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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『LastWeek ~終わりの迷宮編~』
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第268話 vsビューティフルローズロボ

 結論から言うと、サムタックには指で数えられる程度の人間しか乗っていない。

 要塞の巨大さから想像もできないかもしれないが、基本的に無人機を大量に投入して、指示を出す人間がそれを一斉に解き放つのがサムタックなのである。

 ゲーリマルタアイランドで現れた際、第二期XXXくらいしかまともな人的戦力がなかったのもこれに一因していた。

 だが、今回の襲撃は前回の比ではないとノアは確信している。

 何故ならば、このサムタックには手塩にかけて育てた鎧がいるからだ。

 自らが操るそれを駆使すれば、いかに旧人類連合の中心地といえども陥落させてみせる。

 そのくらいの意気込みがあった。

 ところが、早速プランに狂いが生じてしまっている。

 トゥロスの次にデータを取るべく先行させたアクエリオが、こともあろうか瞬殺されてしまったのだ。

 相手はコピー能力者。

 多種多様な能力を使われたのならまだわからない話でもないが、向こうが変身したのは前髪が半分だけ長い青年の姿だけである。


「なんなんだ、あれは」


 今やノアの鎧は王国屈指の矛としての地位を確立していた。

 確かにXXXなどの優れた新人類と戦えば負けることもあるが、それにしたってここまで簡単に倒されることは無かった筈だ。

 既に倒れたジェムニやエアリー、リブラやカプリコだってもっと健闘している。

 アクエリオは彼らと比較しても弱い鎧ではない。

 反逆者たちの王国脱走の際、カイトを追い詰めた実績もある。

 単純にあの青年が強すぎるだけなのだ。

 結論としてはそう出さざるを得ないが、しかし認めるわけにはいかない。

 ノアは自らの鎧を最強の兵器であると証明しなければならないのだ。

 誰かの命令ではない。

 自分の意思で新人類王国に足を運び、研究を重ねた賜物である。

 それを超える化物の存在を、簡単に認める気にはなれない。


「……外のハエは今のままでも十分かな」


 一寸思考し、周辺を飛び回る連合のブレイカー達をそう結論付ける。

 無人機とは言え、天動神とガデュウデンの放つビーム砲はブレイカーの装甲を一瞬で消し飛ばす。

 火力が違うのだ。

 ハエが恐竜に集ったところでどうしようもないのと同じである。

 しかし、万が一ということもある。

 それこそ彼らのオリジナルを倒した少年だってここにいるのだ。

 備えがあってもいい。


「よぅし」


 それならば、少年の為にもう一度金色を出す。

 今度は外だ。

 これでカプリコの貸しを返してやる。

 目玉の調整については問題ない。

 トゥロスには専用のブレイカーを与えている。

 視界のハンデも、あの機体なら問題あるまい。

 問題はあの変身少女と神鷹カイト。

 恐らく、向こうの最大戦力にしてもっとも警戒すべき敵である。

 だが幸いなことにカイトは寝たきり。

 変身少女も彼のお守りで動こうとしない。

 ならば、こちらから攻めてやろう。


「彼らを投入してあげようかな」


 本当なら自分の鎧と最低限の防衛ブレイカーしか持っていかないつもりだったのだが、是非連れていってくれと頼みこんだ新人類兵がいる。

 今の王国の体勢を考えれば、確かに彼らしか戦える兵はいないかもしれない。

 だが、逆に言えば彼らまで失ったら王国は本当に兵の主要メンバーを失う事になる。

 それこそ昏睡状態のタイラントでも起きない限り士気は随分と下がるだろう。

 客観的に見れば、彼らは来るべきではないと思う。

 しかし、彼らには執念があった。

 己の為すべきことを、絶対にやり遂げるのだという執念。

 何が彼らを突き動かしているのかなどは興味がないが、そういう姿勢は嫌いではない。

 少し前まで否定的だったが、人間のそう言った気持ちは時として実力以上の力を発揮する手助けとなる。


「さて、こうなると残ったのは君たちなわけだが」


 巨大な培養カプセル。

 人間がまるごと入っても余りあるそれを視線に入れ、ノアはわざとらしく呟く。

 綺麗に5つ並ばれたそれには、今の所3つの鎧が収まっていた。

 

 トゥロス。

 パスケィド。

 リオール。


 色とりどりの鎧が、培養液に浸けられその身を休めている。

 だが、流石に持ってきた鎧の全てを休息させるほど愚かではない。

 先程までの独り言も、今の呼びかけも護衛についているゲイザーに向けた物だ。


「どうしたい?」

「ふん」


 唯一、己の意思を持つ鎧としてその地位を確立したゲイザーは不満げに鼻を鳴らした。

 その場で胡坐をかき、腕を組み始める。

 露骨な不機嫌アピールである。


「俺の獲物は変わらん」

「要するに、少年かXXXってわけかな」

「オリジナルとあのブレイカーだ」


 忘れもしない、シンジュクでの初戦闘。

 危うく殺されかけたオリジナルと、自分を撤収させた旧人類の少年になんとしても一泡吹かせてやらないと気が収まらない。


「他はどうでもいい」

「そうか。なら留守番だな」

「ちっ」


 抗議をしてもいいが、鎧の調整にはノアの知識が必要だった。

 迂闊に殺してしまうと、今後の自分の寿命を縮めかねない。

 例え鎧でも、自分の身は可愛いのだ。

 もっとも、それも意思を持ったからこその感情なのだが。


「じゃあ、留守番をゲイザーに変わってもらったところでパスケィドとリオールには彼らを始末してもらおうかな」


 当面の脅威は反逆者一行。

 その中でも特に優れた力を持ったXXXの面々である。

 鎧のオリジナルとしても選出された彼らは、確実に潰さなければなるまい。


「丁度、ここにふたり来てるみたいだからね」


 スマートフォンを取り出し、起動させているアプリを弄り始める。

 その動作に従い、鎧たちを保護していたカプセルが一斉に解き放たれた。








 天動神。

 ガデュウデン。

 共にアニマルタイプの大型ブレイカーだ。

 従来のアニマルタイプと比較すると、パワーが桁違いである。

 本来ならそういったポジションはアーマータイプの十八番の筈なのだが、この2機はアーマータイプ顔負けの火力を装備しているのだから困った。


「よぅし……」


 だが、怖気づいてはいられない。

 あれらを攻略しなければサムタックを破壊できないし、なによりも一度倒した経験がある。


「友軍機は数で押そうとしていますが、徐々に削られていますね」


 後部座席でモニターと睨めっこしているアウラが状況を説明する。

 大体予想通りの展開だ。

 天動神とガデュウデンは共に多数の相手と戦う事を意識して作られたブレイカーである。

 物量作戦で簡単に倒しきれる相手ではない。

 ゆえに、機体の生命線をいち早く破壊する必要があった。

 スバルが最初に選んだ標的は、


「ガデュウデンだ。まずはあれを2機、破壊する」

『リョーカイ!』


 スバルの意向を聞き届けた直後、獄翼が加速する。

 自らの意思でスバルの身体を支配すると、彼女は迷うことなくガデュウデンへと突っ込んでいった。


「ちょ、ちょっと!」

『待たない!』


 勝手に動かされ、抗議の声をあげるスバル。

 だが、アキナの反応は相変わらずである。


『アタシがちゃっちゃと片付けてあげるから、アンタは少し体力温存しときなさいよ!』

「嬉しい心遣いだけど、勝手に動かされると困るんだよ!」


 SYSTEM Xは取り込んだ新人類の意思でも機体を動かすことができる。

 ただ、その場合は制限時間が大幅にロスしてしまうという欠点があった。

 今、この瞬間も時間がみるみる内に少なくなっていく。


「まだ天動神もいるんだぞ!」

『5分もあればチープな機械の脳みそ如きに遅れはとらないわ!』


 ダメだ、根本的に時間が足りないのを理解していない。

 脳筋系だと思っていたが、人の話を聞く気配すらないとは。


「妹さん、SYSTEMカットを」

「でも、今やると集中砲火を受けますよ!?」


 空を駆ける2機の機械竜が口を開き、野太い光の柱を解き放ってくる。

 その動きに伴い、3機の天動神も一斉にビームの雨嵐を天に向かって解き放った。

 それらの光の矢は何発か獄翼に命中するも、致命傷には至らない。

 先の宣言通り、アキナのメタル化によって弾いているのだ。

 逆に言えば、アキナの能力が使えなくなるとこのビームの台風の中で行動するのが辛い。


「アキナ、頼むから俺に任せてくれ!」

『遠慮することないのよ。アタシの動きを学んでもっと強くなりなさい!』


 ダメだ、人の話を聞こうとしない。

 なんとなくそういう気質はある方だと思っていたが、真田アキナはかなりの傍若無人タイプだ。

 果たしてSYSTEM Xの説明をしたところでこちらの言いたいことを理解してくれるかもわからない。

 彼女の性格を踏まえると『面白いじゃない。タイムアタックよ!』とか言い出しかねなかった。


『さあ、タイムアタックよ!』


 言った。

 懸念していた言葉が吐き出された直後、獄翼はガデュウデンの頭部に向かって刀を振りかざす。


『どぉりゃああああああああああああああああああああああああああああああ!』


 アキナが吼えた。

 普段振り回す斧よりも遥かに軽いそれに若干の戸惑いを覚えつつも、刃がフルスイング。

 銀の一閃がガデュウデンの頭部に命中し、爆発を起こした。


『なぁんか武器を持った気がしないわね。じゃあ、次は直接ぶん殴って倒してあげるわ。今後の参考にしなさい!』

「なんの参考にしろっつーの!」


 本人なりの優しさなのだろうが、今はただそれが迷惑である。

 残りの制限時間は既に2分を切ろうとしていた。

 このままアキナに暴れさせたらガデュウデンは倒せるだろうが、残りの天動神3体を相手に無謀なボディを晒すのは心もとない。

 なんとかこのポジティブ暴れん坊を言いくるめられる良い台詞は無い物かと考えていた時、不意に無線から音が鳴り響いた。


「なんだ?」


 一瞬のノイズ音の後、トランペットらしき楽器音が鳴り響く。

 戦いの場にしてはやけに不似合いなBGMだった。


『なんだこの音楽は。どこから流れてくる!?』


 旧人類連合の指令を務めるコラーゲン中佐も同様の感想を持ったらしい。

 彼はやや苛立った口調で発信源を探そうとするも、彼が見つけるよりも前にスバル達の視界の前にそれは現れた。

 丁度、獄翼が発進した格納庫である。

 その入り口から、巨大な影がゆっくりと足を踏み、広大なアスファルトの大地へと君臨した。

 巨人の名は鬼。

 嘗て旧人類連合が誇った決戦兵器である。


「鬼!?」

「でも、一体誰が」


 あれを動かせるゼッペルはもういない。

 というよりも、彼以外の人間が動かせるのかすらよくわからない代物だった。

 だが、疑問は鬼のコックピットからあっさりと返ってくる。


『はっはっはっはっは!』


 アーガス・ダートシルヴィーの高笑いが戦場に木霊した。

 突如として現れたパツキンナルシスト薔薇野郎は、ご機嫌な様子のままスピーカーを大にして喋り始める。


『諸君、私が来たからにはもう安心だぞ!』


 盛大なクラシック音楽がバックミュージックとして唸り、盛り上がりを見せ始める。

 だが、アーガスの言葉と音楽の盛り上がりも虚しく、連合兵は彼の登場にコメントをいれることはなかった。

 単純にそれどころではないのである。

 しかし、アーガスはへこたれない。


『これよりこの私。天と地と海の狭間から生まれた美の化身、アーガス・ダートシルヴィーが諸君らの助太刀に入ろう!』


 モーショントレースシステムが働き、鬼がアーガスの動きを真似しはじめる。

 お決まりのサタデーナイトフィーバーだった。

 心なしか、天からこちらを見守っているであろうゼッペルが泣いてる気がする。


『ビューティフルローズロボ、美しく発進!』


 遂には勝手に改名されていた。

 不憫な扱いを受けたまま、ビューティフルローズロボは飛翔。

 その巨体を宙に浮かせ、天動神目掛けて突進する。


「おお、動いてる!」


 その雄姿には妙な感動があった。

 内心、スバルは馬鹿でもあのトンデモブレイカーを動かせるんだと関心しそうになってしまう。


『とぅ!』


 ビューティフルローズロボの掌から赤い薔薇が出現した。

 推定5メートルはあろう巨大な花弁は一瞬にして散り、雌しべの中からレイピアが姿を現す。

 一方、天動神も行動に入った。

 突如として現れた不審者ブレイカーを瞬時に敵と認識し、鳥頭の口部がゆっくりと開き始める。

 中から凝縮された赤い光が漏れ始めた。

 溢れ出る勢いで放出された破壊の赤は、ローズロボに向かって容赦なく解き放たれる。


『無駄だ!』


 ところが、ローズロボはあろうことか左手でそれを払い退けた。

 呆気なく霧散していく天動神のビーム砲。


『ふはははははは! この私の美しさをまとったビューティフルローズロボはその美しさゆえに、敵の攻撃を寄せ付けないのだ!』

「マジかよ」


 勿論、整備担当のペン蔵による技術の賜物である。

 スバルはインパクトに圧されてすっかり忘れているが、そもそもあの機体はビームを寄せ付けることなく一方的にブレイカーを破壊していった経歴があった。


『必殺、美しき烈風のソナタ!』

「どういうネーミングセンス!?」


 もう『美しい』ってつけたらなんでもいいんじゃないだろうか。

 ガデュウデンの巨大な顔面を殴りつけつつも、スバルは思う。

 だが、そんな少年の疑問を打ち消すかのようにしてレイピアは天動神の頭部を貫いていた。

 全長40メートルの鳥頭が大破する。


「……仮面狼さん、ブレイカーってあんな馬鹿でも動かせる物なんでしょうか」

「鬼が優しいんだよ、きっと」


 天動神を見事に撃破し、気を良くしてくるくると回転しはじめるローズロボを一瞥し、スバルはぼそりと呟く。

 自分たちに未来を托して消えていった最強の兵士に対し、非情に申し訳ない気持ちになった。

次回は土曜日の夜か日曜の朝に更新予定

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