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第41話:時の歪みの処方箋




「居るべき場所を自覚しない、愚かな少女よ」

「なっ……」


いきなり現れて、失礼なことを言う。彼の纏う雰囲気は、薄暗さも手伝ってか、不穏なものがあった。

突然の登場に驚いているわたしを置き去りに、彼はわたしの隣に目線を移す。


「そして、幼き殺人鬼。その英知を、何に使う?」


――え?

わたしもタイムと同様、白うさぎくんを見つめた。少年から、先程まで浮かべていた笑みが消えている。

白うさぎくんは時計をそっと撫で、


「……時空の支配人が、僕になんの用ですか?」


と、尋ねた。

いや、たぶん用があるのはわたしだろう。早く帰れ、とかさ。

だけど、わたしだって彼に用はある。聞きたいことがたくさん、そう。

何処にいるのか分からなくて諦めてたけど、あの謎の言葉の意味を。


「タイム」


一歩近付く。白うさぎくんの視線を、背中に感じた。


「あなたに教えてもらいたいことがあるの」

「……なんだ」

「この前のは、どういうことなわけ?」


(両世界の均衡が崩れた)


(時を止めている)


(彼方と此方を結ぶ唯一の者)


不可解な言葉。まるで意味が分からなかったけど、ひとつ分かるのは、彼がわたしの世界について知ってるということだ。

気になるに決まっている。それが、ヒントのような気がしてならない。


「そのままの意味だ」

「だから、それが分からないっつーの!」


睨んでみせても、タイムは無表情でわたしを見据える。


「お前は本当に愚かだな。むしろその頭は、哀れと言うべきか?」

「失礼だなコノヤロ!」

「アリスが誤ってこの世界へ来た。行方不明の少女。向こうのお前の身内は混乱する。時は流れ、アリスはもとの世界に戻ることができた」


淡々と述べるタイム。少しずつ、言いたいことが伝わってきた。


「しかし、その空白の時間は? 今まで何処にいた? 少女は答える」


「秘密の国にいた、と──」


白うさぎくんが、口をはさむ。わたしは反射的に振り向いた。


「……そう。それは何の意味を表すか分かるか?」

「この世界の存在が、露見になる…?」


自信無さげに答えると、彼は琥珀色の瞳を細めて頷く。

どうやら正解らしい。


「それだけはあってはならんのだ。ここは誰も知らない国。異世界の者に侵されては大変だ」

「待って。わたし、この世界を口外する気なんて」

「絶対にないなんて言えるか? それではお前はなんと答える?」


鋭い責めに、わたしは言葉を詰まらせた。反論が出てこない。

それにタイムは、ほら見ろとばかりにフンッと鼻を鳴らす。


「だから時間を止めているのだ。アリスがここへ来てから、彼方の世界は一秒も時を刻んでいない」


いま初めて知らされる、真実。言葉が出なくて。その上どんなリアクションをとればいいのか、分からない。

――わたしの知らないところで、そんなことがあったなんて。


彼の言う通り、わたしの頭は哀れかもしれない。

そんなことなど考えず、呑気にこのファンタジーな世界を楽しんでいた。帰れるまで、と馴染んで。


愚かという言葉が、ズシリと胸に落ちる。


「来たのはお前の意志ではないから、それについて責める気はない。ただ、時を止めるという行為はあまりに面倒だ」

「面倒言うな」

「アリス。歪みを直すのは私しかできない。しかし、歪みは誰でも作れるんだ」


答えになっていない返答に、頭が爆発寸前だ。すみません、煙でてきちゃいます。

わたしが唸っていると、タイムは横を通りすぎる。あれ? わたしの存在は無視?


「白うさぎ伯爵。お前は本当にこの娘を帰還させる気があるのか?」


え、なに聞いちゃってんのこのオッサン。いや、外見的におにーさんか。


「アリスが来て、もう何ヵ月目になることか。その間、お前は鏡池を探したか?」

「……探して見つかるようなものじゃありませんよ。貴方も知ってるでしょう?」

「そうだ。しかし、その知能と権力を使えば不可能ではない。今まで必死に探したならば、そろそろ手掛かりの1つや2つ見つけられる。違うか?」

「………」


黙りこむ白うさぎくん。いやいや、そこは否定するところでしょうが。

沈黙はほとんどが肯定の意味を表す。だけど、そんなの困るよ。だってそんなの、わたし信じたくない。


少しだけ、疑ってた。鏡池について、調べてくれているのかって。

もう忘れてるんじゃないか。もう面倒くさくなってるんじゃないか。

だけど直ぐにかぶりを振っては、邪推を消して。

それにわたし、


「お前は、その娘を返したくなくなったのではないか?」


それでもいいと、思ってた。








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