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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『LastWeek ~終わりの迷宮編~』
274/366

戦いの鐘 ~そして私は死亡フラグをおっ立てる~

 新人類王国。

 それは特化された人間を集めたエキスパート集団であり、同時に世界の頂点に立つべき人種が正当な評価を得るために集まる国である。

 ――――と、いうのが国の売り文句だ。

 文句を言う他国を滅ぼし、吸収してきたのはいい物の、ここ最近は明らかに支持率が低下している。

 元々リバーラ王のやり方には反発する動きもあり、最近は低迷していくばかりだった。

 当然、王国から抜け出す新人類も少なくない。


 だが、それでも残る兵達は居る。


 例えばシャオラン・ソル・エリシャル。

 彼女はリバーラ王に忠誠を誓った筋金入りの兵と言う訳ではない。

 かと言って新人類の名誉の為とか、自分はもっと正当な評価を受けてもいい筈だと考えて新人類軍に参加した人間でもなかった。


「失礼します」


 白い扉を開き、シャオランは入室する。

 相変わらずのジーパンワイシャツというファッションセンスの欠片もない服装だが、その表情はやけに凛としていた。

 彼女を知る者がみれば『なにか思い詰めている』と評したかもしれない。

 それだけ真剣な表情だった。


「お久しぶりです、お姉様」


 シャオランはベットに向かって機械的にお辞儀をする。

 が、返事は返ってこない。

 白い個室で横たわるタイラントはこの半年間、植物人間として眠り続けている。

 何度語りかけても彼女が目覚めることは無かった。


「出撃が決まりました」


 ただ、タイラントから受け継いだレオパルド部隊が動く際、シャオランは報告を怠らない。

 一時期タイラントの側近として働いた経験がそうさせるのか、あるいはただの義務感か。

 シャオランはその答えを理解できないままでいたが、理解する必要はないと考えていた。

 なぜならば、自分はあくまで代理だから。

 戦いで倒れたタイラントの代わりに取りまとめを行っているに過ぎない。

 それに、彼女が留守の間に可愛い妹分は帰れない場所へと行ってしまった。


「メラニーの仇を取るとまでは言いません。あの子を止めれなかったのには、私にも責任があります」


 ゆえに、命がけで挑む覚悟だ。

 今度の戦いでは数少ない新人類軍の代表として反逆者に挑むことになる。

 あの星喰いとの戦いを経て『大好物』がどうなってしまったのか、彼女は知っている。

 アキハバラの時と同じようなやり方では、勝利を掴むことはできないだろう。


「お姉様、シャオランは帰ってこれないかもしれません」


 その言葉に感情は含まれていない。

 淡々と報告だけしつつも、シャオランの意識は別の所にある。


「アキハバラで彼の味を覚えました。しかし、それだけでは彼との差は埋まりません」


 食べる。

 取り込む。

 この動作はシャオランの美学だった。

 しかし彼の血肉を奪っても、その差が埋まる事はない。

 星喰いとの共同戦線の時になんとなく理解したのだ。


「だから、私も命を投げ出す覚悟で。できることのすべてを賭けるつもりです」


 シャオランの『両目』が蠢く。

 白から黒へと変色していくそれは、右目にだけ赤い光を灯しながらも闘志を秘めていた。


「今回の出撃ではレオパルド部隊の出撃は私だけです。お姉様の部隊を減らすような真似はさせません」

 

 忠誠を誓った上司に跪く。

 もし彼女が今の自分の姿を見たらどう思うだろう。

 なんでそんな物を移植した、とか。

 そんなことを言ってくるかもしれない。

 シャオランは知っている。

 タイラントが鎧のような存在に関して否定的だったことを。

 新人類の能力は個性の証明。

 それを意図的に複製して理想の戦士を作るなど、個人の人格を否定するのに等しい。

 そんな愚痴を零していた覚えがある。


「申し訳ございません」


 ある種、彼らと同様の存在へと成り果てたシャオラン。

 彼女は未だ目覚めぬ上司に向かい、最後の言葉を投げた。


「このような姿になった以上、もうあなたの部下を名乗る事は出来ません。私はただひとりのシャオランとして戦い、散る事になるでしょう」


 負ければ死が。

 勝っても帰るところなどない。

 勝利の為にそれを切り捨てたのだ。

 タイラントなら笑って許してくれるかもしれないが、彼女が嫌う姿になってまで共にいる気にはなれない。


「拾ってもらった御恩は決して忘れません。せめてあなたの為に、勝利を」


 もう二度と目覚めないかもしれない上司は、何も言葉をかけてくれない。

 一番親しんでくれた部下も、もういない。

 言いようのない寂しさを感じつつも、シャオランは静かに退室する。

 彼女の中に残るのはレオパルド部隊の代表と言う意地。

 そして傷跡を付けたXXXと、大好物の存在だった。







「ちょっと、何すんのよ!」


 乱暴に放りだされ、アキナは怒鳴る。

 ワシントン基地の個室に閉じ込められ、彼女は不機嫌だった。


「なんでアタシがこんな狭い所に閉じ込められないといけないわけ!? こんなものまでつけられて!」


 手錠と足枷をちらつかせつつ、嘗てのチームメイトに訴える。

 カノンとアウラは困り果てた表情で肩を落とすと、溜息。


「あのねぇ。アンタ、自分がどういう立場かわかってるの?」


 アウラが問う。

 言われてようやく気付いたのか、アキナは居心地の悪そうに縮こまり始めた。


「やっと気づいたんだ。自分がまだ新人類軍に所属してるってこと」

「う、うっさい!」


 忘れるのも無理はない。

 ゲーリマルタアイランドでは敵対していた彼女も、途中からゼクティスやエミリアと言った共通の敵と戦う為に手を組んでいたのだ。

 いかんせん場の空気と本能だけで生きているような少女である。

 過去にカノンを切りつけたり踏み潰したことなど、殆ど忘れかけていた。


「っていうか、アタシもう軍にいれないし。だからこれ外してよ!」


 ペルゼニアの腹心であるゼクティスを倒したのはアキナだ。

 その行為は立派な反逆行為であり、戻ろうにも戻れるわけがない。


「言いたいことはわかるけど、そうはいかないの」

『アキナ、強そうなのが来たら喜んで戦いに行くし』

「それの何が悪いわけ!?」


 憤りを隠すことなくアキナが怒鳴る。


「おかしいじゃない! 今、旧人類連合は立て直し。新人類王国は動ける鎧が8人もいる。リーダーはダウン。それなら少しでも戦える人間がいた方がいいでしょ」


 鎧は星喰いの目玉を移植した、正真正銘の化物だ。

 大怪獣をそのまま人間にしたようなものだと思えばいい。

 彼らを相手に、銃を撃つことでしか動物を殺せない人間が挑んだところでどうにもならないのだ。

 それだったら、戦える人間がいた方がいい。

 アキナはどちらかと言えばそっちに分類できる人間だ。


「ダメ」


 ところが、同級生からの返答は簡単で素気ないものだった。


「アキナがどう考えてるかは知らないけど、私たちは生きるために戦うつもりうよ。あんたなんかは鎧が出てきたらすぐさま特攻しちゃうでしょう? 迷惑なのよ、暴れるだけ暴れられるのは」


 随分な言い草であるとアキナは思う。

 カノンとアウラ、それに先輩戦士達だって所詮は同じ穴のムジナだろう。

 何が違うと言うのだ。


「何が違うっていうのよ! アタシだって、アンタ達と同じ新人類に師事してきた!」


 師事、というのは大袈裟かもしれない。

 アキナは他の第二期XXXと比べ、カイトの言う事だけ聞いていれば幸せと言う単純な人間ではなかった。

 既に別の場所に執着すべき物を見出していたのだ。


「やってることは同じでしょう!」

『違う』


 ハッキリと言い切られた。

 前髪で顔が覆われた少女が、電子音を響かせつつも力強い意志を訴えてくる。


『アキナの戦いと、私たちの戦いは違う。だからアキナは味方じゃない』

「はぁっ!?」


 エミリアの時は戦いに参加させておいて、なんたる言い分なのだ。

 そのままぶん殴ってやろうかと思い、拳を振るう。

 手錠が引っかかり、動きが停止した。

 恨めし気に見やり、歯を食いしばる。


『もうすぐ戦いが始まる。多分、私達も無事じゃ済まない』


 自覚はしている。

 だが、それでも逃げるわけにはいかなかった。


『それでも一緒に生きたいって思う人がいるの』

「……なにそれ」

『わからないよね。だって、アキナ友達居ないもん』

「ふざけんな!」

 

 今にも噛みついてきそうな勢いで身体を押し出す。

 足枷が引っかかり、床に倒れ込んだ。


「何様のつもりよ。アンタ、私の何なのよ!」

『チームメイトだった。でも、それだけ』


 本当にそれだけだ。

 アキナは特別仲が良かった人間がいたわけではない。

 精々同期やカイトとつるむ機会が多かったくらいだ。


『私、アキナのこと何も知らない。アキナも、私の事を何も知らないよね』

「……何が言いたいの」

『もし、戦いが終わってアキナが退屈にしてたらさ。一緒に遊んでみようよ』

「押しつけがましい」

『そうだね。自分でもそう思う』


 カノンが背を向ける。

 牢屋のような個室から出ていく彼女の背中に向かい、アキナは声をかける。


「鎧が来たら、アンタたちじゃ勝てないでしょ。どうするつもり?」

『言ったでしょ』


 振り返り、カノンは不敵に笑う。


『勝つ為だけに戦うんじゃないから』


 扉が閉まる。

 面白く無さそうな表情をしたままのアキナの顔を見届けた後、カノンは額に貯めていた汗を一斉に解放した。


「ね、姉さん!?」


 あまりに器用な焦り方にアウラは驚く。

 というか、なんで今更焦る必要があるのだろう。


「どうしたんですか姉さん! さっきまで嘗てないくらいクールだったのに」

『アウラ、どうしよう』


 ぎこちなく首を振り、妹を見る。


『なんだか一杯死亡フラグが立った気がする』

「大丈夫です姉さん! 昭和の漫画なんかでは実は生きてたとかありますから! 死んだと見せかけて生きてる展開、結構ありますよ!」


 なにもかもを台無しにするやり取りだ。

 彼女たちの様子を遠目で見守っていた旧人類連合の兵士たちは、揃って生暖かい目を向けた。

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