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第132話 vsパペット・メモリーズ ~その1~

 ラボらしき部屋から逃げてからどのくらいの時間が経過したのだろう。

 エレノアには時間を確かめる術はない。

 ただ、神鷹カイトの身体を借りているというのにもう息を切らしているのは中々情けないと自分で思う。

 彼は運動神経が抜群だ。

 自分がその身体を借りたところで、上手く使いこなせないのだと嫌でも実感する。

 距離があると、強く感じた。


「は、は」


 乾いた笑いが廊下に響く。

 彼女はひとりだ。

 身体を支配していても、カイト本人が助けてくれるわけではない。

 彼らの仲間もきっと同じだろう。

 一度芽生えた虚しさは、波紋のように広がっていった。

 

「こんな日が来るなら、もっとデレてもらえるようにしとくんだった」


 恨み言を呟いたところで、なにかが変わってくれるわけでもない。

 思えば、昔から友達を作ろうにも、どうすればいいのかわからなかったものだ。

 アカデミー時代は本を読んで学習し、現代ではネットを使って『友達とは』と検索したが全く理解できない。

 実践してもカイト相手に使ってはあまり効果が無かった。

 彼はコミュ障なのだ。

 同時にエレノアも立派なコミュ障である。

 その自負があった。


 ジュニアスクール時代から声をかけてきてくれた同級生はいた。

 だが、彼女はもういない。

 結果的に、親しい人物はいないと言えた。

 そういえば、ジュニア時代の自分とカイトは少し似ているな、と思う。

 愛想が無い所なんか特に。

 きっとそれも彼とお近づきになりたいと思った理由なのだろう。

 そう考えると、自然と笑みがこぼれてくる。

 類は友を呼ぶということわざがあるが、今は素敵な響きに聞こえる。


 思考を走らせつつも、エレノアは進む。

 やや歩いていくと、彼女は行き止まりへと辿り着いた。

 周囲を見渡してみるが、抜け道や扉、エレベーターらしきものはない。

 残念だが、一度引き返す他にルートはないようだ。


「そのままでいてもらおう」

「おや」


 振り返ると、声をかけられた。

 見れば、ひとりの新人類がこちらを睨んでいる。

 非常に特徴的な肌の男だった。

 首から下は褐色肌でありながら、顔面に白メイクを施しているという変わり種である。


「君、誰だい?」


 首を傾げ、聞いてみる。

 男は目つきを鋭くし、白の表情を歪ませた。


「覚えていないのも、知らないのも無理はない。私はあの時、ブレイカーに乗っていた」

「じゃ、知らない人だ」

「そうだな。実際、私とお前は初対面だ」


 もちろん、男はカイトのことを言っている。

 ややこしいが、男はエレノアと会話している気は一切なかった。

 エレノアもその辺を理解した上で、敢えて問う。


「何か恨みを買ってたりする?」

「恨みだと」


 男は憤慨した。

 というか、台詞が挑発的すぎた。

 白メイクの男は両腕を前に突き出し、叫ぶ。


「あるに決まってるだろうが!」


 直後、エレノアの眼前に何かがぶつかった。

 鼻を押さえ、一歩引く。

 壁だ。

 目の前に見えない壁が出現し、それがぶつかってきた。

 顔面激突しても鼻血が出る程度で済んだのは、流石の身体だと思う。

 エレノアは鼻を拭うと、右手の爪を出現させる。


「じゃあ、どうするの。やる?」

「当然だ。私はこの時を半年も待ったのだ」


 先程ぶつかった透明の壁が、再び迫る。

 エレノアは迷うことなく爪を振るった。

 切り裂き方は銀女との戦いで学習済みである。

 右腕を使ったアクションであれば、ある程度カイトの身体を自由に扱える。


「やらせん!」

「およ?」


 振りかざした右腕の動きが止まった。

 否、右腕だけではない。

 左手、首、両足が。

 すべて動かなかった。

 よく目を凝らしてみてみる。

 手首に透明の錠が嵌められていた。


「なにこれ」

「思いださないか。私の技を見ても」


 白メイクの男は自嘲気味に笑う。


「まあ、それも仕方がない。あの時の戦闘ではそんな芸当までは出来なかった。わからなかったとしても無理はない」

「……ねえ、本当に誰」


 エレノア・ガーリッシュはカイトのストーカーである。

 そのストーカー歴は実に16年。

 少年時代、そして半年前に再会するまでの空白期間はあるが、その期間を除けば彼女はずっとカイトを見ていた。

 当然、印象的な敵の顔も見てきている。

 しかしながら、エレノアの記憶にこんな白メイクの男は存在していない。


「誰か、か。記憶の片隅にも残らない程の雑魚だったとは、私も地に落ちていた物よ」

「それなりに有名なのかな」

「貴様と比べるとそれほどではない。だが、シンジュクで巨大カマキリと共に貴様を倒しに来た者だと言えば、わかるか?」

「わかんないや」

「そうか。ならばこれ以上の問答は必要ないな」


 白メイクの男は――――ヴィクターは右手を前に突き出し、透明の槍を生成する。

 矛先もリーチも見えない武装だが、既に身体を固定されているエレノアにはあまり関係のない話だった。


「いかに貴様が超再生能力を保持していても、心臓をぶち抜かれては生きてはいまい!」


 子供達の笑顔の為に散った友の為に、死ね。

 ヴィクターが槍を飛ばした。

 透明の矛先は壁を貫通し、エレノアの右胸目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。


「むっ!?」


 だが、その動きは途中で止まった。

 透明槍と、それを握る右腕が動かないのである。

 ヴィクターは目を見開きつつも問う。


「何をした」


 先に身体の自由を封じたのはこちらの筈だ。

 現に敵は一歩も動けていない。

 しかし、どういうわけか自分の身体もぴくりとも動かなくなってしまっている。

 まるで何かに身体を掴まれているかのようだ。


「んふふ。私、こう見えても指が動くだけで敵を殺せるんだよぉ」


 気持ち悪い笑顔である。

 けたけたと笑う表情を見て、ヴィクターはそう思った。

 これではまるで口のパーツが壊れた人形である。


「馬鹿な。私の壁は完璧なはずだ。それに、データだと貴様は右腕の義手以外は接近戦のみの男の筈」

「古い。古いよそれ」


 まあ、古いと言っても現在の最新型カイトは少し前に完成したばかりである。

 それを含めて最新のデータをとれというのは無茶な話なのだ。

 カイトとエレノアでは戦い方がまるで違う。

 カイトが動きまくって永久コンボを決めるキャラクターだとすれば、エレノアは動かずにして永久コンボを決める。

 動と静。

 相反するふたりがくっついた事実は、王国内でも限られた人間しか知らない。


「私は君個人に何の恨みも無いけど、殺されるつもりもないし殺させてあげるつもりもないんだ。ごめんね」


 指先から伸びる光の線が締まった。

 ヴィクターの首に絡みついていたそれは肉に食い込んだ。

 白メイクの表情が苦しそうに蠢く。


「ま、だ、だ!」


 呼吸するのも辛い首絞めを食らっておきながら、ヴィクターは握り拳を作る。

 直後、エレノアの首にかかっていた透明の錠が一気にサイズを縮めた。


「かは――――!」


 縮んだ輪のバリアはエレノアの首を絞めつける。

 息を吸えない苦しみを味わいながらも、彼女は糸を操作し続ける。

 首絞め対決だった。

 エレノアの糸が勝るか。

 ヴィクターのバリアが勝るか。

 お互いに罵倒する元気すらなくなった今、静寂だけが場を支配する。


「んんんんっ」


 白メイクが汗だくになりながらも、拳に力を込める。

 爪が食い込んでいるのだろう。

 彼の右手からは赤い液体が流れていた。

 しかしヴィクターは流れ落ちる熱い血液に気付くことなく、エレノアを締め続ける。


 バリアがさらに狭まったのを感じた。

 首だけではなく、肢体にかけられた錠も一気に締め付けられる。

 酸素を身体に送る事が出来ず、眩暈がしてきた。

 糸を切り離しそうになりつつも、エレノアは指を動かすのを止めない。

 

 彼女なりに、負けられない理由があった。








 エレノアが店を持って6年が経過した。

 当初は近づき辛かった性格も大分落ち着きを取り戻し、売り上げもそこそこである。

 リピーターをつける為にはある程度の愛想も必要なのだ。

 しかしカイトはここまでエレノアの記憶を見てきて、ひとつ思った事がある。


 こいつマジで友達いないんだな、と。

 お店にはエレノアがひとりだけ。

 自営業なのでアルバイトなんかいないし、掃除や食事も全部自分でやっている。

 意外な事に、彼女は家事全般をそつなくやってのけていた。

 ただ、あまりに完璧すぎてエレノアひとりで全部片付いてしまうのである。

 そんな彼女の周りに友人と言えるような友人はおらず、どちらかといえば引き籠りのような生活が続いていた。


 ただ寝て、起きて、食事をして、お店の看板を『OPEN』に建て替えて、営業をして、終了時間になったら家事をやってのける。

 そして最終的にはまた寝る。エレノアの生活パターンは簡潔だった。

 簡単だったが為に、刺激のない人生である。

 そのことを指摘した人物がいた。

 スクール時代、エレノアを授業に出席させようとした同級生である。

 彼女はアカデミーを卒業した後も、エレノアのお店によく顔を出していた。


『ガーリッシュさん、売り上げはどうなの』

『君に心配される程じゃないと思ってるんだが』


 この頃、エレノアは既にこんな感じの口調だった。

 お店を持つ事で学んだ営業術や自分の中の店主のイメージを合わせた結果らしい。

 妙に馴れ馴れしいが、経営学で学んだのであれば効果はあるのだろう。

 たぶん。


『掃除は毎日やってるし、睡眠もきちんととっている。食事だってそうさ。それ以上、君が私の何を心配すると?』


 ただ、馴れ馴れしい口調でも棘は残ったまんまであった。

 彼女は父親の骨を収めて以来、必要最低限の会話しかしていない。

 要は極力引き籠っていたいのだ。

 この日も、エレノアは買い物をする気配がない同級生に向かって言った。


『もういいだろう。用がないなら帰ってくれないかな。一応、今は仕事中なんだけど』

『私の知ってるガーリッシュさんは、仕事中でも人形作りに対しては真剣だったわ』


 責めるような口調に対し、同級生は物怖じせずに言い返した。


『売り上げがあるのは確かかもしれないわね。でも、こんなのただの人形じゃない』

『当然だろう。ここは人形を売ってるんだ。それ以外に用があるなら、大人しく商店街の出店でも見て回るんだね』


 同級生は手に取った商品を店主の前に置き、懐から小さな木の人形を取り出して見せる。


『あなたがジュニアスクール時代に作った物よ』

『忘れたよ、そんなの』

『そうでしょうね。貴女にとっては小さな、粗末な人形だった』


 でも、


『それでも一生懸命、理想を求めていた筈よ。ガーリッシュさん、貴女はこの粗末な人形から、どう進化したの?』

『……』


 エレノアは級友の言葉に応えない。

 カイトの目から見て、ジュニア時代の人形も商品も似たようなもんだった。

 大きさ以外で何が違うのか、さっぱり理解できない。


『ガーリッシュさん、私は――――』

『言いたいことは大体わかった』


 エレノアは席から立ち上がり、外に出る。

 看板を裏返しにすると、彼女は再び店内へと戻ってきた。


『今日は店じまいだ』

『私、納得できる答えが出るまで帰る気はないわ』

『なんでそうも私に付き纏う。君くらいなものだぞ、まだそんなの持ってるの』


 そのセリフをお前に言い返してやりたいよ、とカイトは思う。

 言葉にしたところでこのエレノアに聞こえないは立証済みなので、ちょっともどかしい。


『だって、ガーリッシュさんが始めて私にプレゼントしてくれたものよ。友達が作ったものを、どうして捨てられるの?』

『……わっかんないや』


 頭を掻きながらも、エレノアは工房へと足を進める。


『そこまで言うなら今の私の過程を見せよう。好きにすればいい』


 遠回しな警告であった。

 既に級友の答えは決まっていそうなものなのに、わざわざまた選択肢を設けたのだ。

 カイトは思う。

 あまり見せたくない物なんだ、と。


『わかったわ』


 その意思が級友に伝わったのかどうか、わからない。

 彼女はエレノアに従って地下の工房へと降りていく。

 灯りのない階段を下ると、厳重に締め切られた扉へと辿り着いた。

 当時では珍しい5重ロックである。


『ガーリッシュさん、どこもこんな管理をしているの?』

『ここは特に厳重なんだ。あんまり、人に見せたくないから』


 エレノアは鍵をひとつずつ外していく。

 最後の鍵を外し終えると、扉が開いた。

 中に入ると、エレノアは部屋の明かりを灯す。

 一連の動作を招き入れる合図と受け取ったのか、級友は躊躇い事無く入って行った。

 そこで彼女は、椅子に座らされた人影の存在に気付く。

 

『……これ!』

『そうだよ』

 

 人間だった。

 椅子に座らされた、まごうことなき人の姿。

 髭を生やし、やせ細った男が椅子の上で眠っている。

 否、眠っているという表現には語弊があった。

 あくまで眠っているように見えるだけだ。

 上半身に着せられた半袖から見える腕は、球体関節だったのだ。


『この6年で作った、私の成果さ』


 特に誇らしげにすることも無く、エレノアは言う。

 目の前にある人形は、生前の父親。

 そのレプリカだった。

 もちろん、どれだけ外見がリアルでも中身は人形である。

 擦っても目を開ける事はないし、口を開くことはない。


『ガーリッシュさん』

『私を憐れむかもしれないね。君は他人をひとりにさせたくない子だからさ』


 でもね、


『最近、私ができる事は人形を作る事だけじゃないって気づいたんだ』

『え?』

『見てて』


 エレノアが瞼を閉じる。

 ややあってから、彼女の身体が倒れ込んだ。

 旧友の表情が一変した。

 がたん、と派手な音を立てて倒れたエレノアの身体を抱え込み、級友は叫ぶ。


『ガーリッシュさん!? ねえ、ガーリッシュさん、どうしたの!?』


 傍から見れば、救急車を呼びたくなる光景だろう。

 急に倒れたエレノア。

 必死に呼びかける級友。

 立派な負傷者とその友人である。

 カイトは退屈そうな表情でその光景を眺めていた。

 彼は知っているのだ。

 エレノアが何をしたのかを。


『ここだよ』


 人形が動きだした。

 級友がエレノアの身体を支えたまま、彼女の父親の形をした人形を見やる。

 目が開いていた。

 それだけではない。

 口が動き、手で取っ手を支え、立ち上がる事も出来た。

 旧友は呆然とした顔で、人形を見る。

 空いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。


『ガー、リッシュさん?』

『そうだよ。私だ』


 父親の人形が笑みを浮かべる。

 ぎこちない笑顔だった。


『最近知ったんだけど、特殊な素材を使った人形に対して意識を移しかえすことができるみたいなんだ。ま、見ての通りまだ完璧に身体を扱えるわけじゃないけどね』

『ガーリッシュさん、あなたは……』


 級友は絶句し、次の言葉を紡げなかった。

 言うだけなら簡単である。

 理解ができない、と。

 そう言ってしまえばいい。

 これは夢なのかしら、と言ってもいいかもしれない。

 だが残念なことに、これは現実だった。

 人類最古の新人類、エレノア・ガーリッシュ。

 彼女はアルマガニウムを素材にした人形に対し、自由自在に意思を移すことができるのだ。


『残念だけど、言葉で説明することは出来ない。私はテストの成績はよかったが、これを文章で表現するとなると『人形になることができます』としか言いようがないからね』


 なんとも平凡な方言だ、とエレノアは苦笑する。

 

『……それで、あなたはどうしたいの』


 時間をおいてから徐々に現状を理解した級友が、エレノアに言う。

 

『お父さんを生き返らせるのかしら』

『まさか。私は霊媒師じゃない』

『じゃあ、その人形はなんなの?』

『しばらくショックで立ち直れなかったからね。リハビリがてら、父そっくりの人形を作ろうと思って全力を出してみたんだ。素材も過去最高傑作さ』


 球体関節などの欠点はあるが、それでも彼女の人形は過去最高クラスの出来栄えである、級友の目から見ても、目の前にいるのは人間以外の何者でもなかった。

 お店の商品の質が落ちたのも、これにかかりっきりだったからだろう。

 そう思うと、級友は安堵した。

 父親の件を引きずって商売に精が出ないのだと心配していたのだが、杞憂に終わったのである。


『でもさ』


 そんな彼女の思考をかき消すように、エレノアは言う。


『最高傑作ってさ。作り終えた瞬間、もっと凄い物を作れそうな気がするんだよね』


 技術を積めば積むほど進化していく、新人類ならではの発想だった。

 既に彼女の中では『最高傑作』の設計図は出来上がっている。

 だが、それを完成させるには途方もない時間が必要だと感じた。


『人のままだと、私はおばあちゃんになってるかもしれない。もしかしたら白骨死体になってるかもね。でも、最高傑作を作るには私の身体は必要不可欠だ。可能であれば私は自分の身体をそれにしたいと考えてるし、作る為にはどうしても慣れている身体がいる』


 所謂、矛盾である。

 エレノアは己の身体を人形にしたいと言った。

 彼女の才能があれば今は無理でもいつかは可能になるだろう。

 だが、自分の身体を人形にする為には同じ技術を持つ身体が必要になる。


 エレノアが級友に視線を送った。

 どこか怯えた表情をしている級友に向けて、彼女は言う。


『君、綺麗だよね』


 率直な感想だった。

 級友は肌が綺麗だった。

 髪も、爪も、瞳も、歯に至るまで。

 全部が宝石みたいに輝いていると、エレノアは思った。

 彼女も一応、女の子である。

 綺麗になりたいと思う時くらいある。

 

『欲しいなぁ、その身体』


 父親の人形が動きだした。

 級友はエレノアを突き飛ばすと、急いで部屋のドアノブを回す。

 開かない。

 焦りながらも、何度も回す。

 そんなことをやっている内に、エレノア本人の身体が起き上がった。


『友達なんだよね。形式上、プレゼントもあげたこともあったね』


 どこから取り出したのか、片手にスタンガンを持って立ち上がる人形師。

 級友は扉に背を向け、言う。


『いや、こないで!』

『どうして?』


 心底不思議そうに、エレノアは首を傾げた。


『君が近づいてきたんだろ。放っておいてほしいって言ったのに。けど、その度に君は土足でズカズカと踏み入って来ただろう』

『謝るわ! 謝るから、許してよガーリッシュさん!』

『許す? いやだなぁ』


 ふたりの影が重なる。

 ばちり、と音が鳴ってから級友の身体は崩れ落ちた。


『私は別に怒ってないよ。君は友達だったしね。ああ、でも』


 エレノアは笑みを浮かべ、言った。


『私、君から何も貰ってないや。プレゼントをあげたのも私だけだね。酷いよね。友達なのに』


 だからこそ、


『今日は君から貰うね。君の全部、私が貰うから』


 その日、級友はエレノアになった。 

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