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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『LastWeek ~終わりの行き詰まり編~』
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第324話 vsカイトさん

 夜の道路をトラックが駆け抜けていく。

 交通都市とまで言われた街はすっかり寝静まっており、昼間は多くの車や歩行者で溢れていた道路も静まり返っていた。


「……カイトさんはどっちなの?」


 ふと気になって隣で運転する同居人に声をかけた。

 正直に言うと、聞きたいことは幾らでもある。

 外がどうなったのかとか、この夢は結局なんなんだとか、考えたらきりがない。

 ところがである。

 少年の悩みを汲み取り、カイトはすべての疑問に決着をつける言葉を投げつけた。


「お前の夢だ。答えはお前が知っている」

「ひっでぇ」

「うるさい。迎えに来てやっただけありがたいと思え」

「そこは感謝してるけどさ」


 嘘じゃない。

 来てくれて嬉しかった。

 まだ全部を投げ捨てるには早いと教えてくれたのは他ならぬカイトだ。

 しかし、当の本人はどうなった。

 スバルは知っている。

 エクシィズの後部座席に置かれた彼の遺体を見てしまったのだ。


「でも、カイトさんは」

「……」


 無言で運転するカイトを横目で見やる。

 こうしてみるとただの夢だなんて思えない。

 本当に生きていているかのようだ。


「戻ったら俺はいない」


 決定的な一言だった。

 本人から直々に言われ、スバルは目を見開く。


「お前はひとりで戦わないといけない。今までは後ろに誰かがいた。だが、今回ばかりはひとりだけだ」

「……俺だけなら勝てないよ」


 俯き、小さな声でスバルが言う。


「エクシィズに乗ったんだ」

「ああ」

「リバーラに勝負を挑んだ」

「そうだな」

「でも、敵わなかった」


 機体性能だけでいえば圧倒的にエクシィズが勝っている。

 グングニールを消し飛ばし、エネルギーランチャーすら弾く高出力の右腕に勝る者はいない。

 だが唯一、弱点があった。


「俺が弱いから、勝てなかった」

「そうかもしれない」


 神鷹カイトは怒気を含めず、いつもの調子で語りかける。


「だがお前は生きている。だったらお前が諦めない限り、まだ勝負は決まっていない。それとも、さっきの決意表明は嘘か?」

「でも、もうエクシィズは動かない!」


 戻ってなんとかしたいと思う気持ちは本当だ。

 しかし冷静になって考えてみると、スバルには武器がない。

 虎の子のエクシィズは破壊され、愛機の獄翼もアキナごと潰されてしまった。

 外に出ていた旧人類連合や新人類軍の機体を奪ったとしても、グングニールに貫かれる。


「もう俺にはあの槍を躱す手段がないんだよ!」

「その為に俺たちがいる」

「でも、俺はひとりだ!」

「そうだ」


 戻ったらスバルはひとりだ。

 たったひとりでブレイカーを動かし、リバーラのキングダムを倒さなければならない。


「お前はひとりだ。だが、ひとりじゃない」


 カイトがバックミラーに視線を移動させる。

 つられてスバルも振り返って荷台を確認した。

 御柳エイジと目が合った。

 彼はにかっ、と笑うと親指を上に突き上げて見せる。

 その隣には刀を携えたカノン・シルヴェリア。

 少し恥ずかしそうに前髪を揺らしながら一礼し、隣で不貞腐れている女性――――らしき男の肩を叩く。

 アトラス・ゼミルガーだった。

 なんでコイツまでいるのかと思ったが、よくよく考えたらカイトの頼みを断るような人間じゃなかった気がする。

 彼は終始スバルからの視線を無視し続けていた。

 カノンが慌てて肩を揺らすも、振り解く。

 申し訳なさげに弟子がぺこぺことお辞儀し始めた。

 更にアトラスの隣。

 そこには予想だにしなかった男がいる。

 ウィリアム・エデンだ。

 彼は闇夜の中でわざわざ懐中電灯の明かりを照らし、読書に勤しんでいる。

 漏れた明りのお陰でタイトルが見えた。

 『アイラブ終末論』。

 シャレにならない読書タイムに戦慄する。

 更にその横ではエミリア・ギルダーが手を振ってきてくれていた。

 新生物、水人間として溶けていった為、彼女の顔をまともに見たのはこれが始めてである。


「美人じゃん」


 エミリアの顔を見たスバルの第一感想がこれだった。


「カイトさんって女運ないんじゃなかったっけ」

「失礼な。俺にだってモテ期がある。たまたま変なのしか食らいついてこなかっただけだ」

「アトラスも?」


 カイトが黙りこんだ。

 沈黙を肯定と受け取り、スバルは改めて荷台を見つめる。

 後ろに乗っているのはこのメンバーだけだった。

 トラックの荷台とはいえ、結構な大人数である。


「あれ、これだけ?」


 ウィリアムやアトラスが来ているというのに、心当たりがあった数人がいない。

 今のパターンを考えるに、自分はきっと死にそうになって三途の川に辿り着きそうなところで死人たちに押し戻されているのだと結論付けていた。

 仮にXXXが迎えに来てくれたのだとしたら、後3人はいないとおかしいんじゃないか。


「言っただろ。まだ間に合うって」

「……もしかして」

「あいつら、悪運がいいからな」


 とはいえ、彼らに頼る選択はない。

 事態は最悪の状況へと近づいていっているのだ。


「コラーゲン中佐がグングニールの発射台に主砲を発射した」

「それで、結果は?」

「残念だが、倒れるには至っていない」


 だが英断である。

 カイトは密かにそう評価していた。


「中佐は基地ごと自爆させて塔を破壊する選択だってとれた。だが、それをしなかった」

「なんで?」

「さあな。まだ生きている連中がいるのを見て、巻き込みたくないと思ったのかもしれない」


 いずれにせよグングニールとリバーラの両方を倒さないと活路は開けない。

 どんな感情が作用して主砲を発射する決断を取ったのかはわからないが、お陰でスバルたちが死なずに済んだ。

 責任者としては失格かもしれない。

 だが、あの男が指揮官でよかった。


「戻ったらすぐに塔を破壊しろ。エクシィズならいける」

「でも!」

「さっきも聞いた」


 非難の声を前もって封じ、カイトは勝利の切り札の名を紡ぐ。


「あの機体にはとっておきがある。お前も知っているだろう?」

「そりゃ、確かにあるけど。探して見つからなかったじゃん!」

「後ろに知ってる奴がいるだろ」


 振り返り、スバルがまじまじとひとりの男を凝視する。

 少年の眼差しとシンクロして、ウィリアム以外の全員が彼を見つめた。

 視線に気づき、ウィリアムが本の中に顔を埋める。


「聞きだすのに苦労したんだぞ。後、エミリアにずっとぶたれてた」

「マジで?」

「ああ。多分、スーツの中は痣だらけだな」


 酷い目にあったので同情の余地はない。


「じゃあ、本当に解明したんだ!」

「そうだ。制限時間は5分」

「時間あるの!?」

「当然だ。SYSTEM Xも5分だったんだぞ」


 それを言われたらぐうの音も出ない。

 これまで扱ってきたシステムよりも便利そうな機能だと散々予想されていたのだ。

 タイムリミットがついていなかったらウィリアムに囚われていた段階で使っている。


「それで、使用方法は?」

「これを渡しておく」


 右手でハンドルを握ると、左手から紙切れを渡された。

 中身を読んでみる。


「なに、これ」

「パスワードだそうだ。機体の操縦にロックをかける機能があるだろう?」

「う、うん」

「それを解除するパスワード入力画面でこれを入力すると、システムが稼働する。気を付けろ、余白は空白だ」


 ご丁寧なことにさりげないブービートラップを用意していた。

 ウィリアム・エデン。

 抜け目のない男である。


「……着いたな」


 トラックが急停止した。

 シートベルトに押さえつけられ、小さな圧迫感を受け止める。

 スバルはベルトを外した後、扉を開けた。

 夜道のど真ん中に小さな光が見える。

 まるで蛍のような小さな明かりを見つめていると、カイトが運転席から声をかけた。


「そこから帰れる。これでお別れだ」


 お別れ。

 言葉が肩に重くのしかかる。


「さっきも言ったが、お前はこれからひとりで戦わないといけない」


 蛍石スバル、17歳。

 特技はブレイカーの操縦。

 新人類軍からスカウトを受け、リバーラ王でさえも腕を認めた男だ。

 だが、彼の後ろにはいつも誰かがいる。

 誰もが頼りにある相方だった。

 ひとりでも欠けたら、きっとここにはいない。

 いかに評価が高かろうが、これがスバルの培った戦績である。

 蛍石スバルは新人類のパートナーを後部座席に乗せないと、優れた結果が出せない。


「怖いか?」

「うん」


 スバルが振り返らない。

 もしここでまた彼の顔を見たら、決心が鈍りそうだった。

 受け取った紙切れを握りしめ、背を向ける。


「寂しいか?」

「……うん」


 帰る決意をしたところで、もう二度と戻ってこない物があるのは事実だ。

 これから、さよならをしなくちゃいけない。

 トラックの荷台から次々と言葉が飛んできた。


「きっちり決着つけてこいよ!」


 御柳エイジが握り拳を作って檄を飛ばす。


『大丈夫です! 師匠ならやれます!』


 カノン・シルヴェリアが励ましてくれる。


「……君とエクシィズは相性がいい。それだけは断言しておく」


 ウィリアム・エデンが終末論を読みながら勝手に断言してきた。


「言っておきますが、リーダーの期待を裏切ったら許しませんから」


 アトラス・ゼミルガーが血走った目で脅しにかかってきた。


「期待してるからね」


 エミリア・ギルダーが優しく微笑みかけた。


「お前はひとりだ。だが忘れるな。お前の後ろには新人類軍最強と呼ばれた俺たちがついている」


 神鷹カイトの言葉が背中を押した。

 無言で頷き、スバルは走る。


「いってこい!」

「うん!」


 振り返らず、まっすぐ向かっていった。

 少年が光の中に消えていく。


「……いっちまったな」

「ああ」


 寂しそうにエイジが言うと、カイトも自然とそれに続く。

 シートベルトを外してドアを開け、外の空気を吸った。


「あの子が、スバル君?」


 不意に声をかけられる。

 カイト達は驚かないまま、彼女の登場を認識した。


「うん。あいつが蛍石スバル」

「あなたが認めた最強の人間ね」

「そうだよ」


 言っている内にカイトは気づく。

 そういえば彼女が求めていた最強の人間。

 その答えがまだ明確になっていなかった。

 最後にもう一仕事やる前に、是非とも聞いておきたい。


「ねえ、エリーゼ。エリーゼが求めていたものはなに?」


 ある時は殺されかけた。

 それが理由でエミリアは悪意に染まり、ウィリアムの用意した引き金をとってしまったのだ。

 極限まで追い詰められていたと言ってもいい。

 事実、荷台の面々は良い感情を持っていないらしく、全員がエリーゼを睨んでいた。


「俺たちには知る権利があると思う。ずっと知りたかった」

「そうね。その通りだね」


 エリーゼはカイトの隣に移動すると、深呼吸。

 少し緊張した様子を見せた後、改めて口を開いた。


「私が見たかったのは――――」


 

次回は月曜の朝に投稿予定

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