第26話:Trick or Treat ?
ハロウィンに便乗して描きました♪いつもより少し長めです。
「ハロウィン?」
モーニングティー時、目の前の少年から出た言葉をオウム返しする。
「はい。だから今日はシェフにたくさんのお菓子を作らせました。子供たちに配るんですよ」
優しいなぁ白うさぎくん。君だって子供なのに。さすが伯爵。
っていうか、この世界にもハロウィンがあったことに驚きだよ。
じゃあみんな仮装とかするのかな?
「……そうだっ」
わたしはグッドアイデアを思いつき、ぱんっと手を叩いた。
首を傾げる白うさぎくんに向かい一言。
「キッチン貸して!」
──PM1時。
わたしは午前中に作ったお菓子をバッグにいれ、城を出た。
料理はけっこう得意なほう。お姉ちゃんにいろいろ教わったからね。と言っても、お城のパティシエさんに手伝ってもらっちゃったけど。
城に雇われてるだけあって、作業が手早い上に正確。さすが一流。
まぁ、そのおかげもあって無事に完成した。ハロウィンと言ったらお菓子だもんね。
格好も、いつものエプロンドレスじゃなくて魔女っ娘仕様。この年になって仮装は抵抗あったけど、メイドさんたちにのせられてしまった。
このほうが気分出るかもしれないけど。
わたしはバックの中を覗きながら、あげるべき相手の笑顔を思いうかべ、小さく笑った。
――お茶会にピッタリだよね。
待っててね、帽子屋、三月、ヤマネくん。
◇双子の場合◇
ハロウィンの様子を見るため、わたしは海辺のペンションより先に街へやってきた。
「わぁ…まだ昼間なのに盛り上がってるな」
思わず感嘆がこぼれる。
街中はたくさんの人達が仮装していて、お店もハロウィンっぽくイルミネーションされていた。
「「アリス?」」
ふたつの自分の名前を呼ぶ声に、足をとめる。振り返れば、そこには
「わお」
天使と悪魔の仮装をした双子がいた。純白に包まれたダムと、漆黒を纏ったディー。見事なコントラストが素敵。
それぞれ性格によく合ってるし。同じ顔なところがまた服を引き立ててる。
「似合ってるね。やっぱり自作?」
「うん。この日のために、最近仮装用の依頼が多くて忙しかったんだ。でも、自分のも欲しかったから作ったんだよ」
「へぇー、すごい。売れっ子だ」
「ありがと。アリスも可愛いね」
にこっと笑うダム。メガネ越しの紫眼が優しく細められる。
ダムってこういうセリフ照れずにサラリと言うよね。女の子にモテそうだなぁ。
「馬子にも衣装だろ」
「失礼なッ!」
対してディーはコレ。憎まれ口しか言えないわけ?
言ってることは事実かもしれないけど、思いやりのおの字もない。
「こらこら、喧嘩しない」
言い合いをしてたわたし達に、ダムが苦笑しながらとめの言葉をはさむ。
ダムは精神年齢高いな。そういえば、この双子ってどっちが兄なんだろう? ……ディーは弟だろ、絶対。よくなだめられてるし。
「なに変な顔してるんだよ」
「……アンタって本当に無礼ね。仮にもレディにそういうこと言う?」
「どこにレディがいるって?」
目の上に手をかざし、周りを見渡す。チクショー!
「ディー。あまりいじめちゃ可哀想だよ」
おお、エンジェル降臨!
「ダム。でもッ」
「黙って」
「うっ……」
言葉を詰まらせるディー。ダムから黒いオーラが見えたのは気のせいとして、ディーってば本当ダムに弱い。
この立場から考えても、やっぱりダムがお兄さんっぽいな。
「…なんだよ、いつもいつも俺ばっか。ダムの堕天使ー!!」
「ちょっ、ディー!?」
変な捨て台詞を叫び、彼は人混みのなかへ走り去っていった。何才児だアイツは……。
隣でダムがため息をつく。
「仕方ないな。じゃあ僕ディーを追い掛けなきゃだから、またねアリス」
「え、あ、うん」
手を振りながらダムは、ディーの走って行った方向へと行った。急いでないのか、歩いて。
「…なんだかな…」
呟いた独り言は、賑やかな街に吸い込まれた。
◇チェシャ猫の場合◇
──PM2時
わたしはダムと別れた後、目的地に足を運ぶ。まだティータイムに間に合うよね。
でも、これ以上は寄り道しないようにしよう。変な奴にでも捕まったら、時間の無駄───
「やっほーアリス。ごきげん麗しゅう?」
捕まったぁぁぁぁぁぁ!!!
しかもよりによって、一番会いたくない奴! なんてついてないんだ!
――…相手にしたら負けだ。
わたしは目の前の変態と目を合わさないように、すぐさまUターン。
「無視しないでよ。傷付いちゃうから」
「ギャアー!!」
ま、回りこまれた? いや、いきなり目の前に現れたよね? 瞬間移動!? なんつー猫だッ。
「可愛い格好してどこ行くの?」
「アンタには関係ない。ってことでサヨナラ」
褒め言葉は無視して、再び回れ右。
「待ってよアリス」
「うわぁぁぁ!」
またテレポーテーションしやがった!
「少し話そう」
「アンタと道草食ってる時間はないの!」
「食うのが嫌なら食べちゃって♪」
キャッとかほざく。そういう意味じゃないから。頬を染めてはにかむ表情はものすごく不気味だ。
――今はマゾなのか。サドよりはマシだけど、気持ち悪いなぁ。
そんなことを考えてたら、至近距離にチェシャ猫の顔があった。
「!!」
離れようとしたところを、肩を掴まれ失敗。
「ねぇ、ハロウィンっていったらあのセリフだよね? 言って?」
「…な、なんで」
「なんでも。ほら、早く。あまり焦らさないで」
――意味わからん。
言いなりになるのはゴメンだったけど、言わないと放してくれそうにないから。
言った。
あの言葉を。
「……Trick or treat?」
お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ
この世界に通じるか分からないけど、わたしの知ってるセリフといったらコレしかない。
彼の両端の口角が、分かりやすくつりあがった。
「持ってないよ、お菓子」
「……は?」
ついマヌケな声がこぼれる。言わせておいて、なんだそのオチは。
「お菓子くれなきゃ、どうするんだっけ?」
額同士をコツンと合わせ、尋ねてくる。金色の瞳が楽しそうに輝いていて。
――どうするって…そんなの
そこでハッとした。チェシャ猫の思惑が分かったからである。変態の考えそうなことだ。
「どんなイタズラしてくれるの?」
ヤバイ、ドMモードじゃん。逃げなければ。
「…激しくしてね?」
耳元で囁かれた。瞬間、ものすごい勢いで鳥肌がたつ。
「きーしょーいー!!」
スカートなのも気にせず、わたしは踵落としを炸裂した。
「か・い・か・ん…♪」
倒れたチェシャ猫からそんな声がしたのは、──聞かなかったことにしよう。
もしくは開館って意味だ。きっとそうだ、うん。
◇お茶会の場合◇
──PM3時
あの変態猫のせいで、かなり時間食ってしまった。だけど、やっと到着。
「アリスやん。…なんや、お前も仮装してはるんか?」
走ってきた為か息切れしてるわたしに向かい、帽子屋は目を丸くする。
数回深呼吸を繰り返し、わたしはもはや定位置になっている、ヤマネくんの隣に座った。
「メイドさんたちにね。帽子屋はしないんだ?」
「面倒やし」
「つまんないの。三月とヤマネくんは可愛いね」
いつもと変わらない帽子屋と違い、二人はハロウィン仕様。
黒いマントにカボチャのキャップを被ったヤマネくん。マントの下は、黄色のニットにオレンジのカボチャパンツ。カボチャおばけだね。
三月はバンパイアかな? 赤い裏地の黒マントをはおっていて、鋭い牙をつけてる。首には十字架のネックレス。……あれ? 吸血鬼って、十字架ダメなんじゃないっけ?
「えへへ、血吸っちゃうもんね」
「三月が言うと、ジョークに聞こえないから止めて」
素肌見せたら、首筋にかぶりついてきそうだ。……わたしの服装、大丈夫だよね? ややミニスカだけど、露出度は低めだし。
「…アリス…」
「ああ、ヤマネくん。可愛いね、すごい似合ってる♪」
「Trick or treat…?」
眠そうな瞳で上目使い。ヤバイ、ものすごく胸きゅんする。可愛すぎるって。
「あ、ちゃんとお菓子持ってきたよ?」
そう言って、バッグの中から手作りお菓子を取り出す。
「はい。ヤマネくんにはチーズケーキ」
「…ありがとう、アリス…」
「どういたしまして。三月にはキャロット風味のクッキーだよ」
「やったー!」
笑顔満面で頬張る二人。そんな二人を見てると、嬉しくて仕方ない。作って良かった。
「わざわざ作ったんか?」
帽子屋が紅茶を煎れながら、わたしに尋ねる。
「午前中にね。帽子屋のぶんもあるよ」
「ほんまか?」
「うん。多分アンタ以外これ食べれないと思う。名付けて、“激甘、生ホワイトチョコレート”」
ジャジャーンという効果音とともに、それを渡した。
言っておくけど、かなり甘いよ? 余程の味覚オンチじゃない限り吐くよこれ。
ただでさえ甘いホワイトチョコに、砂糖、シナモン、蜂蜜、ミルク、生クリームを入れたからね。
溶かして固めたら、次はデコレーション。チョコレートソースをトッピング。口の中でとろけます。
――これ作ってる時に、どれだけパティシェさんに止められたことか……。
まぁ、普通ビックリするよね。あんな尋常じゃない代物。
「うおおおー! かなり旨いでアリス! お前天才やなぁ」
激甘、生ホワイトチョコレートを食べた帽子屋が叫ぶ。褒められても素直に喜べない。
――まぁいいか。
みんな嬉しそうだし。
わたしは小さく笑って、煎れてもらった紅茶を口に含んだ。
◇城の場合◇
……実は、まだあげてないお菓子があるんだよね。渡す人物はもちろん、あの子。
「あらアリス。おかえりなさい」
お城に帰ってきたら、声をかけられた。振り返ったそこに立っていたのは
「ヒッ!」
ひきついた悲鳴が口から漏れる。
そこにいたのは、ドクロの仮面を付けた女の子。小さな身体に不似合いな大鎌を持っていて。
「し、死神……!?」
そう、まるで死神のような。
「嫌だわアリスったら。私よ」
姿に反して鈴を転がした音の愛らしい声。
まさか。
「女王さま…?」
「ふふ、当たり。どう、完璧な仮装でしょう?」
完璧すぎます。本物かと思ったからね。この人もお茶目だな。
「あの、女王さま。白うさぎくん何処にいる?」
「あの子ならさっき町から帰ってきたから、自室にいると思うわ」
「そっか。ありがと」
少女はどういたしまして、と言った。せめて仮面だけでもはずして下さい。真面目に怖いから。
「せっかく死神になったんだし、誰かの首刈ってこようかしら? ジャックでも驚かしてやりましょ♪」
――…幻聴だ。あんな可愛い子が首刈るとか言うはずない。幻聴幻聴。
わたしは白うさぎくんの自室へ急いだ。
「お姉さん?」
白うさぎくんの部屋の前に立っていたら、背後から声をかけられて。
「あ、白うさぎくん」
「僕に用ですか?」
「うん。──コレ」
そう言ってわたしは、バッグの中に残っていたお菓子を差し出した。
琥珀色に輝くハートの形をした、べっこう飴。
「……僕に?」
「日頃の愛──間違えた、感謝を込めて」
――まずいまずい、つい本音が出てしまった。
白うさぎくんはあげる方みたいだから、わたしが彼にあげる。もちろん、愛情たっぷり手作りお菓子。
「白うさぎくん?」
なかなか受け取らない少年を不思議に思い首を傾げれば。
彼は嬉しそうに微笑み、わたしの耳元に囁いた。
Trick or Treat ?
Happy Halloween...




