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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『美の勇者と街娘編』
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第59話 vsトラセット地理

 ゴルドー邸を後にした反逆者たちは、アスプルに連れられ街を歩く。

 その道中で、スバルは彼に問う。

 彼の実家で感じた違和感を、だ。


「アスプルさんは」

「呼び捨てで構いませんよ。同世代ですし」

「え、そうなの!?」


 問おうと思ったら、意外な事実が判明して思わずたじろいでしまった。

 見れば、横を歩くエイジとシデンも間抜けに口を開いている。

 立派なスーツに身を包み、大人びた雰囲気が出てるからだろうか。彼が年下であることに少しばかり衝撃を覚えたようである。


「えーっと……それならアスプル君も、もっと気さくに話しかけていいよ」


 呼び捨てで構わない、といわれてもすぐに対応するのは難しい。

 精々君付けが限度である。しかしアスプルはそれに気をよくしたのか、口元を緩めた。


「では、こちらもスバル君で」

「お、おう」


 なぜだか恥ずかしい。

 異国のお偉いさんに気軽に話しかけられるのが、こんなにも緊張するとは思わなかった。


「それで、なんだい」

「……アスプル君は、家庭のことをどう思ってる?」


 遠回しに聞こうと思ったのだが、どう表現したらいいのかわからない為、直球で質問してしまった。

 すると、当の本人は少々考える素振りをみせていう。


「そうだね。兄はわかると思うけど、自慢の兄弟だったよ」


 まあ、その解答は予想していた。

 ナルシストなのが傷だが、彼はこの国では英雄扱いである。

 

「少し年も離れてるしね。色んな面で頼りにしてたよ。勉強も兄に教えてもらっていた」


 その言葉に、スバルはデジャブを感じた。

 同じだったのだ。

 アスプルの持つ兄弟の思い出は、ヒメヅルで暮らしていた自分とカイトの同居生活に似ている。年も大体同じくらい離れている為か、妙に親身になって話を聞けた。


「まあ、比べられることは結構あったよ。英雄の弟なのに、お前は無能だな、とか」

「誰がそんな」

「勿論、父だよ」


 意外にあっさりと彼は口にする。

 その表情には、特に恨みや憎しみといった感情は見られなかった。

 ただ、どこか諦めが入っていたように見える。


「そこは仕方がないんだ。兄は新人類としてかなり優れた部類だったし、実際優秀だった。でも私は、なんの取柄もない旧人類だった。父の扱いがあんなに変わるのも納得だ」

「え?」


 スバル達は同時に思った。

 こいつ、旧人類だったのか、と。

 てっきりアーガスが新人類だったから、その弟である彼も新人類なのかと思っていたが、違うのか。


「あ、その表情はもしかすると、皆さんも私を新人類だと思ってました?」

「いや、その……」

「失礼ながら……」

「思ってました……」


 土下座をするように深く頭を下げ、謝る3人。

 

「構いませんよ。慣れていますから」


 しかしアスプルはやはり苦笑しただけで、特に気に障った様子はない。

 もっとも、機械的に無表情になるアスプルだ。その苦笑もフェイクなのかもしれない。


「でも、そんなに驚くことではないでしょう。君だって旧人類じゃないか」

「え、俺?」


 思わぬ言葉を前にして、反射的に自身の顔を指差してしまう。

 確かにスバルは旧人類だ。超人に挟まれ、若干浮いているといってもいい。


「なぜ君たちがあんなに歓迎されたと思う?」

「あー、そういうことね」


 シデンが納得したように手を『ぽん』と叩く。

 彼はスバルに視線を送り、解答を呟いた。


「旧人類であるスバル君が、新人類を。しかも凄く強いのと戦って、勝ったからだ」

「ええ。ネットで情報を仕入れた後は大騒ぎでしたよ」


 今まであまり意識したことはないが、スバルが戦ってきた相手はどれも強敵ぞろいである。

 シンジュクでは『鎧持ち』ゲイザーに、第二期XXXのカノンとアウラ。アキハバラでは国内五指に入る能力者と評されたサイキネルともやりあっている。

 カイトの手助けが大きかったとはいえ、能力をお構いなしに使ってくる彼らに立ち向かい、結果的に勝利したのは旧人類側としては確かな追い風となったのだ。自然と旧人類の人々は『自分も戦えるんだ』と意識し始めてくる。


「反乱軍も、その殆どがスバル君のファンでしたからね」

「よかったじゃねぇか」

「……ちょっと複雑」


 しかし、そんな事実もゴルドーの話を聞いた後だと自慢できない。

 反乱軍は結果的に、この国に滞在する新人類によって殲滅されている。自分が彼らに対してなにかできたわけでもない。寧ろ、中途半端に活躍してしまったせいで変な希望を持たせてしまった気がした。

 それに、スバルが自分の力だけで撃退したのはシンジュクで遭遇した量産機、鳩胸だけである。要は雑魚だ。

 結果だけ見れば勝利ではあるが、SYSTEM Xという同調装置を使っている以上、彼らに勝ったのはカイトといえるのではないだろうか。

 そう思うと、心苦しくなってしまう。


「あまり謙遜しないでくれ。例え君がどう思っていたとしても、君がやったことで一部の旧人類が希望を持った」


 アスプルが笑う。

 その笑みは、今日始めて会った時の業務的な物ではない。

 思わずこちらも笑い返してしまいそうになるくらい、彼の笑顔は清々しいものだった。


「もちろん、私も」

「アスプル君も?」


 僅かに頷くと、アスプルは国の象徴、大樹を見やる。


「私は、私のやり方でこの国を守るつもりだよ。兄にはできない方法で」


 だから、


「君も自分の戦いをしてくれ。そして結果がどうあれ、恥じないで欲しい。少なくとも、今は君のお陰でこの国は夢を見ていられるんだ」


 もちろん、私もね。

 アスプルは笑顔のまま、そう呟いた。








 アスプルと別れた後、3人は当初の予定通り『マリリス』と呼ばれる少女が勤めていたパン屋の前に待機する。

 時刻は既に夕暮れだった。そろそろ宿を探すか、獄翼に戻って話を纏めたいところではあったのだが、


「……ダメだ。やっぱ出ない」

「俺もだ」


 両手を挙げてわざとらしく『お手上げ』のポーズをとり、エイジとシデンがお互いの携帯電話を仕舞う。


「なにしてるんだ、あの人」


 スバルがひとり、愚痴った。

 彼らが店前で待っているのは、ゴルドー邸に入る前に別行動をとったカイトに他ならない。

 他ならないのだが、その彼が待っても店前にやってこないのだ。

 それどころか、携帯電話に連絡しても出ない。

 完全に連絡が取れない状態になってしまったのだ。


「スバル君、携帯は?」

「GPSで逆探知されるとかいわれたから、ぶっ壊された」


 当時のことを思い出し、ちょっと不貞腐れた。

 その様子を見て、ふたりの超人も思わず苦笑する。ある程度察してくれたらしい。


「しかし、そこまで徹底してる奴が連絡のひとつも寄越さないとなると……いよいよもってやばいか?」


 エイジが漏らした言葉に、ふたりも真顔で頷く。

 思えば、あの男が別行動を取るたびにトラブルが起こっている気がする。

 その事実をスバルが思い出すと、彼は顔中汗まみれになった。


「……今更だけどさ。隻腕で日本人って凄い目立つよね」

「まあ、人種が違う上に腕がなけりゃあな」

「もしかして、捕まった?」


 シデンが全員の心情を代弁する。

 だが、いかに目立つ容姿をしているとはいえ、彼が簡単に捕まるとは考えにくいのも事実だ。

 いかんせん、殺しても死にそうにない男である。

 ソレに加え、片腕だけでも極上の凶器は健在だ。

 そんな彼が僅か数時間の別行動で、なんの音沙汰もなく連絡を断った。

 

「……単純なトラブルじゃなさそうだぜ」

「携帯を落としただけっていうのは?」

「だとしたら、ここにいてもおかしくないだろ」


 兎にも角にも、かなりの時間が経った上に連絡も通じない仲間が、約束の場所に訪れていないのは事実である。

 自然と彼等は顔を見合わせ、周囲を警戒し始めた。


「気をつけろ、歓迎しててもここは敵地だ」

「スバル君。ボクらから離れないで」

「おう」


 お互いの視界をカバーし合い、周囲をまんべんなく見やる。

 だが、スバルはここにきて改めて思う疑問があった。


「ねえ。やっぱりこの国、静か過ぎじゃない?」


 その質問の意図を汲み取ったのだろう。

 シデンは今日一日の出来事を思い返し、頷く。


「確かにね。街はともかく、ゴルドーさんの家の周りにバトルロイドがいないのは不自然だ」


 国民の歓迎の嵐と、ダートシルヴィー家の賑やかなミュージカルに誤魔化されて気付けなかったが、仮にもゴルドーは国の最高権力者である。

 ソレに加え、反乱軍なんて物騒な軍団がいたのだ。警戒して、監視している様子がないというのは不自然だと思う。


「ということは、騙されたのか?」


 エイジがいう。

 新人類王国とダートシルヴィー家はグルで、のこのことやってきてしまったカイト達を捕まえる為に自宅に案内したのではないか。

 それがエイジの考えである。


「……俺はアスプル君を信じるよ」


 その意見に反論したのはスバルだ。

 

「それに、仮にグルだったとしたら、あの家で俺達は襲われてたと思う」

「ああ、そりゃそうか」


 再び悩むエイジ。

 だが、そうこうしている間に時間は無情にも過ぎ去っていく。

 夕日が姿を隠そうとする時間になっても、カイトはまだ現れなかった。

 彼らの考えもまとまらず、立ち往生してしまう。


「返信は?」

「来ない。メッセージも既読にならないし……」


 姿だけではなく、連絡もないままだ。

 暗くなるにつれ、賑わっていた商店街から人の姿が消えていく。ひとり、またひとりと帰路に向かう人の姿が、妙に目についてしまう。

 

 と、そんな時だ。


「あれ?」


 不意に、女の声が彼らの耳に留まる。

 視線を向けると、ぽかんとした表情で今朝の大騒ぎを起こした張本人が立っていた。マリリスである。


「皆さん、店の前でなにをしているんですか?」


 不思議そうな顔をして近づいてくるマリリス。

 どうやら出店の後片付けをしているらしい。両手で担がれたバケツと、その中に沈んでいる汚い雑巾が彼女の作業の証拠を残していた。


「友達と待ち合わせしてるんだ。腕がない方なんだけど、見なかった?」

「いえ。皆さんを送った後は見てませんけど」


 スバルが尋ねるも、期待した返事は返ってこない。

 

「既に宿を取られているのでは?」

「ひとりでか?」

「ボク達、今日初めてこの国に来たんだけど」

「ううん、それをいわれると……」


 困った表情になると、マリリスはこの国のホテル事情を話してくれた。

 トラセットは観光地としても有名である。その為、ホテルがあること自体は珍しくないのだが、基本的に満室であり、宿泊する場合は予約が必須なのだそうだ。


「なので、事前に連絡を取っていないとなると、ホテルではないと思います」

「街から出た可能性は?」

「ないとはいいきれませんけど……そうなると、捜索依頼を出した方がいいのでは?」


 至極まっとうな台詞である。

 彼らはこの国に来て日が浅い。地理もわからないし、行方不明になっているカイトのように、匂いを辿って相手の場所を探り出すような真似が出来るわけでもない。


 しかし、国のお偉い方に不信感を募らせている今、あんまりそっちの方面は宛てにしたくないというのが本音だ。

 スバルが聞くと憤慨するかもしれないが、エイジとシデンはそう思っている。


「マリリスちゃん……で、いいんだよね?」

「はい。私、マリリス・キュロと申します」


 ダートシルヴィー家で彼女の名前は聞いている。

 アスプルを除けば、彼女がこの国で一番交流のある人物だった。ゆえに、地理がわからない以上は彼女に頼るほかない。

 そこまで考えると、シデンはどこか諦めた表情でマリリスに提案する。


「ボクたち、宿をとってないんだけど、今日泊めてもらえないかな? 友達は明日、アスプルに相談してみるよ」

「え!?」


 その提案に目を丸くしたのはスバルである。

 ホテルが無理だと聞いた彼は、てっきり獄翼まで戻って寝泊りするものかと思っていたのだ。カイトの件を明日まで引き延ばすのも納得がいかない。こうしている間にも、彼の身になにか起きているかもしれないのだ。

 思わぬ提案を聞いたスバルは、シデンに問い詰めようとするが、


「後で説明する。今は俺達に任せろ」


 隣に立つエイジに抑えられ、耳打ちされた。

 しかしそれでも、スバルは納得がいかない。

 

「任せろっていわれても、いきなり反逆者を泊めてくれるところなんかあるわけないだろ」

「構いませんよ!」

「いいのかよ!」


 思わぬ即答。

 眩しすぎる笑顔でいわれた歓迎の言葉に、スバルは思わずツッコミを入れてしまった。


「大丈夫ですよ。家は広すぎるくらいです。皆さんを泊めるくらいわけありません」

「でも、君以外の家族の人もいるんじゃないの?」

「ゾーラおばさんなら、寧ろ『困ったらお互い様だよ』とかいって、遠慮なくスープを出してくれますよ」

「あ、そう……」


 これまた思わぬ待遇である。

 年頃の娘のいる家に、反逆者の野郎が3人。

 日本なら芸能人でもない限り、即座にお断りを受けそうなものだが、これも文化の違いだろうか。


「それじゃあ、付いて来てください」

 

 マリリスが振り返る。

 すぐ目の前にある木製の扉に手をかけると、反逆者はその後に続いて行った。

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