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第29話:仰せのままに女王様



ブラブラと城を歩き回っているわたし。ものすごく広い上に迷路みたいに複雑だから、冒険しがいがある。

――でも、あまりウロウロすると本当に迷子になっちゃうんだよね。

壁に等間隔でかけられている絵画。いったいどこの風景か分からないけど、大胆なデザインに繊細な色使いに心を惹かれる。

赤い床にはシンプルに装飾されたハートの模様が控えめに主張していて。しかも時々ちがう模様があるのだ。


「……ん?」


床を見ながら歩いていたら、赤い床に違う赤の水玉模様がある。やけにドス黒くて、ファンシーな内装に似合わない。

そんなことを思って凝視してると、人の足が見えた。視線を上にあげていくと……


「ギャァァァァァァ!!!」

「あ、お姉さん」


真っ赤に染まった白うさぎくんが、平然と立っていて。

え、なに? また返り血なの? 濡れた血が滴ってますけど!


「ごめんなさい。今汚れてて……」


そう言って、額の液体を拭う白うさぎくん。

ああ、また誰か殺してきちゃったのね。


「半分正解半分はずれです」

「……今わたしの心のなか読んだだろ」

「僕自身の意志で殺ったんじゃありません。女王陛下の御命令です」

「女王さまの?」


女王さまって、あの女王さまだよね。ふわふわしたフランス人形みたいな美少女。

あの虫も殺せなさそうなかわいらしい子の命令だって? そんなバカな。


「どうも、陛下の大切な宝石を盗んだ者がいたようで。大変ご立腹な様子でしたよ。鎌を振り回してましたから」

「か、鎌……」


いつの日か見た死神姿の彼女を思い出し、ぞっとする。恐すぎるって。


「しかし陛下の手を煩わせるわけにはいかないので、僕が代わりに制裁しました。楽しいですしね、血が噴き出るの。一石二鳥です。……どうしました? お姉さん。そんなに後退りして」

「いや、あはははは!」


頬をひきつらせ笑うわたしを、白うさぎくんは不思議そうに首を傾げた。

――後退りしたくもなるでしょうが!

人を傷付けるのが楽しいだなんて……悪趣味にも程がある。わたしには到底理解できない。

わたしはため息をつき、エプロンドレスのポケットからハンカチを取り出して、白うさぎくんの頬に滑らせた。

乾ききっていない液体は、軽くこするだけで簡単に拭きとれる。


「よ、汚れてしまいますよ」


少年はわたしの手を遠慮がちに、制した。わたしはその微力な抵抗を無視し


「ハンカチは汚れてなんぼでしょ。洗濯すれば大丈夫だし」


彼の顔に付着した返り血を丁寧に拭く。

白い肌に付いた血は赤というより黒くて、なんだか気味が悪い。赤のほうがまだ映えて綺麗だ。

例えばこの瞳なんか、まるでルビー。すいよせられるような、紅。


「…お姉さん…?」


無意識のうちに見すぎていたらしい。ハッとすると、ものすごく至近距離に少年の顔があった。


「わっ、ごめん!」

「いえ、大丈夫ですが…。どうかしましたか?」


絶対言えない。

みとれてたなんて。

――白うさぎくんが綺麗すぎるのが悪いんだ。なんでこんなに可愛いの。

チラリと少年を見る。肌に付いていた血は取れたけど、服にはべったりとこべり付いていて。

洗ってもとれないのではないか。特に白いシャツ。

それとも、金持ちは一度着た服なんかもう着ないのかな。



「……ねぇ、白うさぎくん」

「はい?」


わたしは気にかかることを少年に尋ねた。


「その、女王さまも……人を殺しちゃったりするの?」

「しますよ」


やっぱりィィィィィ!!


「ですが陛下は優しい方ですから、いたぶったりせず、一振りで首をはね仕留めます」


仕留めって。日常生活になかなか出てこない単語を、普通に口にしたよこのうさぎ。


「でも僕は、簡単に殺すより、斬り刻んでからの方が好きですけど」


……ヤバイヤバイ。

本当に危険だ。その可愛い笑顔に似つかわしくないぞ。

だけど白うさぎくんは、更に爆弾発言をした。


「まぁ大抵は断末魔が煩いので、殺してからいたぶります」

「実家に帰らせて頂きます!!」

「待ってくださいお姉さん! 鏡池はまだ見つけてませんよ?」

「ギャー! さわらないで!」

「ちょっ、慌てすぎです。さすがに無差別殺人する趣味はないですから。お姉さんなら、尚更大切ですって」


必死に弁解する白うさぎくん。だけど狂気的なあの言葉を聞いた後じゃ、説得力は皆無だ。


「あら、白うさぎにアリス。なにをじゃれているの?」


そこに現れた女王さま。手には血で濡れた大鎌が……。



「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」







わたし、こんな所に居候していて大丈夫なの───?



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