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第341話 vsベスト

 シャオランからの宣戦布告を受け取って早3日。

 スバルは相変わらず旧人類連合でエクシィズの操作練習を続けていた。


「……ダメだな」


 取り寄せて貰った筐体に座り、練習相手のCPUを思いっきりボコった後、スバルはぼやき始める。

 

「この装備もダメ?」

「やっぱりその辺の武器を装備してもエクシィズの標準装備より劣るんだよなぁ」


 筐体の後ろからシデンとアキナ、アウラが覗き込んでくる。

 この3人は比較的自由に動いており、各々の仕事や生活が関わってくる他の仲間たちと違って終始スバルにくっついているようになっていた。

 奇襲を警戒しての行為である。

 シデンに関してはアイドルとしてのスケジュールとかあるんじゃないかと聞いてみたのだが、『プロデューサーがどうにかするからオーケー』と言われてしまった。

 社会の理不尽さを垣間見た瞬間である。

 とは言え、だ。

 殆どガヤとはいえ、相談できる相手がいるのはありがたい話だった。

 特にシデンとアキナは短い時間とはいえ直接ダーインスレイヴを見ているのである。


「どういう武器を持ってるかとか、記憶にない?」

「うーん、暗かったからあんまり覚えてないんだけど……」


 シデンとアキナがそれぞれ島国の夜の出来事を思い出す。


「ただ、色々とごちゃごちゃ持ってなかった筈だね」


 背部からの銃身に気を取られていたのは事実だが、シデンは過去に何度か武装されたブレイカーを見たことがある。

 アキナに至っては専用機を持っていた身だ。


「そうね。見る限り分かりやすい武装は所持してなかった筈よ」

「じゃあ、エクシィズと同じタイプですね」


 少なくともライフルや剣、槍といった兵器は見当たらなかった。

 そうなってくると警戒すべきは、


「フェアリーやグングニールの類があるかもわからないわけか」


 ジェノサイドスコールで、スバルは目に見えない武器と戦ってきた。

 胸部から飛び出す光学兵器、グングニール。

 そしてパーツと同化していて目視では認識しづらい遠隔誘導ユニット、フェアリーである。


「もしくはシャオランを取り込むことで両腕が変化するのかもね」


 一番考えられるパターンだった。

 過去にペルゼニアが襲撃した際、彼女は手ぶらだったのだ。


「イルマが目撃情報を集めてくれていますけど、あまり芳しくないみたいですね」

「3日間探して見つからないなら、あまり期待しない方がいいかもね」


 せめて他に情報があったらエクシィズの装備方針も決めることができるのだが、それすらもわからないとなると、なにをしていいのかわからなくなってしまう。

 顎に手を当て、悩むスバル。

 彼はしばし熟考した後、携帯を取り出した。


「仮面狼さん!?」

「まさか、またシャオラン呼び出す気!?」

「心配しなくてもいいよ。用があるのはアイツじゃないから」


 言われてみればここ最近、仲間たちよりもシャオランと会話している時間が長い気がする。

 同じ悩みを抱えているがゆえの同族意識なのかはわからないが、今は命を狙っている電子生命体だ。積極的に話かるのは問題があるだろう。

 では、誰にかけるのか。

 電話帳からある人物の名前をプッシュした後、呼び出し音が流れ始める。


『おう、何の用だ』

「ああ、赤猿?」

「サル!?」


 その名が出た瞬間、アウラが仰天した。

 彼女はスバルの襟首を掴むと、鬼のような形相になって揺さぶりまくる。


「なんでよりにもよってあのサルに連絡するんですか!? 私達がいるでしょう、私達が!」

「おう!?」


 がくがくと揺さぶられ、激しく頭を揺らすスバル。

 当然、会話になる筈がない。

 電話の奥からは赤猿が『おーい、どうした』などとこちらの状況を心配していたのだが、誰も状況を説明しようとはしなかった。


「サルって誰?」


 理由は単純。

 アキナが赤猿を知らないからである。

 シデンは少し悩んだ後、がたがたと揺さぶられるスバルを見た。

 まあいいや、と決断し、説明しはじめる。


「彼のお友達で、カイちゃんのセコンドを務めたブレイカー乗りだよ」

「は?」


 言われ、アキナは想像する。

 動物園にいる尻の赤い猿が両腕を垂らしながら前進し、ゲーセンの筐体でブレイカーを動かす姿を想像する。

 それなりに認めたスバルと対戦するサル。

 一応師事した神鷹カイトのセコンドを務めるサル。


「……霊長類の可能性ね」

「なにを想像したの?」


 どこかずれた想像をしたのが容易に掴みとれた。

 そんなやりとりをしていると、スバルが息を切らしながら携帯を耳に当て始めた。

 ようやくアウラの揺さぶりが終わったらしい。

 XXX後輩戦士が疲れを見せながらも膝をついていると、スバルは用件を展開しはじめる。


「よ、よぉ。実は相談があってさ」

『それはいいけど、なんでお前疲れてるの?』

「ちょっとモンキーアレルギーがいるらしいんだ」

『動物嫌いなのか?』


 自分のことなどと露にも思っていないらしい。

 幸せな思考回路の持ち主であった。


『で、何の相談だよ。女?』

「いや、ブレイカーズ・オンラインの対策かな」

『ほう』


 意外だったらしい。

 彼は驚きのリアクションを見せた後、数刻の間をおいてから再び口を開く。


『お前が俺を頼る。しかもブレイカーズ・オンラインでか。どういう奴が相手なんだ?』

「それが、わからないんだ」

『は?』

「内蔵武器だけで、ミラージュタイプなのはわかるんだよ。でも、武装の殆どは正体不明」

『なんだそりゃ。バグ機体か?』

「まあ、そんなもん」


 間違ってない例え方だ。

 そのまま頷くと、赤猿は悩みだす。


『殆どってことは少しはわかってる武器があるんだな?』

「1個だけ。飛行ユニットからエネルギーランチャーが出てくる。しかも2つ」

『はぁ!?』


 古今東西、あらゆるブレイカーの知識を持つマニアの赤猿を以てしても驚きの武器である。

 ブレイカーズ・オンラインは勿論、現在の飛行ユニットで砲身がついている機体なんか見たことがなかった。


「常識が通用しない相手で、正体も不明。わけがわからんかもしれないけど、本当にこんな奴と戦う羽目になってる」

『お前、戦う相手が滅茶苦茶だな』


 しかし、赤猿にしてみればこの時点で電話をかけていること自体ナンセンスなことであった。

 なぜならば、


『要は敵がわかんないから、どう対策したらいいかわかんないってことだろ?』

「うん」

『だったら何時も通りでやればいいんじゃねぇの?』


 あっけらかんとした解答だった。

 横でアウラが『もっとまじめに考えろ』と怒鳴りそうになるも、その前に赤猿は続ける。


『相手がなにしてくるかわからない。つまり、なにが得意で不得意かもわからない』

「うん」

『それなら、自分の得意分野で攻めるしかないじゃん。それが一番勝率高いと思うけど』

「……そりゃ、そうだな」


 言われてみればその通りだった。

 蛍石スバルには得意とするスタイルがある。

 何年も筐体に座り、1年の実戦経験で磨いてきた経験があった。


『思うに、深く考えすぎなんだよ。前も言った気がするけどよ』

「そうだっけ?」

『そうだ。所詮、勝負つったって勝つか負けるかなんてどう決まるよ。確実に勝利できるほど、人間なんて完全な生き物じゃないだろうが』


 勝つか負けるか運勝負。

 いつか赤猿に言われた言葉である。


『お前がすげぇ経験したのは知ってるよ。だけども、俺は神様じゃねぇからどっちが勝つかなんか知らん』

「確かに」

「ねえ、あのサル頭いいわね」


 アキナが珍しく尊敬の眼差しを携帯に送っていた。

 シデンとアウラが僅かに白い目を向けていることに気付かないまま、スバルは力強く頷く。


『勝負を回避できねぇんだろ。こんな電話かけてきてるくらいなんだから』

「そうだな。逃げられないし、相手も追ってくる」

『なにと戦うのかは知らんが、自分の全力をぶつけるしかねぇだろうがよ。対策を取るのも大事だけど、そればっかりがゲームじゃない』


 赤猿の理論は楽しんだ奴勝ちである。

 常に生死を天秤にかけてきたアウラたちからみれば、お気楽なことこのうえないだろう。

 しかし、不思議と的を得ている。


『どーんっと構えればいいんだ。初心者だろうが上級者だろうが、コントローラーを触ったら楽しむ権利がある』

「おう」


 聞くと、スバルは迷うことなくエクシィズの装備を切り替えた。

 腰に刀。

 左手にシールド発生装置。

 ナイフとダガーをふたつずつ持たせ、おまけにコストの低いライフルをもうひとつ装備。


「悪いな。ようやく見えたよ」

『そいつはよかった』

「なあ、赤猿」

『なんだ?』

「俺が死んだら墓には新作のブレイカーズ・オンラインのソフトを供えてくれ」

『は!?』


 縁起でもない台詞を吐き出すと、スバルは携帯を切ってそのまま筐体の前に放りだした。

 折り返しの電話が来るよりも前に、別の人間を呼び出す。


「シャオラン、予定変更だ。今からやろう」

『よろしいのですか?』


 仲間たちが唖然とする中、携帯から女の声が聞こえる。

 スバルは迷うことなく首を縦に振ると、笑みを浮かべて操縦桿を握りしめた。


『まだ4日も猶予がありますが』

「いいんだよ。どうせこれ以上の答えなんかでないんだ」


 ほんの数分前に出た結論だが、最善だと思う。

 赤猿のいうとおりだ。

 相手が未知なら、その対策なんか考えようがない。

 自分の一番をぶつけるしかないのだ。


「最初から決まってた。後は決着をつければいいだけの話だったんだよ」

『では、お言葉に甘えて』


 画面が切り替わった。

 乱入者が現われ、スバルに挑戦状を叩きつけてくる。

 登録名は『とんび』。


『戻れませんよ?』

「くどい。やろうぜ」

『わかりました』


 機体選択画面が表示された。

 これまでなにもなかった空欄に、黒い機体が浮かび上がる。

 ダーインスレイヴだ。

 ゲーリマルタアイランドの街中に姿を現した黒い機影が選択されると、自動的に対戦画面へと遷移される。

 しばしのロード時間を見守りつつ、スバルは深呼吸。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「スバル君、まだ戻った方がいいよ!」

「仮面狼さん、今壊しますから!」

「構わないさ」


 慌てふためくXXXメンバーに対し、少し明るめに答えた。

 ここ最近だと一番自然体で話せた気がする。


「どうせ遅いか早いかの違いだ。やるなら早いに越した方がいいでしょ?」

『いい心がけだと思います』


 エクシィズとダーインスレイヴの頭部が大きく表示された。

 間にVSの文字が火花を散らしながら映し出される。

 直後、画面が再び切り替わってビル街のステージに2機のブレイカーが降り立った。

次回は木曜日か金曜日に更新予定

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