとはお茶飲み仲間で。


ディー&ダムとは友達だ。


じゃあ、チェシャ猫とは? わたしは彼とどういう関係なの?


友人と言えるほど和やかなものじゃなく、恋人なんてなった覚えはない。だからといって友達以上恋人未満みたいな甘酸っぱさなどないし。

いろいろ考えて、わたしが出した答えは



「………ボケとツッコミ?」


つい疑問系。

公爵夫人は一瞬きょとんとしたが、すぐに頬を緩めプッと噴き出した。


「面白いことを言うお嬢さんね」


ん? 褒められているのか? わたし褒められているのか?

そういえば、チェシャ猫と聞いて思い出した。アイツは彼女のペットなんだ。ってことはつまり。


「……公爵夫人。もしかして今、チェシャ猫屋敷内にいたりする?」


不安に駆られながら尋ねると、彼女はフォークに刺さったタルトを口に運ぶ。

それを飲み込むと、大丈夫よと笑った。


「あの子はいないわ。ねぇフロッグ?」

「はい。チェシャ猫は今日の朝出掛けましたので、少なくとも三日は帰ってこないでしょう」

「そういうこと。いつのまにか帰ってきていつのまにか出掛けてるから、何処にいるのかよく分からないの」


ふふ、と笑う彼女には色気がたっぷりで女のわたしでもつい赤面してしまう。

――っていうか、けっこう放ったらかし?

そりゃ、(わたしの知ってる)猫は気まぐれだし夜行性だけど。


「私ね、嬉しかったの。チェシャ猫が貴女を招待したとき」


唐突に話が変わり、わたしは一瞬どういうことか分からなかった。記憶を探り、以前のパーティーのことだと気付く。

だけど、わたしがチェシャ猫に招待されて何故公爵夫人が嬉しいのだろう? その疑問に答えるように、彼女は口を開く。


「あの子が私に女の子を紹介するなんて初めてだもの。きっと今までも恋人はいたのだろうけど、屋敷に連れてくるなんてことなかったし」


夫人の綺麗すぎる瞳を見ながら、わたしはこれ以上続けないでほしいと思った。ムースをすくうスプーンの手がとまる。


「自分で言うのも何だけど、あの子の優先順位は私が一番だった。でも私は、あの子にちゃんと大切な人が現れてほしかったの。でももう安心だわ。だってあの子」


心の奥で、何かがコトリと音をたてた。


「きっと貴女のことが大好きだもの」


その言葉で起こる感情は、喜びや嬉しさとは程遠い、戸惑いと悲しみ。

その後もいろいろな話をしたのだけど、美味しいはずのスイーツが、やけに味気なく感じた。




  ◇


「はぁ、はぁ、はぁ。た、ただ…い…ま」


肩で息しながら、わたしは城内に足を踏みいれる。え、なんでそんなに息切れしてるかって?


城まで走って帰ってきたから。


だってなんだかんだでまたいっぱい食べちゃったんだもん! 少しは運動して消費しなきゃじゃない。

ただ計算外だったのは、屋敷から城まで思いの外距離があったこと。時間がかかり、空にはもう星が輝いてる。


「あらアリス。ずいぶん疲れてるように見えるわ」

「見えるんじゃなくて、実際に疲れてるんです女王様」


赤いふわふわのドレスを着た少女にそう言うと、彼女はやっぱり?と茶目っぽく笑った。

可愛いけど、それに感動できるほど体力は残っていない。


あまりにはぁはぁぜぇぜぇ煩いわたしを見かねたのか、女王様はグラスに飲み物をいれてくれた。

わたしはその赤い液体をいっきに喉へ流し込む。

顔に尋常じゃない熱を感じ、そこからわたしの記憶はない。



 ◇白うさぎside


「白うさぎ白うさぎ」


繰り返し名前を呼ぶ高い声に振り返れば、予想通り女王陛下の姿。ただしひとつ、予想外なのは


「……お姉さん?」


顔を真っ赤にした彼女が、陛下に隣から抱きついている。しかもその足はおぼつかない。

陛下はお姉さんを引きずるように歩み寄り、僕の手を無理矢理あげ、ハイタッチした。


「バトンタッチ」


そう言って。

当然意味の分からない僕は聞き返す。すると陛下はフラフラのお姉さんを僕の身体に預けこう言った。


「ジュースかと思ってアリスにあげたら、お酒だったみたい」

「……もしかして、青いラベルの貼ってあるボトルですか?」

「そうそう。中身は赤だったわ」


僕は内心やっぱりとため息をついた。そのお酒はアルコール濃度が高く、一杯で充分酔える。

陛下はじゃあよろしくと見事に責任転嫁し行ってしまった。悪びれる様子が皆無なあたり、彼女らしい。


「……大丈夫ですか? お姉さん」


気遣いの声をかける。お姉さんは満面の笑みを浮かべ、僕の首に腕を絡めてきた。


「白うさぎくーん。なんかわたし今すごく気持ちいい」

「明日の朝は頭痛が酷いかもしれませんよ」

「えーやだー。痛いのいやらぁ〜」


舌の回らない口調で言い、嫌々とかぶりを振る。その様はとても幼く、アルコールの効果を改めて学んだ。

――涙目……泣き上戸?

僕はとりあえず部屋に運ぼうと、彼女を支えながら足を動かした。しかしお姉さんはぺたりと床に座りこんでしまい。


「熱いー暑いー!」


そうわめきながら手足をバタバタと動かすお姉さん。僕はつい苦笑をこぼした。


「ほら、寝るなら部屋に行きましょう」

「寝ないもん!」

「はいはい」


適当に返事しながら、お姉さんの身体を起こす。やっぱり足はフラフラしてて、危なっかしい。

しばらく暑い暑い騒いでいたが、不意に静かになった。


「お姉さん?」

「……白うさぎくぅん、わたしはさーいつか向こうに帰るんらよね?」


その言葉に、ドキリとする。相変わらず舌が回ってないが。


「にゃのにさぁ、アイツは帰さない〜って言うし。帰るなら殺すとか、冗談か本気かわはんらいし」

「アイツ?」

「ただね、分かってるんだ。いつか別れが来るって。君とも、いつかは別れなきゃって。でもわたしね、わたしもっと」

「………ごめんなさい、お姉さん」


「ほぇ? ───ッ」


僕はお姉さんのうなじに手刀を浴びせた。彼女の膝がガクリと折れる。地面に倒れる前にそれを支えた。

お姉さんの顔を覗きこめば、瞳は伏せられ睫毛が長さをより強調してる。

僕はまだ熱の残るその頬に口唇をよせた。沸き上がる感情は理解できなくて。


ただ、これ以上彼女の言葉を聞きたくなかった。

続く言葉を、聞いてられなかった。


だって



――本気で、欲しくなってしまうから。






翌日、二日酔いの頭痛を訴えるお姉さんの悲鳴がこだましました。

アリスは酔うと性格変わると思う。そして記憶がなくなってたら良い(笑)

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