秋空
ユウが告白した翌日、二人が付き合い始めたことは、瞬く間にクラス中に知れ渡った。
「ユウ!良かったじゃんか!」
ヨシキが満面の笑みでユウのもとへと歩を進める。
「サンキュー!色々ありがとうなヨシキ。」
ユウはハルについて、ヨシキに色々と相談をしていた。
ある日、どうやって告白するかについて相談すると、ヨシキは少し考えた素振りを見せた後、こう言った。
「そういう時はな、相手の目を見て、目玉焼きみたいで旨そうだなーなんて考えるんだよ。」
「なんだそれ!?ったく、真剣な顔で何を言うかと思ったら…」
「これでバッチグー」
「どこがバッチグーなん!?ちゃんとしたアドバイスをくれよ!」
「例えば、ユウの目を見て美味しそうだなーって。」
「それはもういいっての!」
全然アドバイスになってないが、ユウはヨシキと話していると、
いつの間にか告白の不安や焦りは薄れ、リラックスすることができた。
ユウにとってヨシキは、かけがえのない存在だった。
「ユウ!告ったんだって!?」
「あーあ俺も気になってたんだけどなー」
「お前じゃ無理やって!」
いつの間にか、ユウの周りは、話を聞いた同級生達が集まってきて、賑わいを見せていた。そんな中、ふとハルのことが気になって、窓際に視線を移すと、
ハルはユウと同じように大勢の人に囲まれて、告白した時のように頬を赤らめ、幸せそうに微笑んでいた。
それを見たユウは、心が満たされていくのがわかった。
ハルが嬉しそうにしているのを見ると、つい頬が緩んでしまう。
「なーに、にやけてんだよ!」
再び周囲が騒がしくなる。ヨシキ達にこづかれながら、ユウもまた、幸せを噛み締めていた。
それから数日後、学校も終わり二人は駅へと続く道を歩いていた。
付き合ってから、毎日二人は一緒に帰っている。
いつものように駅前の繁華街を通っていると、ユウの目にファーストフード店の看板が飛び込んできた。
「まだ時間あるし、ちょっと寄らない?」
するとハルは足を止め、ユウの顔をしげしげと見る。
「…もしかして…デートのお誘いかな?」
予想だにしなかった言葉に、何故かユウは恥ずかしくなった。
「いや違っ…」
「え、違うの?」
気まずい間が流れる。
「…うん、そうだよ。」
それに耐えかねて、ユウはやっとの思いで口を開いた。
「それじゃあ断ったら失礼だね。うんいいよ、行こう!」
途端にハルは元気になると、ユウを急かすように店の方へと向かって行った。
店に入ると、中は学校帰りの学生達で賑わっていた。
二人は適当に食べ物を注文して、奥にあるテーブルの椅子に、向かい合うようにして座った。
「そういえば来月誕生日なんだよね。」
早速フライドポテトに手を伸ばしつつ、ハルはユウに尋ねた。
「ん…あれ、言ったっけ?」
ユウは今までのハルとの会話や、やり取りしたメールを思い浮かべる。
だがやはり、言った記憶はない。
「ううん、ユウ自己紹介の時にさ、誕生日言ったよね?確か…11月3日。」
「…あぁ、あの時か!」
あれは4月、入学式の翌日のことだった。
新入生お決まりの自己紹介の時、ユウは何を言おうか迷っていた。
そして決まらないまま、ついに自分の番が回ってきてしまい、
仕方なしに、名前と何故か誕生日を言ったのだった。
よく憶えていたもんだと、ユウは嬉しいような感心したような気持ちになった。
「よくそんなこと憶えていたな…」
「いや、うん、まぁ…ね。」
言葉を濁すハルに疑問を抱きながらも、あえてユウは突っ込まないことにした。
ハルの美味しそうにポテトを頬張る姿を見ると、そんなことはどうでもよく思えた。
「美味い?」
「え?」
「ポテト」
「うん!ユウも食べる?」
そう言うと、フライドポテトの詰まった紙の容器をユウに向ける。
ユウはその中の一つを取り出すと、口の中に放り込んだ。
ホクホクしたじゃがいもの甘みと、塩のしょっぱさが口いっぱいに広がる。
「美味しい?」
今度はアイスティーに手を伸ばしつつ、ユウに尋ねる。
「うん、美味い。」
するとハルは、嬉しそうに笑った。
しばらくして店を出ると、再び駅に向けて歩き出した。
すでに日は落ちかけており、少し肌寒いのに身を震わせた。
それがより一層、二人に冬の到来を予感させる。
そんな中ハルと繋いだ手は、素敵に温かかった。
どんな時でもユウの隣には、いつもハルの笑顔が咲いていた。