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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『激ファイト! スバルvsカイト編』
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第170話 vs襲撃者と影蜘蛛と妖精と

 マサキから全てを託された時、カイトはかつてない重荷を背負った気持ちになった。

 22年の人生で他人の面倒を見たことはあれど、過去に例を見ない大荷物を背負った錯覚に陥ったものだ。

 だが、荷物は自分の足で歩きたがった。

 別に駄々をこねたわけではない。

 気付けば自然とそうなっていたのだ。

 勝手に他人の人生を背負った気になっていたが、彼は彼なりに自分の考えを持っていた。

 ただの荷物だと錯覚していた頃は、言い争いも目立ったものである。

 思えば、何年も同居しておいて喧嘩したのはヒメヅルから出ていってからが始めてだったかもしれない。


 当初は背中に隠れるだけだった筈の少年は、意外と手早く自分の隣に立ってた。

 今にして思えば、マサキが望んでいた光景はこんな感じだったのだろうか。

 本人に聞く機会はもう二度とないので、実際はよくわからない。

 ただ、もしも今マサキがいたら、きっと微笑みながら後ろで見学してるんだろうと想像してしまう。


『えらい気分がよさげじゃないか』

『ああ、きっとこれが俺に託された物だったんだ』

『意味わかんないけど、今回は素直に祝福してあげようかな。私は空気の読める女だからね』


 体内に寄生したエレノアの声が脳に響く。

 筐体の画面が対戦画面へと遷移すると、カイトの意識は画面の世界へと集中し始める。

 彼がいるのは小さな島国のゲームセンターではない。

 筐体の中に広がるポリゴン世界。

 荒野と寂れたビル群だけがこの世界の全てだ。


 向かい合うようにして相対するイレイザーとダーク・ヒュドラ。

 

「ほう、双方ともにミラージュタイプか。まあ、ここは美しく予想できるところではある」


 解説の石鹸仮面が真面目な口調で喋り出す。

 まず司会席が注目したのは、2機の装備品だ。


 最初に注目するのはカイトのイレイザー。

 漆黒のボディが不気味な輝きを放ちつつも、しなやかな脚部により軽快なステップが期待できるマシンである。

 元となった夜天狼はそういう機体だ。

 ところが、そこに異質さを放つ物体が幾つか付属している。


「まずはポッポマスターのイレイザーですが、なかなかえげつない武器を持っています」


 威力が、ではない。

 外見的な話だ。

 イレイザーは両手に大鎌を所持しており、自身の身の丈以上もある曲刃が獲物を刈り取らんと光り輝いている。


「あれは現実のブレイカーの特注武器としても売り出されている、オスカー社製の接近武器。デスサイズだね」


 目立つ武装を目の当たりにし、同じく目立ってしょうがない石鹸仮面が言葉を漏らす。


「大きさがある分、一振りは非常に強力ではある」

「コンボを繋げてダメージを稼ぐのではなく、一発で大ダメージを期待する武器なわけですね!」

「その通り! だが、当然ながら強力な武器には弱点があるものだ」


 デスサイズは威力が強力な分、振りかぶらなければならない。

 つまり、攻撃の発生時間に時間がかかるのだ。

 あくまで他の接近武器と比べて時間がかかるだけなのだが、それだけの時間があればスバルは容易に差し込めるだろう。


 だが、当然ながらそれをカバーする武装も用意してある。


「あまり見ないのは背中に取り付けられている物体ですね」


 赤猿が早速注目する。

 イレイザーが背負っている丸い物体に観客の視線を集中させたと同時、早速カイトは行動に移した。


「おおっと、これは!」


 イレイザーの背中に取り付けられていた丸い物体が切り離される。

 まだ戦闘開始から10秒も経っていない。

 最初から取り外して使用することが前提のパーツなのは一目瞭然だった。

 地に斬り捨てられた丸い物体は、外装が切り離されると8本の黒い線を伸ばして移動を開始する。

 まるで蜘蛛だ。

 ブレイカーサイズの蜘蛛が、イレイザーとは別に筐体の世界を徘徊を始める。


「なんじゃありゃ!?」


 これまでに見たことがない武装の出現に、エイジは戸惑いを隠せない。

 そんな彼の疑問を汲み取ったのか、石鹸仮面が至極丁寧に解説してくれた。

 意外な事に、彼はブレイカーの知識が豊富だった。

 半裸で変質者なのに。


「あれは機動ユニットのひとつ、『シャドウスパイダー』と呼ばれるものだ。本来、ブレイカーは背部に追加パーツを取り付けて臨機応変に対応できるのだよ。良い子の諸君、テストに出るから是非とも勉強したまえよ」

「ご教授ありがとうございます!」


 赤猿が律儀にお辞儀をした。

 意外と良いコンビかもしれない。


「話を戻しますが、シャドウスパイダーを選択したポッポマスターの意図はなんだと思いますかね?」

「機動ユニットは、敵影を確認すると自動的に攻撃を開始する置物といっていい。まあ、単純に考えればデスサイズで捉える為の設置だろうね」


 ただ、石鹸仮面は思う。

 このご時世、ミラージュタイプは単騎での機動性が求められる時代だ。

 敵が空に飛んでいる以上、それを追うには背中に飛行ユニットをつけるのが手っ取り早い。

 機動ユニットはいささか時代遅れの武装だった。

 実際、ある程度動く設置武器を置いたところでスバルには何の影響もないだろう。

 彼もまた、ハイスピードバトルを得意としている。

 自分よりも遅い機動ユニットを振り切ることなど、造作もないことだ。


「まあ、それだけではないだろうが」


 口を開いた瞬間、イレイザーが再度動いた。

 腰が扇状に展開し、いくつかの黒い影が射出される。

 先端が尖った、ミサイルのような何かだった。

 それらは早速接近してくるダークヒュドラに向かい、真っ直ぐ飛んでいく。


「なるほど、フェアリーを選ぶか!」

「遠隔誘導ユニットですね!」


 遠隔誘導ユニット。

 通称、フェアリー。

 射出された兵器を文字通り遠隔操作し、砲撃を行う武器である。

 基本的に相手の周囲を取り囲む事から、取り囲み砲とも呼ばれている攻撃法だ。


「いやぁ、しかし私始めてみましたよ。あれをミラージュタイプで使う奴を」


 しらじらしい口調で赤猿が解説に入る。

 言葉だけで説明するなら、フェアリーの操作はとても簡単に表現できる。

 本来操作に使う操縦桿とは別の操作パネルを使い、ユニットひとつひとつの誘導を行う。

 これだけである。

 言葉だけで言えば簡単だが、これが非常に難しい。

 なにせ本来の操縦とは別の操作にも目を光らさなければならない上に、射出した数だけ命令を与えなければならない。

 使い慣れた者でなければ、フェアリーの操作だけで手が埋まってしまう。

 機動性を売りにしているミラージュタイプなら尚更だ。

 素早い動作と同時並行で複数のフェアリーを操作するなど、普通の人間ができる所業ではない。

 もともとは相手の攻撃を耐えるアーマータイプ前提の武装だ。


「射出されたフェアリーはなんと10個!」

「ほう!」


 単純に計算してしまえば、本体の操作を含めて11もの機体を一斉に動かしていることになる。

 いや、シャドウスパイダーのことも考えれば12か。

 

「つまり、1対12なわけだね」


 石鹸仮面が結論付けると、10の妖精は一斉に射撃体勢に入る。

 先ずは直線状にいるダークヒュドラの動きを牽制する流れだ。


「ポッポマスターの手の動きは!?」

「もはや解説しても、その間に別の動きが入って解説しきれんねこれは」


 傍から見て、カイトの動きはとてもゲームセンターで見るような物ではない。

 サブパネルを見ないまま左手で操作し、10もの妖精を操るのその姿はまさに人形使いといえた。


「す、すごいです……1週間であんなのをマスターするなんて」


 遠目で観察するマリリスにも、その手の動きのすさまじさが判る。

 かつて、家に届いたパソコンをかっこよく使ってみたいと思い、ブラインドタッチに挑戦したが結果は惨敗だった記憶があった。


「1週間? 冗談じゃねぇ」


 吐き捨てるようにエイジが言う。


「もっと時間があれば、20どころか100だって動かせるだろうよ」

「そうだね。あれくらいだったらボクでもできそう」


 元XXXの面々が口揃えて言う。

 マリリスは改めて彼らの適応力の高さを見せつけられた気がした。

 妙なベクトルではあるが。


「問題はスバルだ」


 エイジの双眸がイレイザーと相対するダークヒュドラに移る。

 武装面において、彼は最悪の相性の敵と戦う事を迫られていた。

 ヒュドラは接近用の武装しか所持していないのだ。


「やっぱり、敵がカイちゃんだと思ってそっちばかりに意識がいっちゃうのかな」

「斬り込んでくる武器を持っているのは正解だが、遠隔誘導ユニット主体だとは思わなかったみたいだな。見ろよ」


 エイジが指をさす。

 視線を向けてみれば、顔中汗まみれのスバルの姿があった。

 見るからに予想が外れて困り果てた顔をしている。

 あの少年はリアクションがよすぎるのだ。


「これはイレイザーがかなり有利だな。飛行ユニットを採用している分、単体機動力ではヒュドラが圧倒していても、イレイザーのフェアリーやシャドウスパイダーを撃ち落す武器がない」

「斬り込もうものなら、その動作をしている最中に別のフェアリーが撃ちこんでくるわけだね。そして体勢を崩された時には、あの鎌でズバっといっちゃう」

「そんな……」


 マリリスが愕然とした表情でエイジとシデンから視線を逸らし、スバルを見やる。


「リアルならもうちょっとなんとかなってるかもしれねぇ。だが、これはゲームだ。動作も決まりきっている」


 ゆえに、アドリブの方向も限られている。

 無敵時間やダウン判定などの要素もゲームならではだが、現実には持ち込めない。


「一番最初の読みはカイトの勝ちだ。身内読みの裏をかいてきたからな」


 問題は実際の戦闘。

 お互いの武器と機体性能を活かし、どんな戦闘を繰り広げるのか。


 仲間たちが予想する中、フェアリーが一斉射撃を開始した。

 対するダークヒュドラは、回避行動をとって射撃を躱す。

 スバルもわかっているのだ。

 一撃でも食らうと、フェアリー特有のコンボでお手玉をされ、最終的にはイレイザーに真っ二つにされてしまうことに。


 だからといって、フェアリーだけに気を取られてはいけない。

 ゆっくりとこちらの動作を伺い、確実に捕まえる為のシャドウスパイダーも控えている。

 控えているのだが、しかし。

 どうあがいても、シャドウスパイダーがいる方向に近づかざるをえなかった。

 フェアリー包囲網の脱出口が、そこしかなかったからだ。

 

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