表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/124

第109話:No way !



時々、この人と双子でいることが嫌になる。




「やっぱり此処にいた……」


カウンターに真っ赤な頬をつけて虚ろな目をした彼を見て、僕はため息と共にそうこぼした。

マスターがそんな僕を見て、苦笑する。なんだかばつが悪い、僕は小さく会釈してすぐに視線をはずした。

しかしそのせいでディーの隣で笑っている彼女を見つけてしまった。


「あ、ダムだダムだー!」


その彼女は普段からは考えられないくらい可愛い笑みを浮かべ、その長い金髪をゆらして僕を指差す。


「アリス……」


君、顔真っ赤だよ。


「あはは、変な顔してうー!」


しかも、呂律回ってないよ。っていうか確実に君も酔ってるよね。そして人のこと指差さないでね。っていうかなんでいるの?

そんな疑問が浮かんだが、すぐにディーが引っ張って来たんだろうという結論が出た。


「ほら、ディー! 君の愛しのブラザーが来たよ!」

「んあ〜?」


アリスは隣で伏しているディーの肩を揺らす。眠たいのか、ディーはその言葉に目をこすりながら僕に目を向けた。


「あれー、ダム。なんでここにいんの?」


きょとんとした顔でそう言う我が兄に、僕は頬が引き攣るのが自分でも分かった。

だってあまりに帰りが遅い上、連絡もつかないから、こうやってわざわざ迎えに来たんだよ?

それなのになんでいんの、なんて無神経にも程がある。しかも、何故かアリスと一緒だし。2人して酔ってるし。


「ディー寝るなぁ〜。まだわたひの話は終わってないぞぉー!」

「ばぁか、寝てねーし。よゆーだし」


舌っ足らずな口調で話す2人を見て、僕はもう一度深くため息をついた。

どうして酒癖悪いのに飲むのだろう。アリスもこんなに変わるなんて、余程お酒に弱いのか、それともそれだけ飲んだのか。

ディーに至ってはもう呆れるしかない。たいして強くないくせに大好きなんだから。

酔って泣き出された時は、こっちが泣きたくなった。まあそれ以来、一緒に飲んであげることはなくなったが。


ーーだから違う人を誘うようになったんだよね。別に子供じゃないし、ましてや門限なんてないから構わないんだけど。


「でも、遅くなるならちゃんと電話してよ」


あと、他人にも迷惑かけない。


そう言って彼の頬を軽くつねった。それを見てなにがおかしいのか、アリスが爆笑する。酔っ払いって本当に不可解な生き物だ。


「いててっ、離せよバカダムー」


しばらくつねってると、ディーに手を叩かれた。酔ってるせいか、微力なものだったが。


「ほら、ディーくんアリスちゃん。ダムくん迎えに来たから帰る準備して」


変わらない現状を見かねたマスターの言葉に、彼らは声を合わせてえー、と文句をこぼした。

えーじゃないよ。ああもう、本当に頭痛がする。


ーーっていうか、マスターもマスターだよ。ディーがこうなるの分かってて、それでも飲ませるんだから。

そう考えて、僕はすぐにかぶりを振った。彼は仕事だから仕方ない。それに実際、今まで酔ったディーをわざわざ家まで送ったりしてくれてたし。


そうだ、結局は誰が一番悪いって


「おれまだ帰んねえしー」


この馬鹿だ。



「マスター、迷惑かけてすみませんでした。持って帰りますね」


そう言って、2人の首根っこを掴む。えーい、キャッキャッうるさいな。君達キャラ変わりすぎ!


「そんなでろんでろんな2人を一緒には大変じゃない? 車出そうか?」


そう苦笑するマスターの優しさには感動だが、いくらなんでもそこまで迷惑はかけられない。

だけど、確かに出来上がっている2人を同時に持ち帰るのも、かなり辛い。身体的にも、精神的にも。


「……お気遣いありがとうございます。車は、大丈夫です。だけど、とりあえずひとりずつ連れて帰ることにしますね。あ、どちらもちゃんと回収しに来ますよ」

「俺は構わないけど、本当に平気?」

「大丈夫です」


心配そうに僕等を見るマスターに微笑しながらそう言う。そして僕はいったん暴れる2人を座らせた。

――やっぱりアリスから連れて帰るべきかな。

如何なる時もレディーファーストが僕の心得だ。それにしても、本当にキャラが違っていて見てるぶんには面白い。見てるぶんには。

だが見てるだけということにもいかず、僕はアリスの腕をひいた。彼女はずっとにこにこしていて、特に抵抗はしない。

これなら楽に運べそう、なんて思ったが障害は斜め後ろからやってきた。


「なんでアリスと帰るんだよ」


先程までご機嫌だった人が、今度は地を這うような声で僕を引き止めた。


「俺を置いていくのか?」


出来るならそうしたいよ。


「だいたい2人きりになってどうする気だよ!? 不純異性交遊反対!」

「ああもう、うるさいなあ。君はアンちゃんのことが好きなんだから、僕等がどうしようと関係ないでしょ!?」

「ダ、ダムが俺に怒鳴ったー!」


――怒鳴りたくもなるでしょうが!

本当、頭にくる。自分勝手なディーにも、ケラケラ笑ってるアリスにも、流せない自分にも。


「ダムくん落ち着いて。ディーくんもあまりワガママ言わないの」

「オッサンは黙ってろ!」

「お兄さんはまだ20代です!」


マスターとディーの漫才のような言い合いに、僕は少し頭が冷めた。

ーー苛立っちゃ駄目だ。

僕は盛大なため息を吐き出し、不機嫌そうに小声で何かぶつぶつと呟いているディーの腕をひいた。

だけど何故かその手は振り払われて、ムッとする。かと思えば彼は両手を僕に向かって伸ばした。


――あ、嫌な予感。


「おぶれ」


……命令かい。



結局僕は、2回に分けて彼等を連れて帰った。迎えに来てもらうのが一番手っ取り早かったんだけど、もう使用人はみんな帰ってるからそういうわけにもいかず。

家までは大変だから、トゥーイドルに備え付けてある部屋に帰った。

正直、帰路はかなり辛かった。ディーは人の背中で吐きそうとか言い出すし、アリスはトンチンカンな歌を歌い出すし。


……まあ、アリスをお姫様抱っこできたのは役得だけど。やっぱり女の子はいいよね。



「さて……と」


ベッドに放り投げたら、2人とも眠ってしまった。きっと朝まで起きないだろう。

城には連絡してあるみたいだし(ディーが酔う前にしたらしい)、あとはもう知らない。僕も寝てしまおう。


ーーアリス、酔ってる時の記憶あるかなぁ。ディーは綺麗に覚えてるタイプなんだけど。

そう思うと、ちょっと朝が楽しみかもしれない。


「明日は復讐させてね」


僕はそう言って彼等におやすみ、とキスをした。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ