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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『激ファイト! スバルvsカイト編』
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第167話 vs楽しみ

「一緒に遊んだことがないっ!?」


 あまりの発言を前にして、エイジが机を思いっきり叩く。

 人数分配られたコップが一瞬宙に浮かび、再び着地した。

 容器の中に注がれたオレンジジュースが揺れる。


「冗談でしょう?」

「本当だ」


 シデンの疑いの眼差しを受けつつも、カイトは腕を組んだまま答える。

 彼はあくまでマイペースに、冷静な態度のまま続けた。


「蛍石家に転がり込んだ時、アイツは12歳だった」

「まあ、計算したらそうなるね」

「当時の俺は拾ってもらった手前、なんとか働いて飯の分を返さなければならないと躍起になっていた。だからスバルよりもマサキに足が行く」


 何度かスバルに助けを求めることもあったが、それらは全てビジネス上での副産物だ。

 カイトは自分から遊びに誘った事はない。

 この当時はエリーゼとの一件もあり、カイトは他人との距離をとりたがっていた。


「ついでに言うと、スバルには既に友人がいた。俺が働いている間、アイツは友達とゲームをしてる。帰ってもゲームをしてる。アイツは俺が家にいても、やることが特に変わらない」


 強いて言えば、勉強の手助けくらいだろうか。

 中学に入学してテストの点数が重要視されてから、やけに教えてくれとせがまれた気がする。

 スバルと長い間会話したのも、テスト勉強くらいだった筈だ。

 受験シーズンは濃厚な時間を過ごしたと思う。

 思い出しただけで隈が出来てしまいそうだ。


「信じられません。あんなに仲が良さそうなのに」

「確かに。君たちの間には、XXXとは違う信頼関係があるように思えたのだがね」


 マリリスやアーガスが疑問の言葉を投げるが、それでも事実は変わらない。

 長時間勉強を教えた事で多少懐かれたのだろうが、それだけだ。

 その関係に少し変化が訪れたのは、マサキの死後になる。


「マサキが死んだとき、俺は世話になった蛍石家の為にスバルを助け出さないといけないと思った」


 ところが、だ。

 そこから予定外の出来事が多々あった。

 スバルによってゲイザーをやりすごし、シルヴェリア姉妹やエイジたちと和解するきっかけができた。

 ずっと隠してきた弱みを見せても、彼は変わらず接してくれた。


「多分、アイツを友達だって認識したのはアキハバラでサイキネルとやりあってた時だ」

「ああ、お前が土下座した奴か」

「あれはカイちゃんがデレた貴重なシーンだったね。今度ヘリオンの為にも録画しようよ」

「やかましい」

「そんなことがあったのか……」


 ちょっと残念そうに俯くヘリオンを睨み、黙らせてからカイトは続ける。


「でも、考えてみたらアイツと友達らしいことをした記憶は何もない」

「ううん、言われてみれば確かに……」


 カイトと比べれば付き合いは短いが、それでも半年近くふたりの近くにいたエイジたちですら唸り始めた。

 アメリカで星喰いとの戦いに備えていた時、カイトはほぼイルマに付き纏われて司令官としての仕事をこなしていた。

 トラセットでの新生物の一件でも、早い段階で別行動をとっていたのだ。

 アキハバラから芽生えた感情なのだとしたら、確かに遊ぶ時間が無かったように思える。


「だから、今回の件は正直に言うと楽しみなんだ」


 楽しみ。

 そんな言葉がカイトの口から出たことに、仲間たちは騒然となる。

 隣で退屈そうにあやとりをしていたエレノアに至っては、椅子から転げ落ちていた。


「なんだ、その反応は」

「いや、なんというか……ちょっと、意外で」


 てっきりいつもの調子で『来るなら来い。ぶっ壊してやる』と言わんばかりの勢いでスバルを叩きのめすつもりなのかと思ってしまった。

 ヘリオンは申し訳なさげに後頭部を掻くと、確認の意を込めて問いかける。


「じゃあ、スバル君を怒らせるように誘導したのかい?」

「まさか。そこまで器用じゃない」


 ただ、思う事があったのは事実だ。


「獄翼やチョンマゲの一件で、アイツは精神的に相当参っていた。だから、職に就けなかった俺がなんとかフォローできればいいと思ってな」

「それで普段やらないゲームに手を付けたわけ?」

「ああ。アイツに何かあった時のことを考えて、常に獄翼の操縦には目を光らせていたのが幸いしたよ」


 幸いというよりかは、不幸であると仲間たちは考える。

 なんの因果か、スバル負傷の時のことを考えてブレイカーの操作を観察していたのが本人を追い込んでいようとは。

 皮肉であるとしか言いようがない。


「アイツが俺に対して憤りを感じているのは理解している」


 カイトはトラセットでの出来事を思い出す。

 自分が眠っている間に、スバルは同じ旧人類の友人を得た。

 だが彼は新人類の優秀な兄に対し、コンプレックスを抱いていたのだ。

 結果として、それが災いに発展してしまったのはよく覚えている。


「今のアイツはアスプルに似ている」

「ほう」


 兄のアーガスが僅かに眉を動かす。


「多分、似たような悩みを抱えている筈だ。なんとなくだが、雰囲気が似ている」

「……だとすれば、危険ではないかね」


 弟の末路を知っているがゆえに、アーガスは慎重になる。

 というか、そこまで理解できているのであれば少しはフォローしろと言いたい。


「カイト。僕はアスプルという人物について深くは知らないから言及する気はない」


 ヘリオンが眉間にしわを寄せ、射抜くようにしてカイトを見る。

 僅かに放たれた威圧感を物ともせぬまま、カイトはヘリオンの言葉を待った。


「だが、そこまで気付いているのならもう少し彼のプライドを尊重してやったらどうだ。付き合いが長いなら、君の方がよく理解できているだろう」


 たった1週間程度の付き合いしかないヘリオンだってスバルが悩んでいるのを理解してしまったのだ。

 誰よりも近くにいたこの男が、少年の逆鱗に気付かない訳がない。


 ところが、


「なぜだ」

「なぜって」

「勝負を仕掛けてきたのはアイツだ。俺にとっては願ってもない話だが」

「なんとか解決した後に、また誘えばいいだろう!」

「それだと意味がない」


 今にも飛びかかってしまいそうなヘリオンを一瞥し、カイトは言う。


「アイツは今、心のどこかにある爆弾を抱え込んでいる」

「爆弾?」

「自分が壊れる爆弾だよ」


 なにかの比喩だろうか。

 珍しくハッキリしない物言いをするカイトに訝しげな視線が集中する。


「昔は……いや、ちょっと前かな。俺もそうだった」


 エイジとシデンに視線を向け、またヘリオンに戻す。

 半年前に襲い掛かってきた圧迫感は、あれから一度も襲い掛かってはこない。


「でも、それは自分の首を絞めてるだけなんだ。自分で勝手に結論付けて、自分で苦しんでる」

「それなら、尚更」

「だから、自分で気付かなきゃいけない」


 言っちゃあなんだが、スバルは自分以上に頑固だというのがカイトの評価である。

 今、自分が言葉を投げてもきっと逆効果だろう。

 多分、スバルには言葉以外の方法が一番いい。


「なあ、ヘリオン。お前、友達いるか?」


 突拍子もない質問だった。

 問われた本人は戸惑いつつも、ここに来てから出会った何人かの人物の顔を思い浮かべつつ、いう。


「いるよ」

「そうか。なら、友達と遊んでる時って、自然と楽しくなると思わないか?」

「それは、」


 状況にもよるのではないか、と言いかけたところでヘリオンは気づく。

 カイトがやろうとしている『荒治療』に、だ。


「待て。僕は君の考えに賛同できない」

「まだ何も言ってないが」

「なんとなくわかった。正直、君がそんな精神論で来るとは意外だったよ」

「変わったんだよ。良い傾向だろ?」

「ああ、確かに。できればもっと早いうちに今の君と出会いたかったね」

「そうか」


 ちょっとした皮肉で言った冗談も、カイトは平然とした態度で受け流した。

 こんなところは何時も通りだった。


「これはゲームだ。君は知らないかもしれないが、ゲームが発端になって友人同士が絶縁状態になることだってある」


 教育者としての経験だった。

 ヘリオンは過去に、そういった出来事で疎遠になってしまった子供の姿を見たことがある。


「やるにしても、もっと手段を選ぶべきだ」

「選んでるよ。だから赤猿はアイツと友人になれた。カノンも、アウラも」


 俗に言う友情破壊ゲームが存在していることはカイトも承知済みだ。

 しかしブレイカーズ・オンラインに関して言えばそんな心配はしていない。

 既にスバルが実績を立てている。


「それに、アイツが抱えてる爆弾はこのゲームに関係している。俺とこのゲームから目を離すようなことがあると、そのままズルズルと引きずるだけだ」


 だからこそ、決闘宣言は都合がよかった。

 自分の目的とも合致していてわかりやすい。

 意識していなかったとはいえ、スバルを傷つけたのは素直に申し訳ないと思っている。

 だが遅かれ早かれ、いずれ訪れた問題のようにも思えた。


「ヘリオン、俺は真剣にアイツと向き合うよ。その為にこの1週間、本気でこのゲームをやるつもりだ」

「君が勝ったら、彼はどうなる?」

「真剣勝負で手を抜かれて、それで勝ったところで嬉しいと思うか?」


 首は縦に振る事が出来なかった。

 今日のスバルの様子を見ても、真っ向勝負に対する入れ込み具合は半端ではない。

 だからこそ不安に思う。

 傍から見て、スバルのゲームに対する情熱は異常だ。

 ヘリオンは湧き上がる頭痛を抑えるようにして、手を添えた。


「彼は、自分にはこれしかないって言ってたぞ。ああいうタイプは思い詰めたら厄介なんだ」

「そうだろうな。実際、否定材料はあんまりない」


 ヘリオンの不安を感じとったのか、カイトは柔和な笑みを作る。

 穏やかな表情のまま紡がれる言葉は、ヘリオンの感じる不安要素を吹き飛ばすかのようにして放たれる。


「でも、俺はアイツと本気で遊べるのを楽しみにしてるよ。俺がそういう気持ちになってるっていうのじゃ、説得力に欠けるか?」


 ヘリオンは溜息しか出てこなかった。

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