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第119話:リスペクト


私、ダイヤ隊隊長のディアには毎日しなければならない仕事がある。





「ああ、ジャック様は今日も凛々しいッス……!」


城内の廊下を、我等が騎士団長のジャック様は重ねられた書類を持ちながらやや俯きがちに歩いている。

これは決して落ち込んでいるのではない。俯いて歩くのがジャック様の癖なのである。そして時々、後ろを振り向くのも同じだ。

ついでに、この癖は親しい者しか知らない。ここ重要ッスよ!

それにしても、油断していると見せかけて実は常に気を張っている。ああ、なんて素晴らしいお方なんだ!



「なにしてんの、ディア?」


不思議がる声が後ろからかけられた。振り返れば、首を傾げているミーハとめんどくさそうな顔したスウォーがいた。

スウォーはため息を盛大に吐き出し、不審者を見るような目で


「またジャック様のストーカーか」

「ストーカーじゃない、身辺警護ッス!!」


聞き流せない言葉に反論する。ストーカーだなんて、そんなのと一緒にしないでほしい。

ジャック様は尊い立場にいるのだから、いつ誰に狙われるかわからない。そんな彼を毎日お護りするのが私の仕事だ。

だからこれは決してストーカー行為ではない。断じてストーカー行為ではない!


私の言葉に、スウォーは再びため息を吐き出す。失礼な奴ッス。

彼は馬鹿馬鹿しい、と呟いて背を向けた。本当に嫌な奴だ。

騎士団長の護衛をしているのだ。感心はされこそ、虐げられる意味がわからない。

――むしろ私を見習ってスウォーも護衛をするべきッス。

いや、やっぱりジャック様の警護は私1人で十分だ。そう、私だけがジャック様を本当にお護りできる。


「あの、ディア」


前方のジャック様を凝視しつつ考えにふけっていたら、ミーハに声をかけられた。


「まだいたんスか」

「ちょっ、酷い。もう俺も行くけど、ほどほどにね」

「ほどほどってなんスか。ミーハまでそんなこと言うんスか」

「そういうわけじゃないけど……」


じゃあどういうわけッスか!

そう叫ぼうとした私だったが、それより早くあのソプラノが廊下に響いた。


「ジャック様~!」

「ギャアァァァァァァ!!」


ジャック様の悲鳴と共に。


「で、出たッスねあの小娘……!」

「小娘って、たいしてディアと年変わらないでしょ」

「出会い頭で、しかも上司にだだだ抱きつくなんて非常識ッス! 非常識ッスよ!」

「俺の話聞いてる? それとディアもわりと非常識だよ」


ミーハが横でゴチャゴチャ言っているが、そんなの全く耳に入らない。

私はジャック様にひっついている彼女を引き離すべく、彼らのもとへと走った。


そう、ジャック様とココのもとへ!



「ね、ジャック様。早くください」

「たたた頼むから俺に構うなハート……!」

「いやん、ハートじゃなくてココって呼んで下さい」


「何してるッスかココォォォォ!!」


ジャック様にベタベタしているココに向かい、飛び蹴りをかます。

が、避けられた。ふん、だてに隊長やってるわけじゃないッスね。


「ダイヤ……」


顔をあげれば、ジャック様が蒼白になって立ち尽くしていた。ああ、お労しい。ココのひっつき攻撃にやられたッスね。


「ディアと呼んで下さいジャック様。私が来たからにはもう安心ッスよ!」

「もうディアったら、酷い言い様」

「黙るッス! ジャック様はスキンシップが苦手なんスよ? それなのにベタベタと……。ジャック様の迷惑も考えるッス!」

「あら、苦手なら克服する必要があると思うわ。だからこうやって」


そう言ってココは、ジャック様の胸板にぺたりと……。

ああぁぁぁぁ!!

ハレンチッス! ハレンチッスぅぅぅぅ!!


「や、やめろハート!」

「きゃっ」

「最低限俺に近付くな触れるな話しかけるなー!!」


ジャック様はそう叫び、マッハで走り去った。持っていた書類を落としながら。

私はそれをやや唖然として見送ったが、すぐにハッとしてジャック様のあとを追った。いつ誰に襲われるかわからないのに、ジャック様お一人で行動するのは危険すぎる。


「って、なんでココまでついて来るッスか!」

「だってジャック様、大事な資料を落としてしまってるもの。お届けしなきゃ」

「私一人で十分ッス!」





その後、女王陛下に廊下は走るなと怒られるまで、私たちの追いかけっこは続いた。


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