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第156話 vs白羊神

 敵を倒す武器としてイメージしたのは剣だった。

 左手から無限に伸び続ける、光の刃。

 白羊神の赤い閃光が野太いビーム砲であれば、それすら超える野太い剣を放出してみせる。

 カイトはそんなイメージを続けながら、白羊神に接近戦を試みた。


『ファッキン!』


 必殺の一撃を防がれた直後、白羊神の背部が砕け散る。

 比喩ではない。

 文字通り、背中のパーツがパージされたのだ。


「なんだ?」


 その後生えたのは、光の翼。

 まるで血が噴出しているかのように赤い輝きを放ちつつ、翼は大きく羽ばたき始める。

 風圧を受けるのを感じた。

 直後、肌に焼き焦げるような感覚を覚える。


「熱風です! 近くで浴びれば装甲が溶けかねません!」


 コックピットの中でマリリスが叫ぶ。

 その忠告を聞き入れると、カイトは勢いをつけたまま急ブレーキ。


「激動神モドキから超エネルギー反応! もう一度さっきのが来ます!」

「今度は空からかよ!」


 白羊神が上空に浮かび上がり、両拳を構えだす。

 半年前なら今頃『ファッキン! なぜ当たらないんだ、畜生!』などと言って地団太を踏んでいたんだろうな、とカイトは呑気に思う。


『……いや』


 だが、同時に思った。

 そういえばサイキネルにしてはやけに大人しい気がする。

 確かにファッキンの言葉は聞こえるが、それ以降がないのだ。

 あれだけ感情豊かで、尚且つ武器にしている人間が馬鹿のひとつ覚えのように特定の言語しか話さなくなった。

 同時に、ブレイカーの出力だけが大幅に上がっている。

 まるでサイキネルの形をした人形と戦っているようだ、と感じた。


『そうか。あいつは鎧か』

「ヨロイぃ!?」

「あれも!?」


 カイトが出した結論に、コックピットが騒がしくなる。

 当然だ。

 彼らは先程、その鎧に殺されかけたばかりである。


『本物より大人しくて、冷静に戦う事に務めているように見える。たぶん、間違いないだろ』

「確かに、本物は挙動がイチイチ激しかったからね……」


 地団太が唯一の弱点にして、こちらの命を救っていたとスバルは思う。

 その動作を一切排除すれば強いに決まっていた。


「いや、でも! そうだとすればやばくないか!?」

『なぜ』

「なんでって……鎧なんだろ! めちゃめちゃ強いんだろ!?」


 あんまり理由になっていない気がするが、スバルが危惧する理由もわからんでもない。

 始めて遭遇した時に『こいつは危険だ』と教えたのはカイトだし、実際自分は負けた。

 シデンも負けた。

 そして己の欲望のまま彼らに勝負を仕掛けた、月村イゾウも――――


「まさかと思うけど、アンタ半年前に負けたからムキになって戦ってるんじゃないだろうな!」

『馬鹿を言うな。それなら俺だってチョンマゲと一緒に残ってる』


 なにやら思う事があるのだろう。

 スバルの口調が責める方向へと向かっていた。

 しかし、カイトにしてみれば勘違いもいいところである。

 なぜなら、


『それに、もう一匹倒した』

「え?」

 

 そうだ。

 紫色の鎧は倒した。

 だから、ブレイカーに乗っていようが、あいつを倒すこともできる筈だ。

 中の友人たちのリアクションが大マジに発展する前に、カイトは行動に出た。

 腰に装填されたダガーを引き抜き、宙へ放る。

 直後、獄翼は刃に向かって蹴りを叩き込んだ。

 ダガーが鋼の蹴りによって弾き飛ばされる。

 刃先が向く先には、白羊神。


『ファッキィン!?』


 心なしか、発音に変化があったように思えた。

 驚いたように白羊神が後ろに引くと、ブレイカーのボディを丸ごと赤い光がつつむ。

 飛ばされたダガーは、光に接触して弾かれていった。


「ああ、おしい!」

『これでいい』


 最初からダガーで倒せる相手だと思っていない。

 攻撃態勢に入った以上、バリアを張って確実に防ぐだろうなと思っただけだ。

 カイトの狙いはそこにある。


『自分を包むバリアなんだ。移動できないだろ』


 獄翼が再び跳躍する。

 ばちばち、と音を立てながら左腕が輝き始めた。

 黄緑色に輝くそれを前に突き出すと同時、光が掌から勢いよく飛び出していく。


 それを一言で言うのであれば、剣であった。

 獄翼の左腕から伸びる、巨大な剣。

 黄緑色に輝くそれは、ぐんぐん伸びては白羊神に接近する。

 だが、問題があった。


「バリアあるよ!」

「赤いのも突き出されます!」


 スバルとマリリスが各々感じた問題点を挙げていく。

 それらに対し、カイトは一言で返した。


『まとめてぶった斬る!』


 白羊神の両拳から、赤の螺旋が解き放たれる。

 ルビーのような輝きを放ちつつも、巻き込んでいくものを全て破壊し尽くす殺戮の赤。

 襲い掛かってくる殺意の塊を前にして、カイトは左腕を大きく振りかぶった。


「2分切った!」


 問題ない。

 少し前はあの技に両手を焼かれたこともあった。

 実際、獄翼が直撃を受ければパイロットごと消し炭になっていることだろう。

 しかし、負ける気がしない。

 左腕に凝縮されたイメージの結晶を振りかざし、カイトは思いっきり叩きつけた。


 赤の殺意と黄緑の殺意が激突する。

 

 眩いフラッシュが炸裂した。


「うわ!」

「きゃぁ!?」

「くっ……!」


 あまりに強烈な輝きに目が眩み、コックピットの三人は瞼を閉じる。

 反射的な行動であった。

 しかし、メイン操縦席に座るスバルの両手はその間もずっと操縦桿を握りしめている。

 自分の意図しない方向に、大きく腕を曲げるのを感じた。


 以前にも似た動作を行った記憶がある。

 あれは確か半年前のアキハバラ。

 檄動神とやりあった頃の出来事だった。


 今、思い返しても非常に馬鹿馬鹿しい『技』ではあったが、カイトを放り投げた事がある。

 あの時の動作は、野球のピッチャー宜しく振りかぶっては、そのまま上から下に投げつけるような感じであった。

 操縦桿の握りは、丁度今のような感じだ。


「……勝った」


 目を閉じたまま、スバルは呟く。

 ややあった後、スバルは目を開けて眼前の光景を確認する。


 身体の右半分が綺麗さっぱりなくなった白羊神が宙に浮いていた。

 拳を突き出したままの体勢でいるそれは、まるで時間が止まってしまったようにも見える。白羊神はそう思える程、ぴくりとも動かなかった。

 ばちん、と火花が散る。

 青白い発光が見えた直後、白のブレイカーが爆炎に包まれた。


「……ふぅ」


 やっと解放される。

 その安堵からか、溜息が出た。


『機体限界!』

「え?」


 勝利の余韻に浸かる間もなく、警報音が鳴り渡る。

 ヘルメットを乱暴に脱ぎ捨てた後、スバルはモニターに新たなアイコンが飛び出しているのを確認した。

 メッセージアイコンを表示させる。


『左腕損傷率88パーセント!』

『危険! 急ぎ、外部ユニットに接続してください!』

「え? え?」


 ぶわっと飛び出してきたエラーメッセージを前にして、慌てるスバル。

 そんな彼に憤りの感情を隠さないまま、シデンが蟀谷を抑えつつ教えてくれた。


「ね、ねえスバル君」

「どしたのシデンさん。そんな青筋立てちゃって。可愛い顔が勿体ないよ!」


 我ながら臭い台詞であった。

 しかし、そうでも言っておかないとシデンが殴り掛かってきそうで怖かったのである。

 見れば、シデンの横でマリリスがオドオドしていた。


「今、獄翼ってどんな状態?」

「左手がオーバーヒート。そんでもって……」


 その前に受けたダメージのことを思いだす。

 右腕の大破。

 熱を受けて溶けかかった装甲。

 弾丸のかすり傷。

 そして切り離した飛行ユニット。


「あ」


 そこまで思考を働かせた瞬間、スバルは理解する。

 彼が口を開く前に、獄翼から意識が戻ってきたカイトがヘルメットを放り捨てつつ怒鳴った。


「おい、なんでシステムをカットした!? 今、俺達が宙にいるのを忘れたか!?」

「飛行ユニット切り離したの忘れてた!」


 悲鳴が轟いた直後、獄翼が落下する。

 カイトの脚力で跳躍した獄翼は、バランスを失いながら地面に叩きつけられた。

 

「ぼふぁ!」


 パイロットを衝撃から守る為のエアバックが顔面に炸裂する。

 一瞬、息が止まりそうになったのに冷や汗をかきながらスバルは後方に振り返った。


「みんな、大丈夫!?」

「貴様のせいで大丈夫じゃない」

「なんで飛行ユニット外したの忘れてるのさ……」

「ごめん。いつもついてたからてっきりついてるもんだと……」


 最初のアラートはあくまで左腕の損傷を訴えるだけの物だった。

 しかしながら、緊張の糸が切れた少年は何事も無かったかのように宙でヘルメットを外してしまったのだ。

 後部座席に座る友人たちのジト目がスバルに突き刺さる。


「ていうか、カイトさんもなんで飛行ユニットを切り離したのさ!」

「邪魔だろ、あんなデカイ物背負ってたら!」


 確かにでかい。

 ハングライダーを背負いながら素早い動きができるかと言われた気がした。

 それを思うと、スバルはカイトを非難しきれない。


「す、スバルさぁん……機体損傷率が7割を超えました」


 エアバックに顔面を叩きつけられ、軽く涙目になった状態でマリリスが報告する。

 機体損傷率70パーセントオーバー。

 白羊神から受けたダメージは殆ど致命傷には至っていないことを考えると、カイトの左目から取り込んだエネルギーが相当負担になっていたらしい。


「カイトさん、治せる?」

「無理だ。俺を取り込んで修復するなら、もうとっくに治ってる」

「じゃあ、獄翼は――――」

「残念だが、な」

「……そう、か」


 修復が難しく、現在地が敵地。

 しかも出口の当てがない。これではデカイ的以外の何者でもなかった。


「とにかく、一旦エイちゃんと金髪のふたりと合流しよう。何時また次の敵が出てくるかもわからないし」

「そうだな。スバル、獄翼から一旦避難だ。隠れながら状況を見極めるぞ」

「いいけど、具体的にはどうするつもり?」


 コックピットのハッチを開きつつ、スバルが問う。

 彼らが閉じ込められた空間の穴は非常に厄介な場所であった。

 出口がわかるのはコメットのみ。

 そのコメットを探し出す為には、もう一度城の中へと戻らなければならない。


「また戻ったら、何の為にイゾウさんは……」

「それを含めて今から考えるんだ。いいな」

「……うん」


 開ききったハッチから身を乗り出し、スバルはウィンチロープを掴む。

 ただ、彼の気は晴れなかった。

 月村イゾウが別れ間際に言ったセリフが脳内に響き渡る。

 あの時、自分はイゾウの意思を尊重することを選んだ。

 だというのに、こうも簡単に引き返そうとしている。

 カイトはああは言った物の、現状を考えたら引き返さねばならない事くらいスバルにだってわかる。


 なんのためにイゾウを見捨ててしまったのだ。

 少年の両肩に、言葉にならない重圧がのしかかった。


 だが、その時であった。


「スバルさん、前!」


 後ろからマリリスが叫ぶ。

 振り返る間もなく、スバルは影に包み込まれた。


「え?」


 ウィンチロープを掴んでいた腕が引っ張られる。

 強力なパワーで外に放り出された後、スバルは自身を抱きかかえた人物を見た。


 アトラス・ゼミルガーだ。


 獄翼のハッチまで跳躍し、身を乗り出したスバルを捕まえたのである。

 そして抱きかかえて外に連れ出した。


「スバルさん!」

「アトラス、何のつもりだ!」


 シートベルトを急いで取りはずし、3人が顔を覗かせる。

 その様子を見て、アトラスは僅かに俯く。


「申し訳ありません、リーダー。色々と考えたのですが」


 アトラスは心底申し訳なさそうに俯いたのち、スバルの顎を抑える。

 力づくで自身の顔に向けさせると、続けた。


「あなたに戻ってきていただく為には、やはり彼は邪魔なんです」

「何を言ってるの、君」

「リーダーのいない王国なんて、どうでもいい。でも、旧人類のサルにいいように使われているあなたを見るのは、我慢ならない」


 アトラスは見ていた。

 カイト達が脱出した後、迷宮が溶けたら、これ幸いとでも言わんばかりに外へと飛び出したのだ。

 そして彼は獄翼と白羊神の戦いを見た。

 想像とは懸け離れた、あまりに情けない姿に愕然とした。

 スクラップ寸前の獄翼を指差し、アトラスは言う。


「一緒に乗ってる新人類の力を借りなければなにもできない。皆さんはいいように扱われているだけだ!」


 その事実が、アトラスには我慢ならない。

 尊敬するカイトやシデン、エイジたちがこんな奴の為に命を賭けなければならない理由が、見当もつかなかった。

 ゆえに、アトラスは提案する。


「だから私はここで彼を殺します。皆さんの為には、彼は邪魔なんですよ」


 報告によれば、カイトが反乱を起こした理由はこの少年にあるのだという。

 ならば、彼がいなくなればリーダーは旧人類の連中の側に立つ事はない。

 アトラスはそう考えた。


「そんなわけだからさ。みんなの為に死んでよ」


 アトラスの表情が歪む。

 悪意も何も感じられない無垢な微笑を前にして、スバルは何も言い返すことができなかった。

次回は日曜の朝に更新予定。

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