第49話:振り向いてDarling
好き
大好き
愛してる!
「Hi、また来ちゃった!」
手を振ってわたしは三人のもとへと駆け寄る。ヤマネくんが顔をあげて、いらっしゃいと言ってくれた。
「今日も可愛いね」
わたしはそう言って、ヤマネくんの髪を優しくすいた。
「なんや、今の台詞…」
「プレイボーイみたいだねッ」
ふたつの声に振り向けば、呆れ顔の帽子屋と天真爛漫な笑顔の三月。
いや、ここまではいつも通りだ。問題があるのは、彼等の格好。
三月が帽子屋の膝の上に座っている。
「……男爵さまはなかなか奇特な趣味をしてなさるのね」
「ちょ、なに言ってるんやアリス。なんだその目は。俺はロリコンちゃうで!?」
「10近くも年下の女の子を膝にのせるなんて、しかもウサ耳つき」
明らかにこれはアレだよね。そして一歩間違えば犯罪現場よね。
「でも、事件は現場で起こってるんじゃないよね。帽子屋の心の中で起こってるんだよね」
「意味分からへんわ! っちゅーかお前だってヤマネと同じような事してるやないか!」
「わたしとヤマネくんは7つしか違わないからセーフよ」
「そのボーダーラインはどこにあるんや!」
ひたすらツッコミを入れてるせいか、帽子屋は息切れ気味だ。
精一杯否定するあたり怪しいと思うわたしは、疑り深いのかな。
ハッ、まさかジャックの性格が移ったんじゃないよね。それだけは避けたい!
「恋に年齢は関係ないよ?」
今まで黙ってわたし達の会話を聞いていた三月が、不意に口をはさむ。帽子屋の頬が分かりやすく引き攣った。
「お、おい三月。余計なこと……」
「帽子屋もそんなに否定するなんて酷いよ! あんなに激しく愛し合ったのに!」
「そういう嘘をつくなー!!」
怒りながらも、どけようとはしない。三月が帽子屋を大好きなのは分かるけど、帽子屋は三月の事どう思ってるんだろう。
家族愛? ほのぼのしてるもんねこの人達。いや、してるか? 発情兎……ほのぼのしてないか。
「…帽子屋はさー、一応男爵なんでしょ?」
「いや、一応ってなんや。れっきとした貴族やで」
「仕事とかないの? いつも此処にいるけど」
前から疑問に思ってたことを尋ねると、帽子屋はカップを置いた。
そのカップを三月が掴み口をつける。しかしストレートティーで苦かったせいか、直ぐに近くにあったケーキを手にした。
間接キス〜とか言ってたけど、帽子屋は気にしていないらしい。
「仕事はほとんど弟がやってるんや。俺は夜会の出席や主催がほとんど」
「へぇー弟いるんだ」
――っていうか、貴族の仕事ってなに?
一般庶民のわたしにはサッパリだ。白うさぎくんはいつもどんなことしてるのだろう。
何も知らないんだ、わたし。ちょっと複雑。
「帽子屋はねーおっきい会社の会長でもあるんだよ〜」
三月がピトッと帽子屋にもたれかかり言う。
「……会長?」
「ん、まぁな。弟が社長。帽子会社や」
帽子屋が帽子会社の会長って……そのまんまじゃん。ひねりが無くて笑える。
「つまり、行く行くは会長夫人で男爵夫人だよ僕」
やったー!とはしゃぐ三月。可愛いなぁ。っていうか、婚約する前提なのか。
「あと5年すれば、僕は17歳。帽子屋は26歳。全然オッケイだよね?」
「いや、オッケイちゃうやろ。え、なに? 俺お前と結婚するの決まってはるん?」
「まぁいいじゃん帽子屋。こんなに若くて可愛い兎ちゃんがお嫁さんだよ? 今のうちから自分好みに育てちゃえ」
それって男のロマンだよね。わたしにはよく分からないけど。
例え今はロリコンと呼ばれようとも、10年後ならただの年の差夫婦になれるし。
例えロリコンと呼ばれようとも。
「勝手にフィアンセ作っちゃ駄目だよ? 帽子屋は僕とヤマネと此処で暮らすんだから」
「結婚は考えてへんけど」
「えー僕とも?」
「当然やろ! お前はその年で婚約する気か!」
それを聞いて、三月はぷうっと頬を膨らませる。分かりやすいけど、年相応だ。子供は素直が一番。
「僕は本気だからね! 絶対5年後、帽子屋と結婚するんだからね!」
「お前が余程いい女になったらな」
紅茶を注ぎながら、帽子屋が平然とした顔で返す。
――そんな約束していいの?
三月は確かに髪短いし、服とかも男の子っぽいけど、可愛い。
磨けば光る───って、親父臭いか。
「女の子は成長早いよ? 結婚式にはもちろん呼んでよね」
「いや、だからなんで勝手に決めてんや。俺まだそんなこと……」
「約束だからね帽子屋! 僕が綺麗になったら結婚してね!」
「あー分かった分かった。うるさいやっちゃな」
面倒そうに言い、三月の頭を撫でる。というより、髪をかきまぜる帽子屋。ぐちゃぐちゃだよ。
三月は嬉しそうに頬を染めて、彼の頬骨にキスする。
でも
「帽子屋…三月可愛いよ。絶対美人になると思うけど」
「………」
「それが分かってて、約束した?」
わたしの質問に帽子屋は淡く笑い、
「さぁな」
と、優しげに瞳を細めて言った。
「はいロリコン決定!」
「なんでやねん!!」
せいぜい襲われないように、頑張って帽子屋。
※
darling…最愛の人