第2話:秘密の国へようこそ
……さん
…え……さん
お……え…さん
「ん──」
まどろむ意識のなか、誰かの声が聞こえる。
誰かって、誰?
そもそもここは何処?
わたしは誰?
…いや、さすがにそこまではボケてないけど。
「お姉さん」
「…ん……?」
わたしはゆっくりと瞼を開いた。モノクロからカラフルへとかわる視界。
一番に瞳に映ったのは、わたしを覗きこむ綺麗な顔をした男の子だった。
「うわっ!」
びっくりして跳ね起きる。トビウオも真っ青だなほど大袈裟に。男の子は上体だけ起こしたわたしを見て、安堵の表情をみせる。
「良かった、目を覚まして……。大丈夫ですか?」
「えっと……はい」
状況がよく分からずとりあえず頷けば、少年はにっこりと笑った。
か、かわいい……!
その愛らしさにみとれていると、男の子は不意に立ち上がりわたしに手を差し出してくる。
「あ、ありがとう」
彼の手をかり、わたしも立ち上がった。男の子はわたしの服の汚れを優しくはらい、わたしの顔を見上げて微笑む。
端正な顔。銀髪に紅い瞳。
白いシャツに赤のチョッキ。チェックのショートパンツ、ハイソックス。
大きな金色の懐中時計を肩から斜めに掛けていて。襟元にはリボン、胸にはハートのブローチをつけている。
そして何より
「み、耳……」
大きな白いうさぎの耳。
それを見た瞬間、追い掛けたことや池に落ちたことを思い出した。
――待って。わたし池に落ちたんだよね?
ふと疑問が頭にうかび、わたしは辺りを見渡した。……池の中じゃない事は確かね。
かわいらしい建物がいっぱいあって、メルヘン調な感じ。
わたしが呆然としてると、うさぎの男の子が服の裾を引っ張った。
なんだと目を向けて見れば、ずいぶんと落ち込んだ表情でこう言った。
「ごめんなさい、お姉さんをこの世界に連れてきてしまったのは、僕のせいなんです」
「は?」
話がつかめなくて、マヌケな声が漏れる。
少年はチラリと上目でわたしを見て、バツが悪そうに視線を泳がせた。
「僕の名前は白うさぎ。そしてここは、誰も知らない世界、秘密の国です」
そう言って。
……夢かな。夢だよね。誰かお願い、夢って言って!