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第103話 vs反旧人類思考

 キャプテンことスコット・シルバーと愉快な鳥類たちの自己紹介が終わった後、飛行戦艦フィティングはそれほど時間をかけずに目的地へと到着した。

 場所はワシントン州。そこに存在する旧人類連合の基地らしい。らしい、というのもイルマの口からそう聞いただけなので、実際はアメリカの空軍基地かどこかなのだろう。


「こちらです」


 フィティングから降りた反逆者一行はイルマの先導に従い、用意されていた車へと乗りこむ。助手席に座ったイルマが運転手にぼそぼそと話しかた直後、エンジンが鳴り響いた。


「これから皆さんには、会議室で待っているウィリアム様にお会いしていただきます」


 車が唸り声をあげ、整備されたアスファルトの上を走る。

 そんな中、イルマの口から紡がれた同級生の名前を聞いて問いを出したのはカイトだった。


「アイツはもうここにいるのか?」

「はい。到着15分前に連絡をしましたが、既にお待ちしているそうです」


 なんともまあ、律儀な男である。思えば、昔から約束事には早めに参加し、時間をきっちり守る男であった。

 ウィリアムは自分の計画をきちんと立て、その上で行動に起こすタイプである。その性格ゆえか、彼はよく作戦指揮を執りたがっていた。XXX時代、カイトのもとに何度も足を運んでは作戦プランの提案を立てた事もある。その姿勢は素直に評価していた。

 だが、姿勢の評価とは裏腹に内容はえぐいものばかりである。ウィリアムが提案する作戦内容は、どういうわけか決まって敵の壊滅が含まれているのだ。

 それをエリーゼに報告すると、彼女はとても悲しそうな顔をしたのをよく覚えている。


 だから、カイトはウィリアムをあまり快くは思っていなかった。エリーゼを困らせる嫌な奴だと、心の中で呟いていたのを記憶している。当時のことを思いだし、我ながら陰険なガキだな、と自嘲した。


「どうしました、ボス」


 バックミラーでその様子を見られていたらしい。

 助手席に座るイルマが、振り返ることなく問いかけてきた。素直にウィリアムが嫌いだったというのは簡単だったが、一応彼女はウィリアムの部下でもある。己の中にあった感情はオブラードに包み込み、それっぽく話すことにした。


「昔のことを思い出していた。ウィリアムはあの時からどう変わったのか、少し楽しみではあるな」


 その言葉には本音も含まれている。

 カイトは横に座るスバルとマリリスを一瞥し、思う。

 果たして幼少期に徹底した『旧人類狩り』を提案してきた男が、このふたりを受け入れるのだろうか、と。

 マリリスはまだ可能性があるかもしれない。なんやかんやで彼女は旧人類としてカテゴライズするよりも、新人類よりの人間だ。SYSTEM Xが起動したのがいい証拠である。

 問題は生粋の旧人類であり、割と熱血気味な性格をしているスバルだった。計画と確実性を重視するウィリアムと、直観と感情を大事にするスバルは相性が非常に悪い。合わせたらどんな拒絶反応が起こるのか、想像すらできなかった。

 それはカイトのみならず、シデンとエイジも同じである。彼らもまた、ウィリアムのやりすぎとしか言いようがない旧人類狩りにはドン引きしていたのだ。


「なあ、このままウィリアムに会っていいと思うか?」


 小声でエイジが語りかける。

 イルマがいる手前、あまり大声では言い辛いのだろう。実際、カイトも面と向かっては言い辛い。だが、今の内に身の振り方を決めておいた方が堅実だと思うのも、また事実だった。


「正直、不安しかない」

「ボクも。下手したらみんなの前でスバル君を拘束するのもありうるよ」


 流石にそこまで過激な行動はしないと思いたい。

 だが、それはあくまで願望であり、ありえないと言い切れないことが悲しくもあった。

 蛍石スバルはXXXのメンバーやアーガスを始めとした新人類の戦士と出会い、逞しく成長したと思う。だが、彼らはまだ優しい方なのだ。

 父親のマサキを躊躇わずに殺してしまったマシュラと比べても、ウィリアムはえぐい。変に心を許してしまい、催眠術を施されては殺されてしまう可能性だって十分に考えられた。

 現にウィリアムは任務中に、そういうことをしでかした前例がある。謹慎処分にならないよう、任務中にわざと襲わせるように仕向けて自作自演をしていたのはXXXのメンバーの全員が知っていることだった。


「……全員で行くのは流石に危険すぎる」


 相手は元同級生。

 本来であれば、素直に再会を喜びたいところだ。例え苦手意識を持っていたとしても、共に苦難を乗り越えたチームメイトである。

 だが、空白の6年間で彼がどう変化したのかも見えないまま会うのは、あまりに危険な賭けだった。


「イルマ」

「はい、なんでしょう」


 ゆえに、カイトは提案する。

 監視の目を含めて、なるだけウィリアムと接触させない。その為には、


「シデンと一緒にこいつ等の面倒を見ていろ。ウィリアムには俺とエイジが会う」

「え?」


 それまで横で行われていたひそひそ話を訝しげに眺めていたスバルが、抗議の声をあげた。


「なんでだよ。人類の脅威って聞くからにやばげな名前だぜ!? みんなで聞いた方が手っ取り早いだろ」

「語弊があったな。シデンと一緒にスバルとマリリスを守れ。俺とエイジが合流して、今後のプランが決まるまでだ」


 結構長い期間である、とスバルは思う。

 よくよく考えれば、説明を受けた後で自分たちがどうなるのか何も聞いていない。


「そういえば、俺たちってどうなるんだ?」


 思わず口に出してしまっていた。

 当初は旧人類連合に保護してもらう事を目的として旅を続けてきた。だが、蓋を開けてみれば人類の脅威とやらとの戦いに駆り出されている始末。体のいい傭兵のような扱いを受けている気がしないでもない。


「それすらも、まだ聞いていない」


 本来ならウィリアムではなく、実際に保護した戦艦の責任者であるスコットが上から指示を仰ぎ、決まる筈だ。

 だが、軍部の殆どをウィリアムが術で掌握してしまっている以上、それは通用しない。掌握しているのが軍部だけならまだいい。もしかしたら政治や、国民にまでその範囲は及んでいる可能性がある。

 もしもウィリアムの目にスバルが適わないようであれば、アメリカ中の住民がこぞってスバルに襲い掛かってくるという、地獄絵図のような光景ができあがってしまうのだ。しかもその光景は、現実となる確率が高い。


「お前たちは身体を休ませていろ。あの化物との戦いでの疲労は、1日じゃ取れんだろ」

「いや、そりゃあ……そうだけど」


 実際、スバルもマリリスも眠たげであった。

 昨夜遅くに起こったトラブルが原因であまり眠れておらず、そんなに休めていないのだ。

 表面上の理由としては、それだけで十分だった。

 無言のままシデンを見やる。彼は真剣な眼差しで頷き、カイトの頼みを快く引き受けてくれた。疫病神呼ばわりしていても、その辺はきっちり把握してくれているようで少し安心する。

 後の問題があるとすれば、イルマが大人しくその命令に従ってくれるかだ。


「……了解」


 やや間をおいてからイルマは了承の返事を出した。

 この小さな静寂の間で、彼女が何を考えているのかはわからない。ただ、サイドミラーを覗き込んでみた限りでは、面白く無さそうな顔をしている。

 昨夜、彼女の一面を垣間見たカイトは、そんな感想を持った。


「不満そうだな」

「なんのことでしょうか。私はボスの所有物です。例えボスのお傍にいられないショックでくらくらしてしまっても、命令とあらば全力を尽くします」


 後ろから覗き込まれるカイトの視線から逃げるようにして、イルマは視線を下に移した。手元で開かれた手帳が目まぐるしいスピードで捲られていく。落ち着く為の儀式かなにかだろうか。


 だが、例え彼女の言葉が本音であったとしても、だ。

 カイトの中の認識において、イルマ・クリムゾンは『ウィリアム側』の人間である。口ではカイトの秘書だ、所有物だと言ってはいるが、いざという時にどう動くのかはまるで理解できない。

 ゆえに、カイトはイルマに深く釘を刺す。


「もしもこいつらに何かあったら、お前を一生許さないぞ」

「――――っ!」


 イルマの肩がびくり、と震えあがった。

 サイドミラーから表情を確認する。始めてみる困惑の顔だった。


「ちょっとカイトさん、言い過ぎじゃない? いかに気に入らないからってさ」

「……ふん」

「ああ、もう!」


 座席に深く腰掛け、カイトはスバルの講義を受け流しながら思考する。

 今の反応を見る限り、恐らくイルマからのアクションは無いと思いたい。あの顔は見覚えがある。まだヒメヅルにいた頃、電子レンジを壊してしまい、困惑していた時の自分にそっくりだった。あの時は我ながら情けない表情をしていた物だとカイトは思ったが、それゆえにイルマの抱く感情もなんとなく理解している。

 

 嫌われるのを恐れているのだ。

 だが、その為にはどうしたらいいのかわからない。そういった、困惑の表情。

 それを今出したのであれば、彼女にとって都合の悪いなにかがあるのだろう。それがわかっただけでも収穫であると、カイトは思った。


 だが、カイトは気づいていない。

 否、彼だけではなく、全員が気付けずにいた。


 助手席で、誰にも聞こえない程に小さく。それでいて今にも消え去ってしまいそうな声で呟いている少女がいたことに。


「いやだ……いやだ……戻るのはイヤ……」


 誰にも聞こえない不気味な小声は、ウィリアムが待つ会議室の手前に到着するまで続いた。

 小さすぎる悲鳴に気付いた者は、ひとりもいなかった。

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