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第151話 vs天動神リターンズ

「……ねえ、今のってさ」

「言うな」


 獄翼のコックピットの中で冷や汗を流すスバルに対し、カイトは真顔で告げる。

 エイジとアーガスが降り、これから天動神とやりあおうって時に響き渡った『ふぁっきん』の叫び声。

 聞き覚えのある絶叫を前にして、彼らは半年前の悪夢を思い返していた。

 

「いや。でもすっげー赤くなってるよ天動神!」

「言うな! わかってるから!」


 天動神というよりかは、それを構成するエスパー・イーグルとエスパー・パンダに言えた事なのだが、これらはパイロットのサイキックパワーを注入することで無尽蔵のパワーを発揮する。

 特にパイロットのテンションが高ければ高い程に威力は高まるのだ。

 その度に聞こえる掛け声は決まって『ファッキン』だったのはよく覚えている。


「兎に角、奴の注意をこちらに引きつけろ。エイジたちがいることを忘れるな!」

「お、おう!」


 半ばやけくそ気味に操縦桿を握りしめると、獄翼は背中の飛行ユニットを大きく展開。

 ハングライダーのような背部から青白い光が噴出すると同時、ウィングが大きく羽ばたいた。


 それを目にした天動神。

 獄翼が羽ばたき、上昇したのを見ると頭部の鳥頭が大きく口を開いた。

 嘴の中から赤い光が凝縮され、光の球が生成されていく。


「くるぞ!」

「早速だね!」

「くるってなにがでしょう!?」

「いっぺんにまとめて喋んなくていいよ!」


 後部座席に座る3人の仲間たちが、喋るチャンスを逃すまいとせんばかりに一斉に口を開いた。

 正直喧しい。


「それに、見たら判る!」


 天動神の口から放たれようとしている砲撃は、よく覚えている。

 直撃を受ければ獄翼が大破するであろうことも想定済みだ。

 だからこそ回避に集中する。


『ファッキン!』


 パイロットが叫ぶと、天動神の口から赤の光が雄叫びをあげた。

 野太い赤の柱が獄翼目掛けてまっすぐ飛んでくる。

 半年前に目の当たりにしたサイキネルの必殺奥儀、『サイキック・バズーカ』だ。


 だが、半年前と比べて明らかに違う所がある。


「でけええええええええええええええっ!?」


 太いのだ。

 普通のサイキックバズーカも十二分に野太いビーム砲だったのだが、これは前に見たそれに比べて1.5倍は太い。

 飛行ユニットを走らせ、獄翼が更に上昇する。

 赤の光が、わずかに黒の装甲を焼いた。


 獄翼のコックピット内に警報音が鳴り響く。


「当たったの!?」


 シデンが叫ぶと、真っ先にマリリスがダメージの確認に入る。

 すっかり獄翼のサポートが板についていた。


「損傷軽微。行動に支障は出ません」

「ふぅ……」


 危うく直撃を受けそうな一撃を目の当たりにして、スバルが肩を降ろす。


「馬鹿! まだくるぞ!」

「そ、そうだった!」


 後ろから檄を飛ばされ、少年が再び臨戦態勢に戻る。

 天動神のビーム発射口は頭部だけではないのだ。

 全身の至る場所に砲身が用意されており、そこからビーム砲を発射することができる。

 先程の一撃を見る限り、他のビームも野太くなっていると思って良いだろう。


 だが、天動神の胴体から放たれる無数の光の砲撃は雨にも等しい。

 単純に躱すだけならまだしも、後ろにある城を巻き添えにするなと言うのは無茶がある。

 半年前、スバルは避けるだけで精一杯だったのだ。


 ただ、苦労したのは半年前の話である。


「マリリス、いくよ!」

「は、はい!」


 突然呼ばれて反応すると、マリリスは背筋を伸ばす。

 直後、後部座席の席がぐるんと回転し、マリリスを中心に添えた。

 真上からコードに繋がれたヘルメットが落下し、マリリスの頭にすっぽりと収まる。

 メイン操縦席のスバルも同様だ。

 ヘルメットが視界を追い被さった瞬間、メインモニターから無機質な機械音声が響きわたる。


『SYSTEM X、起動』


 その音声が発せられると同時、獄翼の関節部から青白い光が噴出する。

 背部の飛行ユニットから噴出する光の翼が縦に広がり、徐々に形を変えていった。

 まるで蝶のように広がった翼は、瞬時に羽ばたいて鱗粉を飛ばす。


「威力を弱める! ずっと羽ばたかせるよ!」

『はい! でも、その後はどうするんですか?』

「背中に飛びかかる!」

『ええ!?』


 コックピットにマリリスの悲鳴が轟いた。

 当然だ。

 天動神の背中には砲身がある。


「俺だってできるならやりたくねぇよ! でも、接近戦じゃないとあれを無効化できないんだ!」

「馬鹿みたいにぶっぱなしてくるからね……」

「実際馬鹿だ」


 残りのふたりが酷いコメントを残す中、天動神の瞳が怪しく光る。

 胴体に備え付けられた無数の砲身が獄翼に向けられた。


『ひいぃ!』

「ビビるな! 自分の力を信じて!」


 いかに同調したとはいえ、鱗粉はマリリスの意思で効果が変化する。

 新生物を溶かし、仲間たちの治療もできる万能鱗粉なのだ。

 それを羽ばたかせることで、敵のビーム砲撃を弱体化させようという狙いだった。

 ゆえに、マリリスが弱気になっては困る。


『ファッキン!』


 そんなマリリスを脅すかのようにして、天動神が吼える。

 取り付けられた無数の砲身から赤い光が放射され、弧を描きながら獄翼へと振りかかる。


「マリリス!」

『んっ!』


 半ばやけくそに力む。

 声が小さく零れると、獄翼の背中から噴出する光の羽から一斉に鱗粉が撒き散らされる。

 輝きを放つ結晶が赤の閃光と衝突した瞬間、光の柱が霧散した。

 一瞬の出来事だった。


「よし、今だ!」

「オーケー! このまま砲身を無効化するよ!」

『あの! 今更なんですが、これってカイトさんに避けてもらっちゃだめなんですか!?』


 割と今更な疑問がマリリスの口から発せられる。

 その問いかけに対し、当の本人は表情を変えないまま答えた、


「ダメだ」

『なんで!?』

「避けただけだと城にぶつかる」

『あ、なるほど』

「これ、ちらっと言った気がするんだが」

「この子、天然だからさ」


 シデンがぼそりと口添えしすると、後部座席が再び回転。

 今度はシデンが中央に移動する。


「あれ、ボクの出番?」

「前にこれ倒したの誰だよ!」

「もちろん、ボクだけど!」


 胸を張って自己主張しはじめた。

 

「じゃあ今度もやっつけてよね!」

「オーケー、任せてよ! また氷漬けにしてあげる」

「飛びついた後は任せるからね!」


 獄翼が天動神の真上まで移動すると、マリリスの頭に被さっていたヘルメットが僅かに宙を浮いた。

 コードによってぶら下がったヘルメットがシデンの頭上に移動すると、躊躇うことなくその上に覆いかぶさる。


『SYSTEM X、再起動。カウント、再開します』


 マリリスを取り込んでいる間に減っていた残り時間が一時的に時間停止したと思えば、再びカウントダウンが再開する。

 残り時間は、3:45。


「時間はないよ。わかってるよね!」

『3分でできるところまでやってみるよ』


 獄翼が背中に飛びついた。

 彼は迷うことなく天動神の巨大な頭部によじ登り、鳥頭の嘴に手を突っ込む。

 傍から見れば、子供が大人の口に手を突っ込んで横に伸ばしているように見えなくもない。


『この!』


 天動神の頭部に氷の塊が出現した。

 口の中に巨大な氷塊が生成され、発射口の機能を麻痺させていく。


 しかし、天動神も負けてはいられない。

 巨大な前足をバタつかせ、首にしがみつく獄翼を振り解こうと奮闘する。

 

『ちょっと、時間ないんだから大人しくしてよ!』


 敵にそんなこと言ってどうするんだとスバルは思うが、その考えを見通すかのようにシデンが行動に出る。

 天動神の口から手を解いたかと思うと、獄翼は地面に跳躍。

 暴れる両前足に掌をかざした。


『そぉれ!』


 獄翼の両手から氷の球体が現われた。

 占い師が使うような、透明な球体。

 それが天動神に向けられると、球体にひびが入った。

 ばりん、と音を立てて割れる。

 木端微塵になった球体から、猛吹雪が生成された。

 掌から放たれる白の暴風が天動神の前足に接触し、徐々に凍りつかせていく。


「残り1分切った!」

『ああん! これ絶対ボクと相性悪い! スバル君、どうにかしてよ!』

「俺に言うな! メカニックに言ってくれ!」


 この制限時間で苦しんだ経験はスバルにもある。

 それこそ、この天動神との戦いがそれだった気がした。


「こいつの相手をすると、時間がいくつあっても足りないんだよ!」

『じゃあ、後パス!』

「カイトさん、残り20秒!」

「十分だ」


 後部座席がまたしても回転する。

 中央にカイトを移動させ、コードに繋がれたヘルメットが覆い被さった。

 起動すると同時、彼はスバルの操縦を受け付けないまま右手を振るう。


「後、10秒!」


 右手の五指から爪が伸びる。

 それをまっすぐ天動神の顔面に向けた。

 回避行動を取りたい天動神ではあるが、両足が凍り付いて動けない上に、後部も凍り付いて攻撃が出来ない。


『そぉら!』


 獄翼が天動神の顔面目掛けて跳躍する。

 嘴に巨大な氷塊を突っ込まれた鳥頭の位置まで到達すると、右手を脳天に突き刺した。

 獄翼の手刀が天動神の頭部を一閃する。

 振り抜かれた一撃は、巨大な胴体を縦に割った。

次回は土曜の夜に更新予定

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