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第34話 vs神鷹カイト ~やっぱりあの人が原因なんじゃん編~

「結局のところ、大体あの人が悪いんじゃん」


 それが9年前の出来事を聞いたスバルの感想だった。エイジとシデンの話を要約すると、カイトがエイジの顔を引っ掻き、それ以来気まずい関係が続いているという事だ。どう考えても手を出してきた上に、謝る気配が無いカイトが悪い気がする。

 というか、シルヴェリア姉妹の一件もそうだがあの男はリーダーの癖に厄介事を抱え過ぎではないだろうか。4年間の同居生活で借金のように膨れ上がった貸しをここで一気に返済しろとでも言わんばかりに、彼が撒き散らしていたトラブルを回収している気がする。


 しかし意外な事に、スバルの一言を聞いて苦笑いを浮かべたのは被害者であるエイジ自身だった。


「まあ、そう言ってやんな。あいつも辛いんだ」

「なんでよ」


 この店の中に入ってまだ30分程度しか時間が経っていないが、スバルはすっかり溶け込んでいた。彼がXXXの事情をある程度知っているのもあるが、それ以上にエイジとシデンがスバルを歓迎しているのが大きかった。まるで友達の友達は友達だ、とでも言わんばかりにオープンだったのである。普通ならこんなプライベート全開な話を食卓ですることはないだろう。スバルはまだ気付いていないが、彼らに対して壁を感じることはなくなっていた。


「大体、あんたらがもっと怒らないから、あの人だって何時までもそのままなんじゃないの?」

「オメェ、結構遠慮が無いな」

「人でなし相手に遠慮なんかしてたら、ロボットだってぶっ壊されちまうよ」


 どこか悟った目で天井を見上げるスバル。なにがあったんだろう、と思いながらもシデンが口を開く。


「でも、ボクたちもそんなに強く言えない現実があるんだよね」

「あの人がリーダーだからか? ならそんな上司、殴っちまえ!」

「過激だね、君」


 1週間前の戦いとサバイバルはスバルを成長させていた。それがいい方向か悪い方向かは置いておいて、確実に逞しくなっている。物理攻撃で敵わないなら、せめて口だけでも反撃しておかなければ。あの同居人は己の行いを反省しない。思えば、シンジュクの買い物だってそうだ。本人は満ち足りた表情をしていたが、4年間スバルの家で働いて得た収入を僅か1日で殆ど使い切ってしまうとは頭が悪いとしか言いようがない。自分の家の金が、数秒の内に時計に早変わりしていれば憤慨もする。

 

「結構真面目な話をすると、ボクらは全員彼に命を助けられてるんだよね。多分、彼は意識してないけど」

「命を助けて貰ったら、何をされても構わないのか?」

「そうは言わないけど、あの時は彼を責める事なんて考えられなかった。彼はそれまでの間、ボクたちの為に身を削ってくれていたからね」


 XXXは別に史上最強の格闘技集団というわけではない。ただ単純に身体能力と、新人類としての力を規格外なレベルまで引き延ばすことを目的とした集団だった。その為、育成の過程で過度な調整が入った。その度に実験台を買って出たのは、何を隠そうカイトだったのである。


「身を削ったって言っても、何をしたんだよ」

「具体的に言うと、大量の薬物接種に始まって、拷問を耐えたり、迫ってくる戦車をひっくり返したりとかそんな感じ。後、目の前で銃弾をぶっ放されて、それを避けるっていうのもあった」


 メイド服に身を包んだ可愛らしい表情から、次々と物騒な単語が飛び出してきた。特に最後はなんだ。そんなことしたら死ぬだろ普通。彼らの監督をしていたエリーゼは何を考えているのだ。


「あ」


 だがそこで気付いた。彼は死なないのだ。自殺を図っても死ねなかった程度には、彼の能力は便利な力だったと言える。


「察した通り、彼は研究者の知的欲求に答え続けてきたんだよ」


 ただ、それは決して他のメンバーを守る為ではない。他の仲間たちがやるくらいなら自分がやった方が生き残る可能性が高いという、義務感から来た結果だった。


「理由はどうあれ、ボクたちはソレに救われたんだ。文字通り、死なずに済んだ。そしてボクらが死ぬ分だったダメージを、彼は受けた」

「ボロボロになったアイツを見て、俺はいつも思ったよ。コイツの為になんかできねぇか、ってな」


 エイジが腕を組み、溜息をついた。戦いの場で彼をフォローするだけではなく、彼が辛い事はなるべく軽減してやりたい。気付けば彼の力は恐ろしい勢いで伸びていた。隣には立てるが、自分が彼の為にできることは笑いかけることくらいしか思い浮かばない。ならばそれでいこうと決意し、実行に移した。

 

「だが、逆効果だった」


 少なくとも、訓練でカイトが爪を使ってエイジを切り裂いた時、普段通りに接したのはまずかった。カイトはチームメイトたちと距離を置き、四六時中エリーゼの傍にいるようになったのだという。


「それっきりだ。それからアイツは第二期の連中とエリーゼに付きっきりになっちまった。顔を合わせたり、同じ任務で出た時は目線を合わしちゃくれない。久々の再会で少しは許してくれたかと思いきや、甘かったわ」

「全然笑い話にならないよ、それ」


 苦笑するエイジを余所に、スバルは真剣に切り出した。彼は困り果てた表情をしながらも、呟く。


「アンタらもそのままじゃ嫌なんだろ。仲直りしたいなら無理やりでもやらなきゃ、あの人は聞かないぜ」


 なんといっても頑固なのだ。シルヴェリア姉妹との戦いでも、激しく口論するくらいには。


「つっても、アイツ聞いてくれるかな」

「聞かせるんだよ。縄で縛ってもいいし、直接顔を合わせないで手紙でもいい」


 だが、


「それでも、最低限の誠意は相手に見せるべきだ」

「せーい?」

「誠意。君と本当に仲良くやっていきたいんだ。水に流そうぜっていう、誠意」


 首を傾げるエイジと、携帯電話を取り出してなにやら検索をかけ始めるシデン。まさかこいつら、単語の意味を知らないのだろうか。同居人と同じく、どこか偏っているふたりを前にしてスバルは思わず頭を抱えた。最近、こんなのばっかりだった。






 新人類王国が誇る喋る黒猫、ミスター・コメット。その正体は40代のおっさんで、趣味はパチンコらしいのだが誰もその正体を見たことはないという。彼は王国七不思議のひとつであると同時に、国の戦士たちの移動をその身で行う空間転移術の使い手でもあった。


 そんな彼は今、今回の乗客のひとりであるサイキネルの指示でアキハバラに出向いていた。街中を彩るアニメキャラクターのポスターが目に痛い。


「ここに件のXXXと少年がいるわけか。中々に個性的な街ですね、ミスター・コメット」


 黒猫の隣で、カジュアルな服装に身を包んだサイキネルが爽やかな笑みを浮かべる。


「サイキネル、俺はお前の力を信用していないわけじゃないが、本当にこの街にアイツらがいるのか?」


 コメットが思った疑問をぶちまけた。彼の力は『サイキックパワー』と呼ばれる、己の意思の力で物質を突き動かす超常現象である。俗にいう念力というものなのだろうが、サイキネルはそれを正面から否定するのだ。曰く、サイキックパワーは念力に加えて他人の意思の流れすらも把握することができるらしい。この力を使えば相手が何を考えているか、もしくは相手の精神に直接干渉することも可能なのだという。今回、彼がカイトとスバルを見つけたのもこの力の賜物だった。


「もちろんですよ、ミスター。私のサイキックパワーは瞬時にアルマガニウムの力を察知して、その力の流れを頼りに人間の意思を読み取れる。XXXの考えなど、お見通しなのですよ」

「そうかい。じゃあ早くやってくれ」


 小難しい話はコメットには理解できない。精々『超凄いサイコキネシス』くらいの認識だったが、サイキネルは特に気にとどめた様子も無く答えた。


「では、手筈通りいきましょうか。既に他のふたりもスタンばってくれていますし」


 サイキネルが両手の人差し指を己の頭に突き付ける。まるで両手の銃を自分の頭に向けているかのような光景だ。両手から送られてくるサイキックパワーはサイキネルの脳を経由し、波紋のようにアキハバラ中に広がっていった。


「私からの挑戦状です。逃げられるとは思いませんよね」


 サイキネルが笑みを浮かべたと同時、アルマガニウムの影響を強く受けた人間たちは次々とサイキネルのサイキックパワーを感知し始めた。


 

 エレノア・ガーリッシュが、


 御柳エイジが、


 六道シデンが、


 神鷹カイトが一斉にサイキネルに捕捉される。彼らはどこからか飛んできた寒気に気付くと同時、サイキックパワーを通じて送られてくるサイキネルの言葉に反応した。


「見てますよ」


 サイキネルの視界に、既に4人の姿は見えている。サイキックパワーが彼らに触れた瞬間、念動力はカメラの役割を果たしていたのだ。もっとも、空気中に伝わるサイキックパワーを彼らが視認することは無いのだが。


 カイトが険しい顔できょろきょろとしている。エイジも、シデンにしたってそうだった。唯一、エレノアだけが涼しい表情で立ち読みをしているが、彼女はいいだろう。少なくとも今は用事が無い。目的の人物はカイトと、旧人類の少年だ。なぜスバルがカイトから離れ、新人類のふたりと行動を共にしているかは知らないが、共に行動をしていないのであれば先に倒しに行くだけだ。


「旧人類の少年が別の場所にいますね。急いで回収したほうがいいですよ。辛い鬼ごっこになると思いますから」


 カイトを挑発するように言うと、サイキネルは頭から手を放す。ソレと同時に、『鬼ごっこ』は始まった。カイトが走り出すのをパワーのカメラで確認した後、サイキネルはコメットにいう。


「XXXと旧人類の少年は、あっちにいますね」


 サイキネルが静かに指を指す。その方向はアキハバラの裏通りになっており、殆ど人が通わなさそうなところだった。


「イゾウとシャオランも、いいですね」


 空気中に満ち溢れる念力を通じて、サイキネルが呟く。すると、同じく空気から声が反射されてきた。


『了解』

『……確認するが、好きにして構わんのだな』


 機械的で簡単な返事の後に確認を求める声が響く。この会話はサイキネルたち4人しか聞こえない。その内、実際に戦闘を担当する3人は新人類王国でも1,2を争う程の『戦いたくない相手』として有名だった。


 その中のひとり、月村イゾウが続けて話す。


『某は貴様らと連携を組める自信はないゆえ、単独で切り捨てる許可が欲しい』

「いいですよ。許します」


 サイキネルはこの中の誰よりも階級が高い兵士だった。同時に、誰よりも若い。サイキックパワーの強大さだけでここまで上り詰めた、正真正銘の異能者である。そんな彼は、部下を持っていなかった。普通なら階級が上がるにつれて部下ができるものなのだが、いかんせんサイキネルは若すぎる。彼自身、その自覚もあった。それゆえに、サイキネルはこういう場で各々の意見を尊重する。


「シャオランさん。あなたも好きにしてくださって構いませんよ」

『了解です。お心遣い、感謝します』


 どこか無機質な印象を受ける女の声が響くと同時、イゾウが駆ける。ソレに続き、シャオランも走り出した。ふたりはサイキネルが示した場所に向かい、まっすぐ走っていく。


「さて、私たちも参りましょうか」


 サイキネルの足が宙を浮く。それに釣られるようにして、コメットの小さな体も空中へと浮かびはじめた。周りの観光客やオタクたちがそれを見てざわつく中、サイキネルは空中を走り出す。


「やはり空中走法はわくわくしますね、ミスター・コメット。こういうの、時をかける少女みたいじゃないですか?」

「知らないよ、なんだそれ」

「娯楽を知らないと損をしますよ。こんな感じです」


 サイキネルが近くにあるビルにプリントされているアニメキャラクターに視線を送り、それに手を伸ばした。すると一瞬の内にキャラクターのデザインはぐにゃり、と曲り、新しい絵としてデザインが完成される。まるで今まで立てかけられていた絵が穴に吸い込まれて、その穴から新しい絵が飛び出してきたかのようだった。ビルにはサイキネルが例えで出したアニメ作品の有名な1シーンが映し出される。先程までそこにいた筈のアニメキャラクターは、どこにもいなかった。


「ああ、それか。絵しかみたことないが、確かに空中を走るってこんな感じだな」

「そうでしょう!」

「でも、元に戻しておけよ」


 ちょっぴりしかられた後、サイキネルは少し残念そうな顔をしてから、再び手を伸ばした。空中を走っていると言うよりも、跳躍しているような少女の絵が再び書き換えられる。



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