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第198話 vs人間

「お久しぶりです、司令官」

「ああ」


 オズワルドが先頭に立ち、敬礼を取る。

 続き、カルロとミハエルが同様の動きをとった。

 彼らの挨拶を受け取ったカイトは淡々とした調子で話を切り出す。

 彼らの中ではカイトは未だに司令官だった。


「それで、なぜここにいる。お前たちは本来、アメリカの各基地で防衛任務に当たっていた筈だが」

「星喰いとの決戦の後、皆さんが王国から脱走したと言う情報を掴んだのです。クリムゾン女史の命令を受け、我々は各地に飛ばされました」

「僕達の場合、元々組んでいたので同じチームとしてこの場所に配属されたんですけどね」


 ミハエルが補足をつけるも、カイトは訝しげに顔をしかめる。


「俺達の脱走は世間的に知られているのか?」

「あまり表には出ていません。あのプライドの塊みたいな王国が、自分たちの失態をおおっぴらに出すと思います?」


 そりゃあそうだ。

 もしも出回っていたらゲーリマルタアイランドでも大体的に公表されている。

 本当なら今頃指名手配されていてもおかしくなかったのだ。

 名誉を守るためとはいえ、やるべきこととそうでないことはきちんと区別すべきだと思う。


「では、お前たちはどうやってそれを知った」

「クリムゾン女史が情報を掴んだと」


 返答を受け取り、カイトは頭を抱える。

 イルマ・クリムゾン。

 元XXXのウィリアム・エデンからカイトに送られた『部下』である。

 部下と言っても、カイトは彼女を信用しきっているわけではない。

 所謂押しかけ部下と言う奴だ。

 忠誠を誓ったと口で言ってはいるが、今回の情報源は引っかかる。

 以前、王国にスパイを送っていると聞いていたが、どこまで把握しているのか気になってきた。


「イルマはいるのか」

「クリムゾン女史は現在、別の場所で皆さんを探索しています」

「場所は」

「日本のヒメヅルとかいう田舎です」


 その単語を聞いた瞬間、カイトの顔色が変わった。

 彼だけではない。

 道端で俯き、少女の遺体を見つめていたスバルも顔を上げた。


「なぜそこに」

「皆さんが脱走し、向かいそうな場所を探った結果です」

「なるほど」


 納得すると、カイトはスバルを見やる。

 困惑しているのが手に取るように理解できてしまった。

 それも当然だ。

 彼は半ば強制的にヒメヅルからシンジュクへと連れて行かれた。

 その後は帰れずに今に至る。

 現在の故郷がどうなっているのか、気にならないわけがなかった。


「呼び出せばこちらに向かってくるとは思いますが」

「いや、いい」


 オズワルドの申し出を丁重に断ると、カイトは提案する。


「こちらから出向こう」

「え!?」


 彼の提案に驚いたのは他ならぬスバルだった。

 カイトに近づき、小声で尋ねる。


「い、いいの?」

「ああ。イルマがいるなら王国側も手出しは難しい筈だ」


 ただ、カイトとしても思う事がないわけではない。

 何よりも重要視したのはスバルのメンタルである。

 どこかで休息を取らせないと、このお人好しの少年は潰れてしまう。

 過去の出来事を振り返り、カイトはそう考えていた。

 勿論、本人に向かって言うつもりはない。


「オズワルド、カルロ、ミハエル。飛行機を手配すると戦闘に巻き込まれる可能性がある。俺達をお前らの機体に乗せろ」


 要は体のいいタクシー扱いだ。

 軍人を相手にそんな要求をするのも本当はお門違いの筈なのだが、彼らはカイトの命令に服従するように『認識』されている。


「了解しました。そちらの準備ができ次第、御声をかけてください。お前ら、機体の調子を整えろ。何時でも出発できるようにしておけ」

「了解」

「はい、了解しました!」


 背筋を伸ばし、敬礼をすると3人は各々のブレイカーへと戻って行った。

 背中を見届けると、シデンが声をかける。


「カイちゃん、これからどうするつもり?」

「まずはイルマと会って話をする。必要ならもう一度ウィリアムと交渉するつもりだ」

「交渉って、もしかしてあれか」

「ああ」


 一度カイトと共にウィリアムと話をしたエイジは直感的に理解する。


「もう一度、旧人類連合に保護してもらえないか頼んでみるつもりだ」


 






 目が覚めたら、一面真っ白な世界がヘリオン・ノックバーンを出迎える。

 ここが病室である事を認識するのに、そう時間はかからなかった。

 ベットの上に横たわる自分の状況を確認する。

 右向け右。

 お見舞いに来てくれていた大家のおばちゃんと目が合った。

 彼女は瞼から大粒の涙を漏らしつつ、言う。


「ヘリオンちゃん!」

「大家さん、すみません。心配をかけてしまったみたいで」


 アトラス・ゼミルガーの襲来から間もなくして、ゲーリマルタアイランドの戦いは決着がついた。

 残念ながらヘリオンには記憶が残っていない。

 彼はカイトがやってきた後、すぐに気絶してしまったのだ。

 身体中を包帯で覆っているこの姿が、その時の様子を物語っている。


「僕は何日眠ってましたか?」

「あれから3日だよ」

「……そうですか」


 その時間を遅いと捉えるか早いと捉えるかは人それぞれだが、ヘリオンはそのいずれでもなかった。

 ただ、直感めいた物だけが頭をよぎったので、確認も含めて大家に問う。


「彼らは?」

「出ていったよ。あれからすぐ、旧人類軍の機械が来てね。乗って行っちゃった」


 大体予想通りの返答だった。

 同じ特殊部隊に所属していた仲間たちは、もうこの島には居ない。

 自分は置いてけぼりを食らったのだ。

 何カ月も同じ屋根の下で過ごしたのに、何も言わずに行ってしまうのは薄情だと思う。


「具合はどうなのさ」

「あー……痛みはしますけど、なんとかって感じですかね」


 軽くベットの中で身体を動かそうとしてみる。

 痛みはあるが、一応動かせると言った感じだ。

 我ながら全身大火傷をしてよく動けるものだ。


「ヘリオンちゃん。カイトちゃんから手紙を預かってるんだけど」

「手紙、ですか?」


 尋ねると、大家はカバンの中から封筒を取り出した。


「中身は見てないけど、どうする? アタシが読んであげてもいいけど」

「いえ、自分で読みますよ。言伝じゃないってことは、きっと僕に直接言いたいことでしょうからね」


 言うと、ヘリオンは封筒を受け取る。

 僅かに腕が痛むのを我慢しつつ、彼は開封した。


「…………」


 字面に目を走らせる。

 そこにはヘリオンが気絶した後の出来事が書かれていた。

 サムタックと呼ばれる空間移動要塞が消え去った事。

 街に解き放たれたブレイカーとバトルロイドは全機破壊されたこと。

 アキナとアトラスを追い払ったこと。

 そして、マリリス・キュロのこと。

 それらが簡潔に、要素を抑えて書き記されている。

 ヘリオンはそれらの事実を受け止め、次の文章を読む。


『これからについてだが、行先はここでは書かない。教える事もないと思う』


 手紙に対し、反射的に何故と問いたくなった。

 喉にまで出かかったそれを抑え込んだのは次の文章だ。


『お前にはここでの生活がある。学園長とも話し合った。お前さえよければ、是非これからもここにいてほしいんだそうだ。あの場にいた連中が万場一致で決めたらしい』


 その中には校舎の中で救出されたアシェリー。

 そして後から駆け付けたレジーナの強い要望もあったのだそうだ。

 思わず目頭が熱くなる。

 ぐっと堪えつつも、続きに視線を向けた。


『すごく勝手な事を承知で言うが、お前は俺達の希望だ。エミリアにはまだ再会していないけど、同期の仲間を見てるとよく分かる。お前が一番外の世界に順応していた』


 自然にできたことではない。

 ヘリオンとて、最初は路頭に迷った。

 ここに辿り着くまでに色んな困難が待ち構えており、その場その場で懸命に答えを出していった結果だ。

 だから、特別な事はしていない。


『お前は俺の理想のカタチだ』


 その一文が目に留まる。


『昔住んでた場所では、住民から距離を置かれていた。全員がそうだとは言わないが、俺はそれが当然なんだと思っていた。俺たちは戦闘マシン。彼らは平穏に過ごしたいだけの人間。本来なら、彼らにとって受け入れがたい代物なんだ』


 いい例がテイルマンだ。

 実際、学園に避難してきた者はテイルマンの単語を聞いた瞬間、戸惑ってしまった。


『だけど、お前は勝ち取った。テイルマンの過去を拭い捨てて、居場所を手に入れた』


 だからこそ、


『俺達も、もっと頑張ってみたいと思う。過去は全部清算できないかもしれないけど、ただのひとりの人間としてこの世界で生きてみたい。お前みたいに』


 ヘリオンは思う。

 そんなことはないぞ、と。


「大家さん」

「なんだい?」

「彼らは、人間ですか?」

「何言ってるんだい。勿論じゃないか!」


 何時ものように気丈に振る舞いだし、ヘリオンは安堵する。


「今はどうしてもやっておきたいことがあるらしいけどね。あたしは信じてるよ。何時かきっと、あの子たちが帰ってきてくれるってね。ヘリオンちゃん、退院したら部屋の掃除を手伝っておくれよ。帰ってきた時に埃まみれだったら合わせる顔もないからね!」

「ええ、勿論ですとも」


 笑みを浮かべ、ヘリオンは病室の窓を見やる。

 澄み渡った青空が広がっていた。

 きっと今頃、この空のどこかで彼らは戦っているのだろう。

 手紙の返事を返そうにも連絡先がわからない。

 ゆえに、窓を開けて彼は訴えた。


「待ってるからな!」


 人間の声が、空気を伝う。

 少年時代に憧れた外の空気が、ヘリオンの肌にひんやりとした空気を送り届けてくれた。








 ――――追伸


 これはあくまで俺の勝手な想像だ。

 そして懸念でもある。

 胸に留めておいてくれるだけでいい。


 なあ、ヘリオン。

 お前はウィリアムをどう思う?

 

 俺は不気味だ。

 XXXだった頃、旧人類をあんなに毛嫌いしていた男が今では旧人類連合を裏から牛耳っている。

 本人は新人類軍の動きを捉える為だと言っていたが、それが本当なら使える新人類を手持ちに置いておくだろうか。

 単に報告書を読ませてもらえば、それで事足りると思わないか。


 それに、脱走に協力してきたことにも疑問が残る。

 旧人類を平気な顔で操って、同士討ちをさせる奴だ。

 常々見下す発言があったのはお前も知ってるだろう。


 ここからが本題だが、あいつは戦争をしかけるつもりなんじゃないだろうか。

 前に会った時、あいつはこの世界を治めるのは優れた人間がやるべきだと言っていた。

 リバーラ王はその器ではない、とも。

 ひょっとすると、あいつはXXXで世界征服でもするつもりなのかもしれない。

 馬鹿みたいな話だと思うかもしれないだろう。

 だが、あいつがその気になればそれが可能なんだ。

 そう言う立ち位置にウィリアムはいる。

 

 俺の考え過ぎならそれでいい。

 だがもし、俺の懸念が現実になってしまったとしたら、必ずあいつからの使者がお前の元にもやってくる筈だ。

 その時は、絶対に自分の弱みを見せるな。

 もうあいつを縛る者はなにもない。

 その気になったウィリアムがどんな強硬手段に出るかは、お前もなんとなくわかるだろう。


 お前はもう、ひとりじゃない。

 お前の周辺にはたくさんの人間がいる。


 あいつは、それをとことん利用できる奴だ。

テイルマン編、完結。

次回より始まる『スバル帰郷編』にご期待ください。


(追記)

仕事の事情もあり、次回更新は木曜の朝を予定。

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