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第130話 vs姉妹と老兵と超重力

 目には見えない重りが身体に覆いかぶさり、アウラの動きを抑え込む。

 カノンも同じくだ。

 彼女たちはグスタフの放つ超重力の波に対して、抗う術をもっていない。

 それでも彼の前に出たのは勝機あってのことである。

 シルヴェリア姉妹の目的はセキュリティルームと、それに繋がる監視カメラの無力化だ。

 これを潰すだけで新人類王国の『目』は機能を停止する。

 中にいるのがグスタフだけなのは予想外だったが、機械類を破壊するのであれば彼女たちの能力は効果テキメンであった。

 ゆえに、敵わないとしても機械を破壊できる、と。

 そう考えた。


 だが現実はいつだって厳しい。

 グスタフは戦いから退いて長いと聞いていたが、能力はXXXと同等か、それ以上まで引き延ばしていた。

 彼の放つ重力波は、ふたりの電流を決して見逃さない。


「むんっ!」


 グスタフの両手から黒の波動が放射される。

 波はシルヴェリア姉妹から発せられる紫電をあっさりと飲みこみ、ふたりを壁に叩きつけた。

 そのまま壁に固定され、身動きが取れなくなる。


「いつかこんな日が来るとは思ったが、やはりお前たちもそうか」


 壁に磔にすると、グスタフは口を開く。

 彼はXXXの責任者となったアトラスを信用できる王国兵だとは思っていない。

 カノンとアウラ、アキナに至ってもそうだ。

 どうにも昔からXXXは自分本位である。

 リバーラの方針もあったとはいえ、それで鼻を伸ばしていては何時か寝首を狩られるのは明白だった。

 彼女たちはまだ、神鷹カイトに敬意を示しているのだから。


「アトラスの命令か?」

「……っ!」


 疑問に対し、口は開かない。

 言う必要はないし、言ったところで信用は得られないのは目に見えていた。

 正面から戦うと決めた以上、彼女たちに残された道はただひとつしかない。


 状況はシルヴェリア姉妹に有利だ。

 グスタフの力はシルヴェリア姉妹やシデンと同様、身体から放出するタイプである。

 ゆえに、この狭い一室では満足に戦えない。

 しかもここは王国の目を司るセキュリティルーム。

 迂闊な破壊は、自軍の足を引っ張る事になりかねない。

 だからこそ、積極的に狙う。

 狙うのだが――――


「おっと」

「うあぁっ!」


 アウラの足が捻じ曲がった。

 文字通り、本来曲がらない方向へと、だ。

 妹の悲痛な叫びを耳にし、カノンが睨む。


「悪いが、君もだ」

「――――!」


 カノンの腕に超重力の弾丸が撃ち込まれた。

 両腕が折れ曲がり、満足に動かせない。

 激しい痛みに悶絶し、気を失いそうになりつつも、彼女たちはグスタフを睨み続けた。


「睨んだところで、もう君たちは怖くない」


 なぜか。

 シルヴェリア姉妹が不完全なのを、グスタフは知っているからだ。

 彼女たちはグスタフとは違い、身体の至る所から力を放出できるわけではない。

 姉は上半身から。

 妹は下半身からでしか雷を出せないのだ。

 射出口を潰してしまえば、電撃は脅威ではなくなる。

 それどころか、動きも封じて一石二鳥だ。

 

 グスタフは近くのモニターへと移動し、キーボードを叩き始める。

 警報アプリを起動したのだ。

 セキュリティルームでは監視カメラの映像を確認した後、問題があればその位置を知らせる事が出来る。

 ただ、現在は既に非常警報が出された状況だ。

 神鷹カイトの脱走と、逃走を妨害する為におこなわれた城の迷宮化。

 外の兵たちがここまで辿り着けるかはわからないが、第二期が裏切った事実だけでも伝えなければならない。

 まだ外にはアトラスとアキナがいるのだ。

 そちらも念入りに見ておく必要がある。


 そう思い、グスタフはマウスをクリックした。

 警報アプリが作動し、報告場所の確認メッセージが出現する。

 緊急事態なのだからこんな物を出すんじゃないと苛立ちつつも、彼はアプリの操作を進めた。


 だが、


「ぬっ!?」


 身体のバランスが崩れた。

 足が払われ、身体が床に向かって宙を舞う。

 なにがおきたのだ、と疑問に思うよりも前に、襲撃者の姿を認識した。


 カノンだ。

 言葉と腕を封じられた少女が、歯で包丁を咥えて襲撃してきたのである。

 彼女はグスタフの足を払うと同時、包丁を顔面目掛けて振り下ろす。


「ぐぅっ!」


 反射的に、真上に向けて重力を放り投げた。

 重力の弾丸はカノンの顔面にクリーンヒット。

 口に咥えられた包丁はあらぬ方向へと吹っ飛ばされ、床に突き刺さる。

 直後、グスタフの身体は床に倒れ込んだ。

 背中に痛みが生ずるが、それも一時的な物である。

 彼は吹っ飛んだカノンを一瞥すると、一言。


「しぶといな、君たちも」


 油断があったのは紛れもない事実である。

 能力を扱う最大の発射口を潰したのは事実だが、彼女たちも身体能力を鍛えられた戦士なのだ。

 機動力を殺しきらなかったのは、失態以外の何物でもなかった。

 グスタフは己の浅墓さを恥じると、後ろで倒れたままのアウラも含めて視線を移す。

 マウスの右クリックが押された。

 セキュリティルームに――――新人類王国全体に、警報音が響き渡る。


「これでセキュリティルームに誰か来れば、それでXXXはお終いだ。迷宮化している手前、すぐに来るのはまず無理だろうが」


 だが、それまでの間は自分が彼女たちを監視すればいいだけのこと。

 セキュリティルームが彼らにとって邪魔なのは承知している。

 それゆえに、ここには屈強の戦士が必要なのだ。

 普段ここで勤務する者がいないのも、それが理由である。

 グスタフが本来の防衛担当の兵士と交渉し、守る位置を交換してもらったのだ。

 タイラントは自分から動くのを好む兵だ。

 ならば不動で守る役目を担うのは自分こそが相応しい。


「その身体では、お前たちも逃げることが不可能なはず」

「ええ、逃げれないでしょうね」


 呼吸を荒げつつ、アウラは言う。

 その瞳には、戦闘意欲が満ち溢れていた。


「でも、いつまでも役立たずのままだったらカッコ悪いじゃない? だから戦うのよ」

「往生際が悪いぞ。その足でどうするつもりだ」


 アウラの両足は相変わらずへし折れたままだ。

 立ち上がる事さえもままならない。

 しかしそれでも、力を使うことは出来る。


「足掻くのよ」


 アウラは不敵に微笑んだ。

 足に装着されたローラースケート。

 その車輪が激しく回転し、ばちばちと電流を流す。


「どこまでもみっともなくね!」

「やらせん!」


 下半身から溢れんばかりの電流が放出され、セキュリティルーム全体を覆い尽くす。

 正面からそれを阻止するべく、老兵は手を前方に出した。

 彼は気絶した状態のカノンに気を配りつつも、力を放出する。

 重力の波がアウラを覆い、電撃の放出を押し留めた。


「無駄だと言ってるのがまだ分からないか!?」

「無駄じゃないわ」


 アウラの笑みは崩れない。

 彼女は絶対の自信を持って、グスタフに言う。


「別に私が壊さなくてもいいんだもの」

「ぬ……っ!?」


 そこでようやく、グスタフは気づいた。

 アウラの放電を抑え込む為に放出され続けている重力波。

 それがセキュリティルームの備品を破壊し始めていることに、だ。

 

「年はとりたくないわねぇ。周りに目がいかないって怖いわ」


 勝ち誇ったようにアウラは言った。

 足をへし折られ、放電も抑えこまれている。

 これがただの戦闘であれば絶体絶命の危機だっただろう。

 しかし、この場に限って言えばアウラは絶対的に有利な状況だった。

 グスタフは電撃を止める為に重力波を放たなければならない。

 その威力は強めでなければ放電を抑え込むことはできないのだ。

 かといって、威力を弱めれば電撃がセキュリティルームを破壊し尽くす。


「ならば」

「無駄よ。私を殺したところで、アンタが不利なのは変わらないわ」


 背後で物音がしたのを察知した。

 振り返ってみる。

 カノンが起き上がっていた。

 彼女はボロボロになった上半身から電気を流し、放出の準備に入っている。


「その体勢で私を殺そうなら、姉さんがここを壊す。両方を殺そうとすると、ここをアンタが壊す」


 グスタフの能力は強大だ。

 想像してたよりも、ずっと。

 王子の指導をしていた間も、鍛錬は怠っていなかったのだろう。

 しかしそれが逆に彼を追い詰めていた。


「さあ、どうする?」


 アウラが問う。

 突きつけられた答えは、3通りだ。


 このまま均衡を保ち、カノンに破壊されるか。

 己の能力で破壊するのを恐れて威力を弱め、アウラに破壊されるか。

 もっと強力な一撃を放つ事で反逆者を殺し、自分が破壊するか。


「どっちにしろ、アンタに勝ち目はないわ!」

「ならば私が取るべき道はひとつ!」


 グスタフが牙を剥く。

 彼は大きく目を見開くと、重力波の勢いを増大させた。


「ここで貴様らを倒し、私が不穏分子を直接抑えこむ!」


 グスタフの身体から黒い衝撃波が放たれた。

 老兵を中心に波状で広がるそれは姉妹を覆いつくし、セキュリティルームごと破壊していく。


「きゃ、ああああああああああああああああっ!?」


 アウラとカノンが再び壁に押し付けられる。

 それだけではない。

 今度は彼女たちの身体のどこからでも電撃が出てきてもいいように、フルパワーだった。

 全身の骨が悲鳴をあげているのが、姉妹には手に取るようにわかる。

 意識が遠のき、身体中の力がどんどん抜けていくのがわかった。


 視界がブラックアウトする直前。

 アウラは見る。

 セキュリティルームに設置されているモニターが、次々とグスタフに破壊されていくのを。


 ――――勝った。


 生き残っているモニターは存在していなかった。

 カイトは逃げだし、エイジたちもそれに続くことができる。

 そしてあのお人好しの少年もきっと、逃げ出すチャンスを作れるはずだ。

 姉と自分は、ここで倒れる。

 だが勝負には勝った。

 後は彼らを信じよう。


 そう思いながらも、アウラは痛みに身を任せて目を閉じた。


 直後である。


「失礼」

「え?」

「なに!?」


 セキュリティルームの扉が開いた。

 外を守っていた兵がやっと異変に気付いたわけではない。

 外は迷宮化されている。

 城にある無数の部屋がランダムに設置しなおされた以上、すぐに駆けつけるのは不可能だ。


 では、誰か。

 やってきた人物は指で小さな輪を作り、グスタフに向ける。


「お、お前は――――!」

「さようなら、グスタフさん。あなたは王国のことを第一に考える、王国兵の模範のようなお方だ。何があっても敵を倒すその姿勢は、敬意を抱いていました」


 ですが残念です。

 超重力の波が渦巻く空間を眺めながらも、ソイツは――――アトラス・ゼミルガーは心底残念そうに呟く。


「灰になれ」


 指で作られた小さな輪が、弾かれた。

 重力の暴風雨を貫通し、指ぱっちんで紡がれた爆発がグスタフを襲った。

 

 爆風によって老兵が倒れる。

 重力が勢いを弱めていき、次第にセキュリティルームは元の姿を取り戻していった。

 中の被害は、相当なものだったが。


「カノン、アウラ。生きてます?」


 アトラスが一歩、セキュリティルームに入る。

 紡がれた言葉に対し、姉妹は口を開く元気は残っていなかった。

 ただ、指を少し動かす程度で生存をアピールする。


「ならば結構。通路が迷宮になった時はどうやってここに行くべきかと考えましたが、近くに移動していたのが幸いでした」


 ノアの能力、迷宮化は通路を再構成し、部屋の場所をランダムに組み替える。

 その為、見覚えのある部屋を空けても全く知らない部屋になることもある。

 だが今回の場合、激しい戦闘音が響いたのが功を成した。

 偶然にも近くを通っていたアトラスはそれを聞きつけ、駆けつけた次第である。


「ご安心ください。リーダーは私が助けます」


 同時に、迷宮化の時点で彼の道は決定していた。

 己の全てを捧げると決めたあのお方の為に。

 そして彼が帰ってくるべきXXXに手をかける者を残らず消し炭にする。

 消し炭になったグスタフと同じように、だ。


「おふたりはお休みください。グスタフさんも消えた今、ここに新人類軍の誰かが来ても誤魔化すことは容易でしょうから」


 言動を耳に受け入れつつも、アウラは思う。

 彼は自分たちとは全く違う方向しか見ていない、と。

 アトラスが見ているのはカイトとXXXのみ。

 それ以外の人間には、全く興味を抱いていない。

 尊敬しているなどと言いながらも、あっさりとグスタフを殺したのがいい証拠だ。


「いやぁ、でも助かりました。ふたりが抑え込んでていてくれたとはいえ、面倒なのを始末できましたよ。これは喜ぶべきことです」


 アトラスは無邪気な笑みを浮かべつつも、言う。

 とても尊敬していた相手に言うセリフではないと、アウラは思った。


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