引きずって
あれからもう2年が経つ。
高校を卒業して、俺は大学へ進学した。
そしていろんな人と出会い、様々なことを学んで、今の俺が存在する。
君のいない世界は今日も回り、何も無かったように朝を迎える
今までも、これからも。
何が言いたいかというと……君が生きていたらまた別の自分がいるってこと。
君は言った
私のことは忘れて幸せになれと。
幸せとは凄い曖昧なものだ。他人から見ると幸せそうに見えて、そうじゃないこともある。
今、俺がヨシキや由美の前で見せている笑顔は幸福なのだろうか。
……本当に何言ってんだろ。
やっぱりあの日が近づいてきたせいだろうか。
今日は12月21日。
あの日から2度目の冬の再来だ。
今年も逢いに行くよ。君のもとへ。
* * * * * * * *
住み慣れた街を遠く離れて、福島へやって来た。
駅を出た途端、冷たい風が頬を撫でる。
寒さから身を守るように一度外しておいたマフラーを首に巻く。
どこかちぐはぐな、いかにも手編みなマフラーを。
これはハルの両親と会った日に、帰りにもらったものだ。
二人はハルからのクリスマスプレゼントと言って、俺に渡した。
聞くと毎晩夜遅くまで編んでいたらしい。
ここからは俺の予想だけど……12月24日を回った夜中に、ハルはマフラーを完成させた。
ハルはその達成感から深く眠ってしまう
そして……寝坊して事故にあった。
その原因ともいえるマフラーを俺は身に着けている。
しかしハルの形見であることもまた事実だ。
偶然通りかかったタクシーに乗りこむと、マフラーを解いた。
しかし、きっとまた首に結びつけるだろう。形見として。
目的地を告げるとタクシーは動き出した。
窓越しに過ぎ行く街並みを、何の気無しに見送る。
流れていく風景。
福島は白虎隊が有名だと聞いたけど、とても観光に繰り出す気分じゃない。
それが出来たらどれだけ楽だろうか。
街はクリスマスカラーに包まれている。
それに染まることを身体が拒む。
いつかはそれも許せるようになるだろうか。
信号は赤になり、それに従ってタクシーは止まる。
すると目の前の横断歩道を少女が早足で横切った。
刺すような冷気にその頬を朱に染めて、手には紙袋。
一瞬、ハルと重なって見えた。
この娘にも、自分を待つ愛すべき人がいるのだろうか。
少女は何事も無く渡りきると、街の雑踏へ姿を消した。
「運転手さん」
「はい、なんでしょう」
運転手さんが応える。深く刻まれた皺と、澄んだ目が印象的だった。
「安全運転でお願いします」
「あぁー今日はクリスマスですからね。わかりましたー」
鏡越しに向けられる笑顔。その柔らかい表情に俺は安心して、シートにもたれかかった。
信号が青に変わる。タクシーは穏やかなエンジンの音に包まれて、ゆっくりと走り出した。
* * * * * * * *
騒音から少し離れた場所に、ハルは眠っている。
周りを林に囲まれた土地は、どこか神聖な世界に思えた。
その入り口に、俺は右手に花束を持って降り立った。
視界の隅々に映る、立ち並ぶ墓碑。
それには目も暮れず、入り組む道のさらに奥へと向かう。
去年は若干迷ってしまったが、今年はきちんと俺の足がナビをしてくれた。
そこの角を曲がれば、ハルはすぐそこにいる。
一年ぶりか……
「久しぶり、ハル」
足を止めて、微かに呟いた。
返事なんて無い。俺の独り言。
とりあえず右手に持った花束を飾った。
ハルの墓石には既に花が何本か添えられてある。
「また先を越されちゃったな」
おそらくはあの3人だろう。
今年は一番だと思っていたんだが。
その後、この一年のことをハルに話した。
大学はやっぱり忙しいとか、相変わらずコーヒーはダメだとか、あと……ヨシキに彼女が出来て上手くやっているらしい、とか。
一通りの近況報告を終えると、ポケットから細長い箱を取り出して、慎重に封を開ける。
今年はこれでおしまい。また来年、次こそ一番最初に。
「メリークリスマス」
ハートの片割れ――イルカのネックレスを、震える手でそっと供えた。
「すっごい似合ってるよ」
脳裏に浮かぶ君の笑顔。これもいつか朧げな記憶となり、写真を頼ることになるかもしれない。
だからせめて、毎年逢いに来るよ。何度も話しかけるよ。ハルのこと、絶対忘れないから。
「じゃあまた来年、クリスマスイヴに」
どれほど藻掻いて、何度叫べば君に想いは届くだろう。
静寂を破る音圧は一陣の風に運ばれて、遥か彼方へ消え去った。
こんな意味のわからない小説を読んでくださり、ありがとうございましたm(__)m
そもそも小説と呼べるのか、作者自身でもわかりません(-_-;
でもまぁ、結果はどうであれ書き終えることができました。
思いつきから書き始めたので、正直挫折すると確信していたのは内緒。
次回作は…多分書かないだろうなぁ〜