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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『LastWeek ~終わりの始まり編~』
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第254話 vsエミリア・ギルダー ~理解できないキーワード編~

 彼女のことを最後に意識したのは、たぶん告白されて少し経った頃だと思う。

 突然呼び出され、好きだから付き合えと言われた時は面食らったが、それ以上に理解できなかったのは『好き』という単語だった。

 恋愛というキーワードを知らなかったわけではない。

 だが客観的に見て、彼女の身の回りにはもっと良い男性がいた筈だ。

 その中からどうして自分が選出されたのかが、理解できない。


 気遣いのできる御柳エイジ。

 優しさだけはいっちょまえのヘリオン・ノックバーン。

 顔はそれなりに整っているアトラス・ゼミルガー。

 残りは――――性格や容姿の都合上、受け入れられないかもしれない。

 だが、この辺のラインナップを押し退けて自分にくる理由がいまいちわからなかった。

 自分の何が彼女に気に入られて、どこに好感をもたれたのか。

 まったくわからない。


『どうしたの?』

『え?』

『なんだか、怖い顔してるわよ。なにか悩んでるのかしら』


 考えているのを見抜かれたらしい。

 資料を眺めているエリーゼに、声をかけられた。


『悩んでると言う程ではない』

『わかりやすいのよ、あなた。自分で考えても答えが出ないのに、延々と悩み続けてるって感じ。例えて言えば、テストの答案をしてる時に悩み過ぎて頭が爆発しちゃってるような』


 大分限定された例え方だった。

 それだけ悩んでいるように見えたのだろう。

 答えが出ないのも否定しようがない事実である。

 

『相談があるなら、乗るわよ』

『わかった』


 言われたので、遠慮なく頼る。

 カイトはエリーゼと話題共有できる喜びに震えつつも、淡々とした口調で語り出す。


『好きだって言われた』

『え?』

『付き合ってくれと言われたんだ』

『え、えええええええええええええええっ!?』


 だが、その事実はエリーゼにも相当衝撃的なものだったらしい。

 彼女は今にも転げ落ちそうなオーバーリアクションをとりつつ、思考。

 顔を引きつらせながら確認を取る。


『ま、まさかと思うけどエレノアさんじゃないわよね?』

『違う。エミリアだ』

『エミリア!?』


 エリーゼ、本日二度目の仰天。

 びっくりしている彼女の顔もいいなぁ、と思いつつもカイトは真顔で事の顛末を話し始めた。


『今日の14時、呼び出しを受けた。ふたりで次の作戦について話しあいたいと言う名目だった。一通り確認事項を終えた後、さっきのように言われた』

『そ、そう……』


 あまりに業務的な口調である。

 この様子では、当のエミリアは轟沈したに違いない。


『それで、何て答えたの?』

『断る、と言った』


 これはトラウマになるんじゃないかな、とエリーゼは頭を抱える。

 そんな彼女の思考を中断させたのは、カイトが続けた言葉だった。


『……エリーゼ。俺のどこが気に入られたんだろう』


 それは、もしかすると彼が想い人に始めて打ち明けた弱みだったのかもしれない。

 どこか困った表情で語るカイトに、エリーゼは珍しい物を見るかのような顔で対応していた。


『最近は第一期との付き合いも最低限になった。エミリアからすれば、エイジやヘリオンの方が絡みやすい』

『さあ、それは本人じゃないとわからないわ。ただ、あなたにも良いところがあるのよ』

『例えば?』

『一生懸命な所』


 間を置くことなく言われ、カイトは赤面。

 そのまま俯くも、エリーゼはくすくすと微笑むだけで言葉を止める気配は無かった。


『それに、いいところがないと第二期の子達もあんなに懐かないでしょ?』

『……あれは懐いているのとはちょっと違う気がする』

『それでも、よ。頼れるっていうのはあなたの素敵なアピールポイントじゃないかしら』


 当然、カイトだけに当て嵌まることではない。

 エリーゼは悪戯を思いついた子供のように無邪気に笑う。


『エミリアだって、あなたから見れば素敵な所がある筈でしょう。どうしてその気持ちに応えてあげなかったのかしら』

『それは』


 カイトが口籠る。

 エリーゼの近くにいたいから、とは本人の前では口が裂けても言えなかった。


『あの子、どんどん綺麗になってるじゃない』


 エリーゼの口ぶりを察するに、付き合っちゃえばいいと言ってるように聞こえた。

 そう聞こえることがショックで仕方がない。


『そんなに嫌なの?』

『……エミリアは嫌いじゃない』


 嫌いじゃないのは本当だ。

 この件以前は特になんのトラブルもなく過ごしてきた。

 友人、とまでは言わないがチームメイトとしては普通の関係であったと思いたい。


『だけど、そういうのには応じれない』

『そう』


 一通り答えを聞き、エリーゼは納得して頷く。

 どこか安堵している表情を見て、カイトは戸惑った。


『エリーゼは俺にどうして欲しい?』

『あなたの意思を尊重するわ。私個人としては……そうね』


 口籠った後、エリーゼの表情が曇り始める。

 真剣な眼差しを向け、少年に言う。


『ねえ、お願いがあるんだけど』

『お願い?』

『うん。あのね――――』








 水が浸る。

 噴出される水流は人体を軽く切断するウォータージェットだ。

 迂闊に近づけばサイコロステーキが量産されるだけである。


「水の量が明らかに多いな」


 エミリア・ギルダーは人間湖と呼ばれる新人類だ。

 その名の通り、身体を液体化させることができるのだが、その量は限られている。

 精々、自分の体積をプラスアルファした程度だ。

 だが、今の彼女は水になっても尚、増量している。


「能力がパワーアップしてるってことか」

「だろうな。前までのアイツだと考えてると痛い目を見るぞ」

「だとしたら、どうする気なのよ」


 未知なる強敵と化したエミリアを睨むばかりの先輩戦士に対し、呆れを含んだ声がかけられる。

 アキナだ。

 先程まで憤怒していた彼女も、眼前に怪物が現われたとなれば黙っていられないようである。


「アタシもそうだけど、ここにいる大半は身体能力を鍛えた人間よ。水を相手にしたら手が出せないわ」

「あれ、お前いたのか」

「おい」


 蟀谷に青筋を立てつつ、アキナは胸倉を掴みかかる。

 そのまま殴り掛からん勢いで迫ってくるが、当のカイトは涼しい顔でアキナの首根っこを抑え込んだ。

 小柄な体が簡単に持ち上げられ、アキナはじたばたと抵抗を試みる。


「こら、離せ糞上司!」

「丁度いい。お前も協力しろ」

「いやよ! なんでアタシがウィリアムの不始末を拭わなきゃいけないわけ!?」

「いやとは言わせないぞ」

「聞いてんの人の話を!?」

「勿論だ。だが、お前が幾ら嫌がってもアイツは襲い掛かってくるぞ」

「む……」


 正論だった。

 今はまだ大人しいが、さっきまでのイルマの解説が的中していたら、それこそ殺すか殺されるかの仁義なき戦いが展開されるのである。

 死にたくないのであれば、戦う以外に選択肢などないのだ。


「けど、アタシじゃエミリアに勝てないわ」


 アキナにしては珍しく弱気な発言だった。

 訝しげに見やるも、理由はわかる。

 先程の彼女の疑問がそれを表していた。


「何時までも水になってたら、確かにアキナや俺じゃどうしようもないな」


 疑問に対し、エイジが同調する。

 彼らのような身体能力を伸ばしてきた新人類にとって、水を殴れと言うのは無理難題なのだ。

 ペルゼニア戦がいい例である。


「なら、エミリア本人に出てきてもらうまでだ」


 ちらり、とシデンへ目線を送る。

 頷き、シデンは掌を広げた。


「ふっ」


 息を吹きかける。

 掌に充満した冷気を介し、吐息は吹雪へと豹変。

 辺り一面を浸水させたエミリアへと襲い掛かる。

 水面が徐々に凍り付いていく。

 一面を侵食していた水は、気付けばスケートリングと化していた。


「これであっちからは手が出せまい」

「でも、攻撃しちゃって良かったの?」

「いいんだ。どちらにせよ、あのままだと俺達では手出しできない」


 昔は長時間液体化していれば、それだけでエミリアの身体が欠落しかねないという弱点があった。

 しかし、今はその弱点すら消えている可能性がある。

 どう考えてもエミリアの身体と比例していない水の量がいい証拠だった。


「話をするにせよ、戦うにせよ、本人に出てきてもらわない限りはどうしようもないだろう」

「まあ、それはそうだけど」

「でも、出てくる気配がありませんね」


 別の場所から氷の床を眺め、アウラは言う。


「もしかして、今ので死んでたり?」

「そんな簡単に死ぬような奴じゃないのはよく知ってるだろ」


 それがエミリアを指すのか、それとも新生物を指すのか。

 恐らくは両方に対して言ってるのだろうが、アウラは複雑な気持ちを抱かずにはいられない。

 トラセットで遭遇した怪物、新生物。

 長い間交流のあった先輩戦士が、あれと同じ怪物になっている。

 その事実がどうしてもイコールで結びつかないでいるのだ。

 もっとも、それはこの場にいる面子の大半がそうなのだが。


「……出てきたとして、だ」


 整理しきれていないひとりであるエイジが、カイトに向けて問う。


「どうする、説得を試みるか?」

「パツキンがやってダメだったのにか?」


 それに、既に向こうからの攻撃は始まっているのだ。

 氷漬けになった水面。

 その中に浮かぶ刻まれた赤色に視線を向け、カイトは呟く。


「アイツはエミリアの身体を乗っ取ったウィリアムの執念だ。割り切らないと、今度は頭を壊される程度じゃ済まんぞ」


 神鷹カイトの答えはすでに出ている。

 スバルに言った通り、彼は戦うつもりでいた。

 思考からエミリアの存在を排除し、眼前にいる得体の知れない生物を敵だと分類させる。


『出てきますよ!』


 カノンが叫んだ。

 氷の床に亀裂が生じ、人ひとりが落ちそうな穴が出来上がる。

 その中から飛び出したのは女性だった。


「エミリア……」


 こうして対面するのは7年ぶりになるだろうか。

 大分長い年月を経た再会ではあるのだが、面影はしっかりと残っている。

 恋敵を意識して伸ばした長い髪に、染めた髪。

 元に戻すことなく、そのままだった。


「ウ、ウゥ……!」


 対してエミリア本人はとても人間とは思えない形相をしている。

 親の仇を見つけたかのような恨みの目。

 殺意に満ち溢れた憎しみが、ひしひしと伝わってくる。


「まるで獣だな」


 唸りをあげるエミリアを一瞥し、カイトは一言投げかけた。

 エミリアが顔を向ける。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 天を仰ぎ、エミリアが吼えた。

 音が反響し、強烈な衝撃波がXXXの面々に覆いかぶさっていく。


「バトル漫画かなんかか、これ!?」

「あっちの方が優しいぞ、多分!」


 手でカードの体勢を作り、その隙間からエミリアの様子を伺う。

 彼女は既に動き出していた。

 腕を溶かし、水の鞭を撓らせながらも振るってくる。


「来た!」


 言葉を合図に、全員が戦闘態勢に入った。

 振るわれた鞭が、壁を刻んでいく。

次回は火曜か水曜の朝更新予定


追記:

ちょっと仕事が忙しい為、木曜日の朝に予定変更!

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