第13話:双子のディー&ダム
わたしとダムは声のした方に振り向く。
――あっ! あの嫌なやつ!
今度こそ、間違いない。瞳は灰色だし。
その性悪少年は、わたしとダムのもとにズカズカと偉そうに歩いてくる。
「なにやってるんだよ、ダム」
やや凄んだ表情でわたしの隣の彼にそう言った。だけどダムはまったく怯まず、自然に返事する。
「なにって?」
「だから、なんで俺等の服を勝手にあげてんだって意味だバカ!」
いきり立つ少年。ダムは困ったように苦笑いを浮かべている。
――…に、しても。
見事なシンメトリーだ。ダムがメガネを外したらまったくと言っていい程、見分けがつかないだろう。
現にわたしは、メガネ有りでも間違えたし。
「あの……さ」
何やら言い合いをしてる二人に話しかける。振り向いた彼等にこう尋ねた。
「ふたりはどういう関係?」
正直、答えは予想できている。
「「双子」」
予想的中。綺麗なハーモニーで返された。
◇
こ洒落た喫茶店。そこでわたし達はなぜか紅茶を飲んでいる。
「俺はディー。トゥーイドルのデザイナーだ。……本当に知らねぇのか?」
正面の彼がジロリと睨んでくる。同じ顔なのに、殺意がわくのはなんでだろう。……気持ちの問題かな。
「知らないよ」
「本当か?」
「本当だよ」
「本当の本当か?」
「本当の本当だよ」
ディーはそんなわたしの言葉に、盛大なため息をつく。うん、やっぱりむかつく。
「俺たちを知らないって……お前どんだけ田舎者なんだよ」
「田舎者で悪かったわね!」
だいたい知ってるわけ無いじゃない。わたしはまだ此方に来たばっかりなんだから!
世界が違うと、流行について全く分かんない。盲点だわ。
「……で、そんな田舎者がこの都会に何の用だ?」
ディーが尋ねる。その問いにわたしが答えるより早く、彼の隣に座っていたダムが口を挟んだ。
「アリスは引っ越してきたんだよ、最近」
そうだよね?とわたしを見る。
――確かにそんな設定だったな。
引っ越しというより、事故? 巻き込まれたっていうかなんというか……。まぁ自業自得だけどさ。
わたしはコクリと頷いた。
「うん。だから、あんまりよく分かんないの」
分からない、を強調して言う。目線は性悪少年ディーにむけて。…綺麗な目だな。って違う違う。何言ってんだわたし。
灰色だよ? ようはネズミ色だって。くすんだ色じゃん。
「おまっ、声に出てるから!」
怒られた。
「ダムは紫で綺麗よね。メガネもかけてるから、知的な感じがする」
「俺は汚いってか?」
「ふふ、そう? アリスだって澄んだ青じゃない」
「ありがとう♪」
「無視かよ!」
無視されたのが余程気に入らなかったのか、ディーは荒々しく怒鳴って立ちあがる。
「ディー落ち着いて。他のお客さんに迷惑だよ」
ダムがいきり立つ彼の袖をひき、なだめるように言った。ディーはまだどこかムッとした顔をしていたが、おずおずと椅子に腰掛ける。
「…で、話戻すけど」
咳払いをするダム。
「アリスはどこに住んでるの? 僕らはこの近くだけど……」
「えっと…、住んでるっていうか居候してるの」
「居候かよ。変な奴だなお前」
ハッと鼻でディーが笑う。すぐさまダムが叱ったが。ディーってば、ダムの言うことには素直に聞くんだよね。
まったく、いちいち癪に障る人だなぁ。そんなんじゃ嫌われるって。
「でも居候って大変じゃない? 良かったら、僕らの家に来る?」
「ダム!」
「いいじゃない、広いんだから」
サラリとすごい発言をしたダム。っていうか、それ結局は居候と変わらないんじゃ……。
「あ、あの。気持ちは嬉しいけど、大丈夫だよ。大変どころか、かなり快適」
むしろあの生活は裕福すぎて、逆に困るくらいだ。
「快適……。もしかしてお金持ちの家?」
ダムは首を傾ける。
お金持ちって規模じゃないよね。いや、確かに金持ちだけどさ。たぶんこの国で一番の。
「お城に住んでるの」
言っていいのか迷ったけれど、結局わたしは言葉にした。一瞬流れる沈黙。それを破ったのは、ディーだった。
「城ォォォォ!?」
ナイスリアクション。周りの客がみんな見てるよ。そんな彼とは裏腹に、ダムは至って冷静だ。その証拠に
「へぇー、すごいね。城の重鎮と知り合いなの?」
と、尋ねてくるくらい。
「うん。結構身分高いと思うんだけど……白うさぎって子」
「伯爵ゥゥゥゥ!?」
本日2度目のナイスリアクション。恥ずかしくないのかな。
「おまっ、伯爵と知り合いって実はセレブか!?」
「確かにアリス、気品あるよねー」
いや、わたし自体は庶民だけどね。気品あるってことは、城の雰囲気に馴染んできたのかな。うん、進歩だ。お茶会でも、帽子屋にマナー知識をいろいろ聞かされたからね。お嬢様に見えるかな?
「あ、ところでダム」
わたしはある事を思い出した。
「なに? アリス」
「あのワンピース、本当に貰っていいの?」
「もちろん。あ、もしかして気に入らなかった?」
「いや、かなり可愛いと思うけど……」
わたしはチラリとディーを横目で見る。それに気付いた彼は怪訝な表情をした。しかしわたしの言いたい事が分かったのか、次は口を尖らせそっぽを向く。
「…貰えばいいだろ。見ず知らずの女にタダでやるのは癪だが、ダムが悪かったみたいだし」
ん? ダムが悪かった?いやいや、ダムはちゃんと謝ったから。むしろわたしはアンタにムカついてるから。
だけど、また口喧嘩するのは嫌だから、わたしは何も言わなかった。
「アリス」
ダムがポケットからカードを取り出した。わたしはそれを黙って受けとる。名刺だ。
『トゥーイドルデザイナー
ディー&ダム』
と書いてある。裏を見れば、地図らしきものも載っていた。
「僕らのお店。ひまな時にでもおいで」
にっこりと笑う。その隣には、ディーが不機嫌な表情をしてるけど。……嫌われてるなぁ、わたし。
「うん、ありがと」
お礼を言って、わたしはカードをポケットにしまった。
その後は、3人でいろいろ話した。わたしはお金持ってなかったから、紅茶のお代、おごって貰っちゃったし。…なんか申し訳ない。ダムはいいって言ってたけど、今度返さなきゃ。
でも嬉しいな。やっと同い年の友達ができた。
こうやって私は、此処に馴染んでいくのかな。