第297話 vsチェンジ・エクシィズ
サイキックバズーカによる破壊の直線が空を突き刺す。
それを横薙ぎに振るうことで多くの敵機を巻き込むことに成功したが、まだ全滅には達していない。
「次は小回りの利くバトルロイドを一掃して、避けた機体も片付ける」
『では共に叫びますか?』
「……いや、いい」
先程のやり取りで若干やる気をダウンさせたカイトだが、気を取り直して別の戦術へと切り替える。
サイキネルはこういう時に役に立つが、イルマとの相性は悪い。
絶望的に悪い。
心の中で結論付け、殲滅に特化してるであろう新人類の名を新たに紡ぐ。
「グスタフだ!」
『ラジャ、ボス』
エクシィズが纏う赤いオーラが霧散し、代わりに黒い空気が渦巻き始めた。
『技は叫びますか?』
「アイツに技なんかあったか!?」
『景気づけです』
「必要ない!」
『残念です』
両手を大きく広げ、エクシィズは周囲に渦巻く重力を操作する。
その動きは、まるでオーケストラを指揮する奏者のようにも見えた。
重力波が荒れ狂い、エクシィズ以外の機体のコントロールを制御不能に追い込んでいく。
バトルロイドも同様だ。
『動かない!』
『くそ、なんなんだあの機体は!』
攻め込んでいる新人類軍としては堪った話ではない。
いつものように空間転移して先制攻撃をするつもりが、完全に弄ばれている。
しかも、向こうの新人類の能力は強大だ。
あれではまるで、
『あれじゃあ、新人類軍トップクラスの塊じゃないか!』
重力波の網。
先程のサイキックバズーカ。
共に新人類軍の主力級が得意とする技だ。
それらが今、彼らに牙を剥けている。
「タイラント」
『了解』
重力の網が解除される。
その瞬間、捕まっていた各機は再び動けるようになったのだが、急に動き出すとどうしてもバランスを崩してしまう物だ。
実際、大半の機体がこの動作で体勢を崩してしまい、無防備な姿を晒している。
「いけ、破壊だ!」
『ボスの望みのままに』
エクシィズを中心として光のリングが浮かび上がり、大きく波状して広がっていく。
それは体勢を崩していた多くのブレイカーとバトルロイドを一瞬にして巻き込み、無慈悲にかみ砕いていった。
破壊のリングである。
光に触れたら最後、機械に乗っていても破壊からは逃れられない。
だが、それでもこちらの能力を察して逃れた腕利きは居る。
「うち漏らした!」
『どうしましょう』
「無論、始末する!」
その為の加速力。
その為のイルマだ。
元から高い機動性をさらに引き上げる術は、幾らでもある。
うち漏らした機体を破壊するなら、後は追い駆けっこだ。
もっと速度を上げて追い詰めた方がいい。
「ペルゼニア」
『イエス、ボス』
身に纏う破壊のオーラが解除される。
直後、エクシィズは加速。
破壊のリングから逃れた敵機を追いかけ、爆走した。
その加速力たるや、最初に見せた突撃の比ではない。
また、加速が巻き起こすのは単純な速度の底上げだけではなかった。
『こ、コントロールが!』
巻き起こす突風によって機体コントロールの難易度が高まっているのだ。
彼らはまだ気付いていないが、エクシィズの周辺には竜巻が発生している。
接近されたら、それだけで操縦桿の抵抗力は上がっていくものだ。
「操縦できないだけじゃないぞ」
ペルゼニアの恐ろしさは、これだけでは留まらない。
エクシィズの周辺に漂う真空の刃が渦を巻いて接近し、横を通り過ぎただけでブレイカーを微塵切りにしてしまう。
威力を利用し、カイトはエクシィズを更に加速。
背中から噴き出る光の羽が6枚翼になったことで、一気に勝負をつけにかかる。
「残るはひとつ!」
サイキックバズーカ、重力網、破壊のリング、暴風加速。
いずれも新人類軍から借りた技だ。
彼らにしてみれば、理不尽極まりないことだろう。
しかし、これまでそうやって他人をいたぶってきたのだ。
偶には自分たちが味わってみるのも悪くないだろう。
「追い抜く!」
背中から8枚目の金色の翼が出現した。
同時に、コックピットの中にいるカイトの身体に強烈な負荷がかかる。
「ぐぅ!」
席に叩きつかられるかのような錯覚を感じた。
前から押し寄せる強烈なGがカイトの強靭な肉体を押し殺し、悲鳴を上げさせる。
本当にパイロットのことを考えないで作られたマシンらしい。
頑丈さが取柄なカイトですら、痛みを伴うのだ。
このままスバルを乗せていたら、きっと恐ろしい未来が待っていたことだろう。
だからこそ終わらせる。
操縦桿を握りしめ、前方へと押し出した。
光の羽が羽ばたき、逃げ惑う最後の機体を抜き去った。
隣を横切った際、ボディに纏っていた見えない刃が敵を切り刻み、破裂させる。
『全機、沈黙』
「システム解除」
言い終えると同時、カイトはヘルメットを脱いで一旦膝の上に置く。
周囲を見渡し、増援が来るのを待った。
「イルマ、コメットの用意を」
「了解、ボス」
「コラーゲン中佐、こちらは第一段階を制した」
通信を入れて基地の最高責任者に報告する。
モニターに現れた司令官は呆れ顔を晒しながらも、小さく頷いてくれた。
『滅茶苦茶だな、そのマシン』
「俺もそう思う。ところで、発進準備は?」
疑問に答えたのはコラーゲン中佐の隣に陣取っているキャプテン・スコット・シルバーだ。
彼は分厚すぎる胸板を膨らませることで存在をアピールすると、妙に自信満々な態度で言う。
『準備は既に整っている。王国側の宣戦布告もさることながら、お前が先に出て時間を稼いでくれたお陰でもあるな』
「貴様には後でじっくりと聞きたいことがある。喋れるうちに人生を謳歌しておけよ」
『あれ、俺なんかしたか!?』
妙に殺気に満ちた視線を受け、狼狽えるキャプテン。
そんな彼のことを気に掛けることもないまま、コラーゲン中佐とカイトは話の続きを再開させる。
「今のところ、増援がくる気配はない。だが、連中は突然現れる」
『わかっている』
今のエクシィズの猛攻に恐れをなして退却するのであればよし。
だが、あのリバーラ王が指揮する限りそれはありえない話だ。
『全機出撃。先手を取られる前に迎撃せよ!』
相手がまだ出てきていないのにこんな命令を出すのもおかしな話である。
ところが、相手はそんなおかしなことを実際にやってくる連中なのだ。
だから襲ってくる前に戦いの意思表示をしよう。
先手を取られないように慎重で、それでいて大胆に攻めていく。
『これを最後の戦いにしよう』
『賛成だ!』
コラーゲン中佐の声に多くの兵士たちが賛同する。
湧き上がらんばかりの歓声にも似たそれは基地中に響き渡り、怒涛の勢いで戦士達を発進させた。
その中にはスバルの駆る獄翼、アーガスの鬼も混じっている。
『カイトさん、エクシィズの調子はどう?』
「問題ない。あるとすれば、次の敵の出現タイミングだ」
打ち合わせでは、敵の増援が襲撃するタイミングでエクシィズは次元の穴に突入する手筈になっている。
スバルたちの仕事はその援護と、死なないことだ。
基地自体は既に破棄する気満々なのだ。
最悪、ミサイルをここに落とす結論が出されたとしても不思議じゃない。
「……ボス、来ました」
意識を集中させ、異次元空間の座標を模索していたイルマの瞳がゆっくりと開かれる。
瞼が完全に開ききった瞬間、上空に再び穴が開いた。
『なにが出て来たって!』
『山田君、敵は我らに美しく任せたまえ』
「元よりそのつもりだ!」
多くの旧人類連合のブレイカーや戦艦が見守る中、エクシィズは大きく飛翔。
天空に開いた穴へと向かって一直線に突き進んでいく。
その護衛についているのは加速力が売りの獄翼と、元からエクシィズとコンビを組むことを想定されていたという鬼の2機だ。
彼らはぎりぎりまでエクシィズについていき、敵機の迎撃に務めるつもりだった。
ところが、だ。
「ん?」
穴の中からブレイカーが姿を現す。
1機だけだ。
他に機影は見当たらず、レーダーにも反応はない。
「なんだ、あいつは」
見たことのないブレイカーだった。
かつてゲーリマルタアイランドで赤猿の指導を受け、様々なブレイカーに対する知識を持ったカイト。
そしてそれ以上に詳しいスバルを以てしても、眼前に現れたブレイカーの機影を見たことはない。
銀のカラーリングに全身を覆い尽くす装甲。
そして背中に背負った巨大な銃口。
見た目からしてアーマータイプなのは理解できるが、細かい形状はこれまで見たどんなブレイカーとも違った。
『新型だ!』
『じゃあ、あの中には』
新型が1機だけでの登場。
これと同じように出現した金色のブレイカーのことを、スバルたちはよく覚えている。
『鎧がいる!』
『山田君!』
銀のブレイカーの装甲。
その一面が、一瞬赤く輝いた。
ぴかっ、と光っただけのそれはしかし、確実にカイトが居座るコックピットへと迫っていく。
「まさか――――」
この攻撃方法を、カイトは知っている。
想像して軽く恐怖すると、エクシィズは回転。
身を翻すようにして光を回避した。
エクシィズを通り抜けた光が穴の奥で輝き、爆発する。
「アトラス!」
『遂に来たわけね、アイツの鎧が!』
なぜか嬉しそうな口調で獄翼に乗るアキナが言う。
彼女は有無を言わせない迫力でスバルの頭を掴むと、耳元で要求した。
『アイツはアタシがやるわ。アタシなら爆発を受けてもかすり傷ですむもの』
『ふっ、威勢がいいのは美しいことだが、そんなことを言っている暇はないぞ』
アーガスが口に薔薇を咥えながら言うと、周囲から無数の機体反応が溢れ出した。
他に空間転移の穴が開いたのだ。
蟻のように群がってきた新人類軍と、迎撃に出た旧人類連合が戦闘を開始する。
カイトたちの背後から無数の光の網目が見えた。
あの線の数だけ引き金が引かれたのだと思うと、スバルは息を飲んでしまう。
「圧倒されるなよ!」
無言を重圧と受け取ったカイトが檄を飛ばすと、エクシィズは加速。
眼前に佇む銀のブレイカーを通り過ぎ、穴の奥の世界へと突入していく。
「全員、死ぬなよ」
『も、もちろんだとも!』
『アタシを誰だと思ってるのよ、あほリーダー!』
『誓って、仮面狼さんを死なせはしません』
『この美しき私がいる限り、敗北などありえん。安心して進むがいい』
各々、割と好き勝手なことを言ってカイトを見送ると、2機は銀のブレイカーと相対する。
アトラスの鎧は――――ベルガは彼らを敵と認識すると、エクシィズを追わずに背中の銃身を抜いた。
『エクシィズを追いかけない?』
『向こうにもなにかまだ切り札があると見ていいだろうね』
当然の話だ。
この穴の奥には新人類王国がある。
一番守りを厳重にしなければならない場所だ。
『鎧もまだ4体残っているし、向こうは余力を残してるってわけ!?』
『愚痴を言っている場合ではないぞ!』
銃口から光が溢れ出す。
同時に、装甲板からいくつもの赤い光が伸びていった。
『触れる前に後退するぞ! この穴の中で奴と戦ってはこちらが不利だ!』
アーガスが叫んだ直後、引き金が引かれた。
噴出された赤い光が、鬼と獄翼を飲み込んでいく。
次回は水曜の朝更新予定
 




