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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『シンジュク決戦編』
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第14話 vs『SYSTEM X』

 獄翼に起こった異変を見て、新人類軍は動きを止めた。

 ヴィクターの元に通信が入る。


『ヴィクター、今のを見たか?』

「ああ、見たとも」


 画面に映る白メイクの男に向けて頷く。

 鋼の両腕が輝いた後、両手から生える10本の指先に刃が生えたのを二人は肉眼で確認していた。


『あの眩い輝き……子供たちの笑顔に勝るとも劣らない。きっと同調したんだ』

「例えがわかり辛い」


 新人類が乗るブレイカーには『同調機能』と呼ばれるシステムが存在している。簡単に説明すると、文字通りブレイカーとパイロットを同調させることによって、ブレイカーがパイロットの能力を扱えるのだ。

 実際、ガードマンに搭乗するヴィクターは先程からこの機能を活かして各機体にバリアを張っている。

 獄翼の腕から放たれた輝きは、『同調』する時に起こるアルマガニウムの発光に似ていた。


「しかし、今あれに乗っているのは旧人類の筈だ」


 ヴィクターの疑問に、エリゴルが首を傾げる。


『もう一人乗っているだろう。XXXトリプルエックスに代わっただけではないのか?』

「黒い機体はずっと回避行動をとっていたぞ。あれだけ激しい動きをしてる最中に操縦を交代したと言うのか?」

『相手はXXXだ。常識で捉えない方がいい。でないと子供たちが悲しむ』


 それだけで子供は悲しむのか、とヴィクターは思う。

 だがあり得ない話ではない。コックピットに乗り込んだ時のXXXは全身ボロボロの満身創痍だった。しかし、彼は再生能力を持っている。復活して、操縦を交代したとしても不思議ではない。


「……待て、そうだとしてもおかしい」


 思考を張り巡らせた後、ヴィクターは矛盾に気づく。


「道中でXXXの資料を読んだが、アレの能力は再生能力のみだった。アルマガニウムの爪も支給されているらしいが、それは能力ではなく本人の持ち物にすぎん」


 同調はパイロットの能力をコピーしても、武器までは反映されない。

 例えば、今ヴィクターが巨大なロケットランチャーを持ち込んでいたとしても、ガードマンサイズのロケットランチャーが急に出現するわけではないのだ。

 カイトの正体は少し前に判明した為、渡された物は最低限の資料のみだが、それでも能力は生まれつきの所有物だ。変わる可能性は無い。


『ならば内臓兵器だろう。この『ヘルズマンティス』の両腕のような物だ』

「最初からその形のアニマルタイプならいざ知らず、武器を手に取るミラージュタイプでか?」


 エリゴルはあくまでそれ以上の追及を行わない方針だった。

 しかしヴィクターは違う。獄翼の輝きと、両手から生えた爪は自分たちにとって脅威となりえる武装ではないかと細心の注意を払っていた。


「エリゴル、もしあの爪がXXXの装備と同様の物だとすると厄介だぞ。私のバリアでも防げるかわからない」

『バリアに己の命を捧げたお前がそこまで言うのか?』

「心配性なんだよ」


 確かにヴィクターの人生、バリアだけだった。

 小学校の頃、健康診断の時に受ける血液採取が怖くて、それを防ぐ為に始めた己の能力を磨く修行。何時の間にか夢中になっており、気付けばアラサーだと言うのに浮いた話一つなかった。

 原因は普段つるんでいる白メイクの友人が子供子供連呼していて、女性が気味悪がっているだけなのだが本人達はそんな事を知る由もない。


 話を戻すが、とにかくヴィクターは自分のバリアに自信があった。

 しかし世の中には『矛盾』という言葉がある。今でも王国トップレベルになるであろうXXXの爪を確実に弾ける確証は何処にもないのだ。


『だが、守る事だけ考えていては勝てないぞ』

「む」


 白メイクの友人が意見を述べる。

 彼はヴィクターの目を見て、はっきりと語った。


『守りは確かに大事だ。だが、それも戦いを構成する要素の一つでしかない。攻めと守り。この二つがぶつかり合う事で初めて戦いは成り立つ。どちらか一つ欠けていても駄目なのだ』


 そして、


『その為に我々は組んだ。違うか?』

「いや。その通りだ」


 エリゴルの言う事は正しい。確実に守り通すという姿勢は確かに大事だ。しかしそれに固執しすぎて敵を倒すという大前提を見失う所だった。

 

『足りないと思えばお前も攻めに転じろ。逆に守りが足りないと思えば俺がお前を助けてやる。次の応援もこちらに向かってきている最中だが、俺達は2人で奴を足止めする為にきたのではない』

「頼もしい限りだ」

『そうだろう。何といっても我々は子供達の希望なのだからな!』


 誇らしげに言うと、エリゴルは笑みを浮かべる。

 それに返すようにヴィクターも笑った。

 もしも明日、この世界が崩壊するとしたらその時は最後の晩餐をこの友と共に過ごしたいものだ。ヴィクターは心の底からそう思った。





 スバルは混乱していた。

 反撃の糸口を掴もうと『SYSTEM X』を起動させたはいいが、上からコードに繋がれた巨大なヘルメットが落ちてくるし、急に機械音声に『残り5分です』と宣言された上に、手に入れたばかりの獄翼の両手から爪が生えていた。

 何が起こっているのか、さっぱりわからなかった。


「カイトさん、無事?」


 後部座席に座る同居人の安否を確かめる。先程殴られたかのように唸っていたが、それから一言も話さない。いかに彼も規格外とは言え、体調不良であることを考えると心配になってくる。


『ああ、酷い目にあったが生きてる』


 だが、返答は思いもしないところからやってきた。

 ヘルメットを通じて、頭の中に直接響いてきたのである。


「カイトさん? 後ろにいるんだよな」

『それが、どういうわけか意識が俺の身体から離れている』

「は?」


 全く予想だにしなかった言葉を前にして、スバルはますます混乱した。

 意識が身体から離れてるって、どういう意味だ。


『この前テレビであった、幽体離脱ってあるだろ。あれのイメージだと思えばいい』

「じゃあ、アンタ今魂が浮遊して天に昇ろうとしてる訳!?」


 そこまで口にしたと同時、スバルは気づく。

 じゃあ何で彼の言葉はこのヘルメットから聞こえてくるんだろう、と。


『幽体離脱と言っても、お前の周りをうろちょろしてる訳じゃない。何か知らんが、このロボに俺の意識を持っていかれている』


 要するに、カイトの意識は獄翼に取り込まれている。

 彼は獄翼そのものであり、己に装備された爪も含めて殆どが『同調』してしまったのだ。


「詰まり、カイトさんロボになっちゃったわけ? 爪とかも含めて」

『そういう事になるな。幸いにも体調不良の不快感は無い』


 特に危機感の無い口調で、カイトは言う。

 彼は彼なりに現状を分析し、自分達の置かれた状況を見つめ直す。少なくとも混乱していたスバルよりも現状を理解しているつもりだった。


『多分、『SYSTEM X』っていうのは同調だ』

「新人類の能力をコピーするのに使う奴?」

『そうだ。それのパイロット丸ごと取り込んだバージョン』


 操縦席が二つあった理由は、片方が同調してもう片方が動かす為だろう。それが獄翼の基本なのだと推測する。


「じゃあ、5分っていうのは」

『制限時間だろうな。流石に何時までもこのままじゃ不便だ』


 残り制限時間を確認する。あれこれと話している内に残り4分を切ろうとしていた。

 周りの敵は突然の変化に戸惑っているのか、様子を見ているのか、襲い掛かってこない。仕掛けるのなら今がチャンスだった。


「時間も残り少なくなってる。やるなら今だよ。カイトさんから動かせる?」

『やってみよう』


 直後、スバルの四肢が本人の意思とは関係なく動き出した。

 

「うえ!?」


 何かに引っ張られるかのようにして動き出した少年の手は、留まる事を知らなかった。

 獄翼カイトがその操作に合わせて、ガードマン目掛けて猛ダッシュし始める。


「わ――! わ――――! わ――――――――!」


 思い通りに動かない両手と獄翼は、焦るスバルを余所に更に爪を伸ばす。

 装備しているナイフ程の大きさまで伸びた爪は、ガードマンの鋼の巨体を切り裂かんと牙を剥いた。


『そうはいかん!』


 突き出された爪の前に、見えない壁が出現する。

 ヴィクターが張り出したバリアだった。爪が壁と接触し、青白い衝撃波が広がる。


『そぉら!』


 しかし獄翼は、それがどうしたと言わんばかりに見えない壁を切り裂いた。

 そのまま両手を前に突き出し、壁を押しのけながらガードマンのモグラ頭目掛けて頭部エネルギー機関銃を発射する。

 ガードマンの頭部が弾けた。しかし、モグラ顔は多少の火傷がついただけだ。鋼の皮膚すら破けてはいない。


『感覚は掴んだ。一旦離れるぞ!』


 ガードマンからの反撃が来る前に獄翼は離脱。

 後ろから迫るヘルズマンティスの斬撃をバク転しながら器用に回避し、再びシンジュクの街に着地した。

 行動が遅ければ、そのまま胴体をカマキリに切り裂かれていただろう。


「な、何させるんだよアンタは!?」

『知るか。作った奴に文句言え』


 狭いコックピット内で回転した為、少し目が回ったスバルが真上に怒鳴る。しかし、当の本人は悪びれた様子もなく答えた。


『やはり、爪もラーニングされてるようだな。足はどうだ?』

「ちょっと待って!」


 武装リストを表示させる。起動前まで空きブロックだった場所に、幾つか『X-WEPON』と赤く表示されていた。

 

「両手に爪が追加! 足も同じ物が追加されてるよ!」

『なら、予想通りだ。『SYSTEM X』は5分間の間、新人類と完全に同調する機能だ。しかも体調に関係なく、意識だけがこっちに行くから簡単に動かせる』

「動かしてるの俺だけどな!」


 うんうん、と頷いて納得している獄翼にスバルが泣きそうな顔でツッコミを入れる。

 何が悲しくてロボットとこんなやり取りをしなきゃいけないのか。


「あれ?」


 しかし、スバルは気づく。

 先程まで4分程度だった残り制限時間が、『2:17』と表示されていたのである。


「嘘!? 時間短くなってる! もう2分も経ったのか!?」


 今やったことはガードマンにぶつかって、エネルギー機関銃を浴びせたくらいだ。

 回避動作もあったとはいえ、あれだけで2分も経ったとは思えない。


『成程。俺から動かすことができても、消費エネルギーが甚大じゃない、と』

「え!? え!? ええええ!?」

『お前、さっきから大丈夫か。深呼吸でもしろ』


 先程から大混乱しているスバルを見かねたカイトが深呼吸を促す。

 スバルは落ち着いて息を吸い、溜息のように口から息を吐いた。どうやらまだ混乱しているらしい。深呼吸のやり方が違っていた。


「……詰まり、どうすればいいの?」

『時間が無いから要素だけ掻い摘んで説明するぞ。今わかっている事だけだ』


 1、『SYSTEM X』とは後部座席に座った新人類と完全に同調する機能である。本人の身体に埋め込まれている武装まで完全再現。

 2、同調した張本人の意識は獄翼に取り込まれる。取り込まれた側から獄翼を動かす場合、メインパイロットの身体を自動的に動かすことでその動きを再現する。

 3、『2』を行う場合、制限時間が大幅に削られる。

 4、恐らく制限時間を過ぎれば元に戻る。ただし、デメリットがあるかも不明。


『つまり、制限時間を守りながら今の武装をキープする場合、お前が操縦しなければならない。制限時間が過ぎた後、どうなるかわからないから残り2分足らずで5機片付ける必要がある』

「2分で5機!?」


 難題が飛び出してきた。

 単純に割り算をすると1機相手に24秒もかけられない。いかに獄翼がスピードに優れた機体でも、強力なバリアを張る機体を含めた5機を相手にこれは辛いのではないだろうか。まあ、カイトが動かした場合更に時間が短縮するのだが。


『悩む時間も惜しい。やれ』

「ああ、もう!」


 もうやけくそだった。

 どうにでもなれ、と思ったし説明書ちゃんと残しておけ製作者、と恨み言も呟いた。しかし残り時間が少ないのは十分理解していたので、スバルは難しく考えることを止めた。

 両手を前に突き出し、獄翼を再び動かす。


『スバル』

「今度は何!?」


 ガードマンが合流し、一塊になった敵の集団に向かって走り出したスバルに向かってカイトは語り始める。


『今お前が動かしてるのは、俺だ』

「ああ、わかってるよ!」

『俺は強いか?』

「さっき間近で見たから、それも知ってるよ!」


 簡単な質問に迷うことなく即答する。

 それに内心頷いたカイトは、手短な質問をスバルに投げかけた。


『俺がモグラ頭とカマキリとその他3機に負けると思うか?』

「……多分、なんだかんだで全部倒してると思う」

『濁すな。ハッキリと勝つか負けるかだけで言え』


 やや間を置いてからの答えに憤慨するように、カイトは訂正を求めた。

 時間に板挟みされて焦るスバルは、その態度に怒りながらも答える。


「勝つだろうさ! ああ、負ける要素ないよ! 滅茶苦茶だしバリアをマジで切り裂くし、アンタが最強だよ!」

『そうか。良い答えだ』


 ならば、


『それを動かすお前も、この2分間は最強になる』


 ガードマンのバリアを切り裂く爪も。

 台風のような破天荒な疾走も。

 鎧ごと相手を吹っ飛ばす裏拳も、全部スバルが使える。


『最強のブレイカーがあるんだ、2分じゃ足りないか?』

「……いや、アンタなら十分だ」


 スバルは想像する。大使館内で見たカイトとゲイザーの戦い。

 序盤の猛攻は恐らく1分も使ってないだろう。だが、その動きが出来るのであればそこまでやけくそになる必要はない。

 

 神鷹カイトを自分が使うのであれば、寧ろ2分は長すぎる。

 スバルは不敵な笑みを浮かべながらも、そう思った。

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