第47話:癒しを下さい
「アリス〜♪」
「……女王様、その手に持ってるものは何ですか」
「何って生く──」
「あああやっぱ言わないで!」
「やっほージャック」
「い、生きててごめんなさい!」
「いきなりネガティブ!?」
「空が青いのも雨が降るのも全て俺のせいなんだー!」
「意味分かんないからッ!」
「わぁ、おいしそう!」
「今夜のメインディッシュは鳥人のローストチキンです。白うさぎ様が材料を調達しました」
「………え」
「おいしいですよ?」
「無理ィィィ!!」
◇
「疲れた……」
わたしはそうこぼして、テーブルに突っ伏した。帽子屋はカップに紅茶を注ぎながら、何が?と尋ねる。
「何なのあの城…。毎日が絶叫だよ。位の高い人みんな気違いじゃん。むしろ門番さんとかメイドさんとかの方が常識ある」
いやだってさ、女王様はまだ幼くて鎌振り回して。ネガティブな上に臆病者な騎士。血で快楽を得る伯爵だよ?
大丈夫か城。大丈夫か秘密の国。
「ん〜、女王と伯爵の殺戮は今に始まったことじゃないしな。あの騎士も、騎士団のなかで一番腕がたつらしいから、クビにするわけにはいかへんやろ」
みんなジャックのこと強いって言うけど、……どこらへんが?
わたしアイツが剣持ってるところなんか見たことなんか───いや、一回だけあるか。危うく殺されるとこだった(第6話参照)。
「だいたい鳥人ってなに!? 鳥なら分かるけど鳥人の肉って!」
「超高級料理やないか」
「マジで!?」
サラッとすごいことを言ってのける帽子屋。どうなってるんだこの世界の料理は。
帽子屋ならこの気持ち分かってくれると思ったのに!
「まぁ、ストレスはあかんな。ほら、リラックス効果のあるラベンダーティー」
「ありがと…ミルク入りがいいな」
「蜂蜜のほうが飲みやすくなるで? レモンを加えると色が変わってなかなかや」
「じゃあレモン」
蜂蜜は三月のせいで軽くトラウマになった。
レモンを入れると、青色のそれはピンクに変わる。とても綺麗だ。
ちょっと苦味があったけど、飲めないことはない。お砂糖加えたし。
それをストレートで飲む帽子屋はすごいなぁ。
「アーリス♪」
「わっ」
いきなり背後から飛びつかれ、危うく紅茶をこぼしそうになる。
カップをテーブルに置き、わたしは飛びついてきた三月を呆れた目で見た。
「危ないでしょ三月」
「えへへ」
えへへって。可愛いすぎるんだよ。しかも女の子でしょ? 可愛いすぎるんだよ。
なんかこう、ギューっとしたくなる。怖いからしないけど。
「三月もスキンシップ好きだよね……」
「人のぬくもりが好きだから!」
「……発情しないでよ」
「大丈夫大丈夫。最近は理性とぶこと少なくなってきてるから」
そう言って頬をすりつけてくる。うさ耳がピョコピョコ動いていて可愛い。
なんだか妹みたいだ。でも三月が妹なら、もれなくヤマネくんもついてきそう。
……いいね、そのバリューセット。全財産投げ出してでも欲しい。
「アリス、妙なこと考えてるやろ」
「えっ!?」
「顔がにやけてる」
帽子屋に指摘され、わたしは直ぐさま頬を引き締めた。うぅ、恥ずかしい。
「アリス……お疲れ気味?」
ヤマネくんがわたしを見上げ尋ねる。
だからヤバイって。眠たそうな瞳とかふわふわの髪とか幼い声とか。
それだけでもうパン3つはいける。いや、その3倍ぐらいはいけそうだ。
「だ、大丈夫だよ。ヤマネくんの顔を見たら癒された」
「ほんと?」
「うんっ」
「…よかった…」
フワッと柔らかな笑みを浮かべる。それダイレクトアタックだ。
なにって、わたしの心に。
――なんかもう、脈が……!
「アリスって年下好みゆうより、子供、むしろ幼児好きちゃうか?」
心臓を押さえるわたしに、帽子屋が呆れた顔して言った。
「確かに子供も好きだけど、年下が好みなの。女王様とか幼女っていう年齢じゃないけど、かなりときめくもん」
「ほへぇー。僕はてっきりアリスがロリコ「ロリコンじゃない! ショタコンでもないからね!」
三月の言葉を遮る。
ロリコンだなんて変態扱いは止めてほしい。わたしはただの年下好き。幼ければ幼い程ときめくだけの。
「それをロリコン言うんとちゃう?」
「ちょ、帽子屋。勝手に心のなか読まないでよ!」
「めちゃくちゃ声に出てたで……」
――ふ、不覚。
だけどわたしは、純粋に年下が好きなだけ。いや、本当に。
だから
「ヤマネくん。抱きしめてもいいですか」
「ぶっ!!」
こくりと頷くヤマネくん。帽子屋が噴き出したのは気にしないとして。
わたしは少年を抱き上げ、腕のなかに閉じこめた。
――かなり癒される。
わたしの安息は、帽子屋が煎れてくれる紅茶と、ヤマネくんの存在。
「あり? ぼくは?」
「………」
「アリスー、なんで目を合わせないのー?」