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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『LastWeek ~終わりの行き詰まり編~』
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第319話 vs■■■さん

 ブリッジが叩き潰されても発射された砲撃はそのまま生きている。

 直線に突き進んだビーム砲がグングニールの塔に接触し、爆発を起こした。

 キングダムとレオパルド部隊の生き残りが一斉に首を動かし、塔を見やる。


「おお!?」


 爆炎の中から塔が倒れてくるのが見えた。

 鈍い音を響かせ、傾いてくる。


『お姉様、あれは』

「ああ。どうやら我々以外にも戦える人間が機会を伺っていたようだな」


 紅孔雀のカメラを移動させ、改めてビームを放った戦艦を映し込む。

 確か、星喰いとの戦いでみたことがある船だ。

 カイトたちが拠点としていた船だった気がする。

 なるほど、アイツらの仲間はただでは死なない血統のようだ。


「とはいえ、ありがたい」


 これでグングニールの塔を破壊できた。

 ひとまず、虐殺の脅威はなくなったと考えていいだろう。

 後はキングダムをなんとかするだけだ。

 動ける機体は僅か。

 キングダムとリバーラ王のトンデモコンビを相手にこの数は心細いが、破壊しなければなるまい。

 奴がいる限り、虐殺の脅威は完全になくならないのだ。


「よし、後はキングダムを破壊するまで!」

『お姉様、まだです!』

「なに?」


 部下の報告を聞き、タイラントは顔を上げた。

 傾いたグングニールの塔。

 後は倒れるだけの筈の物体が、そのまま止まっているのだ。


『完全に破壊されていません!』

「馬鹿な! 戦艦の主砲を浴びて、どうして立っている!?」

『恐らく、電磁バリアを展開して被害を最小限に食い止めたのかと』

『どうしましょう。このままでは発射されてしまいます!』


 グングニールの塔の制御権はキングダムが持っている。

 多少傾いたとはいえ、引き金を握っている以上、まだ発射の危険があった。

 もう悩んでいる時間もない。

 これ以上の応援も期待しない方がいいだろう。


「動ける者は塔を優先的に破壊しろ!」


 電磁バリアが薄い膜を張り直し、グングニールの発射台を囲い始める。

 

「キングダムは私が引き受けた!」

『お言葉ですが、その役目は我らが――――』

「グングニールをやり過ごせるのは私だけだ」


 確かにバリアごと破壊するのならタイラント以上の適役はいないだろう。

 だが、同時に襲い掛かってくるキングダムのグングニールを破壊できるのもまたタイラントだけなのだ。


「時間は幾らでも稼いでやる。その間に、頼む!」


 できるのは時間稼ぎだけだ。

 タイラントの技量ではリバーラとキングダムは倒せない。

 これが王とのタイマン勝負ならまだしも、いかんせん機体性能の差が激しすぎる。

 本来ならその差をカバーするのが新人類との同調機能なのだが、破壊の力を纏った紅孔雀でもまだ力の差があるのが現状だ。


『紅孔雀も良いブレイカーだよね』


 レオパルド部隊のやりとりを聞いていたリバーラが、どこか蔑んだ目で見下ろしてきているような気がした。

 もちろん、機体と機体なので実際に顔を見たわけではない。

 だが、言葉の影には絶対に負けるわけがないという自信が満ち溢れていた。


『けど、ドレスを着飾ったところで僕のキングダムに致命傷を与えることはできないんだよねぇ』

「くっ……」


 何度か一撃を与える為に挑戦している。

 けれども、タイラントの力はキングダムに届くよりも前にグングニールと相殺されている始末だ。

 スバル少年が駆る獄翼とエクシィズでさえ、王の前では子供同然の扱いだったのである。


『君はブレイカーのパーツとしては優秀かもしれないけど、いかんせん経験値が足りない。これまでまともに動かした経験もあまりないだろう』


 上司だったから知っている。

 タイラント・ヴィオ・エリシャルは肉弾戦が得意な新人類だ。

 ブレイカーも一応動かせるが、スバル少年程ではない。

 また、彼女が搭乗する紅孔雀も加速力は高いが、その分パイロットに技量が求められる代物だ。

 星喰いとの戦いで乗りはした物の、立場上新型に乗せた意味合いが大きい。


『はっきり言おう。タイラントはブレイカーで僕に勝つことは不可能だ』


 ゆえに、勝負の行方は見えている。

 先程の主砲がグングニールの塔を破壊できなかった時点で勝負は既に決したと言っていい。


『かと言って、得意の生身でキングダムに挑めないだろう。質量が違い過ぎるからね』


 だからこそ、


『やっぱり面白くないよ。君たちは』


 言葉がずしり、とタイラントに圧し掛かった。

 瞳が揺れる。

 押し寄せるキングダムの圧力に負けるなと自分に言い聞かせ、必死に腕を動かした。

 もう自分たちしかいないのだ。

 泣き言なんか言っていられない。

 リバーラ王を否定するなら勝つしかないのだ。

 例え荷が重すぎても、やるしかない。


『じゃあ、改めて選考しようかな』


 キングダムの腰からフェアリーが射出された。

 白の遠隔ユニットが4つほど射出されると、一斉にレオパルド部隊目掛けて襲い掛かる。










 否定するなら声を出して『嫌だ』と言えばいい。

 当然、否定された側は面白くないものだ。

 だから言い争いになるし、感情の激突はおこる。

 戦いに発展することだって、よくある。

 蛍石スバルはこの1年で身を持って知った。

 アバウトながらに戦いはよくないことなのだという認識は持っている。

 誰かを傷つけるし、結果的に別れに発展すれば悲しい。

 けれども、奪われない為にも戦いは必要だった。

 では、戦えば全部解決するのだろうか。

 ――――これが面倒くさいことに、意外とそうではない。

 必死になって戦ったつもりでも、報われない結果に終わることは多々あった。

 思い通りにいかないことが、こんなにも腹立たしいと思うことはない。

 頑張って、死ぬ気になって、辛い目にあって戦い抜こうと決めても、報われないことがある。

 いやなシステムだ。

 どんなに頑張っても、あの人たちは帰ってこない。

 だったらもういい。

 もう疲れた。

 眠らせてくれ。

 頑張ったんだから、休んでもいいだろう。

 もう頑張る甲斐もなくなったのだ。

 叶う願いは、なにも残っていない。

 最後に願うのなら、ひとつだけ。

 もしも生まれ変わることができるなら、また彼らと出会いたい。

 それだけでいいのだ。

 だから今度目覚めた時は、そんな世界にいることを祈らせてくれ。

 気付けばスバルは大の字になって眠っていた。

 太陽に照らされるような温もりと差し込む光がどうしようもなく不快で、『ベット』の中に潜りこんでしまう。


「朝よ、起きなさい!」


 大きな声が耳を貫いた。

 聞きたくない。

 枕に顔を沈め、耳を塞ぐ。


「明日から夏休みでしょう。アスプル君やケンゴ君と予定を調整するんじゃなかったの!?」

「そ、そうだった!」


 決定的な言葉を聞いて起き上がると、そこにはにこやかな微笑を浮かべた女性が立っていた。

 不思議と懐かしい気持ちになった。

 毎日顔を会わせている筈なのに、どういうことだろう。


「なにをボーっとしてるの。早くしないと間に合わなくなるわよ」

「あ、うん」


 女性が背を向け、スバルの部屋から出ていった。

 微かに匂ってくる香りから察するに、昨日の晩に作ってくれたカレーライスを温めてくれたのだろう。

 目を擦り、意識を覚醒させる。

 自分の部屋を改めて見渡した後、なにかが足りない気がしながらもスバルは思う。

 嫌な夢を見た気がする。

 具体的にどんな内容だったかは思い出せない。

 ただ、辛い目にあった感覚だけが胸に残っている。

 言いようのない苦痛が渦巻くが、どうやって発散すればいいのか。

 とはいえ、所詮は夢だ。

 丁度、明日から夏休みである。

 早めに学校から帰れる筈だから、帰り道でゲームセンターに寄ろう。

 赤猿あたりでも誘ってブレイカーズ・オンラインだ。

 こんな時は思いっきり遊ぶに限る。

 忘れよう。

 この辛さをなくすには時間が必要だ。

 簡単に今日の予定を立てて、ベットから立ち上がる。

 ハンガーにかけてあった制服を手に取ると、スバルはふと気づいた。

 俺の部屋のベットって、一段だったっけ。

 しばし考えてみる。

 いや、冷静になってみれば考える必要すらないことだ。

 スバルは首を横に振ってから自分がまだ寝惚けているのだと結論づけ、着替え始める。

 蛍石スバル、17歳。

 父、マサキと母、アカリの間に生まれたひとり息子で、今はシンジュクのとある高等学校に通っている。

 家族はアカリが産休に入ったのをきっかけに始めたパン屋を営んでおり、バイトも雇えるくらいの収入はあった。

 とはいえ、バイトと一緒に生活しているわけではない。

 正真正銘の3人家族なのだ。

 父と母も同じ部屋で寝ている以上、自分が二段ベットを使う理由がない。

 悪夢のせいで思考が回ってないのだろうか。

 簡単に着替えてから洗顔を済ませると、リビングへ。

 大黒柱のマサキは朝のニュースをチェックしながら朝食に手を付けており、アカリはスバルの分の盛り付けをすませて自分の分を用意しているところだった。


「おはようスバル」

「ちゃんと顔洗った?」

「おはよう。やってきたよ」


 両親の質問にまるごと答えた後、スバルはカレーを食らい始める。

 ちらりと父親が見ているテレビに目をやってみる。

 どこかの国の王子様が正式に王様になったのだとアナウンサーが丁寧に説明していた。

 画面右上に新国王の顔と名前が表示される。

 新国王、ディアマットの文字には心当たりがあった。


「これ、ペルゼニアの兄貴だっけ」

「そういえば、王女様は見聞を広めるために国際留学をしている最中だったな」


 思い出したようにマサキが天井を見つめる。

 しばし考え込んだ後、彼はにやけ顔で口を開いた。


「お前、仲が良いんだったよな。上手くいってるのか」

「別に彼女じゃねぇよ。そもそも王女だって知らなかったんだし」

「そういうな。チャンスは幾つあるかわからんぞ。出たフラグは早急に回収しておかないと」

「そうね。私も早く孫の顔が見たいわ」


 母が真顔でとんでもないことを言ってきた。

 怖い。

 両親の期待の眼差しが恐ろしすぎる。

 一国の王女様と平民のパン屋の息子になにを期待しているというのだ。


「別に身分の違いを気にすることはない。よくおとぎ話でもあるだろう。平民の女の子に白馬の王子様が求婚して、そのまま幸せに暮らしましたっていうのが」

「17歳と16歳になに求めてるんだよ馬鹿夫婦」

「そうでもないと思うぞ。ニュース見てみろ」


 訝しげに視線を戻すと、ディアマットが新国王としてスピーチをしている映像が流れていた。

 彼はテレビの中で雄々しく言葉を紡ぎ、新たなパイゼル国の方針を世界に示す。


『まず、婚姻法律を見直すべきである! これまでのパイゼルは男性が18、女性が16で婚約可能だった。しかし、これからのパイゼルは誰もが平等のチャンスを持つべきである。ゆえに、男性も16からの婚約を可能とする!』

「え、なにそれ」


 普通、そこは女性を18に引き上げるところなんじゃないのか。

 呆気にとられるスバルをよそに、テレビの中の新国王は続けていく。


『更に、我が国は外国からの永住者を歓迎する方針だ。よって、彼らも16からの婚約が認められる。わかるかスバル君! 妹を任せられるのは君しかいないんだからな! 信じてるからな!』

「ぶふぉ!」


 公衆の前面で名前を暴露され、食べていたカレーを噴き出した。

 むせる息子の姿を見て、父と母は少女漫画に出てくる女の子みたいにきらきらした瞳で語りかける。


「よかったな息子よ。向こうの家族も大歓迎だそうだ」

「もちろん私たちも異存はないわ。この夏休みが楽しみね」


 あはは息子よ。

 うふふ息子よ。

 ははは義弟よ。

 次第に逃げ道を塞いでくる両親とディアマットの笑い声。

 ペルゼニアとは偶然ゲームセンターで出会ってブレイカーズ・オンラインを通じて仲良くなった女子だったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。

 頭を抱えてスバルは現実逃避しはじめる。

 普通の友達だと思っていたのに、世界とはこんなにも無用なお節介が溢れているのか。


「……御馳走様でした」


 食べる元気も無くなってしまった。

 もともと朝は弱いのだ。

 昼にその分を食べればある程度元気は出る。

 居辛いし、今日はこのまま登校してしまおう。

 鞄を手に取り、速足で玄関へ。


「ああ、そうだ。ちょっといいかスバル」


 マサキが呼び止める。

 何事かと思って振り返ると、父は店の経営者として話し始めた。


「今日は牛乳の新しい配達先が決まってな。その関係でアルバイトの人には早めに準備してもらっている」

「じゃあ、もうバイトの人は来てるんだ」

「ああ」


 まだ8時にもなっていないのにご苦労なことだ。

 心の中で頷き、感心する。


「■■■君は玄関で配達トラックの準備中だ。挨拶しておけよ」


 一瞬、父の言葉にノイズが走った。

 名前の部分に妙な違和感を覚え、耳に入ってこない。

 スバルは耳の穴に指をつっこみ、ほじってみた。


「どうしたんだ?」

「ああ、いや。大丈夫。たぶん、耳にゴミがたまってたんだ」


 じゃあ、行ってきます。

 玄関の扉を開けて外に出る。

 快晴だった。

 どこまでも続く青空。

 それでいて空気は暑すぎず、かといって寒いわけでもない。

 夏休みの前日としては理想的な日だ。

 テンションが上がってくるのを感じると、スバルは玄関前でトラックの荷台をチェックしている青年を見つける。


「お、おはようございます!」


 ちょっと緊張しながら挨拶をした。

 家で雇っているバイトなのだが、スバルはこの青年とあまり接点がない。

 営業時間、スバルは学校に通っているのだ。

 そうでなくとも同世代の仲間とつるむ時間が多い関係で、あまり彼と言葉を交わすことがなかった。

 スバルはこのバイトの青年が苦手だった。

 自分よりも少し背が高く、無愛想な表情なのが大きい。

 刃のように鋭い目つきが自然と威嚇し、スバル少年をびびらせているのである。

 近づきがたい空気があった。


「……」


 そんなバイトの鋭い視線がスバルに向けられる。

 接客業には絶対に向いていないであろう彼の視線を受け止めると、スバルは逃げるようにして玄関を飛び出していった。


「じゃ、じゃあ行ってきます!」

「待て」


 慌てながら出ていこうとするスバルを、バイトが呼び止める。


「乗るか?」


 トラックを指差し、彼は簡単にそう言った。

 これは送ってやろうと言っているのだろうか。

 意外と優しい人なんだな、と失礼なことを考えつつも、スバルは苦笑し答える。


「いや、今日は時間もあるからいいですよ。また今度お願いします」

「……そうか」


 それだけ言うと、バイトは牛乳瓶を再び詰め込み始めた。

 心なしか、少し寂しそうに見えた。

 もしかすると彼なりに距離感を縮めようとしているのかもしれない。

 そんなに悪い人でもなさそうだ。

 機会があれば、乗せてもらおう。


「じゃあ、行ってきます!」

「ああ。行くといい」


 軽く手を振って会釈する。

 登校し始めた蛍石家のひとり息子を見送ると、バイトは溜息をつく。


「……時間はお前の想像以上に短いぞ」


 名前のやりとりすらなかったバイトの呟きは、少年の耳に届かなかった。

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