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第155話 vs光の球

「無事かね、御柳君!」


 アーガスが華麗に着地を決めると、エイジのもとへと駆け寄る。

 傍から見ればエイジの技は見事に決まっていた。

 事実、タイラントの背中も『く』の字に曲がっているし白薔薇も突き刺さっている。

 死んではいなくても、気を失うくらいまでは追い詰めた筈だ。


 だが、エイジの受けたダメージも大きい。

 アーガスは素直にそう分析していた。

 靴は弾け飛び、皮膚が剥き出しになっている。

 所謂、裸足というやつなのだが破壊のオーラに触れた足は既にボロボロだ。

 火傷したかのように黒焦げで、見るからに痛々しい。

 よくもまあ、こんな足で着地したもんだ。


「歩けるか?」

「……ちょっと、無理かも」


 タイラントの身体を乱暴に放り捨てると、エイジはふらついた足取りで前進する。

 このままだと遅かれ早かれ倒れてしまうだろう。

 一目見ただけで分かる。


「さあ、肩を貸したまえ」

「いやだよ。おめー、なんか匂いがきついし」


 鼻を抑えて拒絶された。

 それはそれで悲しいが、今はそれどころではない。

 タイラントをなんとか退けた今、急いでこの場を避難しなければならなかった。


「言っている場合ではないぞ御柳君。美しい我々は戦友の邪魔になってはならんのだ」

「え、お前戦友だっけ?」


 真顔で言われた。

 アーガスは笑顔のまま凍りつく。

 自然と体育座りへとシフトしていった。

 どんよりとした暗いオーラを醸し出しつつも、地面に『の』の字を書き始める。


「酷い……酷いじゃないか。そりゃあ、私は最初君たちに迷惑かけたよ? でも、ここまで一緒に戦ったじゃないか。雨の中、風の中、雪の中、迫りくる怒涛の敵の中を突っ切っていった美しい記憶はどこへ捨ててしまったんだい?」


 そんな記憶あったっけ、とエイジは首をひねる。

 半年ほど前にこの男と始めて出会った時のことを思い出し、それから現在に至るまで記憶を早送りしてみた。

 どう考えても一緒に戦ったのは新生物の一件だけだった気がする。

 しかもこの男は首謀者だ。


「……あー」


 その事実を言葉にしようとして、喉元で抑え込む。

 多分、言ったら面倒なことになる。

 短い付き合いだが、この男の機嫌を損ねると非常に面倒くさい展開になるのは簡単に予想できた。

 それに、今回タイラントを倒せたのは彼の協力によるところが大きいのも事実である。

 認めたくはないが、それだけでも死線を共に潜り抜けたと言い切る事が出来た。


「悪かったよ。お前のおかげで助かった。さっさと退散しようぜ」

「うむ、そうしようではないか兄弟!」


 すっく、と立ち上がり風のような速さでエイジの肩を持つ。

 立ち直りの早い男であった。

 隣に立たれた際に猛烈な悪臭がエイジの鼻に襲い掛かるが、ぐっと我慢。

 悔しいが、早くこの場を離れなくてはならないのだ。

 自分たちがいたせいで獄翼が無茶をして大破してしまっては、元も子もない。


「おい、タイラントは倒したぞ!」


 獄翼に視線を向け、エイジが叫ぶ。

 肉声が巨大マシンに届くのかは少々疑問ではあったが、ブレイカーは隠密行動も想定されている為、外の人間の声も聞き取れるのだと聞いたことがある。

 で、あるならば特に問題はないだろう。

 問題があるとすれば、獄翼の体勢にある。


「……おい、なにしてんだ」


 獄翼の構え。

 左腕を腰まで引っ込めて、今にも正拳突きを繰り出してきそうな光景だった。

 というか、眼前にいる白羊神がまさにその体勢である。

 向こうは両拳に赤い光を放っているが、まさかあれに拳で対抗する気ではないだろうな。

 額から嫌な汗が流れる。

 獄翼から返事は返ってこない。

 いったい、あの中では何をやろうとしているのだろうか。


「確か、敵は鎧だったね」


 エイジに肩を貸しつつ、アーガスは呟く。


「ああ。アキハバラで俺たち4人がかりで倒した化物だ」

「なるほど。彼は君にそう言わせるか」

「知ってるのか」

「時田君とは多少話したことがある。可能性の溢れる新人類だったよ。それだけに、処刑されたのは美しくなかったがね」


 タイラントの言葉を思い出す。

 半年前、アキハバラで好きなだけ大暴れしていったサイキネルが処刑されたのだと、彼女は言った。

 エイジにはそれが信じられない。

 イゾウとシャオランが生きており、好きなように暴れていたのだ。

 当然、サイキネルも平然と生きていて、何時かまた目の前に現れるんだろうと考えていたのだが、しかし。

 現実には一番手強かった男が真っ先に殺されてしまった。


「もしかして、王国的に評価が低かったりしたのか」

「まさか。タイラントも言っていたが、彼は逆鱗に触れてしまった。それだけだよ」

「それだけだよって……あいつ、相当強かったぞ。少なくとも、街ひとつを荒野にするくらい余裕だろ」

「もちろん。彼のレベルだとそれも容易い。だからこそ鎧の候補に選ばれた」


 要するに、処刑された経緯はどうあれ彼の実力は本物だったのだ。

 逆に言えば、鎧という代用品ができたからこそ不要になってしまったのかもしれない。


「……質問してみてもいいか?」

「なんだね」


 サイキネルの評価を踏まえたうえで、敢えてエイジは問う。


「サイキネルの野郎と正面からぶつかって、勝てる奴はいるか?」

「1on1なら難しいだろうね」


 あっさりとした返答だった。

 同時に、ある程度予測できた返答ではある。


「やっぱり?」

「時田君のパワーは美しきオンリーワンだ。お世辞抜きでね。やろうと思えば、ひとりでなんでもやってしまうだろう」


 ただ、


「逆に言ってしまえば、正面からソレに勝つ事が出来れば……この勝負、我々の勝ちだ」






 獄翼のコックピットで、スバルがひとり汗を流す。

 神鷹カイトの提案は、正気を疑うものであった。

 既にSYSTEM Xを稼働させ、己の意思でカイトは獄翼を動かしている。

 止めようと思っても、スバルは彼の意のままに操縦桿を握るだけだ。

 できることなら、少し前の時間に戻ってカイトの意思を信じた自分を殴ってやりたい。


「いくらなんでも、正面からあれとやりあうなんて無茶だって!」


 スバルが叫ぶ。

 だが、カイトは一言つぶやくだけだった。


『うるさい。集中力が乱れるから黙れ』

「本当にあの星喰い並みのパワーが出るわけ!?」

『黙れと言っているんだ!』


 カイトの提案はいたってシンプルである。

 SYSTEM Xで自分ごと地球外生命体の超パワーを取り込み、それを白羊神にぶつけるというものだ。

 実際に怪物とやりあった事があるスバルやマリリスにしてみれば、納得できる攻略法ではある。


 ただ、いざSYSTEM Xを稼働させた時にこの男は言いやがったのだ。


『もし上手くいかなかったら、その時はなんとか避けてくれ』


 なんて丸投げな発言だろう。

 長年の付き合いが無ければキレているところだ。

 自分が提案したのだから、その内容をちゃんと保障しろと言いたい。


「スバル君」


 憤りしか感じられないスバルに、背後から声をかける者がいた。

 シデンだ。

 彼は真剣な眼差しでスバルを射抜くと、小声で語りかける。


「彼を信じよう」

「信じようって言われても、シデンさんも知ってるだろ。アレの威力」

「当然。戦ったのはボクだからね」


 だが、同時にカイトとエイジも戦った張本人である。

 その本人が言うのだから、十分当てはある筈だ。


「どちらにせよ、あいつを倒さないとボク等は動けない。そして、避けるだけじゃ勝てない。違う?」

「そうだけどさ……」


 現実は非情だ。

 ゲームの中のようにタイムアップで粘るなんて選択肢はない。

 勝ち負けが決まるまでの徹底的なバトルだけが求められるのだ。

 生きる為には、白羊神を倒さねばならない。

 そして、その当てがあるのがカイトだ。

 残念だが、今の所それ以外に選択肢はない。


「……頼むぜ、ホントに」

「神様、お願いします!」


 スバルが観念し、マリリスがお祈りし始めた。

 彼らにできることはない。

 ただ、カイトが上手くやってくれるのを願うばかりである。


「……ん?」


 マリリスの祈りに同調して神頼みをしようと思った、そんな時だ。

 獄翼のコックピットから警報音が鳴り響いた。

 カイトに身体を乗っ取られ、身動きの取れないスバルに代わってシデンがモニターを確認する。


「……なにこれ!?」

「どうしたの!」

「獄翼の出力が上昇中! 上昇しすぎてアラートが出てる!」

「はぁ!?」


 出力上昇。

 ここはいい。

 嬉しいことだ。

 だが、それで警報が出るとはどういうことなのだろうか。

 以前、カイトが全力疾走をしたせいで獄翼の脚部が倒壊寸前まで追い詰められたことがあるが、今はそんなに激しい動きをしているわけではない。


「ねえ、スバル君。なんか横にある赤いメーターが振りきれてるんだけど、これ大丈夫?」

「それってダメージ蓄積率じゃねぇの!?」


 シデンの言葉通りであるなら、間違いないだろう。

 なんてことだ。

 攻撃をする前から獄翼が悲鳴をあげている。

 これではいざ攻撃する時に機体が耐え切れないのではないか。


「カイトさん、出力落として! このままだとみんな爆発する!」

『断る』

「おい!」

『その前に、アイツを倒す』


 ダメだ。

 もはやこの男は目の前の敵しか見えていない。

 スバルは表情を引きつらせつつも、残り制限時間に目をやる。

 まだ本格的に動いていないとはいえ、既に1分が経過していた。

 この間、よく白羊神も待ってくれていると思う。


「カイトさん、後4分!」

『いいだろう。その時間で始末する』


 獄翼の背部から稼働音が漏れ始めた。

 背中に取り付けられた大型ウィング搭載の飛行ユニットが切り離され、地に落ちる。


 ずしん、と音が鳴り響く。

 その音がゴングとなった。

 獄翼は力強く地面を蹴ると、左手を振り上げて白羊神へと向かっていく。

 同時に、白羊神も動いた。

 凝縮された赤を前面に突き出したのだ。


「ここで!?」

「そりゃあ、チャージ終わってたんだから撃てる時に撃つよ!」


 きっとタイミングを見計らっていたのだろう、とシデンは予想する。

 カイトの左目から溢れ出すパワーは異常だ。

 ミラージュタイプが出せる出力を軽く上回っている。

 白羊神はそれを感じ取っていたのだろう。

 サイキックパワーを通じてか、センサーを通じてかは知らないが。


『騒ぐな! タイムだけ気にしてろ!』


 カイトが怒鳴る。

 赤の閃光を前にして、彼は怯む気配がない。

 獄翼の左手が振り降ろされる。五本の指から黄緑色に光る爪が伸びてきた。

 爪は掌の中で凝縮され、球体となる。

 普段使っている凶器とは別の代物だった。


『食らえ』


 左手に黄緑色に輝く光球が出現する。

 人間で言うところのバレーボールのサイズにまで膨らんだそれを宙に浮かせると、カイトは赤の閃光に向かってそれを思いっきり叩きつけた。

 光球が唸りを上げつつ赤の螺旋に吸い込まれる。


「ま、負けたんじゃないの今の!?」


 スバルが喚く。

 どう見ても今の球は攻撃なのだろう。

 しかし、それもサイキック・バズーカの赤い螺旋の中に消えていっただけだ。

 残り時間は『3:13』。腕の装甲も悲鳴をあげている。


『いや』


 カイトがぼそり、と呟いた。

 彼の言葉に呼応するようにして赤の渦巻きが弾け飛び、霧散していく。


「え!?」

「嘘!」


 突然の消滅に、スバル達は揃って驚愕した。

 しかし、敵の攻撃が突然消えた事に驚く一方で、また別の事実に戸惑いを隠せない人物がひとりいる。

 シデンだ。

 彼は後部モニターで見た。

 光の球がサイキック・バズーカに飲み込まれた後、赤いエネルギーの渦の中を切り裂いて白羊神に襲い掛かったのを、だ。

 肝心の光の球は間一髪のところで避けられてしまったが、回避行動に出たと言う事は相手側に十分な脅威なのだと思わせるだけの威力がある証明である。


 丁度赤の螺旋が邪魔してスバルやマリリスには見えなかったようだが、シデンは鍛え上げた視力がある。

 彼の目は白羊神の技を打ち破った事実を、確かに目に焼き付けていた。

 シデンは思う。

 

 勝てる、と。

 獄翼の装甲がカイトのパワーに耐えきれず、負荷がかかっているのがネックではあるが、どちらにせよ時間は残り少ないのだ。


「カイちゃん、左手の負荷率が高い! さっきのは撃ててもう一発が限界だよ!」

『わかった』


 了承の意を伝えると、カイトは再び白羊神に向かって走り出す。

 勢いに押され、強烈なGがスバルに襲い掛かった。

 顔の皮膚が歪んでいくのを感じつつも、彼は言う。


「勝て勝て勝て勝て!」


 カイトの意思に反応して、スバルの腕が超反応で操縦桿を操作する。

 己の手足の感覚がなくなりそうになりつつも、彼は眼前に迫る勝利にしがみつく様にして呟き続けた。

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