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第106話 vsXXXリーダー代理

 新人類王国。

 国王の間にて、国の代表的な従者たちが集まっている。

 基本的に、リバーラ王が彼らを招集してなにかを発表するのは非常に珍しい事だった。なにかしら連絡がある場合、ディアマットか用のある兵個人に直接語りかけるのだ。

 だが、今回はそれをしなかった。

 理由は単純。彼らに説明しなければならないことは、言葉だけでは表現しきれないと思ったからだ。


「と、いうわけで」


 玉座の間に備え付けられたモニターが映像を流し終え、リバーラ王が改めて従者たちを見る。

 全員、呆然と口を開いたまま面白い表情をしていた。隣で控える息子の顔を覗きこんでみる。開いた口が塞がっていなかった。これはこれで面白い光景だったが、この映像の中身には勝てないだろうとリバーラは思う。


「僕らは旧人類連合と協力して、怪獣と戦います!」


 モニターから流れた映像は、ウィリアムがカイト達に見せた代物と全く同じものだ。旧人類連合の調査部隊が遊園地に辿り着き、襲われるだけの映像。

 映像を自分以外が見るのは、これが始めてだった。


「ち、父上。これは何の冗談ですか?」


 こめかみを抑えつつ、ディアマットが震えた声で語りかける。

 

「冗談? 冗談は君たちの顔にしておきなさいディード」


 酷い言われようだが、それくらい新人類王国の戦士たちは無様な表情を晒し出していた。何人か涼しげな表情をしている者もいるが、ぱっと見た感じ指で数えられそうな人数しか居ない。


「君も新生物のことは知っているだろ」

「あれとコレとではサイズが違い過ぎる上に、非常識さも上回っています!」


 新生物は100メートル級の芋虫だった。それ自体は、まあいい。やることなすこと非常識だったが、結果として存在もしていた。

 だが、今度はそれ以上に非常識だ。人間の姿をしており、遊園地と一体化。挙句の果てに住処の山をどんどん広げているときたもんだ。

 ディアマットの気持ちもわからないでもない。


「まあ、君の言うことはもっともだ」


 けどね、


「残念ながら、新生物と比べて発見が遅くなった分、こいつは更にえげつなく育っちゃったっぽいんだよねぇ。ううん、アンハッピー」

「大体、こんな大事なものがあるのなら、なぜもっと早く教えていただけなかったのですか!」


 ディアマットの興奮は収まる事を知らない。

 カイトとスバルが日本で反逆を起こしているときにこの映像を入手し、同盟を組んだのだとリバーラは説明している。

 つまり、王はやろうと思えばもっと早くこれを公開する事が出来たのだ。だがリバーラは悪びれた様子も見せず、笑いながら言った。


「教える前に、もっと具体的に動いてきたところがあったからね」

「トラセットですか」


 召集された従者のひとり、タイラントが重い口を開く。

 彼女は新生物の脅威を目の当たりにした代表者だった。


「そう! 可能ならあれを見たうえで検討したかったんだけど、せっかちな君たちは勇み足で挑んじゃって、しかも負けちゃったでしょ。これを見せるべきか迷ったんだよね」


 ディアマットの新生物駆除命令は、当然の如くリバーラに筒抜けだった。

 カノンとアウラの有休申請を出したアトラスが、その辺の事情も喋ってしまったからである。

 そのアトラスが前に一歩踏み出し、王に問う。


「では、リバーラ様。映像の怪獣は、トラセットの新生物よりも強力なのだと考えても宜しいのでしょうか」

「普通に考えたらそうだろうね。コイツは100年も潜伏してた上に、サイズも新生物と比べて巨大だ。内に秘めたパワーは、常識で判断しない方がいいってものだよ」


 怪獣のパワーに話題が移ったところで、リバーラは本題を切り出した。

 彼らを招集させたのは、映像鑑賞の為ではない。


「さて、この怪物がいるのはアメリカのグルスタミト。言うまでも無く、旧人類連合の領土内だ」


 新人類王国のモットーはひとつ。

 自分たちこそが強者であると証明する事だ。新生物が倒れた今、その存在を脅かすのはこの大怪獣ということになる。


「行きたい人は手を上げて!」


 まるで学校の役員を決めるかのようなノリで、リバーラは元気よく右手を挙手した。

 召集された王国兵達は、誰もそれに乗ってはくれなかった。

 ノリの悪い従者たちを睨み、リバーラは口を尖らせる。


「ちょっと君たちぃ! 折角ハッピーな化物退治にいけるっていうのに、なんで誰も手を上げないのさ!」

「その前に、幾つか質問させていただいても?」


 物怖じずに口を開いたのはアトラスだった。

 彼は王に向かい、言う。


「旧人類連合の領土なのですよね。それに同盟も結んでいると伺っています」

「そうだよ。僕としては家畜でいいと思うんだけど、今回はお邪魔する立場だからね」


 珍しくリバーラ王が相手を尊重したことに、ディアマットが僅かに驚愕の表情になる。

 だが、アトラスはそんな物はどうでもいいとでも言わんばかりに質問を連発した。


「では、旧人類連合と協力して怪獣を倒すって事でいいんでしょうか」

「その認識で構わないよ。ただ、幾らか制約があってね」


 まず、第一に。怪獣がいる山の中に突入できる者には制限がかかること。

 穴の大きさは推定20メートルちょっとしかない為、それ以上のサイズとなると中に入る事が出来ない。

 ミスター・コメットに頼んで一気に戦力を送り込む方法もあるのだが、それを提案したら慎重なディアマットが何を言うかわかったものではないので、リバーラは黙っておくことにした。本音を言えば、今すぐ全員で殴り込みをかけたいくらいなのだ。


「相手は200メートルはあるであろう、大怪獣だ。生身よりも少しはマシになるブレイカーで突入するのが望ましいと思うよ」


 しかも、そのブレイカーも限定される。

 少なくとも、巨大なサイズが多いアーマータイプは突入不可能だろう。必然的にミラージュタイプか、小さいアニマルタイプを支給された兵士に絞られてくる。


「後、もうひとつ大事な点があってね」


 この点がミソである。

 横でディアマットが『そういうのは早く言ってください』とぼやくが、リバーラは気にせず、笑顔のまま喋った。


「これは旧人類連合との共同作戦になるの。だから、向こうの指揮官とはある程度仲のいい人に行って欲しいな!」


 そこまで口に出された直後。

 リバーラの横で話を聞いていたディアマットがはっ、と何かに気付き、父親へと詰め寄ってきた。


「父上。まさかとは思いますが、その指揮官とは……!?」

「交渉に当たった大統領秘書って子は、XXXのカイト君と旧人類の少年を推してたね。ま、実現するかどうかは知らないけど」

「やはりそうでしたか!」


 ディアマットが憤慨したように顔を歪ませる。

 とてもじゃないが、王子という華々しい立ち位置に座る者の顔には見えない。

 無理もない。これまで4度も屈辱を味わったのだ。並々ならぬ感情があるのは当然といえる。


「その為にあなたは王国に泥を塗ったのですね!? 自分が掲げた絶対強者主義と、新人類王国の信念をお忘れか!?」

「もちろん、忘れることはないよぉ」


 ただ、新人類王国のモットー、絶対強者主義を考えれば。

 神鷹カイトと旧人類の少年のふたりと協力しても、差支えが無いと考えている。


「だって、ディードは負けたよね」


 それが真理なのだ。

 ディアマットはこのふたり(正確に言えばまだいるのだが)に敗北し、撤退を余儀なくされた。

 それも4回。

 仏の顔も3度までとはどこの国の言葉だったか忘れたが、その数を超えてしまった以上、反逆者一行は『強者』であると言えた。


「ディードだけじゃない。王国に名を連ねる面々が、揃いも揃って負け面を晒してしまった」


 リバーラ王の正面に立つタイラントが、反射的に顔を伏せた。

 4回の敗北の内、3回は自分と部下たちが関与しているからだ。だからといって、周りの者がタイラントを責めれるかといえば話は違う。

 仮に自分たちが出向いたとして、勝てた保証は限りなく0に近かったのだ。周囲の兵にそう思わせるだけの力を、タイラントたちは持っていた。


「ふふっ」


 そんなタイラントの耳に、微笑が届いた。

 ふと顔を上げてみれば、横に構える現XXXのリーダーが控えめに笑みを浮かべている。


「そんなに落ち込むことはありません。前も言ったでしょう。みなさんが負けたのにはきちんとした理由があるんです」


 アトラスは王の前で天を仰ぎ、なにかに訴えるようにして吼えた。

 無礼千万と言われて即座に首を刎ねられてしまってもおかしくない所業である。


「だって、あの方は強いから!」


 美しく、可憐な容姿からは想像できない、狂喜に満ちた笑顔。

 その表情を目にした途端、リバーラは手足を叩いて喜び始めた。


「そうだ! そうだね、君の言う通りだ!」


 相手が強いから負ける。

 絶対強者主義の理論で行けば、負けたディアマットやタイラントたちは大人しくカイト達の命令に従う他ない。

 それを面と向かって言われてしまえば、彼らは成す術なくカイト達に服従する形で作戦に参加しなければならなくなる。

 その光景を想像したのだろう。タイラントが歯を食いしばり、唇から僅かに血が流れた。


「でもね」


 屈辱の怒りに震えるタイラントを宥めるようにして、リバーラは口を開く。


「流石にこのままは困るんだよね。僕も絶対強者主義を唱えた手前、あんまり強くは言えないんだけどさ。このままだと新人類王国の威厳が地面から地中にまで埋もれちゃうんだよ」


 既にリバーラにとって、王国の威厳は地に落ちたも同然であった。

 その威厳をこれ以上落とす事は、国として許したくない。


「誰か上手いことやり込めてくれないかと思うんだけどねぇ」

「は、はは……! お任せください、リバーラ王」


 壊れた玩具のように、きりきりと笑いながらアトラスは進言する。


「この私が、新人類軍の代表としてアメリカへ参ります。い、い、い、い、い、偉大なるあのお方に失礼なく接することができるのは、私を置いて他には居ません」


 そりゃあいるわけがない。

 アトラス・ゼミルガーの持つカイトへの信仰心は、ディアマット達の想像のつかない場所へと辿り着いている。

 彼に受け入れられるために自分の全てを『エリーゼ』に変えてしまった辺りからも、その崇拝ぶりの異常さが伺えた。この瞬間にも声が震えているのがいい証拠である。

 

「アトラス」


 だが、ここにいる兵が揃って不安に思う事がある。

 兵達を代表し、グスタフが声をかけて本人に確認をとった。


「まさかとは思うが、裏切るつもりはないだろうな」


 アトラスに限った話ではない。

 第二期XXXのメンバーは真田アキナを除き、全員がカイトに異常な執着を見せている。もしもこのままカイトに会えば、王国の戦力の一角がまるごと敵に回る可能性が大いにあった。


「裏切る? 裏切ると仰いましたか」


 アトラスは口元に浮かぶ微笑を崩すことなく振り返る。

 彼は綺麗な金髪を乱暴に垂らしつつ、ぎょろりと目玉を回した。視線の向く先には、声をかけてきたグスタフの姿が映り込んだ。


「私の感情は、そんな安っぽい言葉では決して表現することができない」


 女のような華奢な身体が震える。

 アトラスの振動と共に、空気が震えはじめた。ぴりぴりとした空気を肌に感じつつも、兵達は息を飲む。


「私はあの方を愛している。だが、愛してるなんて言葉で表現してほしくはない」


 言ってることが滅茶苦茶だ、とグスタフは思う。

 果たして脳が正常に動いているのか、少し不安になった。そもそも質問の答えになっていない。


「あのお方さえいれば私は何もいらない。何もだ! 何もかも、全部! 全て! この命さえも!」


 漫画やドラマでも滅多にお目にかかれない決死の告白が繰り出され始める。聞いていてあまりに痛々しいが、本人のマジすぎる表情が兵達の口を黙らせていた。


「この感情を理解した時、私はこの身を爆発させたかった。あのお方は男として生まれ、私も男として生まれてしまった。その時点で、この身は既に不要なのです」


 ――――お前たちにわかるか。このどうしようもない想いが。


 髪を掻き毟り、瞳孔が揺れる。

 当時の事を思いだしたのだろう。アトラスを襲ったショックは、正直に言うと想像もつかない。

 というか、想像したくなかった。

 なにか危ない一線を越えてしまうような気がして、迂闊な事をいうこともできない。


「わかるとも。僕には君の情熱がよぉくわかる!」


 ただひとり、リバーラ王を除いて。

 彼はアトラスに向けて拍手を送りながらも、笑顔を向けた。


「新人類王国からの代表は君だ。君が好きなようにメンバーを選出して、作戦指揮を執りたまえ」


 その言葉は、アトラスにとってどれほどの至福を与えたのだろうか。

 今にも髪の毛ごと皮膚を引き千切るのではないかと思われたアトラスの手が止まり、再び女神のような眩しい笑顔が作り出された。


「ありがたき幸せでございます」

「リバーラ様!」


 だが、王が納得しても不安は残る物だ。

 グスタフは身を乗り出し、アトラスの隣で再び構える。彼にしては珍しく狼狽えている様子だった。


「畏れ多くもこの者は」

「あー、みなまで言わなくても結構」


 リバーラは軽く手を振り、グスタフの懸念を振り払う。

 まるで心配などなにもない、とでも言わんばかりの行動である。

 実際、リバーラは心配などしていなかった。

 

「心配しなくても、アトラスが旧人類連合につくことはないよ。絶対にね。そうだろう?」

「はい。流石はリバーラ様。よく御存じで」


 首を傾げるグスタフに向けて、アトラスは微笑む。


「グスタフさん。よぉく考えてみてください。なぜ、私が旧人類などと仲良しごっこに興じなければならないのでしょうか」


 アトラス・ゼミルガー。

 その心は新人類王国から遠く離れた場所を見つめていても、主義は王国に最も近い場所にある兵士。

 その揺らぐことのない主義こそが、リバーラの信頼を掴んでいた。

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