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第1話:昼下がりの事件

アリスシリーズ第2段!

原作『不思議の国のアリス』をベースにしたファンタジーコメディーです。



我が家ののどかな庭。

頬を撫でる風。

気持ちのいい陽気。

揺れる葉。

涼しげな木陰。


「まだ読んでるの?」


わたしは木の幹に背をあずけ、隣の姉に話しかけた。姉は膝の上に乗せた本のページを一枚めくる。


「もう少し」


視線は本に向けたままそう答えた姉。

わたしはそれにムッとして、頬を膨らませる。


「もう少しって、さっきから同じことばっか言ってるじゃない」

「そんなことないわ、まだ6那由他回しか言ってないもの」

「どんな単位!?」


わたしは大きなため息を盛大に吐き、姉の手元にある本を見つめた。分厚くて、文字ばっかで、つまらなそうな本。

タイトルは【炭酸飲料を飲むとなぜゲップが出るか】。


……え、ちょっ、マジでつまらなそうなんだけど。

そんなことを知ってどうするんだ、我が姉よ。第一、あんた炭酸飲めないでしょうが。



「暇だな〜」


小さく貧乏ゆすりしながら呟くと、姉は一瞬だけわたしに視線を向けて、


「そんなに退屈ならお昼寝とかしたらどう?」


そう言ってまたページをめくる。

昼寝って……、わたしもう16歳なんだけど。

そりゃあ、若草色の芝生の上、陰のもとで真っ白なワンピース着てお昼寝なんて優雅だけど。

そんなの柄じゃない。

そもそも真っ白なワンピースなんて着てないし。


わたしの今の服装、姉に無理矢理プレゼントされた、やけにフリルやらレースやらがついたエプロンドレス。

可愛いと思うよ? でも、そんな少女趣味に付き合ってられる程、寛大じゃないのさ。カジュアル系だし、わたし。

それを知って、わたしにこれをプレゼントした姉。嫌がらせなのか、天然なのか……。


「はぁ……」


無意識に零れるため息。


「どうしたの? 悩み事?」


あんたについてね。


「分かった、退屈すぎるのね!」


いやいや、ちょっと待て。


「そんなに悩むほど退屈なら、一緒にこの本──」

「絶対やだ」


直ぐ様拒否すると、姉は『えー』と不満気な声をだした。

だけどもまた本をガン見。そこまでして知りたいか。

わたしマジでこの人と血繋がってるのかな。嬉しくないんだけど。



再び出てきそうなため息を飲み込み、わたしはふいと視線を姉から剥がした。

視界に入るは、キラキラした風景にひとりの少年。

――え?

わたしは目をこする。そしてもう一度見るけど。

小川の岸辺でやたらうろうろとしてる。かなり挙動不審だ。背は低めで、顔も幼い。14歳くらいだろうか?


わたしは可愛い男の子だな、なんてぼんやりと見つめていた。

そう、少年の耳を見るまでは。


――!!!?


わたしは意識がカッと醒めるのを感じた。

だってあの男の子、本来人間の耳がついてるところには、真っ白で大きなうさぎの耳が……。

え、コスプレ? それとも本物?

いや、無いよね。本物なわけ無いよ。無い無い。うん、無い。あるわけない!

そう念じながらもジッと観察してると、耳がぴょこぴょこって動……。




有りかよチクショー!!



「あっ……!」



そうこうしてる内に、うさぎ少年は走りだす。

わたしはつられてつい、彼を追うように駆けだした。なんとなく、姿を見失うのが嫌だったから。

後先考えず、楽園の木陰を抜け出し、姉のもとを離れ、わたしは走った。

――何してるのわたし。お姉ちゃんが心配しちゃうよ。行っちゃダメ。


でも………


サラサラと揺れる少年の銀髪。軽快なタップ。小さな後ろ姿。うさぎの耳。


全てがわたしを魅了して止まない。




「アリス……?」


姉は隣にいない妹の名前を呼んだ。返事がなければ、姿も見えない。


「トイレにでも行ったのかしら?」


アリスの思い、届かず。






「待って、そこの男の子! ちょっと止まって!」


必死に叫ぶ。だけど聞こえているのかいないのか、少年は止まってくれない。

しばらく二人して走り続けていると、少年は唐突に足を止めた。それに合わせて、わたしも止まる。

気がつけば、ずいぶん遠くまで来てしまった。息切れもしてる。

止まったのは、池の手前。透き通っていて、鏡のような水面。吸い込まれそうなくらい、綺麗で。


「あの」


わたしはおそるおそる話しかけた。

だけど少年は振り返りもせず、目の前の池に飛込んだ。

広がる波紋。飛び散る雫。


……え?


目の前の池に?


飛込んだ?


飛込んだぁ!?


「う、うそ! 何それ何それ! え、なに? 水遊びにはまだ早いよ。風邪ひくよ」


池にむかい叫んでみるけど、うんともすんとも言わない(そりゃそうだ)。

ど、どうしよう。かなり気になるんだけど。

でもよーく考えてみて。わたしがこの中に飛込む?

ハッ! 有り得ないね。馬鹿馬鹿しい。わたしだって少しは利口よ? 生憎そこまではできないって。


「ってことで、グッバイうさぎ少年。いつまでもわたしの胸の中で、思い出として生きてね」


そしてわたしは池に背をむけ、踵をかえ───



ズルッ



「ぬぁぁぁぁぁ!」


女にあるまじき奇声を発し、見事にすべった。足がもつれたわたしはそのま後ろに重心がいき


「え、ちょっと、ストップ。止めてよ、そんな展開誰も望んじゃいないって。や、オイオイオイ……オイー!!」




池へとまっさかさま。







お母さん、お父さん、そしてお姉ちゃん。先立つ不幸をお許し下さい……。

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