表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/366

第211話 vsアラフォー晩餐会

 ダークストーカーが森の中に倒れるのを見届けた瞬間、カルロは己の身体が硬直したのを感じた。

 いよいよ自分だけになってしまったのだ。

 自分の周辺で、獄翼と戦う機体はいない。


「う、おおっ!」


 巨大な岩を押し出すようにして、操縦桿を握りしめる。

 蒼孔雀はぎこちない動きでライフルを構えると、迷うことなく引き金を引いた。

 だが、そこに至るまでの動きが、いかんせんとろい。


「くそっ!」


 獄翼が行動するよりも前に理解できる。

 こんな銃じゃ当たらない。

 別に銃口が曲がっているわけではないのだが、相手の反応速度が速すぎる。

 蒼孔雀も新人類連合のブレイカーの中ではかなりの出力を誇る機体なのだが、完全に後れを取っている状態だ。

 その原因は理解している。

 パイロットの差だ。


 カルロとペルゼニアの間には確固たる隔たりがある。

 登ろうとしても、途中で確実に転げ落ちてしまう、茨の壁だ。

 彼女の領域は、旧人類では到達できない。


 本来なら、数で取り囲むのが一番手っ取り早いのだと思う。

 だが、オズワルド機は機能停止、ミハエル機は大破、ダークストーカーも倒されている。

 今、眼前の巨人に立ち向かえるのは自分しかいなかった。


 サイズは同じ筈のブレイカーが、やけに大きく感じる。


「考えろ考えろ考えろ」


 必死になり、懸命に自分に言い聞かせる。

 頼みのSYSTEM Xの残り時間はあと僅か。

 しかしペルゼニアならその残りわずかな時間で十分カルロを処刑できる。

 ミハエルを殺した時、彼女は数秒の時間しか使わなかったのだ。


「考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!」


 獄翼の飛行ユニットが開く。

 青白い光の翼が羽ばたくと、真っ直ぐ突撃してきた。

 武装は無し。

 相変わらず、風を身に纏っての台風のような突撃しかしてこない。

 それだけでも、十二分な威力があるのだ。


「考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!」


 途中で舌を噛み切りそうになるのを抑え込みつつも、カルロは眼前に迫る暴風を睨む。

 どうすればあの脅威を潜り抜けられる。

 どうすれば生き残る事が出来る。

 どうすればアイツを倒すことが出来る。


 己の頭に、何度も問いかけた。

 だが無情にも、生まれてからずっと付き合ってきた脳みそは答えを出してくれない。

 答えが出てこない。


「ふっざけんなよ!」


 辿り着いた答えが『どうしようもない』だと気づいた瞬間、カルロは吼えた。

 普段のクールな態度を捨て、感情の赴くままに叫ぶ。


「俺達がなにをした!? 蟻が夢見ちゃだめなのかよ!?」


 幼い頃、憧れだったエースストライカーは涙を飲んでスタジアムを去った。

 彼がどんな気持ちで消えていったのかはわからない。

 だが、その姿を見ることで自分がやるせない気持ちになったのは確かだ。


 あの日から、ただでさえ狭いプロの門は更に狭くなった。

 生まれた瞬間から英才教育を受けさせる団体も存在していると聞いた時、いよいよもって自分たち旧人類の立場がわからなくなってくる。

 旧人類はエンターテイナーを満足させる為の道化なのかと、何度も自問した。


「俺達は、お前が満足する為にいるんじゃないんだ!」


 やや距離をとった場所に到達した瞬間、獄翼が大きく振りかぶる。

 手刀が構えられたのを見て、カルロの目が大きく見開かれた。

 ミハエルを殺した技だ。

 理解すると、カルロは反撃の構えを取る。


 このまま死んでたまるか。

 殺されるにせよ、名一杯抵抗して困らせてやる。


 目の前の『死』を受け入れやら、不思議と穏やかな気持ちになれた。

 さっきまで感じていた憤りや恐怖はもう残っていない。

 あるのはただ、目の前の人災に釘を撃ちこまなければという使命感だけだった。


 無我の境地っていうのは、きっとこんな感じなんだろう。

 もう自分が何を言っているのかさえもカルロは理解できないでいる。

 全神経を操縦桿に注ぎ込み、視界に映る全てがスローモーションになっていく。


 いける。


 獄翼が風を纏った腕を振り降ろすよりも前に、引き金を引く。

 今度は避けることはできないという確信があった。

 相手が振り降ろし終わった時、自分は真っ二つになっていることだろう。

 だが、同時にペルゼニアがいるコックピットを光の銃弾でぶち抜くことができる。


 そういうプランだ。

 瞬時に閃いた割には、結構マシな計画だと思う。

 向こうもタイムリミットが迫っている。

 ここで決めようと思う筈だ。


 親指が引き金とリンクしているボタンへと伸びる。

 そのまま押下しようとするが、途中で止まった。

 獄翼が仰け反ったのだ。

 横から飛んできたチェーンアンカーによって。


「え!?」


 視界の外から飛んできた攻撃に、カルロは目を丸くする。

 真横から飛んできた金属によるパンチ。

 獄翼を弾き飛ばしたそのアンカーの先を辿った。

 倒れ込んだまま右腕を構える蒼孔雀である。


「オズワルド少佐!」


 行動不能に陥っていた筈のオズワルド機だった。

 彼の蒼孔雀は全身をショートさせつつも、懸命に起き上がる。

 2本の巨大な足が大地に立つと、カルロのもとに通信が入った。

 映像はない。


『生きてるか、カルロ』

「少佐!」


 息も絶え絶えと言った様子である。

 表情は見えないが、オズワルド自身にも怪我があると予想できた。


「大丈夫なんですか!?」

『見ての通りだ……』


 見れないんだよ、とツッコむことはできない。

 オズワルド機は満身創痍。

 今にも手足が千切れてしまいそうな状態なのだ。


「動けるなら退避してください。俺が数秒でも持たせて――――」

『いや、その役目は俺だ』


 オズワルド機が剣の柄を握る。

 光の切っ先が出現すると、それを獄翼へと構えた。


『俺が奴の足を止める』

「止めるって、それは俺が」

『お前は生きろ』


 簡単な言葉だった。

 機械音声に混じり、弱りきった男の声が届く。


「少佐、それは」

『俺が盾になる。ユニットは爆破したが、奴に向かっていくことならできる筈だ』


 確かに、オズワルドは歩くことはできる。

 だが、それでいいのか。

 このままむざむざと、この上官を向かわせてもいいのかと本能が訴えかけた。


『俺はもう長くない』


 決定的な言葉が投げかけられる。

 気を失いそうになるのを堪え、カルロは頭を上げた。


『だから、残り少ない命を有効活用したいんだよ』

「急いで医者に見せればいいでしょう!?」

『コイツを倒さないと、どのみち無理だ』


 ゆえに、


『この機体ごと、アイツを貫け』


 非情な作戦だ。

 いや、これはもう作戦と呼べる代物でもない。

 所謂、特攻だ。

 生きる望みを捨てた人間が、最後に示す抵抗。

 さっきまでカルロがやろうとしていたことだ。

 だから強く反発が出来ない。


『お前は若い。他の連中もだ。生き遅れのオッサンが生き残るより、価値があると思わんか』

「しかし、奴は風だ」

『もうそれも終わりだ』


 起き上がった獄翼の関節部分から光の噴出が収まる。

 制限時間を超えたのだ。

 丸腰のブレイカーが、警戒しながらもこちらを睨んでいる。


『再度起動する前に、確実にやれよ!』


 カルロの返事を待たず、オズワルドの蒼孔雀が走り出す。

 一歩踏み出しただけでも、膝がもげてしまいそうな走りだった。

 見ているだけで痛々しい。

 巨大な鋼の肉体から電気の汗が滴り落ちる。


『聞こえるか、新人類女王!』


 中年兵士が叫ぶ。


『よぅく覚えておけ、これからお前を倒す人間の名前を!』


 不思議と、獄翼へと走り出す蒼孔雀の姿にデジャブーを感じた。

 憧れのストライカーが、涙ながらに会見から立ち去った時と同じ背中が見える。


『俺はオズワルド・リュム! 魚座のB型で年は36の絶賛恋人募集中!』

「あ――――」


 言葉に出来ない。

 オズワルドが何を喋ろうとしているのか、よくわからない。

 というか、本当に何を言ってるのだ。


『将来のビジョンは妻子持ちで、子供は息子と娘がひとりずつ。マイカーとペットの犬がいて、贅沢な庭のある一軒家に住む事!』


 もう届かない夢だけどな。

 オズワルドは己の人生を振り返り、自嘲する。

 気になる女性はいれど、声をかけることのできないアラフォー人生だった。

 好きになる子に限って、大体彼氏がいる。

 自分に振り向かせるなんて、到底無理だと諦めた。


 まったく、つまらない人生だった。

 いつだって一歩を踏み出すことができない。

 もしかしたら、それで人生が豊かになったかもしれないのに。


 生き残る事に希望を見出す余裕も、もう残っていない。

 敵のハリケーンに巻き込まれた際に、ガラスが胸を貫いている。

 右足も潰れた。

 散々である。

 実績らしい実績も、そんなに多くない。

 星喰いの1件だって逃げ帰っただけだ。


 だが、そういう人間がいたって事は残しておきたかった。

 それ以外に、オズワルドに繋がりはない。

 だからこそ、彼は後ろの部下に訴えかける。


『アラフォーは辛いぞっ!』


 エネルギーの刃が突き出される。

 狙いはコックピットだ。

 フェンシングのような細い刃が、獄翼の胸に突進していく。

 獄翼はステップを刻んだ。

 素早く横に跳ぶことで突きをかわし、蒼孔雀の腕に掴みかかる。

 頭部のエネルギー機関銃が火を噴いた。

 火力の雨が蒼孔雀の腕を抉り、肘から先を毟り取っていく。


『……気になる子がいるなら、早めにキープしとけ』


 力なく呟くと同時、蒼孔雀の胸を光の刃が刺し貫いた。

 蒼孔雀から奪ったエネルギーソードだった。

 未だに握られている蒼孔雀の右手をそのままに、ぶつけるような形で押し込んでいる。


「少佐!?」


 その先は無我夢中だった。

 大きな喪失感を抱えたまま、カルロは引き金のボタンに指をかける。

 ぐったりと動かなくなった上官機の最期の言葉を思い出しつつ、彼は吼えた。


「もっと言う事はないのかよ、アンタ!」


 訴えかけても、返事は返ってこない。

 動かない上官と怨敵に向けて、カルロは力強くボタンを押した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ