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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『敗戦勇者と勇気なき街娘編』
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第84話 vs姉妹と怪物と

 アーガスの言葉を合図として、待機していた四人が動き出す。

 そんな中で僅かに動きが遅れた機体が一つ。スバルが乗る獄翼だ。彼は照準を合わせつつもアーガスに向けて叫ぶ。


「おい、今のはなんなんだよ!?」


 つい数秒前。

 照準に合わさった巨人は、亡き友人の言葉を語り始めた。動揺がスバルの身体に取り付き、蜘蛛の糸のように絡みついてくる。


「あれはアスプル君なのか!?」

「あれは弟であり、弟ではない!」


 同じ動揺を抱いたのだろう。

 間近でそれを見ていたアーガスが、すかさず己の解答を出した。


「奴は食った人間の栄養だけではなく、意識も取り込んできた。それこそ、己の自我が崩壊する危険があるほどに!」


 例えて言えば、大量の絵の具を注いで一気にかき混ぜたような物であるとアーガスは思う。

 掻き混ぜられた後の絵の具は元の色を留めておらず、ただ真っ黒になるだけだ。あの巨人も、食らった人間の意識が混ざり過ぎて意識が真っ黒になっている。


「だが、その中でも多くの人間が確立してきた意思がある!」


 新人類王国への復讐。

 自分たちと同じ痛みを、アイツらにも。

 そんな憎しみが、新生物の中にどんどん蓄積していってしまった。アーガスが住民を暴徒とさせる為に炊きつけたのだ。


「奴は新人類を抹殺するつもりだ! もはや私が誰であるかも、理解していないだろう」


 それはまさに、本能の赴くままに敵を倒し続ける殺戮生物である。

 新人類は根こそぎ破壊対象にされ、残された人類も巨人の前では餌同然。

 

「あれをこれ以上この街に留めておくわけにはいかない。ダークストーカー、獄翼。街の外へと追い出すのだ!」

『了解!』


 元気のいい返事が聞こえると同時、巨人の真横から黒い影が襲い掛かってきた。

 瞬時に巨人は振り向くも、遅い。顔面の『赤い』結晶体にナイフが突き立てられた。結晶体から赤い液体が吹き出し、巨体がよろける。


「姉さん、そいつ顔面抉られても死んでない!」

『最初から通用するなんて、思ってないよ!』


 カノンが言うと同時、ダークストーカーの関節各部から青白い光が溢れ出した。同調機能だ。ダークストーカーに搭載されたSYSTEMが起動し、姉妹を取り込むことで二人の身体を1つの機体へと集約させる。


 その異変を察知したのか、巨人はよろめきながらも反撃の体勢に入った。

 指の無い両手の先端がぼこり、と音を立てながら崩れ、皮膚を貫いて刃が出現する。獄翼から取り込んだヒートナイフだ。

 巨人の両手から生える刃が、発光しはじめる。熱が空気を伝いつつも、巨人はそれをダークストーカーへと向かって振りつけた。


『それ、師匠のですよね』


 カノンの機械音声がトラメットの街に響く。

 一応、巨人と獄翼による第一ラウンドの全貌は覗っている。その戦いの中で、ナイフを奪われたことも聞いていた。


『お前が持つなよ、それを!』


 発光したままのダークストーカーが、右足を繰り出した。

 それと同時、光り輝いていた右足の形状が変化する。足底に車輪が出現したかと思えば、それは猛回転をし始めた。勢いよく回転しつつも繰り出された右の蹴りは、突き出されたナイフをへし折りながらも、巨人の首元を切り裂く。


「――――ッ!」


 今度こそ巨人が雄叫びをあげつつ、大きくよろめいた。

 へし折られたヒートナイフが、大地に突き刺さった。


『くらえ!』


 両手の武装をへし折ったのを好機と捉え、ダークストーカーが突撃。

 間合いを詰めると、頭部に突き刺さったナイフを引き抜きながら再び右足を繰り出した。

 狙いはずばり、スバルに話した通り。

 巨人の股間である。


 命中。


 僅かに巨人の身体が宙を浮くも、ダークストーカーはそのままでは終わらない。ダメ押しとでも言わんばかりに足から放電を開始し、巨人の黒い身体に電流を送りつけた。


 巨人の胴体が激しく揺れる。

 それが強烈な電気ショックを受けたために起こった事なのは一目瞭然なのだが、手前の一撃があったがためにそっちの威力が凄いのだろうか、と邪推してしまう光景ではあった。


『師匠、パス』

「お、おう!」


 打ち合わせも無く急に振られた為、若干戸惑うスバル。

 だが蹴りを入れたままのダークストーカーが、サッカーボールを軽くパスするかのようにして巨人を放り出すのを見ると、瞬時にその意図を理解する。


「こいつは昨日の分だ。受けてみやがれ!」


 操縦桿を押し倒したと同時、獄翼が引き金を引いた。構えられた巨大な砲身。その先端に光りが集い、咆哮をあげる。

 宙に放り出された巨人に向かって、光の柱が噴出される。

 角度は、おおよそ45度。綺麗な半直角だったが、光は巨人にクリーンヒット。黒い腹部を抉りつつも、そのまま巨体を街の外へと押し出していった。


「流石に師匠と弟子を名乗るだけはある。美しいコンビネーションだ」


 二機の行動を見たアーガスの第一声がそれだった。

 股間を抑えながらだったので、少々カッコ悪い状態ではあったが、彼の目から見て十分すぎるコンビネーションだったらしい。


 もっとも、スバルとしては無理やり出番を作ってもらったに等しいのだが。


「なあ、カノン」

『なんですか師匠』

「今のって、俺が撃つ必要なかったよね?」


 排熱作業を行うエネルギーランチャーをおろし、問う。

 先程の一撃を見るに、やろうと思えばダークストーカーはあのまま巨人を外まで引っ張っていけた筈だ。

 それをやらずにわざわざ獄翼へとパスしたのは、何か意図があってのことだろうか。


『ああ、ほら。あれです。折角リアルで師匠と同じ軍に所属して戦えるんですから、こういうのやってみたいなって』

「余裕だね、君」


 聞いてみれば、理由は結構趣味に走った物だった。

 今にも舌を出して『てへ』とでも言いそうに首を傾げ、頭を抱えるポーズが中々様になっている。


『二人とも!』


 そんな会話を断ち切り、二人の意識を戻す声が聞こえる。

 アウラだ。彼女の叫びが聞こえると、二人は揃って体勢を整え始めた。


『もう! 相手はリーダーたちを行動不能に追い込んだ化物ですよ!? 何を呑気にトークしてるんですか!』

「まあまあ」


 信じられない、とでも言いたげな口調で二人を責めるアウラだが、アーガスの仲裁が入ることで徐々に落ち着きを取り戻し始めたらしい。

 その後、彼女の声のトーンは通常のそれに戻って行った。


『第一、あの刀で切られて生きてる化物ですよ。腹を抉られた程度で死ぬとは思えません』


 普通は死ぬダメージである。

 寧ろ、ダークストーカーの手によって叩きつけられたナイフだけでも既に行動不能になっていてもおかしくはなかった。


「だが、外に出たのは事実だ。後は奴を再び街に侵入させないことに全力を注ぐだけ」


 アーガスが言うと、彼は疾走。

 街を覆う壁の前まで辿り着くと、跳躍することで一気に壁の上まで上り詰める。

 彼は僅かに身を乗り出し、巨人を見る。


「!?」


 息を飲んだ。

 その音が折紙を通じて聞こえたのだろう。ブレイカーに搭乗しているメンバーや、こちらに向かって駆けつけているメラニーが訝しげに問いかける。


「どうしました、アーガスさん」

「メラニー嬢! 街に防御の紙だ。急げ!」

「え?」


 壁を伝い、こちらに走ってくるメラニーを制止するようにして手を振ると、アーガスは血相を変えて指示を出した。


「奴はぴんぴんしているぞ!」


 その言葉を耳に入れると同時、スバルとカノンは同時にカメラアイをズームに切り替える。

 壁の向こうに吹っ飛ばされた巨人の姿が見える。抉られた腹部に、切り裂かれた首元の肉が徐々に繋がっていった。

 それだけではない。ダークストーカーによって抉られた両腕を前に突き出し、銃口を作り上げているのだ。

 比喩ではない。両腕の肉が絡み合い、そのど真ん中に巨大な穴を作り上げているのだ。その穴から徐々に溢れ出してくる青白い光が、アーガスの額から汗を流させる。


「学習したのだ、あいつは!」


 エネルギーランチャーと言う、遠距離からの武装の知識を得た。

 同時に、それがどういうものなのかも。

 その事実が、彼らの表情を凍りつかせる。


「メラニーさん!」


 一番防御に優れた新人類の名を呼ぶ。

 が、その本人は焦りの声で返答するのが精一杯だった。


「ま、待ってください! 時間が――――」

『それなら!』


 機械の声が少女の呟きを遮る。

 壁の中から飛行ユニットを展開させ、ダークストーカーが飛翔した。


「よせ! もしエネルギーランチャーと同等のものだとすれば、電磁シールドで弾ける物ではない!」


 折紙を口元へ持っていき、アーガスが警告する。

 が、ダークストーカーは鞘から刀を引き抜き、突撃す。


『防げないのなら!』

『切り落して、発射口を曲げる!』


 姉妹が出した解答は、果たして正しいのか分からない。

 だが今はそれが一番正しい選択だと感じたダークストーカーは、迷うことなく刀を向ける。狙いは、両腕に集う光の塊。


『はあぁぁぁっ!』


 姉妹の声がシンクロした。

 距離はほぼ0。潜り込むようにして懐に入り込んだ黒い罪人が、思いっきり切り上げた。


 が、


『えっ!?』


 受け止められた。

 否、正確に言えば切れないのだ。刀身は確かに命中している。だが、その刃は巨人の皮膚を切り裂くことなく、その場で動かない。


『そ、そんな!?』


 思わずカノンが動揺する。

 刀はダークストーカーと獄翼の所持している武装の中でもトップクラスの切れ味を誇っている代物だ。王国内を探しても、恐らくこれと並ぶ切れ味の刃は存在しないだろう。

 それを身体で受け止めるなど、想像もできない。いかんせん、ただのナイフで頭を貫かれているのだ。にも拘わらず、刀に対してはこの強度。


「学習したんだ……!」


 巨人は昨日、獄翼との戦いを経て何度も同じ刀に切断されている。

 その時の体験をもとに、刀に対する対策を練ってきたのだ。そうとしか考えられない。


「だ、だけど! ナイフや電流は効果抜群の癖に、刀に対してだけ堅いとかありか!?」


 普通に考えて、切れ味が異常に鋭い刃を受け付けないのなら他の攻撃も受け付け無さそうではある。

 あるのだが、しかし。目の前にいる巨人は普通じゃなかった。

 こいつは武器単位で学習を行い、それが出てきた際の対処法を導き、実行している。しかも、学習スピードは明らかに昨日に比べて早い。


「カノン、退け!」


 いずれにせよ、だ。

 このままではやばい。巨人の両腕から作られる光の塊が放出されれば、ダークストーカーは無事では済まない。


『ぐうっ!』


 指示に従い、ダークストーカーが腰を捻らせ、地に伏す。

 直後、巨人の両腕から光が解き放たれた。光の波が噴出し、ダークストーカーを飛び越えて一直線にトラメットへと向かってくる。


 その二つの間に、新たな影が飛び出した。

 一歩遅れて壁を乗り越えた獄翼だ。スバルは素早く刀を抜くと、迷うことなく大地に突き刺し、その背後でダークストーカーから譲り受けた電磁シールドを展開する。


「凌いでやる!」


 以前、アキハバラで天動神のサイキックバズーカを防いだ布陣と全く同じものだった。

 だが、スバルは覚えている。あの時、完全に防ぎきれなかったことを。

 持たせて、精々数十秒と言った程度だろう。だがそれだけの時間があれば十分だと思う。


 メラニーさえ間に合えばいい。

 少なくとも、今この場であの攻撃を凌ぐには彼女の為に時間を稼ぐ必要がある。


「スバル君、よせ!」

「無茶よ、旧人類!」


 後ろの壁で、新人類の二人が何か言っている。

 だが、無茶だの一言で止めれない。相手は新人類を超えた新生物だ。旧人類の自分に出来ることなど、無茶して全力を出す以外の何があると言うのだろう。


「来い!」


 巨人に向けて、叫ぶ。

 直後、光が突き立てられた刃に命中した。

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