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第186話 vs闘争と仇と寄生虫

 蛍石スバル、17歳。

 初めての2号ロボは弟子の愛機である。

 ロボアニメで主人公の乗り換えといえば、軍の新型だとか研究所の秘密兵器だとか、あるいは不思議パワーで進化するとか、そういったお約束を一切無視して弟子の愛機だった。

 見慣れた機体に乗り換えると言うのも、なかなか複雑な心境である。


「どうしました、仮面狼さん」

「いや、なんでもない」


 後部座席に座るアウラが訝しげに問うと、スバルは複雑な心境を頭の中から放り投げ、操縦桿に手を付ける。

 ダークストーカー・マスカレイド。

 カノンがスバルを参考にしてカスタムした機体なだけあり、スバル好みの武装と高機動を誇る機体だ。

 使い慣れないブレイカーを渡されるよりも大分マシであると言えるだろう。

 そう言う意味ではカノンに感謝しなければならない。


「周辺機体とその様子は?」


 思考を切り替え、数か月ぶりの戦闘モードへと移行する。

 やる気に満ちた声を受け取ると、アウラは周辺状況を確認した。

 後部座席にセットされたタッチパネルを操作し、サブカメラが周囲のブレイカーとバトルロイドの状況を知らせてくる。


「紅孔雀が9機、島の各所で無差別攻撃を行っています。バトルロイドは24体が稼働中」

「先行したっていうメラニーさんは」

「折り紙を持っていないようですね。反応ありません」


 カノンからサムタックの戦力を聞いているスバルとしては、メラニーの動向が一番気になる所だ。

 XXXのように専用機を所持しているわけではなく、普段武器として扱う折紙すら所持していないと言う。


「彼女は来てるんだよね」

「間違いありません。そして、切り札があるとも言ってました」

「切り札?」

「はい」


 アウラは思い返す。

 メラニーが逸る気持ちを抑えきれず、先に出撃したのは事実だ。

 しかも彼女の態度は自信に溢れていたと記憶している。

 確実にひとりは倒せるとまで断言したのだ。


「ブラフじゃないんだね」

「ええ。あの態度を見る限りは」

「じゃあ、みんなに知らせないと!」


 メラニーとは一度共に戦った事がある。

 だが、それで仲間意識が芽生えたかと言えばお門違いだろう。

 彼女の優先順位はあくまでレオパルド部隊。

 そして直属の上司であるタイラントとシャオランにある。

 そのタイラントが意識不明の重体にまで追い込まれたのだ。

 逆恨みで何をしでかしてくるかわからない。

 そういう意味で言えば、今の状況で一番不気味なのはメラニーだった。

 ブレイカーに登場しているスバルはまだいい。

 だが、何も知らずに単体行動を取っているであろう仲間たちは危険に晒される確率が高いのだ。


「カイトさんは知ってるの?」

「赤猿に連絡を取ろうとはしたんですが、繋がらなくて……リーダーたちへの連絡先も知らないし」

「じゃあ、シデンさんとエイジさんの番号教えるよ。俺はその間に紅孔雀を!」

「待って!」


 行動を起こそうとするメインパイロットに静止の声がかかる。

 反射的に振りかえり、アウラに問う。


「何かあったの?」

「サムタックから熱源反応あり! 識別コードはヴァルハラです!」

「ばるはら?」


 聞いたこともない機体名である。

 思わずサムタックの方を見やると、確かにブレイカーが出撃していた。

 真っ白な鎧を身に纏う巨大ブレイカーである。

 大きさだけで言えば、ダークストーカーの二倍近い。


「アキナの機体です!」

「え!?」


 真田アキナ。

 面識自体は数えるしかない上、言葉をかわしたことはない。

 だが、つい先ほど彼女を抑えるとカノンと会話したばかりだ。

 ソイツの専用機が出撃したと言う事は、


「カノンは!?」

「わ、わかんないです!」


 疑問を口にした直後、ヴァルハラがバランスを失って墜落する。

 大地に吸い込まれるようにして落下した先にある物は、ダークストーカーから肉眼で確認できる距離にあった民家だ。

 純白の塊が民家に激突し、粉塵が巻き上がる。


「くっ」


 素早く装備リストを確認し、その中から刀を選択。

 選んだ装備品を手に取ると、ダークストーカーは鞘から凶器を抜いた。

 切っ先を向ける先には、民家を叩き潰したヴァルハラがいる。


「……動かないな」

「生命反応はふたつあります。多分、姉さんがブレイカーの中で戦っているのではないかと」


 アウラの言葉を聞き、この姉妹はブレイカーの機体上でも戦える人間であるとスバルは思い出す。

 彼女たちと同じ教育を受けたアキナがやってやれないことはないだろう。


 そんなことを考えていると、ヴァルハラがゆっくりと起き上がった。

 そのまま襲い掛かってくるのかと思いきや、白の巨体はゆっくりと一歩踏み出しただけである。

 まるで蟻を踏みつけるかのような動作だった。

 僅かな振動が伝わる。


『ねえ、今度はアンタたちが遊んでくれるの?』


 呆然と見つめていると、ヴァルハラから通信が入った。

 その音声を聞き、後部座席に座るアウラが僅かに身を乗り出す。


「アキナ、姉さんをどうしたの!?」

『こうして話してるってことは、どうなったのか理解できるでしょ』


 答えるのも面倒だ、とでも言わんばかりにアキナは一蹴。

 ヴァルハラが槍を構えると同時、彼女は興奮を隠すことなく提案する。


『じゃあ、早速ヤろうよ!』

「はぁ!?」


 槍を振り回し、挑発するヴァルハラ。

 パイロットの叫びに、スバルは素っ頓狂な声をあげてしまう。


「アトラスが俺とやりたがってるんじゃないの!?」


 カノンの話を聞く限り、アトラスは今回の司令官で優先的にスバルを排除したいのだと思っていた。

 だが、蓋を開けてみればそんなことはお構いなしで戦いを仕掛けようとして来る兵士がいる。


「アキナはそういう子です」


 項垂れ、アウラは呟く。

 力のない声だった。

 カノンが倒されたショックで、身体が震えている。


「自分のやりたいことを優先させるんです。例えそれが命令違反に繋がろうとも、平気でやる。咎められれば、その場で上官と戦えばいいって思ってるから」


 滅茶苦茶だ。

 理解できない思考回路の解説を聞き、スバルは心底そう思った。


『そうよ。悪い?』


 対するアキナは、若干気分を害した様子で言葉を返す。


『アタシ、我慢って言葉が一番嫌いなの。やりたいことはその場でやるわ。じゃないと人生損じゃない』

「聞いたことがあるような台詞言うじゃねぇか!」


 アキナの台詞に軽いデジャブを覚える。

 カノンから彼女の性格を聞いたときに判っていた事だが、月村イゾウによく似ているのだ。


『あら。別に珍しい事じゃないでしょ。自分のやりたいことをやる。アタシの場合はそれが戦いだった』


 真田アキナの願望は常に戦いにある。

 彼女の周りには戦いしかなかった。

 戦いこそが己の存在理由。

 戦っている時間は、生死を実感できる。

 その瞬間が堪らない。

 アレがあるから生きていく楽しみがあるのだ。


『だからさ。戦おうよ! アタシと、アンタで! 邪魔者が入ろうが大歓迎よ。リーダーでもシデンでもエイジでも、アタシは怖くない! 戦ってよ!』


 アキナの主張にも似た叫びを聞き、スバルは戸惑う。

 メインモニタに映るヴァルハラに、イゾウの姿がダブる。

 ほんの一瞬だが、操縦桿の動きが止まってしまった。


『どうしたのさ。戦おうよ!』

『言う相手が違うよ、アキナ』


 その瞬間。

 機械のノイズ音に混じった不快な音が鳴り響く。

 音声の方向を見やる。

 ヴァルハラの右足が僅かに宙を浮いていた。


『え!?』


 アキナが困惑するも、ヴァルハラの右足はゆっくりと宙に浮いていく。

 宙に浮くと言っても、僅か2メートル程度だ。

 ヴァルハラの巨体では微々たるものである。

 それでもアキナが困惑するのは理由があった。


『アンタ、死んでなかったんだ』

『こんな無様な姿で、死ねるもんか!』


 ばちり、と音が鳴る。

 ヴァルハラの足を持ち上げるカノンの上半身に紫電が迸った。

 精密機械の回路を通じ、ヴァルハラのコックピットへと衝撃が走る。


『うわぁ!』


 少女の悲鳴が轟いた。

 その反応に呼応するかのようにしてヴァルハラが蹲る。

 アキナが操縦桿を動かすも、伝達系の回路が焼き切れてまともに機能しない。


『し、師匠……アウラ、早く!』


 ヴァルハラの足の裏に隠れているため、ダークストーカー側からはカノンの明確な姿は確認できない。

 ただ、声色から判断するにかなり限界にきているであろうことは理解できた。

 元々アキナが『倒した』と判断していたのだ。

 恐らく、再び立ち上がっている時点でかなりの無茶をしているに違いない。


「仮面狼さん!」

「おう!」


 ゆえに、彼女が作ったチャンスを無下にできなかった。

 スバルが操縦桿を大きく振り抜く。

 背中の飛行ユニットから光が噴出し、黒の巨人を勢いよく射出した。

 刀を構え、ヴァルハラの頭部目掛けて一閃する。


 銀の光がヴァルハラの頭部を駆け抜けていく。

 白の顔が吹っ飛び、市街地へと転がっていった。

 ヴァルハラの頭部があった場所からはばちばちと火花が飛び散り、所持していた槍を力なく手放してしまう。


『うああああああああああああああああああぁっ!』


 ヴァルハラの首が落ちた音を聞き届けると、カノンが両手を押し上げた。

 全長35メートルの巨体が崩れ落ち、ひっくり返される。

 背中から倒れ込むその姿は、もはや巨人と言うよりもちゃぶ台だ。


「カノン、生きてるか!?」


 立ち尽くす弟子に対し、スバルは問う。

 カノンがゆっくりと振り返った。

 所々服が破けており、血塗れになっている。

 あまりに痛々しい姿だった。

 直視できない。

 しかし当の本人はにっこりと笑みを浮かべる。


『えへへ……私、頑張っちゃいました』


 カノンの膝が崩れ落ちた。

 そのまま倒れ込むと、おびただしい量の血が流れ始める。


「やべぇ!」

「ね、姉さん!」


 ダークストーカーがしゃがみ、コックピットを開ける。

 後部座席のアウラが素早く飛び出すと、傷付いた姉の身体を抱き上げた。

 傷の様子を見て、息をのむ。


「い、生きてるんだよな!?」

「当然です! ただ……」


 力強く言い放った後、アウラは俯く。


「出血量が凄まじいです。すぐに止血しないと……」

「と、なると……」


 スバルは考える。

 すぐにでもレジーナの部屋に戻って傷の手当てをさせてやりたいが、包帯が置いてある場所がわからない。

 家主が消えた以上、探し出すのは困難だろう。

 と、なれば頼れるのはひとりしかいない。

 スピーカーのボリュームを大に設定すると、スバルは叫ぶ。


「マリリス、すぐにダークストーカーの方に来てくれ! 怪我人がいる!」


 恐らく、この時間はアルバイト中であろう少女に呼びかける。

 骨折や火傷などを癒す鱗粉を噴出するマリリスならばカノンの傷も治せるだろう。

 そう判断した結果だった。

 不安要素があるとすれば、彼女がこの戦場の中で無事に生きているかどうかなのだが、幸いにも今日はエイジとシデンが彼女のアルバイトを見学しに行っている。

 それならきっと大丈夫だろう。

 呑気にそう考えると、スバルは周辺を飛び回る紅孔雀へと刀を向けた。

 幸いにもダークストーカーの識別信号は味方機のままである。

 臨機応変に対応できない人工知能は、ダークストーカーの謀反を察知しきれないのだ。


「妹さん、カノンを頼む! 俺はゴミ掃除だ!」

「わかりました。こっちは応急処置だけしておきます。能力を使いたい場合はすぐに言ってくださいね!」


 背部の飛行ユニットを再び起動させると、ダークストーカーは飛翔。

 出力任せに突進し、紅孔雀へと襲いかかった。








 スバルの叫びは街中に響いていた。

 当然、同じ島にいるエイジとシデンの耳に届いている。

 なので、可能であればすぐにでもマリリスを送り届けてやりたいというのが彼らの本音なのだが、


「そのマリリスがすっげぇ怖いんだけど」


 額から汗を流し、エイジが呟く。

 ふたりの眼前にあるのはマリリスが勤めているファミレス。

 その残骸だった。

 若者向けに明るい装飾が施された入口は面影が無く、ただ店内が無残に剥き出しにされているだけである。

 その店内に突っ立っているのは、エプロン姿の赤毛の少女。

 黒い仮面を顔に貼り付け、グロテスクな両腕をぶら下げているマリリス・キュロだった。


「エイちゃん、あれどう思う?」


 シデンが訝しげにマリリスを見つつ、隣のエイジに問う。

 返答はあっさりと返された。


「どう思うって言われたら、答えられるのはあそこにいる奴だと思わねぇか?」


 店内を指差す。

 その方向を見やると、マリリスの隣に突っ立っているメラニーの姿があった。


「俺にはアイツがなんかしたとしか思えないんだけどよ」

「ええ、その通りですよ」


 メラニーはあっさりと認めると、エイジを睨む。


「早速おいで下さいましたね。リブラ、あのふたりを倒してください」

「リブラ?」


 なんだそれ、と疑問を吐き出しそうになるが、それが喉から出てくる事は無かった。

 マリリスがふたりの前に跳躍してきたからだ。

 左の大鎌が大きく振るわれる。


「へっ!」


 人体を軽く切断する鎌を前にし、失笑したのはエイジだった。

 彼は鎌を上手に受け流し、マリリスの背後に回り込むと関節に腕をからめる。

 マリリスの鎌はシデンに届く前に静止した。


「シデン、マリリスは俺が止める! お前は三角帽子を頼むぜ!」

「うん、わかった!」

「リブラ!」


 メラニー目掛けて走り出すシデンに対し、マリリスの右腕が大きくしなる。

 それを見たエイジが関節を止める為に手を伸ばすが、


「げっ!」


 右腕が伸びた。

 軟体動物のように跳ね上がり、鞭の如くシデンに襲い掛かる。

 骨がないことに愕然としつつも、エイジは右腕の根元を掴んだ。


「うおりゃ!」


 そのまま力強く引っ張ると、マリリスの右腕はあらぬ方向へと飛んで行く。

 右腕が隣の建物に衝突したと同時、シデンはメラニーへと詰め寄った。


「彼女に何をしたの!? 今すぐ元に戻せ!」


 喉元に銃を突き付け、シデンは手っ取り早く用件を伝える。

 問いに対し、メラニーは失笑した。


「何がおかしいの」

「いえ。ただ、見ればなんとなくわかるかもしれないって思ったんですがね」

「じゃあ、質問を訂正しようか。あの仮面はなに?」


 マリリス・キュロは新生物の力を手に入れた際、暴走を起こしている。

 それがきっかけで、自ら戦うことはなるだけ避けてきた。

 それがあの様である。

 誰がどう見てもあの仮面が元凶であることは間違いがなかった。


「鎧ですよ」

「鎧!?」


 単純に洗脳装置だと考えていたシデンだが、その考えはあっさりと打ち砕かれる。


「通称、リブラ。普段は仮面ですが、その正体は寄生人間のクローンです」


 とはいえ、寄生人間と言っても単純に仮面をつければ誰でも操れると言うわけではない。

 仮面はあくまで巣だ。


「もうお亡くなりになっていますが、新人類軍には身体の中にハリガネムシを飼ってる人がいたそうです」

「気持ち悪い人だね」

「まったくです。ただ、その能力はかなりえぐいことで有名でしてね」


 身体の中で生きているハリガネムシは、別の身体に入り込むことで意識を奪い、自由自在に操る事ができる。

 オリジナルはそれをやる間もなくコックピットごと弾け飛んでしまったわけだが、その遺伝子は鎧と言う形で保存されていたのだ。


「リブラは大きさ3センチにも満たない小さな寄生虫です。マスクをつけられた人間の脳に入り込み、肉体を操作するってわけですよ」

「脳に……?」


 脳が人体にとってどれだけ大事な器官なのかは、シデンとて理解している。

 問題はそこに小さな寄生虫が住みついているという現実だ。

 シデンやエイジでは、マリリスの身体を傷つけずに寄生虫を葬る事は出来ない。


「君の命令で動いてるんだろう。それなら、寄生虫をマリリスからとるんだ!」

「そうはいきません」


 メラニーが鋭い眼差しでシデンを睨む。

 銃を突き付けられ、絶体絶命の危機だと言うのに彼女はやけに落ち着いた様子だった。


「撃てないとでも思ってるの?」

「いいえ」


 僅かに首を横に振る。

 メラニーは肩を落とし、口を開く。


「私は、ただお姉様の仇をとりたいだけです。だから、虫は剥がしませんし、剥がせません」

「剥がせない?」

「そーですよ。虫は肉体に寄生した後、身体の栄養素を採取することで生きていきます。だから、一度寄生したら決して剥がすことはできません」

「そんな……」


 では、マリリスはずっとあんな風に暴れるだけなのか。

 運悪く巨大チューリップに飲み込まれただけで、彼女は最愛の同居人を失った。

 その上、まだ彼女から何かを奪おうと言うのか。


「腐ってる!」

「何とでも言えばいいじゃないですか。それより、お友達はそろそろ限界みたいですよ」


 背後から激突音が聞こえた。

 反射的に振りかえる。

 マリリスの背中から蝶を連想させる羽が生えており、それがエイジを弾き飛ばしていた。

 近くの花屋の中へと吹っ飛ばされたエイジに振り返る事も無く、シデンを睨みつける。


「リブラ、何してるんですか! コイツもやっちゃってください!」


 メラニーがシデンの腕を掴み、リブラに命令する。

 その行動に戸惑ったのはシデンだった。

 なぜなら、彼女が捕まえている手には未だ銃が握られているのだ。


「死ぬ気なの!?」

「だって、こうでもしないとお姉様の仇は取れないでしょう!? 今が絶好のチャンスなんですよ!」


 数か月前に王国から脱走する際、メラニーとはほんの少しだけ言葉を交わした。

 しかし、あの時は死んででも敵を倒すという気迫は無かったはずだ。

 豹変したと言っても過言ではない少女の態度に、シデンは困惑を隠せない。

 彼女は今にも泣きそうな顔で呟く。


「もう、こうでもしないと私はあの方のお役に立てないんですよ。それなら、お姉様の無念を晴らすために私の命を支払います。貴方たちを見逃したてしまった、愚かな私への罪として!」

 

 リブラが迫る。

 強靭な脚力に物を言わせ、一瞬でシデンの元へと飛び込んできた。

 構えるのは、人体を軽く切断する大鎌。

 シデンの脳裏に、ゾーラの馴れの果てがフラッシュバックする。


「くっ!」


 反射的な行動だった。

 引き金が引かれる。

 メラニーの被っていた三角帽子が吹っ飛んだ。

 彼女の手が緩んだのを確認すると、シデンは素早くしゃがみこむ。


 大鎌がシデンの真上を一閃した。

 少女の赤が噴出し、生暖かい液体がシデンに降りかかる。

 彼は自身に飛び散ったそれを気にする素振りも見せぬまま、リブラの足首を掴む。

 凍てついた空気がリブラの両足にまとわりついていった。

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