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第49話 vs六道シデン

「カノン、あれから何分経った!?」

『そろそろ15分です』


 コックピットを振動が襲う。

 今日幾度目かの揺れを懸命に耐えながらも、スバルは天動神から放たれる無数の光線をやり過ごしていた。

 ただ、その有様はカイトを見送った時と比べて明らかにひどい。

 獄翼自体はそこまでダメージはないが(というか、直撃を受けたら多分一撃で沈む)、スバル本人にかかる負担が激しいのだ。

 全身汗まみれで、息も絶え絶えである。今にも熱中症で倒れてしまうのではないかと思えるほど、彼は真っ赤だった。

 そんなスバルがここまで戦えているのは、一重に会話相手の存在が大きい。


「戻ってくるとして、どんくらいかかると思う!?」

『リーダーがもたもたしなければ、もうすぐ帰ってくるかと』

「じゃあ、もたついてたら!?」

『え、えーっと……恐らく、1時間』

「野球中継より短かいなら、まだマシだ!」


 15分間。通信に出てからそろそろ20分くらいは経つが、その間声でフォローしてくれているカノンには感謝しなければならないだろう。

 多分、1人でずっとやりあっていたら今頃病気になっていると思う。ゲームしかやってこなかった少年が、1週間程度のサバイバルで無尽蔵のスタミナなんぞ手に入れれる訳がないのだ。


『なんとか攻撃ができればいいのですが』

「あの弾幕じゃあ、突っ込めねぇよ!」


 スバルの神経を削っている要因のひとつが、これである。

 天動神に空いている穴という穴から無数に飛び出してくる閃光が、接近戦しか取柄の無い獄翼を牽制しているのだ。

 とはいえ、ダークストーカーから入手した刀があるだけまだマシな方だ。

 今、獄翼が持つ武装で唯一バリアを破れるのはこの刀だけ。後はカイトが乗ってくれないと、バリアを展開する相手はどうしようもない。

 『ブレイカーズ・オンライン』において、スバルはこういう敵への対処法を幾つか所持している。だが、それはいずれも無敵時間と硬直時間に物を言わせた、ゴリ押しである。

 天動神は光線を放った後、続けて別の光線が発射される無数の固定砲台だった。

 その中に刀を持って突っ込めと言うのは、少々分が悪い。それこそ、弾幕の雨嵐を掻い潜れるであろうカイトの足が欲しい所だ。


『ふぅーっはっはっは! さっきまでの威勢はどうした、下等人類!』


 一方のサイキネルはご機嫌だった。

 カイトを逃し、必殺のサイキックバズーカをスバルにやり過ごされた時は地団太を踏みまくっていたものだが、獄翼が近づけずに困っているのを見ると、この喜びようである。

 ご機嫌すぎてセリフが完全に悪役だった。


「ちょっとは街の迷惑考えろ、ビーム脳!」

『何を言う。復興するからこそ建設会社は儲かるのだ。言わばこれは、破壊と再生による文化の発達。それの支援!』


 わかってはいたが、言ってることが滅茶苦茶である。

 天動神から放たれた破壊の閃光は無差別に降り注ぎ、アキハバラの街は甚大な被害を被っていた。

 その殆どは赤く染まった空に霧散していったのだが、幾つかのビームは光の雨となって街に襲い掛かったのだ。


 勿論、スバルとしてはそれを黙って見ているのは面白くない。

 面白くないのだが、しかし。どうしようもない現実があった。

 天から降り注いでくる光の矢と、天動神から直接放たれる閃光の嵐を同時に避けるだけで精一杯なのである。

 唯一の防御手段である電磁シールドが破壊されたのも大きい。刀一本でこれを全て捌けと言うのは、無茶という物だろう。


 せめて、隙が欲しい。

 天動神の視線を逸らすだけではダメだ。身体全体を、一瞬でいいから押さえつけれる何かが欲しい。


「カノン、ダークストーカーに乗ってここまで応援に来れる?」

『し、師匠が望むなら24時間で到着します!』

「ごめん、現実見なかった俺がダメだったね」


 無茶振りにも対応しようとする弟子の健気さに泣けてくる。

 しかし、割と真剣にダークストーカーレベルの応援が欲しい。せめて敵の狙いを別方向に定める事ができれば、まだ戦いようがあるのだが。


 と、無い物ねだりを始めたそんな時であった。


「ちょっと待ったああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 天をつんざくような大声が、アキハバラの赤い空に待ったをかける。

 

『何奴!?』


 視線を向けるサイキネル。

 同時にスバルも、声のする方向にカメラアイを向ける。

 御柳エイジだった。彼は何時の間にやら、天動神の真横に位置するビルの屋上に佇んでいた。そこはあまりの至近距離で天動神の砲撃の影響を受けていない場所でもある。


「エイジさん!」

『エイジさん!? エイジさんがいるんですか師匠!』


 やや興奮気味で食いつくカノン。

 そういえば、こいつはエイジとシデンのふたりがこの街にいるのを知らないんだった。友好関係的にはカイトにべったりのイメージだったが、意外なことに思い出すくらいの関係は構築していたらしい。


「やいやい、鳥頭! この街の平和を乱す奴は、俺が許さんぜ!」


 回収したスコップを背中に担ぎ、天動神を指出す。

 

『なんだと! 貴様、偉そうに!』


 紙袋は紛失し、シャオラン戦を経た結果、タイツは所々破けている。

 傍から見れば完全に不審者なのだが、この状況下では誰もその事について触れてくれなかった。ゆえに、エイジは己の恰好を一切気にせず、行動する。


「テメェこそデカイ図体して、やることがせこいぜ。男なら、自分の力で勝負してみな!」


 言い終えると同時、エイジはダッシュ。

 そのまま勢いよく屋上から跳躍し、天動神に頭めがけてスコップを叩きつける。

 直後、天動神が崩れ落ちた。

 文字通り、脳天を叩かれて地面に伏したのである。


「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

『師匠、どうしたんですか!? 何が起こってるんですか師匠! 解説プリーズ!』


 あまりの光景に、スバルが仰天する。状況を掴めないカノンに至っては、混乱していた。

 なんで生身で、しかもスコップを脳天に叩きつけただけで天動神のような巨大ロボットの頭をへこませれるというのだ。


「スバル君、こっちこっち!」


 混乱するスバルの元に、再び聞き覚えのある声が届く。

 見れば、獄翼のほぼ真下にシデンがいた。


「ボクとエイちゃんがサポートに回るよ! 回収できる?」

「今ならいけるよ! 急いで!」


 ややあってから、獄翼が着地。

 コックピットのハッチを開くと、シデンはやはりカイト同様、跳躍して座席に乗り込んできた。ウィンチロープが完全にスバル専用になったことを証明した瞬間である。


「これ、後ろに座ればいいの?」

「そう! 後はシデンさんの能力を獄翼にラーニングさせれば、きっと!」


 カイト曰く、シデンはXXXの中でも特に異能の力を磨き上げてきたのだと言う。そんな彼の能力を取り込むことが出来れば、もしかすると活路を開けるかもしれない。

 そして御柳エイジの、あの常識離れしたパワーだ。

 流石に彼まで回収する暇はないし、あの原始的な手段が二度も通用するとは思えないが、それでも他の場所に天動神の視線を移動させてくれるのであれば、かなり状況が優位になる。


『シデンさん! お久しぶりです』

「あれ、もしかしてその声はカノン? 久しぶりぃ、元気してた?」

「なんで女子会みたいな会話してるの!? 敵が起き上がるから、早く後部座席について!」


 スバルが怒鳴る。

 かつてない緊張感の無さだ。後部座席に座る人間が変わるだけでこうも雰囲気が変わるのだろうか。

 と、ここでスバルは気づく。今まで獄翼の後部座席を独占していた同居人の姿が見えない。


「カイトさんは!?」

「チョンマゲと不気味ちゃんを引き取ってくれてる。ボクらは皆で協力してアイツを倒すよ」

『協力ですか! シデンさんとエイジさんと師匠が協力して、サイキネルを倒すんですね!』


 通信越しの機械音声が、やけに興奮気味だった。

 多分今頃、どこかの下水道で鼻息を荒くしてるんだろうなと思う。

 

「エイジさん! シデンさんと合流したよ。タイミングを見計らって回収するから、それまで無茶しない範囲で援護を宜しく!」

「おう、任せとけ!」


 スピーカーから響くスバルの声を聴き、大地に着地したエイジが手を振る。その後ろにいる天動神が起き上がると、彼はその巨大な足を小突いてから走り去っていった。余談だが、その時の一撃で天動神の足にちょっとしたくぼみができた。


「よし、これで!」

「ねえねえ、ボクはどうすればいいの?」


 気を引き締めるスバルを余所に、シデンは完全に自由モードになっていた。なんというか、落ち着きがない。

 今も身を乗り出し、スバルの横から正面モニターを見ている状態だ。ちょっといい匂いがするが、邪魔である。


「とりあえず、座ってて。後、モニターなら後ろにもタッチパネルがあるでしょ」

「あ、本当だ」


 素早く身をひっこめると、シデンは言われた物を発見する。

 余談だが六道シデン、俗にいうタッチ式の画面の経験が浅い。彼が持つ携帯は今でもガラケーだし、新人類王国にいた頃はタッチパネルが普及するよりも前の話だ。精々携帯ゲーム機で触ったことがある程度である。

 さて、そんな彼だが決して目新しい物への興味が薄い訳ではない。

 寧ろお洒落の最先端を常に雑誌で確認するくらいには、流行には敏感だ。ただ、それを揃える為には金がない。今持っている携帯だって、可能であればタブレットにしたいくらいだ。

 そんな彼の目の前に、いかにもハイテクな代物が。

 試しに触れてみる。ロックが解除され、モニターとカメラアイの視線が連動した。小さく、薄い液晶画面に敵の姿と変わり果てたアキハバラの惨状が映し出される。


「うわぁ……!」


 凄い。これは本当に凄い。

 文化に取り残された男女、六道シデンは現代発明品の素晴らしさに感激した。きっと次世代ゲーム機なんかはもっと凄いんだろうな、と勝手に思いながらも彼はタッチパネルに指をあてる。


 そんな時である。

 彼の目に、あるアプリが入り込んできた。


「ねえ、スバル君。タッチパネルにあるこれは何?」

「後部座席のはカイトさんが弄ってたから、俺も詳しくはわからないよ。実物を見ればわかると思うけど」

「ふぅん」


 シデンは思う。

 あのカイトがショートカットを作ったと言うのか。それだけこのアプリを彼は好んでいるのだろう。

 ちょっと気になる。いや、ちょっとどころではない。かなり気になる。

 溢れ出る好奇心に逆らえず、シデンは躊躇なくアプリを起動させた。すると同時に、獄翼のコックピット内に無機質な音声が響く。


『SYSTEM X起動』

「え?」


 スバルが間抜けな声を出すと同時に、それは起こった。

 ふたりの真上から無数のコードに繋がれた、ボウルのようなヘルメットが降ってきたのである。


「きゃ!」


 突然の出来事に、シデンが黄色い悲鳴をあげる。

 きゃ、か。うわぁ、とかじゃなくてそっちなのかとスバルは思う。


「というか、何してるのシデンさん!」

「だって、目の前にアプリがあったら起動するでしょう?」

「状況をもうちょっと考えてよ! いや、まあどっちにしろこのシステム起動させるつもりだったんだけどさ!」

「ならいいじゃ――――」


 言い終えるよりも前に、シデンの身体が崩れ落ちる。

 それを見たスバルは決して慌てない。このシステムを起動させた後、後部座席の新人類がどうなるのかを彼は知っていた。


『あれ?』


 獄翼から、少々幼さを残す声が響く。

 シデンが獄翼に取り込まれ、覚醒した瞬間だった。関節部が青白く光り、両足に銃が生え始める。


『え、何? 何これ!?』


 突然のことに慌てるシデン。

 そんな彼を諭すように、スバルは説明を開始した。


「新型の同調機能だよ。知らない?」

『知ってるけど、ボクが知ってるブレイカーにはこんなの搭載してなかったよ』


 そりゃあそうだ。彼と同時期に抜けたカイトですら知らなかったのである。


「簡単に説明すると、これを起動させてる間の5分間。この獄翼は後部座席に座っている新人類の意識を取り込んで、思うままに動かせるんだ。所持してる武装や、能力もひっさげてね」

『に、しては足がちょっと部細工なんだけど』

「直前まで乗ってた人がダメージを与えちゃったからさ」


 シデンの武装は、ガーターベルトにくっつけられた6つの銃口と、その引き金となる銃だ。だが不幸な事に、もっとも火力が出るであろう足が、カイトのせいでダメージが残っている状態なのである。


『要するに』


 簡単なスバルの説明を受けたシデンが、思考を纏める。


『5分の間で、なるだけ足を動かさずにあの鳥頭を倒せばいいんでしょ?』

「できる?」

『誰に言ってるのさ』


 獄翼が刀を鞘に仕舞い、銃を抜く。

 SYSTEM Xによって生成された、彼愛用の銃である。


『見せてあげる。ただの固定砲台でも、特化すればミサイル100発にも負けないってね!』


 直後、スバルの身体が引っ張られる。

 急速に制限時間が減り始めたのを確認したスバルは慌てながらも、補足状況を見る。

 天動神に無数の点が灯っていた。1つや2つではない。それこそ夜空に輝く星々のように、一目見ただけでは数えきれない量の光である。銃を構え、目標を補足してこの状況。


 これは指が壊れる。


 口元が引きつり、汗が流れるのを感じながらも。

 スバルの指は、無慈悲にもシデンによって嘗てない乱射を要求された。

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