第28話:安眠妨害禁止!
どうもわたしは、暇あればお茶会に行く癖がついたらしい。
いつもいつでもやってるから、ついつい来ちゃうんだよねぇ。美味しいもの食べれるし、楽しいし。
欠点と言えば、行くまでが大変なんだ。砂浜歩くからさ、靴のなかに砂が入る。
わたしの一番の話相手って、もしかしたら帽子屋? お互い暇人だなぁ。年中無休でお茶会開いてるじゃん。
「ということでまた来ました」
「誰が暇人や。失礼なやっちゃな」
カップ片手にため息をつく青年。
だってさ、この人が仕事してるところなんて見たことないし。
そう言えば、いつもこのメンバーだけど、ここに三人で住んでるのかな?
「言っておくけど、このペンションは気に入ってるから居るだけで、本当の家は違うところにあるんや」
「へぇー初耳。……あれ、そう言えば三月は?」
いつもはこの辺で話に入ってくるのに。帽子屋の隣も空席だし。
「アイツは中で寝てる」
「寝……? もうお昼過ぎてるよ? ヤマネくんならまだしも」
「疲れてるんやろ」
「なんで?」
「……まぁ、いろいろあって」
――いろいろって。
すごい気になるけど、帽子屋が聞かないでオーラを出してたから、わたしは口を噤んだ。
前から思ってたけど、この三人ってどういう関係なんだろう。友達にしては年離れてるし、……家族?
もしそうだったら、三月と帽子屋は近親相関になるんじゃ……。
「アリス、今なんか変なこと考えへんかったか?」
「! 滅相もありません!」
つい敬語になってしまったわたしを、帽子屋は怪訝な目で見てくる。
「わたしって顔に出やすいのかなぁ」
そうこぼすと、青年は首を傾げた。
だってよく心のなか読まれるし。例えば白うさぎくんとかチェシャ猫とかダムとか……。
ああ、そっか。このメンバーは、危険人物なんだ。ブラックリストに登録しておこう。
「なんなんや」
「あ、解決したから気にしないで」
「すー」
「…すー?」
目を向ければ、ヤマネくんが気持ちよさそうに寝ていた。あどけない寝顔。幼さたっぷりのその姿はものすごく可愛い。
癒されるなぁ……。
つい見とれてしまう。でも、ヤマネくんってなんでいつも寝てるんだろう? 起きてるほうが少ない気がする。
その時、ふとある考えが頭に浮かんだ。
「ねぇ帽子屋。ヤマネくん起こしてもいいかな」
「……止めはせぇへんけど、止めたほうがええで」
「どうして?」
「どうしてもや」
教えてくれる気はないんだろうか。だけどダメと言われるとやってみたくなるのが人間の性で。
起こしてみました。
「ヤマネくーん」
「…すー…」
「ヤマネくん、起ーきーて」
「んん」
しつこく揺さぶれば、ヤマネくんは顔をしかめる。よし、あともう少し。
「ヤーマーネく──」
「うるさいなぁ」
…………え?
今なんか、目の前の少年から似合わない声が聞こえたような……。
帽子屋があーあ、と漏らした。
「人が気持ちよく寝てるのに、普通起こす?」
「…え、えと」
「で? 起こした理由は? まさかわけもなく僕の睡眠を邪魔したんじゃないでしょ?」
そのまさかです!
怖いよヤマネくんッ。っていうか、この子ホントにヤマネくん? キャラ崩壊しすぎじゃない!?
「に、二重人格……チェシャ猫じゃあるまいし」
「アイツの名前を出すのはやめて!」
「わ、ごめんなさい!!」
ヤマネくん、チェシャ猫のこと嫌いなのか!?
「……用がないなら、ぼく寝ていい?」
「ははははい! もちろん!」
「また起こされるの嫌だから、三月とペンションで寝るね」
いい迷惑、なんて呟き、ヤマネくんはおぼつかない足取りでペンションの中へ入っていった。
「だからやめろ言うたのに」
帽子屋はそう言って、生クリームが三倍(当社比)かかったケーキを食べる。
「ヤマネは寝起き最悪なんや。無理に起こすと、相手が誰であれああなる」
「ああなるって……ちょっと待って。もしかしてわたし嫌われた!?」
冗談じゃない! ヤマネくんに嫌われたらもうここに来れないじゃん!
「安心せぇ。一度寝れば全部サッパリ忘れとるわ」
「ホント!? 本当に大丈夫!? ヤマネくんはわたしの心を癒す重要人物なんだよ? 嫌われたらこの先、こんな疲れる世界で生きていけない!」
「胸ぐら掴むなアホ! 大丈夫言うてるやん」
「………なら、いいけど」
わたしは帽子屋から手を放した。青年は咳払いをしながら、乱れた襟元を直す。
「やっぱりみんなキャラが濃いよ……」
「今更やろ」
「うぅ」
わたしは泣きながら、手元にあったパイを口に運んだ。しょっぱい涙味がした。




