表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
360/366

第342話 vsバトル

『ルールはランダムステージ、2ラウンド先取です』


 シャオランが簡潔に説明する。

 今回の相手は筐体の向こうではない。

 言ってしまえばこの筐体そのものが敵だと言っても過言ではなかった。

 だが、スバルはその条件を飲んだ。


「いいよ。さっさとやろう」

「だから待ちなさいって!」


 既にCGのビル街にエクシィズとダーインスレイヴは降り立っている。

 開始の合図が出た瞬間に戦いが始まり、もしスバルが負けたらスバルは食われてしまう。

 スバルにとって一方的に不利な条件なのは変わりない。


「あんた頭おかしくなったの!? 相手の情報もなく、まだ猶予もあるのに!」


 アキナが吼えるが、スバルは顔色ひとつ変える気配がない。

 後ろでシデンとアウラも非難の眼差しを送るが、次第に諦めの表情に変わっていった。


「本気なんだね?」

「うん。俺にはこれ以上の装備は思いつかないし、一番悔いが残らない組み合わせだと思う」


 長い間、この少年の旅を見守ってきたシデンとアウラは今のエクシィズを見ると懐かしい気持ちに包まれる。

 強敵と戦うたびにどんどん減っていったが、今のエクシィズの装備は獄翼と同じものだ。


「ここから始まったんだ」


 ビル街を見て、スバルは呟く。

 以前、ブレイカーズ・オンラインの製作者インタビューを雑誌で読んだことがある。

 バトルフィールドは現実の世界がモデルとなっており、ビル街は日本のシンジュクを参考にしたのだそうだ。

 すべてのフィールドの中から時間が経つごとに不規則に変化していくランダムステージにおいて、最初にここを引けたのはある種の運命なのかもしれない。


「さあ、楽しもうぜ!」

『楽しむ?』

「その為に俺を呼んだんだろ!?」

『……そうですね。その通りです』


 肯定すると、ふたりの間にバトル開始の文字が大きく表示された。

 

「ああ、もう!」

「始まったね……」

「私、みんなに伝えてきます!」


 憤るアキナ。

 見守るシデン。

 走り出すアウラ。

 三者三様のリアクションを見せると同時、2機のブレイカーはビル街を目まぐるしく飛び回り始める。

 バトルフィールド、ビル街。

 無数に聳え立つ高層ビルが目立つ空間だ。

 ビルの高さはブレイカーが完全に隠れられるサイズであり、その天井はフィールドの高さ最大に設定されている。

 ゆえに、この戦場においてビルを飛び越える選択肢はない。

 勿論、ビルを破壊することはできる。

 邪魔な障害物を排除することで相手を見つけやすくし、移動しやすくするのもこのフィールドでとれる戦略だ。

 だが、ことミラージュタイプの場合は極力それを避ける。

 機動性が売りのエクシィズはビルを利用して一気に近づき、同時に盾にすることもできるからだ。

 ダーインスレイヴとの距離はまだある。

 ビル街を突破し、お互いが交差した時こそが本当のバトルスタートだ。

 そう考えながらもエクシィズは加速した。

 空を泳ぎ、金色のエフェクトが飛び散りながら画面を駆け抜けていく。


「う!」


 画面が赤く囲まれた。

 遠くから捕捉されたのだ。


「どうしたの!?」

「狙撃される!」


 ダーインスレイヴは目視できない。

 距離もまだある。

 いかに速度があろうが、ビルを幾つも挟んだ状態で撃ちぬけるとは思えない。


「ビルをいきなり薙ぎ倒す気か!?」


 ダーインスレイヴはゲームスタート地点からまったく動いていない。

 だが、高エネルギー反応は確かにここからきていた。


「くっ!」


 間に合え。

 操縦桿が動き、エクシィズは回避行動をとった。

 正体不明の超火力が眼前のビルを貫通し、エクシィズの真上を通り抜けていく。

 黒の巨人を挟んでいた建築物が爆発し、透明になっては消えていった。

 僅かな爆炎のエフェクトを残し、焼け野原が広がっていく。


「ひっでぇ」


 これが本物の街だったら大被害どころではない。

 ダーインスレイヴから見て正面にある建築物はすべて倒壊してしまった。

 それを実現させた武装は、胸部から出現している銃口である。


「なにあれ!?」

「ミラージュって、あんなところにエネルギーランチャーをつけれるの!?」


 後ろでシデンとアキナが狼狽える。

 彼らの常識から大きく逸脱した武器だった。

 獄翼や紅孔雀、ダークストーカーといったブレイカーを見てきたが、それらはどれも胸にコックピットが位置している。

 

「大口径……!」


 しかも胸から腰にかけて、まるごと銃口が収まっている。

 以前戦ったガデュウデンのそれといい勝負ではないだろうか。


「流石にそんなところに取り付けるの、アンタくらいだ!」


 エクシィズの飛行ユニットが金の光を噴出させた。

 丸見えになった視界の奥に見えるダーインスレイヴ目掛けてまっすぐ飛んでいく。


『邪魔はいらない』


 シャオランの声のトーンが低くなる。

 内に燃え盛る闘志の炎が向かってくる敵を認識し、更に炊きつかせた。


『ぐちゃぐちゃに、ぐちゃぐちゃにしてあげる!』

「2回も言うな、キモイ!」

『ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ!』

「嫌味か!?」


 エクシィズが刀を抜いた。

 柄を握りしめ、刀身が構えられる。

 ダーインスレイヴはそれを見て、突っ込んだ。

 エクシィズと差がない速度だ。

 弾丸のように突進し、右拳を突き出してくる。

 瞬間、スバルはこの腕はベアーアームか、と考えた。

 しかし、リーチは圧倒的にこちらが有利である。

 攻撃発生速度は向こうが上だが、ギリギリの差し込みでは負ける気がしない。

 スバルはそうやって勝利を収めてきたのだ。

 あの神鷹カイトにだって。


「いくら速くたって!」


 ふたつの黒が激突する。

 エクシィズの刀。

 そしてダーインスレイヴの右拳――――から突き出た鉤爪。


「うっ!?」


 僅かに届かないギリギリの距離。

 刀と拳のリーチ差を利用し、その距離を狙ったのが仇になった。

 拳から伸びた爪の分、リーチの差はなくなって相殺されてしまう。


『信じてた』


 シャオランが無機質な声で呟いた。

 心なしか声が弾んでいる気がする。

 口調も、カイトに話していたのと同じような感じになっていた。


『あなたならギリギリで合わせられる筈だって』

「ううっ!?」


 相殺の衝撃で2機が僅かに後ずさる。

 だが、その後の動きが早かったのはダーインスレイヴの方だ。

 空中でくるんと回転し、再び羽を広げる。

 爆走。

 空を突っ切り、エクシィズに向かって爪を撃ちこんだ。


「ああっ!」

「ダメージを受けた!」

「まだだ!」


 胴体が串刺しになっても、あくまでゲームだ。

 現実で受ければ即死でも、この仮想世界では体力ゲージが減るだけでなんとかなる。

 ゆえに、串刺しになったままスバルは特殊コマンドを入力した。

 関節部から青白い光が発光する。


「くらえ!」


 スロットを変更し、エクシィズの上半身から電流が流れた。

 密着するダーインスレイヴが紫電に巻き込まれる。

 相手側の体力ゲージがどんどん減っていった。


『いいね!』


 ところが、シャオランは興奮気味に息を荒くしては更に突進してきた。

 離れる気がない。

 このまま鉤爪で連打するつもりだ。

 背中のフェザー・ブラスターや胸部のエネルギーランチャーも使わずに。


『腸を抉る!』

「趣味悪いな、アンタ!」

『私は大好き! 今の私でも相手の体温を実感できる!』

「コンピュータウィルスがなにを!」

『それでも人間なんだよ!』


 熱くなるスバルとシャオラン。

 言葉通り、エクシィズの腹を爪を刺していくダーインスレイヴ。

 ぐんぐん減っていく両者の体力ゲージ。


「このままじゃ相打ちよ! なんとかしなさい!」


 アキナが耳元で怒鳴った。

 耳鳴りがする。

 大声で追い払いたくなる気持ちを飲み込み、苛立ちを募らせたままスロットを握りまわした。

 エクシィズの胴体がどろりと溶ける。


『うあ!?』


 瞬間的に水人間と化し、ダーインスレイヴをやり過ごした。

 水がすり抜け、背後へと回り込む。


「食らえ!」


 刀をしまい、ナイフで背中を刺し貫いた。

 バランスを崩し、ダーインスレイヴは宙へと放り投げられる。


「逃がさないで!」

「わかってる!」


 後ろからいちいち指示を飛ばすアキナの声に続き、エクシィズは追撃に入る。

 素早く蹴りを打ちこむと、同時に回したスロットの恩恵で出現した尻尾で更にこちらに引き寄せた。

 右掌が発光する。

 装甲の厚いアーマータイプを一撃で蒸発させたデストロイ・フィンガーを叩きつけて、最初のラウンドを先取するつもりでいる。


「よし、いける!」

『まだ――――!』


 ダーインスレイヴの飛行ユニットが展開した。

 アルマガニウムエネルギーによる光の粒子が消え、その代わり双翼の中から砲身が突き出される。


「やばい!」

「よけなさいって!」

「もう遅い!」


 後ろに向けれるのは完全に計算外だったが、テイルマンによる拘束と引き寄せは既に入力済みだ。

 そのままデストロイ・フィンガーを打ち付ける動作まで行ってしまっている。

 だが、相手は射撃だ。

 距離は殆どないとはいえ、接近武器と射撃武器がぶつかったら身体が前にある分、前者が不利となる。

 現実ではエネルギーランチャーすらかき消したデストロイ・フィンガーでも、フェザー・ブラスターまでかき消せるだろうか。

 この仮想空間の中で、エクシィズの有利性は保証できない。


「ままよ!」

『さようなら! さようなら!』


 壊れたおもちゃのようにシャオランが笑う。

 背中のフェザー・ブラスターから光が見えた。

 接触まで、あとほんの少し。


「いけ!」


 言いつつも、スバルは培ってきた経験から結果を予想していた。

 間に合わない。

 しつこい鉤爪攻撃によって体力もかなり減らされている。

 ラウンドを先取されてしまう。

 直感的に危機感が身体を支配していった。

 が、


『あが、あぎ』


 突如、画面の奥から苦悶の声が漏れたのだ。

 フェザー・ブラスターの光が止まる。

 デストロイ・フィンガーが背中に叩きつけられた。

 体力ゲージが0になり、ダーインスレイヴが大破する。


「勝った!?」

「やるじゃない! これで一勝よ!」


 沸き立つギャラリー。

 スバルも勝利が決定した瞬間に思わず深呼吸をしてしまった。


「でも、なんで?」


 首を捻り、頭の中に疑問を浮かべる。

 先にデストロイ・フィンガーが命中した。

 そこはいいとしよう。

 こっちの予想がいい方向で外れるのは珍しくない。

 しかし、フェザー・ブラスターが途中で発射を止めたのはどういうことだ。

 シャオランが止めたとしか思えないが、それにしたってやる意味が見出せない。


『くか、かかかか、ぎぎ、GA、GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 画面の中からノイズにも近い絶叫が轟いた。

 思わず耳を塞ぐ。

 エクシィズの勝利を称える画面にモザイクが走りだした。


「な、なんだ!?」

「なにこれ!?」


 次のラウンドに移行するどころか、画面がまるで映らない。

 未知なるデータを扱ったせいで筐体がキャパオーバーを起こしたのかと思ったが、そうだとしても都合がよすぎるタイミングだ。

 それに、シャオランが苦しんでいるリアクションはどう説明する。


「シャオラン、どうしたんだ!?」


 敵だが、声をかけてみる。

 返ってきたのは、筐体から響き渡る乱れた電子音だけだった。

追記

次回は土曜日の朝更新予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ