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第123話:バーレスク


「……何やってんの、お前等」


低いその声に、わたしは油の足りないロボットのごとくギギギ…と錆びた音をさせながら顔を向ける。

そこには、予想通りの人物が予想以上の怖い顔をして立っていた。

これはもしかしなくても、バレた。確実にバレた。

冷や汗が背中をダラダラと伝う。だってディーの顔が今までで見たことないくらい恐ろしいことになっている。

そりゃ、大事なデートを尾行なんてされたら怒るだろう。しかし、これは。


「お前等……」

「あの、ディー本当にごめんっ! だけど決して悪気は」

「俺に黙ってデートかァァァァァ!!」

「ない……って、は?」


予想外の言葉に、マヌケな声が出た。いやだって今こいつ、デートって。


「しかもなんだ、そのあーんって! 恥ずかしくないのかお前等!」


アンタの大声のほうが恥ずかしいわ。

――っていうか、もしかして尾行してたのバレてない?

その代わりおかしな誤解はされているが。


「ディー、声抑えて。他のお客さんに迷惑だよ」


今まで黙っていたダムが口を開く。

ディーはそれにだって、と言いかけたが、自分の声量を自覚していたのか何かブツブツ言いつつも口を閉ざした。


「あ、あの……」


遠慮がちにこちらを伺うような声に、わたし達はいっせいに目を向けた。

アンが目をぱちくりさせて立っている。


――ま、まずい。

ディーはバカだから尾行だと気付かれなかったが、アンではさすがに気付いただろう。


どうしよう。そんな思いを訴えるようにダムを見つめれば、彼は任せてとでも言うように微笑した。


「偶然だね、アンちゃん。まさかこんなところで会うなんて。2人はデート?」


その言葉に、ディーは顔を真っ赤にしてテーブルをバンッと強く叩き


「デデデデートって……!」

「そ、そんなんじゃありませんよっ」


アンの否定に打ちのめされた。どこまでも不憫な子……。

もしこの事態を予測してさっきの言葉を吐いたとしたら、わたしはダムが本気で怖い。


「とりあえず座ったら?」


立っている二人に声をかける。アンは失礼します、と言ってわたしの隣に。ディーはダムの隣に座った。


「お二人はデートですか?」


アンが目をキラキラさせて聞いてくる。なにを期待してるのこの子は……。


「そ、そうだ! お前ら――」

「はいはい、ちょっと黙ってね~」

「んががっ」


ダムは笑いながら、フォークに刺さったままだったガトーショコラをディーの口の中に放った。

声量を加減しないディーもディーだけど、ダムのその黙らせ方もどうかと思う。

ディーは苦しそうに顔を歪めつつも、なんとかそれをコーヒーで無理矢理飲み込んだ。


「お前なっ……!」

「ディー、声」


その声色は穏やかなのにどこか口答えさせない威圧感がある。

ディーもそれを感じたのだろう、わかったよ、とそっぽを向きながらも了承した。


「……で、君達はこれからどこに行くの?」


ダムはコーヒーカップを片手に、ディーに尋ねる。ディーは不機嫌そうに、店、と答えた。


「どこの店?」


そう聞けば、今度はアンが答えた。


「ディー君とダム様のお店です。以前行ったときはあまりゆっくりできなかったので、また伺わせてもらうことにしたんです」


確かに、前回はそれどころじゃなかった。あまり思い出したくない記憶だ。


「あ、もしよろしければお二人もどうですか?」


意気揚々とした彼女の提案に、わたしは固まった。なんかもう、ディーが可哀想すぎて顔を直視できない。

さすがにディーが不憫だから、わたしは断ろうと口を開いた。


「いや、遠慮しておくよ」


ただ、言おうとしていた言葉は彼に先を越された。

ダムはコーヒーを飲み干し、立ち上がる。そしてぽかんとしているわたしを見て、行こうと微笑んだ。


「僕たち、まだデート中だから」


その言葉に、アンは目を輝かせ、ディーは顔をしかめ、わたしはデートじゃねーし!とつっこんだ。心の中で。

でもとりあえず彼等から離れることには賛成なので、わたしも席を立つ。しかし


「ま、まてよ!」


制止の声に動きを止める。


「……なに?」


ダムは笑いながら、止めたディーを見た。そのディーはと言えばなにか言いたそうに口を開閉している。

アンとのデート(否定されていたけど)を優先するか、わたし達のデート(実際違うけど)を邪魔するかで悩んでいるのがすごくわかる。

あ、わたしもダムみたいに人の心の中読めるようになった!? それとも単にディーがわかりやすいだけ!?

……後者な気がする。

ということはなに、わたしもあのくらいわかりやすいからよく心の中読まれるわけ? そんなバカな!


「用がないなら行くよ?」


ダムがうなっているディーに言う。

その声色は優しいものなのに、表情だって穏やかなのに、彼から黒いオーラが見えるのは何故だろう。

アンは口出ししていいのか迷っているのだろう、彼等の間に視線を行き来させている。

ああもう、埒があかない!


「あの、わたしもトゥーイドル行きたいな」


わたしはいつまでも均衡状態を続けている彼等に声をかけた。

瞬間、ディーは表情をパッと明るくさせた。わかりやすっ!

ダムはまるで待ってましたとでもいうような笑顔で


「じゃあ、このままダブルデートしようか」


デートじゃない!

見事にハモったツッコミが店内に響いた。




バーレスク…こっけいな芝居。茶番劇。


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